Too full with love -7-


5日目の朝―

幸せに満ちた4人の顔があった。


「リチャード… 俺さ、マリアン連れて帰るよ。」

「そうか…」

「リチャードたちの式の1ヵ月後に式する。」

「おめでとう…幸せにな…」

「ファリアさんと一緒に来てくれよ。」

「勿論さ。」




姉妹は笑顔をあわせていた。




ふたりは…まだ試練が残っている事に気づいてなかった…








   *****


明日の正午が結婚式―


疲れさせるのもどうかと思いつつも、王子は花嫁を抱いていた。

「あん…はぁ…」


「ファリア…お願いがあるんだけど…」

「あ…何?」

「コレを…舐めてくれないか…?」

「え…?」


彼が指したのは彼自身。

一瞬固まるがそっとおずおずと手を伸ばす。


触れると彼の表情が悩ましげで色っぽい。

「あ…」

くちびるから甘い喘ぎがもれる。

手だけではなくてくちびるを這わせると彼がぶるりと身悶える。

   (あ、 可愛い…)


その顔が見たくてファリアはいつしか懸命に奉仕していた。


黒髪の頭を彼が掴む。


「あぁ…ファリア…ぁ…ッ!!」

口の中に彼の灼熱が放たれる。
思わず嚥下すると… 自分の耳に"ぴし"という音が聞こえた。

「え?」


見ると自分の腰からつま先にかけて、透明なうろこが見えた。
戸惑っているとうろこはつま先までぴしぴしと音を立てて弾け飛び、
ふうっと消えていった。
リチャードは放心したままで彼女の異変に気づかない。



「あ…」

   (ひょっとして… 私、完全に人間になったの?? )


「ファリア…大丈夫か?無理させてないか?」


気づいた彼は彼女に声を掛ける。

「えぇ…」


彼は再び彼女をシーツに横たえキスする。

「ん…」


彼の愛撫を受けながら、ファリアは考えていた。


   (ひょっとして…口で受けなければいけなかったの…?
    まさか…ペリオス… 謀ったわね…
    
    口で受ける事をマリアンがしなければ…
    人魚に戻ってしまうかもしれない…)













ファリアの危惧は的中する―




翌日は朝から結婚式のため、姉は忙しかった。妹にも会えない。



やっと会えたのは式の2時間前。

船上での式の為、早めに来ていた妹。


「姉さま…奇麗…」

海底での結婚式と違い、真っ白のウェディングドレスに身を包んだ姉の姿。

純白のドレスはデコルテから肩先まで露わで、
胸元はそのふくらみを強調するようなカッティング。
黒髪は長すぎるためにアップにセットされずにそのままで、
ところどころに真珠を編みこまれている。

元から美しい姉だったが彼と出会って恋に落ちてからは
輝くような美しさを放っていた。

うっとりとその姿に見惚れる。

彼女の仕度を手伝った者達も同様に見とれる。

「あの…ちょっと…妹とふたりで話したいの…
申し訳ないけど…」

「はい…かしこまりました。」

船室にいる全員が出て行く。


「マリアン…大切な話があるの。」

「なぁに?」

「…その… 彼の熱を…口で受けた?」

「一体何のこと?」

「ペリオスの言っていた"エキス"のこと。
口で受けなければ意味ないみたいなの!!」

「えっ!?」

姉の発言に驚きブルーの目を見開く。

「私…夕べ、自分の身体から透明なうろこが剥がれ落ちるのを見たの。
彼のを…口で…受けた直後に…」

「何ですって?!」

「だから…マリアンはまだ半分…人魚だわ。」

「そんな…」





妹が狼狽し、姉が困惑していると高らかに響く笑い声。


「くッ…はははは…
まさか見破るとはな!!」

ペリオスの声が二人の耳に届く。

船室の窓の外を見るとペリオスの姿が海上に見える。
ふたりを見つめ、ほくそえんでいた。

「マリアンは渡さないわ!!」

「ま、ひとりでも構わん。孕んでもらうさ。」

「嫌ッ!! 姉さまぁッ!!」


泣き叫んだマリアンの瞳から蒼の真珠が生まれた。

窓を割り、ペリオスは強引に連れて海に戻っていく。



床には蒼い真珠が転がっている。

「コレは…マリアンの…力…」


意を決し、ベールを取り、ウェディングドレスを脱いでいく。
そこへ窓が割れる音を聞きつけたリチャードと進児が飛び込んできた。
裸身のファリアの姿にふたりはぎょっとする。

「何してるんだ!?ファリアッ!!」

「あの子を助けないと…」

3人が窓の外を見ると大きな水柱が立っている。
中からマリアンの悲鳴。

「姉さまー!! 進児様!!」

「待ってて…今行くから…」

蒼い真珠を口に含むと
一瞬で、ファリアは人魚の姿に戻っていた。
窓から海へと飛び込む。

リチャードと進児は目の前の出来事に驚く。

「「な!! 何だ!?」」



呆然と立ち尽くすふたり。

「やっぱり…ファリア…君は…」

まさかという疑念はあった。
自分を助けたのは…彼女。
その彼女の正体は…人魚だと。

伝説でしかありえないと思っていた存在―


愛する乙女の本当の姿が人魚だと…認めるしかなかった――――








   *


海底の庵の前でマリアンは囚われ、ペリオスに"マグリ"されそうになっていた。

「嫌!! イヤァ!!」

まだ人魚に戻りきってないのにペリオスは構わずにいる。

「ペリオス!! 妹より私を先にしたらどう!?」

ファリアの声に振り返ると、完全な元の美しい人魚姫の姿。

「何!? …わざわざ人魚に戻るとはな…」

目を細め、見つめるペリオスの目には喜びが見えた。


「さ、妹を放して!! 」

「嫌だな。 ふたりとも私の子を孕んでもらうさ。」


無理やりマリアンに身体を接し、強行しようとする。





父・ポセイドンはずっと行方不明だった姫たちの波動を感じて駆けつけていた。




「止めて!!」

ファリアはペリオスの顔を掴み、唇を重ねた。

「なッ!!!!」

突然の事に驚いている相手の口に蒼い真珠を移す。
嚥下するまで姉は離さなかった。
飲み込んだのを確認すると微笑むファリア。

「どう? 純粋な人魚の心の結晶のお味は?」

「何?! まさか…」

「そのまさかよ。妹が生み出した"蒼き真珠"の力…」

「畜生!! う、うぁあぁああ…!!」




ペリオスの身体の周辺が泡立ち始める。

「ぐわぁあああ…」

黒いうろこが剥がれ落ちていく。

蒼の真珠の力は白き力。
黒き人魚の身体の中で強烈な浄化作用を放っていた。

その中で絶叫する姿はミイラ化していく…



壮絶な光景の中、マリアンは姉が海底に横たわっている事に気づく。
身体は人間に戻っていた。
あわてて抱き上げ海上に向かう。

ポセイドンも慌てて追う。


父が追いかけてきている事にマリアンは気づいた。

「お父様!? 
お願い!! 姉さまを助けて!! 
罰はいくらでも受けるわ!!
お願いよ!!」

哀願するマリアンの顔に父は眉をしかめた。




海上に出るとリチャードと進児が小船で二人を探していた。

「!!  マリアン!!ファリア!!」

ふたりが気づき、マリアンとファリアは小船の上に上げられ船の甲板へと運ばれる。


蒼白の顔の姉の肩を抱く。

「姉さま!!しっかりして!!」

「う… マリアン…無事? ペリオスは…?」

「姉さまが…蒼い真珠を飲ませたから…死んだわ…」

「そう…」

妹の腕の中で、力なく静かに微笑む。

マリアンの下半身はすでに人魚の形に戻りつつあった。
うっすらとピンクのうろこが生え、足もひれに変わり始める。
薬が切れ始めていた…




「ファリアッ!!」

「あ…リ、リチャード…」

マリアンは姉を彼に渡す。

「…ありがとう…私… 幸せだったわ。
人間の女として愛されて… 嬉しかった…」

もう身体に力が入らない。
そっとリチャードの頬に触れる手。

リチャードの腕の中で瞳を閉じていく。

マリアンも進児も涙が溢れて止まらない。

「嫌だ!! 死ぬなんて許さない!! 愛してる!!
嫌だッ!! うあぁああッ!!」


進児は幼い頃から彼を知っているがこんなになる姿を今まで見たことはなかった。

もう目覚めないファリアを抱きしめて泣き崩れる…















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(2005/9/13&14)


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