Too full with love -6-
4日目の朝―
朝、ファリアが目覚めると…心配していたうっすらと出ていたうろこが消えてなくなっていた。
(あ…!? やっぱり… そうなの??)
「ん…?」
朝陽の中、自分を抱いて眠る彼を見て胸がいっぱいになる。
(愛してる… リチャード…)
そっと頬にキスして、身支度をして部屋を出た。
脚の奥に残る異物感を感じたまま。
早朝の妹の部屋を訪ねる。
「マリアン…起きてる?」
「あ…姉さま…?」
突然、来た姉の姿はまだ夜着にショールを羽織ったままのもの。
昨夜、姉に何が起こったか何も知らずにいた。
「ね、例のエキスの件、何か解った?」
「ううん…」
沈む妹の顔を見て姉が告げる。
「私…解ったの。」
「え?」
あれだけ本で調べたのに解らなかった。
なのに姉がわかったと聞いて驚きを隠せない。
「あのね…私達の世界でいう"マグリ"みたいな事。」
「へ? って男と女が一対となって子を成すっていう、アレ?」
「そうみたい。私達人魚の世界では一定の期間だけ行う行為だけど…ね。」
「じゃ、それが答え?」
「正確にはどうかわからないけど…
ほら、それが証拠に私の足のうろこ…消えちゃったの。」
「ホントだ!!」
姉のスリッパを脱いだ足の甲はすべらかな肌になっている。
「じゃ…姉さま、もう人間なんだ…」
「そうみたい…」
「じゃ、私は…?」
「進児様にしてもらいなさい。」
「えっ!?」
姉の発言に驚く。
確かに進児が好きで陸に上がったのは事実だけど、
その行為をしなければならないと聞いて恥ずかしくなる。
「姉さま… 痛いの?苦しいの?」
「う…ん、少し。でも…」
「でも…?」
頬を赤らめ答える。
「…確かに痛かったけど…気持ちよかった。 幸せよ、今も。」
自分の肌に残る彼の残り香を感じていた。
「ねぇ…どうしたら進児様、してくれるかしら…?」
「解らないわ。あの方は私を欲しいっておっしゃってたけど…?
ね、今日こそ図書室で調べてみない?」
「そうね…」
「じゃ、朝食の後で調べましょ。
私はお部屋に戻るわ。
多分、心配なさるから…」
「…はい、姉さま。」
見送った姉が既に人間になってしまったと思うと少し淋しく感じていた妹―
王子の寝室に戻ると彼は起きていた。
「あぁ…何処に行ってたんだ?心配するだろう?」
「ごめんなさい。妹のところに朝の挨拶に行ってたの。」
「…そうか。」
彼が心配してくれるのは嬉しい。
そっと近づき軽くくちびるを重ねる。
彼の腕にとらわれ、気づけば深くくちづけていた…
*
食堂での朝食の後、姉妹は図書室へ。
マリアンに好意を持っている進児も一緒に。
姉妹がアレでもないこれでもないと探し物をしているのを進児は見守っていた。
マリアンがある本に見入り出したので、ファリアは進児に声を掛ける。
妹から少し離れたところに連れて行く。
「あの進児様… 」
「はい?」
妹とはまた違う美しい乙女の彼女に問われどぎまぎする。
「私の妹のこと、どう思います?」
「えっ!? …あの… その…俺… 好き…です。」
頬を染め、どもるように答えたが
その言葉を聞いて安心する顔を見せる。
「そう…よかった。」
「え?」
「あの子… あなたの事…」
「!?」
「お願いです。あの子を幸せにしてやってもらえませんか?」
切実な瞳と言葉に胸を打たれる進児。
「あなたの…花嫁にしてあげて欲しいの…」
「ヘッ!?」
突然の申し出に泡くってしまう。
「イヤ?」
「でも…」
ためらいを見せる進児だったが、
潤んだ瞳で哀願してくる美しい姉の姿に息を飲む。
(ダメだって…この人はリチャードの…)
「姉としてお願いします。私だけ幸せになんてなれません。」
「え?! じゃ…やっぱりリチャードとホントに結婚するんだね…」
「えぇ…。」
はにかむ笑顔を見ていると本当にマリアンと似ていてドキリとした。
「そっか…ホントにマリアン、俺でいいのかなぁ…」
照れ臭そうに言う彼に告げる。
「男の人から言ってあげて欲しいの…
乙女心を解ってあげて…」
「わかったよ…ファリアさん…」
「よろしくお願いします。」
ふたりはなんだか照れ臭くなってしまう。
その場を何とかしたくて進児は思案した。
「…俺、何か飲み物でも持ってくるよう言っててきます。」
「あ…ごめんなさいね。」
「いいんですよ。じゃ…」
進児は図書室から出て行ってしまう。
直後、マリアンが輝いた目を向けて姉を見つめる。
「姉さま…見つけたわ。」
「ホントに?」
「人間の世界ではあの行為を"セックス"って言うんですって…」
「へぇ…」
「ほら。この本のここ…」
妹が手にしている本の中には文章と絵で解説されていた。
それを見て理解する。
「そのようね…
マリアン。あと3日だし…急がないと…」
「そうね…」
姉妹が深刻な顔をしているところへ進児がメイドを連れて戻ってきた。
「ホントに…何を調べたかったんだい??
俺、手伝わなくていいの?」
「うん…ちょっとね…」
姉妹は気取られぬように本を閉じた。
3人は図書室のソファに腰掛け、
お茶を楽しんでいる。
そこにリチャードがやってきた。
「ここにいたのか…」
「おや?リチャード。 今日の執務、終わったのか?」
「あぁ…」
「お互いロイヤルデューティを背負ってるからな…解るよ。」
姉妹もその意味を理解していた。
みな背負うものがある―
「ところで調べ物は?」
リチャードに問われ、ファリアは答える。
「…一応、答えは出たわ。もういいのよ。ね、マリアン?」
「えぇ…姉さま。」
穏やかに笑いあう4人…
「ところでリチャード…今日はこれからどうする?」
「城下でも案内しようか?」
「あぁ…それがいいか。 …2台に分かれて行けばいいか?」
「そうだな。」
天蓋のない馬車2台に分かれ、市井を廻る。
途中、彼女たちに花やドレスを買い与えた。
乙女達の笑顔は王子たちの心を幸せにしていた。
―夜
ファリアは昨夜と同じように王子の部屋にいる。
自分でも驚くほどの甘い声を上げて彼を受け入れていた…
その夜に進児はマリアンの部屋を訪ねる。
「あの…?」
「ちょっと…話したいんだけど…いいかな?」
「はい。」
あまりにキュートな彼女を前に鼓動が高鳴る進児。
並んでソファに腰を下ろすふたり。
「マリアン…俺さ…一目、君を見たときから…その…好きなんだ。
俺の国に一緒に帰ってくれないか?」
「え…?」
「いやなら断ってくれていい。
お姉さんと離れたくないだろうしさ。」
優しい進児の言葉に胸が熱くなる。
「そんなこと… 確かに姉とはなれるのは…辛い。
けど、進児様とはもっと離れたくない…」
「…マリアン…」
「私も好き…ずっと前から…」
海の上で初めて見たときからずっとずっと想っていた。
こんな日が来るとは思いもしなかっただけに嬉しくて涙が出る。
「そうか… 嬉しいよ。
じゃ、リチャードたちの結婚式が終わったら…
一緒に帰ってくれるかい?」
「はい。」
マリアンの涙をそっと拭い、優しくキスする。
しばしふたりはソファの上で抱き合っていた。
しばらくして進児は身を離す。
「じゃ…おやすみ。マリアン。」
「え…?」
そっと可愛い額にキスして進児はマリアンの部屋を出て行った。
(ウソ…どうしよう…今夜…くらいにはって…)
焦って慌てたマリアンは姉の部屋に行く。
(あ、そうか。リチャード様のお部屋にいるって…)
暗い廊下を駆け抜け、王子の部屋に駆け込むと薄暗い。
(あれ… あ。 ベッドルームは奥ね…)
一番奥の部屋のドアの前に立つと姉の声。
「あぁ… リチャードッ!!」
「はぁ…ぁ… ファリア…」
(え?何?)
初めて聞く姉の声に驚く。
そっとドアを開けてみるとベッドの上でリチャードにのしかかれている姉の姿。
しかしその表情は今まで見たことがないほどに美しい。
淫靡な水音とふたりの吐息が部屋に響いていた。
「あぁ…はぁ…」
「姉さま…」
手が触れてしまい、キィと音を立ててドアが開いてしまう。
不意に気づいたリチャードが顔を向ける。
「マリアン…?!」
「え…?」
姉は固まっている妹を見る。
「あぁ…マリアン…」
「姉さま… !?」
リチャードが身を離すとファリアはナイトガウンを手に取り、羽織って妹に近づく。
目を赤くした妹に問いかける。
「マリアンこそどうしたの…?
進児様は…?」
「進児様…私のこと…してくれないの…」
「そう…可哀相に…。
ねぇ、リチャード。」
「うん?」
「あなた…私の妹を女にしてあげてくれないかしら…?」
「ヘ?」
「だって…私だけ幸せなのですもの…
この子にも解って欲しいの…」
「…僕は構わないけど…マリアンは?」
ふるふると首を横にふる。
「だろうね…しょうがないなぁ…
ちょっと待ってくれ。」
彼もナイトガウンを羽織り、城内電話で進児を呼び出す。
「何だよ…こんな夜中に…」
あくびをしながら進児は寝室に入ってきた。
部屋には3人の姿。いっぺんに目が醒めた。
「へ?」
「マリアンを連れて行ってくれ…」
「何で?」
「意味は…解るだろう?」
ナイトガウンを着たリチャードはファリアを抱き寄せてる。
ふたりがこんな真夜中に一緒にいる意味を察した。
(そこにマリアンがいたということは…
と、いうことは… )
固まっている進児にファリアが名を呼ぶ。
「進児様。」
「はい?」
「その子を…お願いします。」
そう言われやっと昼間に言われた意味を理解した。
「わかりました…それじゃ…」
進児はマリアンの手を引いて部屋を出る。
その夜―
進児の部屋で初めてふたりは結ばれる―
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(2005/9/12)
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