Too full with love -2-
海底へ向かって泳ぐ人魚姫の姉妹…
妹マリアンの顔には悲壮感があった。
姉ファリアの顔は険しさが浮かんでいる。
「姉さま… 私達どうなるの??」
「多分… 岩屋に入れられるだけじゃ済まないわね…」
父の怒りはヘタしたら海底を荒らすかもしれないと思うと心が痛い。
「ひょっとしたら…一生…閉じ込められるかも…
私… 一瞬で…あの方に恋してしまったんですもの…」
恋情と責務心で心がせめぎあい苦しい。
「!? 私もよ、姉さま…」
「え?」
「私はあの人と一緒にいた焦茶の髪の方をお慕いしているの…」
「あ…!?」
妹も同じ思いだと感じる。
キッと姉はくちびるを咬む。
「ね、マリアン。
あなた何でも耐えられる?
あの方のためなら… 何でもする?」
「えぇ。 もちろん。」
妹の思いもわかって姉は告げる。
「じゃ、行きましょ。」
「何処に?」
「……海の魔法使い・ペリオスの庵に…」
「えっ!!?? あの人… お父様に仇なす者よ?」
姉妹が言っているのは海の洞窟の中に庵を持つ黒き人魚の魔法使いぺリオス。
邪悪な悪魔と契約したという噂がある。
ときおり海神の領域を侵してくるのだ。
しかしどんな勇敢な人魚の男でも海神でも倒せない。
怖いけれど姉は決断した。
「…魔法で何でも叶えてくれるって…」
「だけど…」
ためらう妹に姉は強い瞳を見せる。
「いいわ。私一人で行く。
あなたはお父様に一生縛られてなさい。」
「イヤよ。私も行く。」
幼い頃からマリアンはいつも姉の後ろについていた…
ふたりは一段と暗い洞窟の奥に住むペリオスの庵を尋ねる。
噂どおり美形ではあるが下半身を覆ううろこは漆黒でありながら
光を跳ね返している。
その瞳は鋭く、何でも見通してそうだ。
ふたりの前で腕を組みぞんざいに問いかける。
「…で、私に頼みとは…?? 海神の姫たちよ。」
「私達を人間にしてください。」
「ほう… 好きな人間の男のためにか?」
「えぇ…」
「はい。」
ファリアもマリアンも決意した。
「タダでとは… いかんな。」
「何を代償にすれば?」
「…お前達の身体。」
「「えっ!?」」
表情ヒトツ変えずにぺリオスは告げる。
「私がこれから渡す薬は1週間しか持たん。
それまでに人間の男のエキスを受ければずっと人間だが…
受けなければ人魚に戻る。
人魚に戻った時に… 私の子を宿してもらおう。
さぁ、どうするね?」
確かに顔は秀麗なペリオスだが下半身は真っ黒のうろこで覆われている。
噂では悪魔と契約した時に暗黒に染まった証拠としてなったという。
それに彼の子を孕んだ人魚は同じように黒くなると聞いた。
姉姫・ファリアは黒髪に淡いブルーの煌めく尾ひれとうろこを
妹姫・マリアンは金髪に淡いピンクの美しい尾ひれとうろこを持っている。
ふたりにとって美しい体(うろこ)は一番の自慢。
失敗すれば屈辱的な真っ黒の身体になってしまう。
「わ…解ったわ。 マリアンは大丈夫?」
「うん、姉さま…」
「よし。それではコレが薬だ。
浜で飲むといい。」
「…ありがと。 それじゃ…。」
それぞれ小瓶を受け取り
ふたりは神妙な面持ちで海上へと向かう。
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(2005/9/11)
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