Too full with love -1-
―――深い深い海の底で海神ポセイドンが治める王国…
―――静かに穏やかに暮らす人魚達の国…
15になる海神ポセイドンの娘・人魚姫マリアンは最近、海の上へ行く事が多くなっていた。
夜…
大きな船を見つけたマリアンは近づいていく。
かがり火が灯されている船上に見つけたのは…
焦茶の髪に凛々しい瞳の少年―進児。
マリアンの一目惚れだった。
4日かけて友人の国を訪ねる途中らしい。
彼は度々、デッキに出てこれから会う友人の事を船員たちに楽しく話していた。
会話で解った事はいろいろあった。
「あのお方…進児っておっしゃるのね…」
マリアンは潤んだ瞳で呟く。
初めての甘酸っぱい恋で胸がいっぱいになる。
*
姉姫・ファリアは最近落ち着きのない妹を見て心配になる。
「ちょっと…マリアン…
あなた最近、おかしいわよ?」
「姉さま…」
呼び止められ、どう応えようか考えていると姉の口から咎める言葉。
「ちょくちょく海の上へ出ているそうね…
人間に会ったらどうするの?!」
「どうするのっ…て?」
逆に問いかけるマリアン。
「人間は惨いものよ。
魚たちを食べて迷い出た人魚に酷い仕打ちをするの。
知ってるでしょ?
大叔母様たちの…リルル様とキララ様のことを…」
かつて嵐に巻き込まれ浜に打ち上げられた美しい人魚リルルは人間の手に捕らえられた。
彼女の流した涙が蒼い真珠となるのを見た人間達は
リルルを痛めつけ、もっと蒼い真珠を取ろうとした。
でも彼女の瞳から2度と蒼い真珠は生まれなかった。
さんざん痛めつけられたリルルは死んでしまい、
その遺体は海に投げ捨てられ、
姉・キララは嘆きのあまり後を追うように死んでしまった…
「知っているわ…でも彼はそんな人じゃない!!」
その言葉で妹が人間を出会ったことを悟る。
「何ですって?! 彼??」
己の言ってしまった言葉に気づいたマリアンは慌てて逃げ出す。
それを追う姉。
海上まで逃げたマリアンの目の前には進児の船。
沖に停泊している船にはふたりの若者の姿が見える。
進児とこの国の若い王子リチャード。
彼の結婚式に招待されていた。
ふたりの楽しそうな笑い声が海上に響く。
追いかけてきた姉は無視して妹の手を引く。
「さ、帰りましょ。マリアン…
これ以上人間に関ってはダメよ。」
「姉さま…私…」
「お父様に解ってしまったらどうなると思っているの?
1年間、海底の岩屋に閉じ込められるのよ?」
「…」
父・ポセイドンの怒りは確実に受けるだろうと思うと
辛いものがあった。
後ろ髪を引かれる思いで姉と共に帰ろうとした矢先、
突然の大時化(しけ)。
大波で船が傾いだ時、甲板にいた青年が海に放り出され
姉姫の目の前に落ちてきた。
既に意識はなくゆらゆらとマントを揺らし海底へ向かって落ちていく。
ファリアは青年を抱きかかえ、海上へと向かう。
「お姉さま!?」
自分でも解らなかった。
青年の顔を仰向けにして浜へ向かって泳ぎ出す。
「お姉さま… どういうおつもり?
私にあんなこと言っておきながら…??」
「…解らない…
でも… なんて素敵な方…」
「!?」
目の前の姉が人間の男の顔を愛しそうに見つめていた。
柔らかそうな金の髪に彫りの深い顔立ち、
凛々しい眉、形のいい唇。
服の上からでもわかる逞しい体つき。
なんとか浜にたどり着いた時は明け方近く。
「マリアン…あなたは帰りなさい。」
「え…?」
「こんな事がお父様に解ったら
私は罰を受けなければならない。
あなたも一緒にいたら同罪になるわ。」
「イヤよ…」
妹のサファイアの瞳を見るとそれ以上は言えなくなった。
「…解った。」
彼の水を吐き出させるために顔を横に向ける。
ごぽりと海水を吐き出すと荒い呼吸。
顔を仰向けにして息を吹き込むためにキスする。
落ち着いてきたので安心した。
そっとそのくちびるにキスする。
金の眉の下の瞼がゆっくりと開いていく。
驚いたファリアは慌てて海の中へ飛び込む。
後を追う様にマリアンも。
「ごほ…っ… 今のは…?
黒髪の乙女?? なんと…美しい…」
起き上がって周りを見渡すと誰もいない。
人の気配すらない。
「今のは幻…??
いや…くちびるに感触が残っている…
誰なんだろう?
僕を助けてくれたのは…」
呆然と波打ち際に座り込むリチャードを進児と船員が見つけ駆け寄る。
「大丈夫か??リチャード!!」
「あぁ…なんとかな…誰かが…助けてくれた…」
「誰だよ?」
「さぁ…伝説の人魚かもしれんな。」
「お前…夢でも見たんだろ?」
進児は鼻で笑う。
海水を含み重くなったマントを脱ぎ、
リチャードは明けて行く海を見つめる。
「戻ろうぜ。みんな心配してる。」
「あぁ…」
何処かで何かが始まっているように感じた…
To -2-
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(2005/9/11)
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