temptation -5-





―翌日

進児の病室を訪れるリチャード。


「進児、具合はどうだ?」

「あぁ、もう大丈夫だ。
あの女…見つけたらただじゃおかない…」


進児の言葉で切れ長の目を細めるリチャード。


「進児…そのことだがな…」

「うん?」

「お前を刺したのは…デスキュラに操られていた地球人の乙女だ。」

「へ?
…それにしてもその女、何でそんな事…」

困惑している進児に自分の左手を見せる。

「僕も…襲われた…というかナイフを取り上げようとして失敗した。
ほら。」

「ヘ?マジで?」

マリアンもまだ疑問を抱いていた。

「そういえば…昨日、処置室から出てきてたわよね。」

「あぁ。    
…犯人は黒髪の蒼い瞳の女性だって言ってたろう?」

「あぁ。」

進児は確信を持って返事する。

「僕が捕まえた。」

「さっすがリチャード。
ビルと違って色仕掛けで落ちないよな〜。」

「… 一歩間違えば、僕は殺されてるさ。」

彼の言葉に進児とマリアンが驚く。

「…なんで?」

「…彼女は…僕の恋人。」

「「え?!」」

二人して目をむいて驚く。


「彼女は…デスキュラに拉致されて、例の催眠電波受信機を付けられていた。
ほら。」

彼は例の機械を進児に投げてよこす。

「「!!」」


確かにあの時と同じもの。

「じゃ…」

「あぁ。彼女は操られていた。催眠電波で… 
"ビスマルクチームの男たちを殺せ"と命令されていたようだ。」

瞳を伏して告げるリチャードを見て進児もマリアンも悲愴な面持ちになる。

「じゃ、その女性は?」

「この病院に入院している。」

「本当か?」

「栄養失調だと診断された。それに少し頭痛がすると本人も言ってる」

「そうか…」

二人とも事実に驚くしかなかった。


「本人は操られていたとはいえ…罪を犯したと悔いている。
僕は彼女に罪はないと思ってる。
デスキュラの奴らに操られたに過ぎない。」

「「リチャード…」」

拳を震わせている彼を見つめる。



「その…恋人って言ってたけど…本当なのか?」

進児の問いも当然。彼の過去は知らない。

「生まれる前から家が隣同士でね。
両家で内々に婚約をしている。」

「!! 婚約者…なのか?」

「そして…僕にとって最初で最後の恋人だよ。」

「本当なの?」

「あぁ。  
進児、話を元に戻すが… 彼女は進児とビルに謝りたいと。
操られていたとはいえ自分の手で傷つけたと…
彼女自身も傷ついている。」

リチャードの言葉を聞いて目を閉じる進児。

「…わかったよ。」

「すまんな。午後に彼女を連れてくる。」

「じゃ、俺より重傷のビルにも説明してやらないとな。」

「これから行って来る。」




「…な。リチャード。」

「ん?」

病室を出ようとする彼を呼び止める。

「あのさ… 彼女、連れてくるなら… ビルんとこにしろよ。」

「え?」

「ここに来て、またビルのところじゃ2度手間だろう?
俺は動けるからさ。」

「すまない。頼めるか?」

「あぁ。」



   ***


リチャードはビルの部屋でも説明する。

「…。」

腕を組み、黙って話を聞いていたビル。

「そうか…わかったよ。大体、俺が彼女に声を掛けたんだしな。」

「…ビル。」

「ん?」

「お前のタイプだったってことか?」

「まぁな。でもお前の恋人だって言うのなら手ぇ出さないよ。
安心するんだな。」

「はは…そうか。」

ビルのジョーク交じりの言葉で安堵する。



                          
ヒト
「それにしても… 美人じゃねーかよ…あの女。」

「あぁ。僕自身も少しびっくりした。」

「なんで?」

「幼い頃は… もうちょっとおとなしめというか…控えめな少女だったんだけど
18歳の彼女は…こう…  何と言うか…そこはなとなく色気があるというか
翳りがあるというか…」

「あぁ。そうそう! そんな感じ!」

笑顔で言うビルをじろりと見る。

「あ…あはは… お前の恋人…だよなぁ〜。」

「午後に連れてくる。頼むよ。」

「わーったよ。」




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(2005/6/23)

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