temptation -6-
病室で昼食を済ませた彼女をリチャードはビルの病室まで連れて行く。
進児、ビル、マリアンが待っていた。
「揃ってくれて、すまんな。」
「いいや…」
進児とマリアンは長ソファに腰掛け、ビルはベッドの上。
「じゃ、紹介するよ。僕の恋人で許婚のファリア=パーシヴァル。」
「…」
思わずあの瞬間を思い出してしまう。
いたたまれなくなってしまい言葉が出ない。
(挨拶なんて…出来ない…)
4人の視線が痛い。
ボロボロと泣き出し頭を下げる。
「「「「!!!」」」」
「ごめんなさい…私…」
「君が気に病む必要はないと言っただろう!?」
「でも…私、皆さんに迷惑かけて…
怪我させて… "ごめんなさい"ではすまないわ…」
辛くて涙を流す彼女の肩を抱くリチャード。
「あ、あの…ファリアさん。俺さ、気にしてないから。」
進児が言うと顔を向けるファリア。
「俺も。」
進児の言葉に同意を示すビル。
「でも私…」
「俺さ、少し感謝している。」
進児がはっきり告げたので戸惑いを隠せない。
「え…?」
「久々にこんなにのんびり出来たんだよな〜。
48時間以上の休みってなかなかもらえないしな、俺たち。」
「そうそう!!」
進児とビルの言葉に目を丸くするのはリチャード。
「進児、ビル…」
「だから気にしないでくれよ。」
ビルが優しく言う。
「でも私…」
「男にとって傷跡は勲章なんでね。
全然OKだよ。
な、進児、リチャード?」
ウィンクを向けて彼女に告げた。
「あぁ。僕も同じ思いだ。
君を取り戻せるなら…傷の1つや2つ…平気だ。」
「ごめんなさい…皆さん。
ごめんなさい…リチャード…」
リチャードは謝罪する彼女をそっと抱き寄せる。
3人は見ているのが少々恥ずかしくなる。
***
一番最初に退院したのはファリア。
怪我もなく、栄養失調も改善され顔色が良くなったためでもあった。
リチャードとマリアンが滞在するホテルに移ることになる。
彼女自身は6年前の”アテナU号事件”の行方不明者だったので
連邦政府からの認定を受ければ、身分証IDの復活となる。
それから地球へと帰れることになるので少々時間を要した。
2,3日ホテルに滞在することになった。
一番重傷のビルの入院が5日間。
元々体力もあり若いので回復も早い。
進児も同様だった。
ファリアはいつ連邦政府から連絡がはいるのか解らないので部屋で待機していた。
そんな彼女の為に身の回りのものをそろえるリチャードがいた。
マリアンに頼んで同行してもらい、上から下までそろえる。
ショッピングモールを連れ立って歩く。
「リチャード… あなたって、彼女にラブラブなのね〜(笑)」
微笑み混じりに言われ少し照れ臭い。
「…そうだよ。」
「同じ女としてちょっと羨ましいかも…」
「何で?」
「だって進児君たら、こんな風にお買い物に付き合ってくれないもの!」
「ははは…そうだな。」
買い物袋を手にリチャードとマリアンは彼女の部屋に向かう。
「や、ファリア。連絡まだかい?」
「えぇ。」
「そうか…なかなか時間がかかるかもな…」
少し沈む二人を元気付けようとマリアンは明るい声で言う。
「こんにちは、ファリアさん。色々と買って来たのよ♪」
「あ、ありがとう。」
「これなんか、超可愛いわよ〜v」
「なぁに?」
マリアンが出してきたのは…可愛いベビードール。
「ね?どう?」
「どうって…(汗)」
リチャードが赤くなる顔を背けていた。
その様子に気付き、違う紙袋を開ける。
「あ、ちょっとまずかったわね。
じゃ、コレ〜」
ワンピースとか靴とか化粧品とか色々と買い込んできてくれた二人に感謝を示す。
「わざわざ、ありがとう。リチャードもマリアンさんも…」
はにかむ笑顔を見せる彼女にマリアンは満面の笑みをむける。
「ね、外出できるようになったら、女の子二人でショッピングに行きましょ♪」
「えぇ、喜んで。」
リチャードを放って、乙女二人は服のコーディネートに燃えていた。
ひとしきり楽しんだマリアンは笑顔で部屋を出てく。
「じゃ、私、進児君のところ言って来るね。」
二人きりになると途端に静か。
彼が自分を見つめていることに気づき気恥ずかしくなり顔を背ける。
優しい笑顔でマリアンとのやり取りを見守っていた。
「…リチャード。」
「ん?」
「私を許さないで…」
彼は近づき、顔を伏せる彼女の両肩を掴む。
「まだそんなことを…」
「だって…操られていても、自分の意識はあった。
この手に残っている…感触はきっと何しても消えない…」
大粒の涙を流す彼女の白い手を掴む。
「許さない…デスキュラ…
僕のファリアをこんなに傷つけて…」
"僕のファリア"と言われ驚く彼女を胸に抱きしめる。
彼の胸の中でむせび泣く。
「君の苦しみを…嘆きを僕が引き受ける。だから…泣くな!」
きっぱりと言われ目を見開く。
「あ…」
「君の笑顔が見たいんだ…」
彼は優しく口づける。
想いを感じゆだねる唇。
彼はそっとベッドへ運ぶ。
ふわりと広がる黒髪。
「私…」
「もう泣かないでくれ。お願いだ。」
「リチャード…」
「僕のことだけ考えろ。僕のことだけ…想ってくれ。
…愛してくれ…。」
鼻が触れ合いそうな距離で瞳を覗き込まれ、囁かれる。
「ごめ…ごめんなさい。
ごめんなさい…リチャード…」
「もうそんな言葉は要らない。
僕が欲しい言葉…解っているだろう?」
小さくうなずく。
「…愛してる、リチャード。」
そのまま抱きたくなる衝動を抑えて深くくちづける。
彼女の右手を…ナイフを握っていた手を握り、指を絡める。
力を込めて握ると細く白い指が握り返してくる。
恋い慕った彼女を取り戻したと実感するリチャードがいた…
Fin
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(2005/6/23)
*あとがき*
一気に来たので一気に書いた!!という勢いだけ(?)の話。
ここのところ、下書き原稿に落書きというか…イラストを書き込んだりしてるのですが
コレが楽しい♪
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