temptation -4-




しばらくして点滴が終わると看護婦が来て針を抜く。

看護婦が退室するとリチャードは彼女の手を掴み、
そっと青白い唇にキスを落とす。



「……ん …」


まつげが揺れてゆっくりと瞼が開く。

ファリアの視界はぼんやりとしていた。
頭痛がしてくらくらする。
自分が自分でないような不思議な感覚に囚われていた。


「ここは…」

なんとか言葉を自分の意思で発することが出来る。


「病院だ。もう大丈夫だよ。」

「!?」

心地のいい声のするほうへ顔を向ける。

「だ…れ…?」

やわらかなハニーブロンドの青年の顔。
何故か懐かしい気がした。

「…僕だ。 リチャードだよ。…ファリア。」


"リチャード"と名乗られ戸惑いを隠せない。

   (まさか… そんな…  でも確かに…面影がある。
    何故、彼が…こんなところに?
    それに私は…一体…?)


混乱のせいか少し頭が痛む。

「あ…」


思わず苦しげな顔を見せる彼女を心配するリチャード。
翠の優しい瞳で覗き込まれる。

「大丈夫か? 頭でも痛むか?」

「えぇ…」

か細い声で返事する。


すぐにナースコールすると看護婦とドクターがやってきた。
診察を受け、即に処方される薬。


「さ、飲んで…」

彼の手で飲まされる錠剤。


 (あ…)

その左手に白い包帯。

薄いヴェールがかかったような光景が脳内に残っている。


「私…」

ボロボロと泣き出す。

「なんて罪深いことを…」


3人の男を傷つけたことを思い出す。

彼は優しく声を掛ける。


「ファリア…泣くな。」

「でも…私、人を…」

むせび泣く乙女に告げる。

「殺してなんかない。 ビルも進児も傷は浅い。
特にビルは下心があったから、自業自得。」

彼の言葉に驚く乙女は伏せていた顔を上げた。

「!? どうして…? 」

「僕がビスマルクチームの一員だからさ。」


おぼろげに覚えている殺せと命令されたときに見せられた写真。
手に残っているナイフで人を刺したときの感覚。

操られていたとはいえ己のしたことに怖くなる。

「私…私…」


自分の罪深さに嘆き悲しむ姿を見てリチャードは抱きしめる。


「う…う…」

「君のせいじゃない。
デスキュラに操られていたんだ。」

「私…でも…」

「3人とも傷は浅い。
ビルは下心のせいだ。
僕なんて手の皮一枚だよ。
進児もビルも鍛えた男だ。
か弱い乙女の君が…殺せるはずない。」

「でも…でも…」

頭を振って涙を撒き散らす彼女にはっきりと告げる。

「むしろ僕は…感謝している。」

「え…?」

「こうして…運命に引き離された君ともう一度逢えた。 18歳になった君に。」

「でも…私は罪びと…だわ。」

「君に罪はない。」

きっぱりと言われる。

「あ…」

覗き込む深いエメラルドの瞳が近づく。
彼は唇を寄せた。
優しい抱擁とキスに身をゆだねる。


唇を離すと胸に抱きしめる。

「君を取り戻せるなら… 僕はなんでもする。
君を愛しているから…」

「!!  あ…」

熱く耳元で告げられ息が詰まる。

「君はもう僕のこと忘れたか? 好きでないか?」

「いいえ…」

はらはらと涙を流す。
零れた雫が彼のシャツを濡らす。

「…リチャードのこと… ずっと好き… 
愛してる…」


6年前と同じように優しく抱きしめられ、胸がいっぱいになる。


「そうか…」


優しく背をなぜる大きくなった手を感じていた。






ベッドの上で優しい抱擁を重ねる。


「でも…私、あなたや…他の二人を傷つけた…
罪に問われるんじゃないの?」

「イヤ… 今の君は…操られていた上にまだ行方不明とされている。
だから、罪にはならない。」

「でも…私…」

リチャードは指であふれ出る涙を拭う。



「じゃ、謝罪すればいい。」

彼の提案に少し面食らう。

「え…?」

「君が操られていたことを説明すれば解ってくれるはずだ。
あの二人なら。」

「あ…  ごめ、ごめんなさい。リチャード…」


目を細めて彼は言う。

「僕に謝罪はいらない。むしろ…もう一度"愛してる"って言ってくれ。」


彼に抱きつきぎゅとシャツの背を掴む。


「…愛してる、リチャード…」

「僕も…愛してる。幼い頃よりずっと…」


瞳を閉じて彼女のぬくもりを感じていた。


to Next

_____________________________________________________________
(2005/6/22)

to -3-

to Bismark Novel

to Novel Top

to home