sweet pain -15-
少女も自室に入ってすぐにバスルームへと。
なみなみとしたバスタブに浸かり、溜息をつく。
「はぁ…今日こそ… リチャードに…」
淡い期待と少しの不安が入り混じっていた。
いつもより丁寧に髪と身体を洗う。
(どうしよう…ブラ…つけておいた方がいいのかしら…?
やっぱり…変よね…)
真っ白のネグリジェを身に着ける。
少し胸元が開いていて谷間も見えていた。
(これって…誘ってるみたいかしら…? でも…)
ネグリジェの上に同じテイストの薄手のナイトガウンを羽織る。
「はぁ…」
少し切ない溜息。
ベッドルームのドレッサーの前で鏡を覗き込む。
「私…変じゃないよね…」
間接照明しか点けていないベッドルームに溜息が響く。
その時、遠慮がちにドアをノックする音…
(リチャード…)
ゆっくりと立ち上がり、ドアを開けると少しテレくさそうな顔をした彼が立っていた。
「や。ファリア…」
「…どうぞ入って。」
二人で決めた事だけどやっぱり何処かで恥ずかしさが残る二人…
少女はベッドに腰を下ろす。
天蓋付きのアンティークのものでレースのカーテンが飾られているお姫様ちっくなベッド。
そこに座っているだけで彼の鼓動は早鐘を打っていた。
しかも彼女の姿は大きくデコルテが見える可憐な夜着―
本物のお姫様のようで触れるのをはばかられるような気がした…
全然、そばに来ない彼に声を掛ける。
「…リチャード…どうかした??」
「ううん…君があまりにも可愛くてさ…見とれちゃったよ。」
「…リチャード… 」
そう告げた彼がはにかんだ顔を見せただけで胸がときめきで締め付けられる。
「…私…」
ベッドから立ち上がり、彼の前に立つ。
「大好きよ…リチャード…」
「僕も…大好きだ…」
そっと抱き合い、くちびるを重ねる。
「ファリア…大好きだ。
だから…君を傷つけたくない。」
「…え?」
「本音を言えば、君を抱きたい。
自分のものにしたいって思ってる。
でも僕は今日はその日じゃないって…」
彼自身も自分で口にした言葉に驚いている。
考えるより先に口から出ていた。
目の前の彼女は驚いた目をしている。
「ちゃんと結婚して… その日に君を抱きたい。
それが君に対する愛情で、礼儀だと思ってる。」
「私…が、バカだったのね… 軽はずみだったのね…」
身体を震わせボロボロと泣き出してしまった。
恥ずかしくていたたまれなくて、両手で顔を覆う。
「違う。君の気持ちは…痛いほど解ってる。
でも僕は無責任に君を抱くのはイヤだ。
君を愛してるから…
大切にしたいから…
ごめん…」
少女は震えながら告げてくる彼に抱きつく。
黒髪と頭を愛しげに撫でる彼の手。
「愛してる…ファリア…」
「リチャード…せめて…こうして抱きしめて…」
「あぁ…」
冷静になった彼は優しく抱きしめる。
(さっき…欲望を吐き出したから… こんな穏やかな気持ちになれた…)
「リチャード…お願い。」
「…うん?」
「せめて今夜は…こうして抱きしめてて… お願い…」
少女の身体は震えていた。
(彼になら…今夜、処女を捧げられるって思ってたのに…
そんな風に思ってくれてたなんて…
浅はかだわ…私…恥ずかしい…でも… )
ふと身体を離した彼女は彼の手を引っ張ってベッドに行く。
「ファリア…ダメだよ。」
「お願い。そばにいて…」
潤んだ瞳で見上げられ、懇願されるともう断れなかった。
(可愛すぎだよ… ファリア…)
「あぁ。そばにいる。ずっと抱きしめててあげるよ。」
「…えぇ。」
少女はナイトガウンを脱いで、ベッドに横たわる。
それを目にして彼の決心は少し揺らいでいた。
しかし なんとか制して、自分もナイトガウンを脱ぎ捨てて、彼女を抱きしめる。
ゆっくりとやさしく黒髪を撫で上げ、サファイアの瞳を覗き込む。
切なげなそして 少し扇情的な色を帯びていた。
彼の下半身にどくんと直撃する。
けれど、なんとか押し殺して冷静を装う。
少女は何も言わずに彼の腕に抱きつく。
自然とやわらかなふくらみが腕に触れていた。
(あ… ファリアの… 当たってる…)
自身が熱を帯びていくのがわかる。
(ちょっと…まずいけど…)
彼の心の内を知ってか知らずか、少女はくちびるを彼のくちびるに寄せる。
触れているだけのキス―
可憐なくちびるは震えていた。
(決心したんだ… 結婚するまで抱かないって…)
震える彼女の頬を撫で彼は囁く。
「ファリア… こうしているから…おやすみ…」
「う…ん… おやすみなさい…リチャード…」
(私… リチャードのぬくもりが好き… 優しく撫でてくれる指も手も…
囁いてくれる声も… 見つめる瞳も… 大好きよ…)
「リチャード… 大好きよ…」
ぎゅと彼に抱きついて囁く。
彼女のやわらかな身体とぬくもりを感じて心が締め付けられていた。
しばらくすると静かな寝息が聞こえ出す。
(これで…いいんだ。
僕たちはまだ…若すぎる…
でも… いつか… 君を思い切り抱きたいよ… ファリア…)
しばらくおだやかに抱きしめていると自身の熱も少しずつ下がっていく…
(ファリア… 僕の未来の花嫁… 愛してる…ずっと…)
彼は少女のぬくもりを感じながら眠りに落ちていく―
―明け方
彼はふと目覚めた。
まだ腕の中で彼女は眠っている。
(多分…3年もしたら… 毎日見れるんだ。
今は…少し離れてて辛くても…
僕が大学を出たら、結婚するんだよ…)
彼はそっと彼女を起こさないように、身を起こす。
頬にキスして彼女の部屋を出た。
自分に与えられた客間に戻る。
「はぁ…」
彼の口から漏れ出たのは切ない溜息―
***
しばらくお互い電話とメールでしかやり取りできずに会えない日々が続く―
少女にしつこく付きまとっていたぺニントンはあの日以来、おとなしくなった。
最近は違う男がまとわりついている。
少女は無視していたが
クラリスやシャーリーが見かねて助けてくれていた。
4月末に両家の間で二人の婚約披露パーティが開かれる日が決定した。
「父上…ちょっとご相談があるのですが…」
「何だ?」
久々にロンドンの邸に戻った彼は書斎で父に切り出す。
「彼女への婚約指輪…僕が選んでいいのですか?」
「あ? あぁ…言うのを忘れておった。
代々、未来の女主人に受け継がれている指輪がある。
メアリから預かって…
あの娘のサイズに直してある。」
父の言葉に驚きを隠さない。
「もう?! あるのですか?」
「あぁ…お前が 正式にあの娘と婚約したいと言った次の日にメアリから渡された。」
「母上が?」
「メアリもあの娘を気に入っている。そして私もな。」
「父上…」
彼は知らなかった。両親が彼女の事をそんな風に思っていてくれたことに。
嬉しくて、涙が出そうになる。
父・エドワードは小さなジュエリーケースに入った指輪を息子に渡す。
ケースを開けてみる。
「確かコレって…孔雀石??」
「あぁ。古くから魔除けとして代々伝わっている。
未来の花嫁を災いから守ると言う意味でな。」
「…そうだったんですか…」
「私も22年前にメアリに… 父上も… 贈った物だ。」
「ありがとうございます。父上。
じゃ、コレはパーティ当日まで預かっておいて貰えますか?」
エドワードは目を細めて言う。
「お前が持っていてもいいんだぞ?」
「じゃ、僕が持ってます。」
「そうしなさい。」
彼はロンドンの自室に置いておく。
時折、見つめて彼女に渡す瞬間を想像していた。
***
婚約披露パーティはロンドンのランスロット邸で開かれる。
彼女のデビューパーティの時と同じように報道陣が入っていた。
翌日の国内の新聞の社交界欄を賑わす事になる。
"パーシヴァル公爵家令嬢、ランスロット公爵子息と正式婚約!!"
現女王の姪の婚約は久々に国内の明るいニュースとして報じられることに。
二人の幸せそうな笑顔の写真が掲載される…
*
―パーティ当日
少女…いや乙女は淡い薔薇色のドレスに身を包んでいた。
デビューパーティの時よりさらに美しくなった彼女を見て、家族だけでなく招待客も息を飲む。
乙女が内側から輝いて見える。
理由は明らかだった。
彼との正式婚約―
隣に立つ彼も胸が高鳴るのを実感していた。
パーティで二人は祝いの言葉を受ける。
すでに幸せのオーラを放っている二人を見て人々は囁く。
「政略結婚だと思ってたけれど…違ったみたい。」
乙女の指には孔雀石のリングが輝きを放っていた。
*
婚約披露を終えても、二人はお互い忙しかった。
彼は大学、フェンシングと乗馬の大会。
彼女は校内や校外コンクールのためのレッスン。
それでもなんとか二人はお互いの声が聞きたくて 電話だけは欠かさない。
二人の未来は明るいはずだった―――
孔雀石の力でも曲げられない運命が二人を引き裂く事になる………
Fin
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(2005/8/14)
(2011/11/15 加筆改稿)
*あとがき*
めっちゃ切ない系を目指して描いても…
こんなになってしまいました(爆)
切ないのに甘い…
なんか作者が一番、悶えているような気が…(汗)
それにこんなに長くなって…
実はお話はまだ続きます。
しかもリチャード視点でゲロ甘な上に…初えっち。
って…おい!?
これから先の世界に足を突っ込む方は御覚悟を。
なんせR18ですから。あはは。
今回のテーマ曲:高橋洋子「もう一度逢いたくて」
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