Thank you my girl -1-
僕は飛び級で大学に進学して17歳と半年で大学1年目を終えようとしている。
もう夏の休暇が目の前。
4月末に正式婚約した彼女…ファリアも王立音楽院の1年目を終える。
僕はやっとゆっくりと彼女と逢える時間が持てるのを楽しみにしていた。
毎日、忙しい中でも電話だけは欠かさない―――
「明日には城に戻れるよ。」
「ホントに?」
先に自宅であるローレン城に帰っている彼女にそう告げるとぱあと声が明るくなった。
「逢えるのね…リチャード…」
「あぁ。毎日逢えるよ。久々に遠乗りに行こう…丘に。」
「えぇ…。」
彼女の声に嬉しさが満ちているのが解る。
「明日の午前中には戻る。 午後…お茶の時間くらいには行くから。」
「えぇ…待っているわ。」
「それじゃ明日に。」
「はい。」
電話を切るとつい頬が緩む。
(やっと逢えるんだ… 彼女のピアノコンクール以来だから…
半月ぶりか…)
寮の廊下で携帯を持って、僕はひとり明日会える彼女のぬくもりを感じた気がして
笑顔になっていた。
「何やってんだ??リチャード?」
同室の先輩が部屋に戻る道すがら僕に声を掛けてきた。
「何…お前…すっげー笑顔…。
彼女にでも電話してたのか?」
ダントン先輩の指摘に一瞬、息が詰まった。
(う… スルドイな…)
「え、えぇ…まぁ…」
ダントン先輩はにやけた笑顔で僕に突っ掛かる。
「仕方ねぇよなぁ…あーんな美少女だし…」
「僕の彼女は確かに美しいです!!」
「お前…少しは謙遜しろ。って言っても無駄か…」
「僕にとって彼女は一番キレイな女の子なんです!!」
「あ〜も〜、勝手にのろけてろ!!」
最近、切り返し方が解ってきた。
僕の言葉に呆れて部屋に戻る先輩を追いかけるようにして部屋に入る。
同室の先輩だけじゃない。
同じゼミ、同じ寮の人間は知っている。
僕に婚約者がいることを―
みんなに茶化されたり、からかわれたりするのにはもう慣れてしまった…
(どうせ明日の帰りの列車の中でも…冷やかされるんだ…)
***
朝には寮を出て、昼前にはなんとかランスロット城へと戻れた。
久々に母とのランチを済ませたあと、僕は愛馬に跨り、隣の領地のローレン城に向かう。
僕の実家―ランスロット城も築300年以上の城だがローレン城はもっと古い。
大昔は砦だったとかで外見はゴツく無骨に見えるが中はそうでもない。
中庭に人工池もあり、城の周りにはお堀…水鳥も多く、木々も多い自然に溢れていた。
その中で生まれ育ったのが彼女・ファリア=パーシヴァル。
僕と同じ年だけどまだ16歳。
しかし立派なレディ…
僕がキング号で城への橋を渡ると、エントランスから執事が二人出てきた。
「いらっしゃいませ、リチャード様。」
「あぁ、こんにちは。彼女は?」
「お待ちでございます。」
「そう。」
僕がキング号から降りるともう一人使用人がやってくる。
「キング号は馬丁にお任せを。」
「あぁ、頼むよ。」
馬丁のオルソンがキング号の手綱を引いていく。
僕はエントランスホールに入った。
「こちらでございます。」
僕は執事に連れられて彼女のいる部屋へと。
通されたのは―彼女の部屋の居間。
「いらっしゃい!リチャード!!」
彼女は駆け寄って来た。
少し身長が伸びた気がする。
「やぁ…ファリア。久しぶり… 半月ぶりか… 元気だったようだね。」
「えぇ…あなたも。」
僕は優しく彼女を抱きしめる。
細い腕が僕の首に廻る。
「ね、身長伸びてない?」
「え? …1センチだけ。何で解るの??」
「なんとなく… ってコトは158センチ?」
「そうよ。あなたも伸びたわね…」
「あぁ。178センチだよ。」
「…もう20センチも差がついてるのね…」
呟く彼女に僕は言う。
「まだ僕も17だし…もう少し伸びるよ。君もね。」
「…私も?」
「ミルクたっぷりのミルクティでも飲めばいいさ。」
「…ふふっ、そうね。」
彼女の微笑で僕も笑顔になる。
彼女の部屋の居間のソファに二人並んで腰を下ろし、
他愛のない話をする。
ふとした時に彼女の手に触れた。
「あ…」
ぬくもりに触れたくて僕は思わずその手を引いて自分の胸に抱き寄せる。
少し戸惑い照れているのが手に取るように解った。
彼女が顔を上げてくると僕の心臓はひっくり返りそうになる。
「…ファリア…」
僕はそっとキスした。
触れるだけのやさしいくちづけ。
やわらかなくちびるに触れているだけで自分が熱くなるのを感じている。
何の抵抗もなくキスを受け止めてくれた。
それどころか細い腕で僕に抱きついてくる。
もう、我慢の限界だった。
そっと舌先で彼女のくちびるを舐めてから、割って入っていく。
初めは優しく でも 次第に舌と舌が絡み合い、顎を入れ替え激しく彼女の中を求めた。
唾液の混ざる音が耳に響く。
僕の手は柔らかな黒髪に手を入れ撫で上げる。
彼女のくちびるから甘いため息が出るがそれすら僕は飲み込んでいく。
胸が締め付けられ、鼓動が高鳴り甘く切ない思いが込み上げる。
くちびるを離すと僕たちを銀の糸がつないだと思ったらふっと消えた。
僕はギュッと彼女を抱きしめ耳元に囁く。
「ずっと…逢いたかった…キスしたかった… 抱きしめたかったよ…」
「リチャード… 私も…」
彼女の手は僕のシャツの背を掴んでいた。
そっと僕の手は彼女の背をさする。
昔からこうすると震えながらも僕の腕の中にいてくれる。
それにさする度に手の甲にやわらかな黒髪が触れるのが心地いい。
僕と違う…漆黒の真っ直ぐなやわらかな揺れる髪…
初めて会った5歳の頃から、ずっと憧れていた。
幼い頃からずっと触れてみたいと願っていた。
今こうして、触れて撫でたり、指で梳いたり出来るのがとてつもなく嬉しい。
これだけで自分が熱くなってゆくのを感じていた。
(やばいかも… しばらく触れてなかっただけに… )
少し焦ったけれど仕方がない、僕は男だ。
気づかれないようにしなくてはと思う。
そこへドアをノックする音がして僕は身を離す。
「はい。」
部屋の主の彼女が返事するとメイド頭のベアトリス夫人がトレイを持って入ってきた。
「お茶のおかわりをお持ちしました。
それにさっき焼きあがったフィナンスェを…」
「あ、ありがとう。」
僕たちの前のテーブルに焼きあがったばかりらしいお菓子と
新しく淹れた紅茶をベアトリス夫人が置く。
「リチャード様… このフィナンスェ…
お嬢様がお作りになったんですよ。」
「…え?」
「…リチャード様がいらっしゃるからって…」
横にいる彼女を見るとすこし照れ臭そうにしている。
「もう… ベアトリス夫人、言わないでって言ったのに…」
そんな彼女を見て僕は可愛いと感じる。
「はいはい。それじゃ失礼しますね。」
一礼してベアトリス夫人は下がっていく。
「ファリア…これまた焼いてくれたんだ…」
「うん… いちいち言わなくていいって、ベアトリス夫人に言っておいたのだけど…もう…」
「でも、僕のためにわざわざ焼いてくれたんだろう?」
「だって…あなたが喜んでくれる顔がみたくて…」
「はは…ありがとう。嬉しいよ。」
そんな風に僕に気遣いを見せる彼女がとても愛しい。
頬にキスすると嬉しそうに身をよじらせる。
(あぁ…可愛いな…)
「じゃ、せっかくだから、頂くよ。」
「無理して食べなくていいのよ?」
「何言ってる?? 僕が食べたいんだよ。」
僕がそう言うと頬を染めてはにかんでくれた…
城の大時計が5時を告げる。
「ファリア…そろそろおいとまするよ。」
「え…?」
「明日、また来るよ。」
「え、えぇ…」
少し淋しげな顔を見せる彼女に僕は言う。
「明日は…遠乗りに行こう、丘に…」
「えぇ…久しぶりね…」
嬉しそうに微笑み応えてくれた。
「ごめん。じゃ、明日…」
「はい。 気をつけて…」
僕は後ろ髪を引かれる思いでローレン城を後にした。
to -2-
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(2005/8/16)
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