sweet pain -12-



寮に戻ると早速メールする。

  "君が持たせてくれたビスケットたち、美味だったよ。 ごちそうさま。"



送信した直後、電話が鳴る。

「はい?ファリア?」

「あ…よかった。もう戻ったの…寮に。」

「あぁ。」

「口に合って良かったわ♪」

「一日でなくなっちゃったよ。」

「え…!? あの量を一日で??」


驚きの声を上げる彼女に言う。

「…いいや…先輩たちに持っていかれた…」

「ま!!」

「各種1個ずつしか食べれなかったよ。
まったく…先輩方はハイエナみたいな人たちだから…」

「そうだったの…」

くすくすと電話の向こうで少女は笑っていた。


「せっかく君が焼いてくれたのに…」

「また焼くわよ、あれぐらい。」

「君も忙しいのに…」

「私がしたくてやってるのだから…大丈夫。」

「そうかい?」


そうして二人はしばらく他愛のない話をしていた。
今日、顔を見て話していたのに…






   ***

そしてさらに1週間経つかたたない頃―

再び彼の手元に彼女から小包が送られてきた。


「何で?」

不思議に思って包装をあけてみると"Happy Valentine!!"

「そっか…今日14日だ。」

中身は例年通りゴディバのチョコ。
しかしいつもより量が多い。

「なんでまた…(汗)」

彼女の直筆のカードが目に入る。

"Dear Richard
 
 バレンタインまで郵送でごめんなさい。
 いつもより多いのはあなたの諸兄さま達に
 多少持っていかれても大丈夫なようにと思ったからなの。
 
 寒い日が続くけど、無理しないで頑張ってね。

 あなたを愛するファリアより"



ふわりとカードからやわらかな薔薇の香り。

「あ… いつもの彼女の薔薇のトワレの…?
今までこんな事をしてこなかったのに…
でも…嬉しいな…」


部屋でひとりで浸っていると先輩の誰かがけたたましくドアを開ける音。

「たっだいま〜!!」

声の主はベンジャミン=レイ。

「おや…いたんだ、リチャード。」

「えぇ。まぁ…」

「何だ?いい匂い…」

周辺に香る薔薇の香りに気づく。

「あ、僕の彼女の…手紙が犯人…かな?」

「何で?」

「薔薇のトワレの…」

「は〜確かに、薔薇の香りだな。」

そこへまたひとりが帰ってくる。ダントン先輩だった。

「何だ?女の子な匂いだな…」

ダントンにベンジャミンが言う。

「リチャードの彼女の手紙が犯人だってさ。」

「へ〜ぇ、どえらいラブラブなんだな。
彼女がお前に夢中なのか?」

「…どうだろう…今、彼女も忙しいみたいですし…」

「「は?」」

「あーもう…これ以上詮索しないで下さい!!」

リチャードは慌てて手紙と箱を自分のクローゼットにしまう。



「なんだ…?アイツ…??」


彼は先輩達からチョコを死守するために、一人の時に少しずつ食べていた…






   (3月14日…どうするかな…??
   ホントは逢ってキスしたいくらいなんだけど…)


授業の合間にオックスフォードの町に出て、様々な店を見て廻る中、
ひとつ目を引くものに出会う。

それは…アンティークのブローチ。
モノはガラス製だが光の加減で微妙に色を放つのを見て気に入った。
それを入れるために小さなアンティークのオルゴールも選ぶ。



    (14日…ロンドンに戻れそうにないか…
    仕方ない… 
    僕も郵送するしかないな。)


少年は仕方なくオルゴールの中にブローチとカードを入れ、丁寧に梱包して郵便局に持っていく。




   *


―3月14日


学校から戻った少女は少し疲れていた。


「はぁ…」


今日も二人のしつこい男の先輩に付きまとわれてうんざりしていた。


「ただいま…」

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

「うん…」

少し元気のない少女にメレデス夫人は声を掛ける。

「そうそう…お嬢様宛にお荷物が届いてましたのでお部屋に。」

「…そう。ありがとう。でも、どなたから?」

最近は学校で付きまとってくる先輩からの贈り物もあるので迷惑していた。

「…リチャード様からですよ。オックスフォードから。」

「…ホント??」


少女は目を輝かせて、慌てて階段を駆け上り自室へ向かう。




ドレッサーの前にちょこんと置かれた小さな小包。
スツールに腰掛け、丁寧に包装を外していく。

「あら…オルゴール…??」

蓋を開けると"Over the rainbow"が鳴り出す。
中にカードがあった。

"Dear faria.
 お返しが郵送になってごめん。
 今回君に贈ったのはオルゴールとブローチ。
 オックスのアンティークの店で見つけて…キレイだったから。
 君が気に入ってくれるかわからないけど…受け取って欲しい。
 
 君を心から愛するリチャードより"


「え…? ブローチ??」

オルゴールの中を見るとキラキラと輝くアンティークのブローチがあった。


「わぁ…キレイ♪」


オルゴールもブローチも年代物の割りに美しい品で少女は気に入った。
ひとりでオルゴールのメロディを聴き、ブローチをワンピースの胸元に付けて
鏡に映してみる。

「うん…素敵じゃない…」




うっとりと見とれていると乳母のメレデス夫人がドアをノックして入ってきた。

「お嬢様…そろそろお夕食の時間です。」

「え…はい。今、行くわ。」

ブローチをつけたままオルゴールの蓋をして部屋を出る。
廊下を歩く少女に声を掛けるメレデス夫人。

「ファリアお嬢様… そのブローチは…?」

「あぁ。コレ? リチャードから送られて来たの。
バレンタインのお返し…
いままでキャンディとかだったのに…随分フンパツしてないかしら…彼。」

「まあ…そうでしたの。
さっきの小包はそれだったんですね?」

嬉しそうに微笑む少女。

「ブローチとオルゴールよ。」

「まぁまぁ…」

帰ってきた時と違い幸せに満たされた少女の顔を見て
メレデス夫人も嬉しくなる。




食堂に着くと、祖父と両親があとからやってきた。
祖母は友人と観劇に行っている。

食事が始まり、しばらくすると祖父が孫娘に声を掛ける。

「ファリア…」

「はい?お爺様。」

「そのお前のしているブローチは何処で?」

頬をピンクに染めた少女は応える。

「あ…あの…今日、ホワイトディで…リチャードが私に送ってきてくれたんです。」

「…リチャード君が??」

「はい。わざわざオックスフォードから郵送で。」

「ほう…ちょっと外してワシに見せてくれんか?」

「はい。」

少女は外すと控えていた使用人に渡し、祖父に渡してもらう。


「…ふむ。」

祖父はじっくりとブローチをひっくり返したりして見ていた。



「こりゃ…18世紀から19世紀くらいのモノだな。
コンディションも悪くない。
確かにガラスだが…アンティークとしての価値は十分あるな。」

「ホント?? お爺様。」

「あぁ。リチャード君がいくらで手に入れたか知らんが結構いいものだぞ。
大事にするんだな…。」

「勿論よ。」


「へぇ…リチャード君がね…」

母は少し感心したように呟いていた。





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(2005/8/14)


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