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sweet pain -11-


―年が明けて2083年


リチャードは大学の寮の為にオックスフォードへ。
ファリアは王立音楽院に編入の為にロンドンの邸で暮らす。

少年は初めての寮生活でなかなか思うように時間が取れないので
毎日忙しく電話で話すこともままならない。

少女も新しい環境に慣れるまで少々時間がかかる。



彼の17歳のバースディ…1月30日にも逢えない。
彼女は仕方なくプレゼントを郵送。



   (逢いたいな…でも、突然行ったら迷惑よね…
    仕方…ないのよ…)



1月30日当日…
自分に言い聞かせてメールを送る。

「はぁ…」

"17歳おめでとう!! 身体に気をつけて頑張ってね。"


送信直後、携帯に着信音が鳴り、驚く。

「…はい。」

「ファリア…よかった…そばにいると思ってさ…メール来たから…」

「うん…」

久々に聞くお互いの声。

「リチャード…17歳おめでとう。
ホントは顔見て言いたかったんだけど…」

「うん…僕も逢いたいな…」

「ねぇ、プレゼント届いた?」

「あ、あぁ。さっき受け取った。ありがとう。
やっぱりこっちはロンドンより少し寒いし嬉しいよ。」

「ホント?」

彼女が贈ったのはハンチング帽とマフラー。
それに手編みのミトン。


「ねえ、ファリア…」

「はい?」

「来週末、ロンドンに先輩方と出ることになりそうなんだ。
少しでもいいから…逢えないかな?」

「いつ?」

「土曜の午後。」

「解ったわ。あけておく。」



初めてロンドンでのデートの約束を交わす。


約束の日まで時間を早送りできないかと、二人とも思っていた。






   ***


―土曜日


リチャードは大学の同じゼミの同級生や先輩たちと一緒にロンドンへ出る。
家族には知らせていない。知っているのは彼女だけ。

昼前にはロンドン市内へ。
総勢6人の一行は目的の資料となる本を手に入れた後に解散予定。
彼女との待ち合わせはその大手書店の前に1時。



リチャードと仲間の5人は夕方6時に駅で待ち合わせすることになっていた。
彼以外にも恋人と約束している先輩がいる。




   *


ファリアは約束の時間よりかなり早く到着してしまった。
時間をつぶす為に店内へ。
つい買ってしまったのはチェスの本とファッション誌。
精算して振り返ると見慣れた顔。

「「あ!?」」


二人はほぼ同時に声を上げていた。


「どうしたリチャード…知り合いか?」

同行していた仲間の一人…先輩のジェフリーが彼の肩をつつく。

「あれ…ファリア…何で中にいるんだ?」

「だって早く着いちゃったんですの…」

「ははッ…君らしいな…」

二人が無視して会話しているのが面白くない。

「おい!!無視すんな!!」

「す、すみません、先輩。」

「で、かなり親密みたいだけど… ひょっとしてお前の彼女?」

ジェフリーに指摘された通りなのできっぱりと答える。

「はい。そうです。」

「へぇ…」

ジェフリーが少女を上から下へと見つめていた。



「ちょっと待っててくれ、精算したら行こう。」

「…はい。」

彼は手に持っていた本の精算を済ませると彼女の手を取って書店を出る。
残されたジェフリー(19)は呆然としていた。


   (あんな美少女があいつの恋人…ってマジ??)






   *

ロンドンの街で二人っきりで逢うのは初めて―

彼が自分の贈ったマフラーとミトンを使ってくれているので嬉しい少女。




「ねぇ…先輩にあんな態度でいいの?」

「あぁ。みんな詮索好きだからさ、一言言ったらすぐ広まっちゃうよ。」

ふふと少女も笑う。

「そうなんだ…こっちも似たようなものよ。」

「王立音楽院で?」

「そう。 みんな音楽と恋愛とゴシップが好きって人のカタマリよ。」

「ははは…いずこも同じか。学校変わっても。」

「そうみたい。」

二人は歩きながら笑っていた。




ふと彼は彼女が手袋をしてないことに気づく。
2月のロンドンは寒い。

「手、冷たくないか?」

「あ、忘れてた。」

彼が自分の手袋を外し、彼女の手を掴むと結構冷えていた。
そのまま自分のコートのポケットに彼女の手を掴んだまま突っ込む。



   (あ、リチャードの手って…大きくてあったかい…
    いつの間にこんなに大きくなったの…?)


少女は少しの戸惑いと嬉しさを感じていた。



「やっぱり寒いし、何処か入ろう。
ランチは済ませた?」

「リチャードは?」

「まだ。」

「じゃ、レストラン行きましょ。」


二人は連れ立ってイタリアンレストランへ。




   *


お互い口に出さないが、今の状況が嬉しくてたまらない。

前菜~メイン~デザートと食事が進み、ラストに紅茶をオーダー。

カップを口に運ぶ彼の前におずおずと持ってきた紙袋を渡す。

「ね。リチャード…コレ、持って行って。」

「…何?」

「ここレストランだし…開けるのよくないから言うわね。」

「うん?」

「中身はスコーンとビスケットとフィナンスェよ。
私がおばあ様に教えてもらって焼いたの。」

「君が?!」

「前にも焼いてたの知ってるでしょ?」

「あぁ、確かにそうだけど…
ありがとう、大切にいただくよ。」

「ふふ…ゆっくり食べてね。」

彼は自分のかばんの中から包みを出してくる。

「そうだ…コレ、ちょうどよかった。」

「なぁに?」

「オックスフォードのアリスショップで見つけたんだけど…
気に入ってくれるかな?」

「開けて大丈夫よね?」

「あぁ。」

渡された包みを丁寧に開けるとアリスの絵皿。

「わ、可愛い♪ ありがとう。」

「お土産にって思ってたんだけど… お礼になっちゃったね。」

「私も何か残るものにすればよかったかしら…」

彼女の呟きに応える。

「僕は嬉しいよ。君も忙しい中、焼いてくれたんだろう?」

「そんな事…」


お互いの笑顔を見て嬉しさを隠しきれない…







レストランを出た後、二人は手をつないだまま、リージェンツパークへと。
一年で一番寒い季節だけに寄り添う二人の姿があった―





   *



―夕方6時

先輩達との約束の時間があるためにパディントン駅にいる二人。

「リチャード…また…逢おうね…」

「あぁ。連絡するよ。」

「えぇ…待ってる。でも無理しないで…」

「ごめん。淋しい思いさせて…」

「ううん…リチャードが頑張ってるって解ってるから…大丈夫よ。
あなたこそ…寮生活で大変でしょう?」

「それなりに楽しんでるよ。」

「そう? ならいけど…」

駅構内の時計の時刻を見るとあと5分で発車する。

「もう…発車するから…行くよ。」

「…うん。」

別れたくないと思いつつ、手を離す彼。
お互い切ない瞳をしていた―


車窓から顔を出す彼に声を掛ける。

「リチャード…また…またね…」

「あぁ…」

がたんと音を立てて列車は発車する。
彼の乗った列車をずっと見送っていた少女…






   *


列車のキャビンでひとりで座り、窓の外を見つめていた。

   (集合って言ったって この列車に乗るって約束だけだったしな…)


溜息をつくリチャード。
目を閉じて今日の彼女を思い浮かべる。

   (今日も…可愛かった…いつもだけど…
   あんなに…絵皿も喜んでくれて…)


小腹が空いた事に気づいて彼女が持たせてくれた袋の中の箱を開ける。
中にきれいに並べられたスコーンたち。


   (美味しそう… せっかくだからいただこう)


リチャードのキャビンに車内販売が来たので紅茶を頼んでいると先輩方がやってきた。

「あ! いた!! リチャード、お前、ひとりでここにいたのか?」

「向こうでもいいって言ってたじゃ…」

「いいじゃねぇか。他人と一緒よりかは。」

「それはそうですけど…」

強引な先輩方に負けてしまう。


   (ひとりで静かに過ごそうと思ってたのにな…)



キャビンはあっという間に6人になり手狭。

「おい。リチャード…コレ、うまそうじゃん!!」

置いていた箱に気づく先輩の一人・ベンジャミン。

「ダメですよ。」

「なんで~?こんなにあるのに…」

「ダメですったら。」

ベンジャミンが欲しそうな目をして彼に訴える。

「何でだよ~俺、腹減ってるんだよ。分けてくれよ。」

手を合わせ頼んでこられると断れない。
それに他のメンバーもモノ欲しそうな目をしていた。

「…ひとり1個だけですよ。」

「やり~!!」


リチャード以外の5人はそれぞれに1個ずつ手に取り口に運ぶ。
その様子を見てると自分より全員年上とは思えない。


「うま~☆」

口々に嬉しそうな顔をして食べている。

「お前、何処で買ったんだよ?」

「…違いますよ。」

「…へ?」


その言葉を聞いてジェフリーは声を上げた。

「あ?!」

「何だ?ジェフリー?」

「…ひょっとしなくてもさっきの彼女か??」

はぁと溜息をつき応える。

「…そうですよ。」

「「「「何??!!」」」」


他の4人が一斉に叫ぶ。

「何々??彼女? 17のこいつに彼女??
…って何でジェフリー知ってるんだ??」

疑問符だらけのメンバーの一人・レナードが声に出す。

「昼、書店で別れたろう?」

「あぁ。」

「俺とこいつ …ちょっと一緒だったんだけど…
1階のレジの前でこいつの彼女がいたんだよ。」

「「「「へ~…」」」」


好奇心丸出しでウォルトが尋ねる。

「可愛かったのか?ジェフリー。」

「あぁ。美少女だった。
リチャード…彼女は年下の女子高生??」

正直隠していたかったがここまでばれれば仕方ないと諦める。

「…同じ年ですよ。ぎりぎりで学年一緒だったんです。」

「なんだよ?ぎりぎりって…」

「彼女のバースディが9月1日なんです。」

「あぁ、確かその日前後一週間生まれは学年選べたっけな。」

そう呟いたのは最上級生・レナード。

「それで…」

「へ~ってことはあの娘、16歳?!」

「そうです。」

「うっわ、そうなんだ~現役女子高生~。」

「僕たちもお目にかかってみたかったな…」

男爵家出身のウォルトが呟く。



「どんな女の子だったんだ?ジェフリー。」

「えっとな… ブルネットの蒼い瞳で… 少し小柄で華奢な感じの…」

「「「「へぇ~」」」」

「なぁ、リチャード。お前さん、写真とか持ってないわけ?」

ベンジャミンが問いかける。

「ありますけど…」

「なんだ出し惜しみか?」

はぁと溜息をつくリチャード。

「昔から… 彼女を好きになる男のおかげで苦労してますからね…
あんまり見せたくないんです。」

「「「「「は??」」」」」


「前の学校の初等部の頃から…ずっとですよ。
影の信奉者もいればあからさまに彼女にモーション掛けるヤツもいましたし。」

「そんなに美少女なんだ…」

「それだけじゃないんですけどね…」

「あ~…確かにキレイで可愛い子だったな。
俺もリチャードの連れって聞かなかったら声掛けてたな。」

「「「「マジ??」」」」

「先輩方…どうしても見たいって言うのならお見せしますけど…
ここだけの話にして下さい。」

「「「「何で???」」」」

「まだ許婚なんで。
正式な婚約は今年の4月ですから。」

「は?結婚決まってんの?あの娘と??」

ジェフリーが目を丸くしている。

「えぇ…まぁ。」

「「「「マジで????」」」」

叫んでばかりの先輩達だった。

「確かに…家の跡継ぎだし…不思議はないと言えばないけど…
僕もそうだしな。」

「っていうことは…あの子は貴族のご令嬢??」

「はい。」

ジェフリーも彼女に気品を感じていた。

「リチャードんちが公爵家なんだから、その子は伯爵家とか??」

的を得た質問をしてきたのはミッシェル。

「正しくは…公爵家の跡取りである父親が伯爵なんです。」

「あれ…ってことは、去年リチャードのエスコートでデビューしたって言うパーシヴァル家のご令嬢?」

正解したのは伯爵家の跡取りのウォルト。

「…そうですよ。」

「なんだ…ソレ?」

「お前は普通の家だしなぁ…」

「どういう意味だよ!?」

むっとしたミッシェルにジェフリーは言う。

「英国貴族なら誰でも知っているパーシヴァル公爵家令嬢ファリア嬢。
元王室王女のセーラ様の娘って言う…」

「そうです。」

「「「「マジ??」」」

貴族の家柄でない3人が叫ぶ。

「だから…ここだけの話…か?」

ウォルトが呟く。

「はい。」

「…解ったよ。そういうわけでみんな、黙ってるようにな~。」



「あ、思い出した。どうりで何処かで見た気がしてたんだ。
新聞で見たんだ。
それに親父から聞いてた。」

ジェフリーがみんなに向かって言った。

「なんて?」

「俺は忙しかったから行かなかったんだけど…
両親がその娘の社交界デビューのパーティに行ったんだよ。
"若い頃のセーラ様に似て美しいご令嬢"だとな。
ま、確かに今思い出すとそうだよ。」

「「「ひょえー!!」」」」

「どっちにしても俺には別世界のお嬢様ってことだな。
写真見せてくれよ。」

手を出してきたのはミッシェル。

「…仕方ないですね…」

リチャードは胸ポケットから赤い手帳を出して、はさんでいた彼女と自分の写真―
例のデビューパーティの時の写真を見せた。

受け取ったミッシェルは目を丸くする。

「うわ~、キレイな子だな。」
「どれどれ…へ~。」
「あぁ。確かにこの子だったな…」
「いいな…リチャード…こんな可愛い子…」
「ちょっと俺の好み♪」


   (あぁ…やっぱり…)



リチャードは一人、予想通りの反応を見せる先輩達を見ていた。

「…リチャード。この娘とキス位はしてるんだろう?」

ベンジャミンが悪戯っぽい目で見て言う。

「は!?」

「やっぱりそうなんだ…羨ましい…」

赤面した彼を見て先輩達は笑っていた。

「あのですねぇ…」


「黙っておいてやる。安心しろ。」

ジェフリーはそういうが目が笑っていた。

「だからもう1個ずつくれ!!」

溜息をつくリチャードに選択の余地はなかった……







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(2005/8/13)


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