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sweet pain -10-
年末・28日の朝にパーシヴァル家もランスロット家もスイス行きの飛行機に乗っていた。
ゆっくり目に出発したために到着は夕方―
ホテルのスイートルームに分かれる両家だが同じフロアの向かい同士。
どちらも2ベッドルームの広い間取り。
両親が主寝室、子供達は副寝室に。
到着したその日はのんびりし、そろって夕食をとる。
久々の旅と自分の誕生日が目の前でファリアの弟・アリステア(10)は
かなりはしゃいでいたため夜9時には眠ってしまった。
母親達とリチャードとファリアは部屋に引き上げるが父たちはバーラウンジへ。
―夜11時
少女は部屋を抜け出して彼の部屋へと向かう。
そおっと向かいのスイートルームに入る。
間取りは同じだから彼のいる部屋も解っている。
遠慮がちにノックするとゆっくりと気配が近づいてくるのがわかる。
てっきり母か父だと思って出た少年は驚く。
「…!!! え?? …ファリア?」
「ちょっと…いい?」
「あ、あぁ…入って。」
「う…ん。」
こんなところを両親に見つかったら二人とも大目玉なのは確実。
ドアを閉め高まる鼓動を悟られまいと平静を装う少年。
「どうした?こんな時間に…」
「うん…迷惑だったら帰るわ。」
「…迷惑じゃないよ。」
「今日…全然二人だけになれなかったから…少しだけでもと思って…」
「あ…」
確かに今日一日は家族と一緒で二人だけという事はなかった。
弟のアリステアにも邪魔されたから面白くなかった少女。
「…淋しかった?」
「ちょっと違う気がする…
でも、なんか…片思いしてるってこんな感じなのかなって思った。」
「…僕もそうだった…」
手に届きそうで届かないもどかしい思い。
そっと二人は抱き合う。
少女はネグリジェにナイトガウン。
リチャードはパジャマだけ…
今まであまりなかった状況だけにお互いドキドキしていた。
くちびるを重ねるだけで融けそうになる―
「んッ…はぁ…」
くちびるが離れるとお互い乱れている呼吸。
「ファリア…戻った方がいい。」
「え?!」
「僕が…父上たちに叱られる怒られるのをわかった上で
君を押し倒しかねないよ… だから…」
切ない翡翠の瞳を見て、胸が締め付けられる。
「うん… ごめんなさい。わがまま言って…」
「いいや…僕も君に会いたかったんだ…」
しばらく沈黙する二人。
「あ。そうだ。散歩に行かないか?」
「え?こんな時間に?」
「いいところあるんだ。行こう。」
少年はナイトガウンを羽織り、彼女の手を引いて部屋を出る。
少年が連れて行った先はホテルの最上階にある展望フロア。
一面強化ガラス張りで昼はアルプス山脈の山並みが、夜は星空が見れる。
「あ…キレイ…」
「あぁ。キレイだろう?」
星が良く見えるようにわざと照明を落としてあるため
非常灯しか灯っていないので薄暗い。
二人は鑑賞の為に置かれているソファに腰掛ける。
時間も遅いので二人きり…
仰向けに並んで星を見上げる。
「なんだか…宇宙に浮かんでるみたい…」
「あぁ。」
「吸い込まれそうでちょっと怖いかも…」
「…僕がいるよ。」
「そうね。あなたがいるから…怖くない…」
「…ファリア…」
横にいる彼女の顔を見るとこっちを見ていた事に気づく。
「怖く…ない…」
少年は彼女を抱き寄せる。
向かい合って抱き合うと自然とくちびるを重ねていた…
ゆっくりと少年は覆いかぶさる。
「さっきの言葉…撤回しなきゃ…」
「え?」
「やっぱり君に触れたい…」
少女は答えの代わりに目を閉じる。
少年の手はそっとナイトガウンのウエストベルトを緩めた。
ネグリジェの上から柔らかなふくらみに触れるだけで、
びくりと身体を震わせる少女。
彼はただぬくもりを求めて触れていた。
やさしく触れられているだけの少女はそれだけで満たされていた。
「ファリア…君…あったかい。
このまま眠っちゃいそうだよ…」
「そうね…」
くすくすと可愛い笑顔を見せる少女。
(抱きしめてくちづけして、それから…)
願望を描きつつも、何とかこらえて切り出す。
「そろそろ…戻るか…」
「…えぇ。」
二人は黙ったまま手をつなぐ。
部屋の前で別れる。
「おやすみなさい…リチャード。」
「あぁ、おやすみ。」
少女が部屋に戻ると弟は出たときと同じでぐっすり眠っていた。
「はぁ…」
少し切ない想いを抱いて横になる。
「おやすみなさい…リチャード…」
彼のぬくもりを感じたまま眠りに落ちていく。
*
一方、少年は違った。
自室に戻るなりバスルームに駆け込む。
「う…あ……ッ!!」
自分の欲望を何とか抑えていた彼は恋しい少女の名を呼びながら絶叫する。
「あ…くッ!! ファリアぁッ!!」
呼吸を乱した彼は冷たいタイルの上で呆然となっていた。
(ファリア…君こそ… こんな僕を知ったら…
軽蔑されるかもしれない…
嫌われるかもしれない…
でも…
思い切り抱きしめて… 僕のだって叫びたいよ…
父上たちの言葉があるから…自制できたけど…
結婚まで我慢できるかな… )
大きな溜息をついてバスルームを出る。
ベッドに横になるとつい思い出してしまうが
なんとか眠りにつけた。
***
翌日はいい天気で絶好のスキー日和。
父たちとリチャードとアリステアはゲレンデへ。
母達とファリアはスパへと行く。
その日は全く別行動の二人…
夕方、ゲレンデから戻ってきたリチャードと父たちを出迎える。
「リチャード…どうだった?楽しかった?」
「あぁ。思い切り滑ってきたよ。上級者コースってやっぱり凄いよ。」
「そうだったんだ。良かったわね。」
「あ、ありがと。君のほうは?」
「うん、気持ちよかったわよ♪
お肌もスベスベだし。」
傍らにいた母・セーラが呟く。
「まだ16だから…贅沢よねぇ…」
「あら、お母様。10代からでも老化は始まっているのよ?」
「それはそうなんだけど…」
周りにいる彼も父もランスロットの両親も笑っていた。
「で、スパで何してたの?」
「私は…カウンセリングと…水泳とマッサージ。」
「は?」
「だって…運動不足って言われたの。
スキーは苦手って言ったら、プールに行きましょって…
ほら、水着。まだ着てるもの。」
ちらとカットソーの襟ぐりを広げて水着を見せる。
細い肩だけでなく胸の谷間も彼の目に飛び込んできた。
「あ、そうなんだ…」
平静を装いながら動揺している事を隠す。
周りの家族にはばれていないようだった。
*
部屋に戻ると母は娘を呼び止める。
「…ファリア、ちょっと。」
「はい?」
母は娘に切り出す。
「あなたさっき、リチャード君に水着、見せてたでしょ?」
「え…はい。」
「ああいうことはレディはしないものよ。」
「あ…ごめんなさい。」
母に言われるとおりだった。
ちょっとはしたなかったかもと今更、反省する。
「まだ社交界デビューして2ヶ月経っていないと言ってもレディはレディ。
気をつけなさい。」
「…はい。」
「それに…」
歯切れの悪い母に問いかける。
「それに?」
「男の子はね、豹変する事があるの。」
「…え?」
「…狼になるの。
好きな女の子が肌を晒してくれたら…その気になっちゃうのよ。
いくら普段、紳士的で冷静なリチャード君でも年頃の男の子。
興味ないはずないんだから…気をつけなさい。」
「…はい。気をつけます。」
「解ったのならいいわ。さ、着替えてらっしゃい、夕食に行くのだから…」
「はい。」
夕食に行く用のワンピースに着替えた。
鏡を覗いてチェックする。
(本当の私たちのこと…知ったら驚くでしょうね…お母様…)
*
少年は白い肌を何度か見てきたのに
あの瞬間が目に焼きついていた。
二人は両親の目を盗んで展望フロアで逢っていた。
しかし、二人の心に親の言葉が突き刺さっていてキス以上に発展する事はなかった―
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(2005/8/13)
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