sweet pain -8-
―翌日・24日午後
女王陛下主催のクリスマスパーティがロンドンの宮殿で催される。
貴族や名士、政治家達が招待される盛大なパーティ。
もちろんパーシヴァル公爵夫妻、伯爵夫妻にランスロット公爵夫妻も招待されている。
リチャードとファリアは会場で逢う。
「や。ファリア。今日もキレイだね。」
「あ、ありがとう…」
今日のドレスも公爵家令嬢らしく可憐な薔薇色のドレスで
デビューパーティの時と同じように髪を巻いてアップにしている。
淑女としては確かにまだ幼い感じだが、彼にとってはレディそのもの。
見とれるような目で見つめられるがまともに彼の目が見れない公爵令嬢。
昨日の事を思い出すと身体が火照ってくる気がした。
少しぎこちない彼女に気づく。
「どうかした…?」
「…なんでもない…」
「…そう?」
彼も気づく。
自分と目をあわさないのが気になる。
「ちょっと…来てくれ。」
「え…ッ!?」
戸惑う彼女の返事を待たずに手を引いてパーティ会場の大ホールを出ると
庭園に連れて行かれた。
「ちょっ…と、リチャード…」
庭園の片隅に置かれているベンチに連れて行き、並んで腰を下ろす二人。
それでも視線を合わせてくれない。
「どうかした?僕…何かした??」
「なんでもないの…。」
「なんでもなくないだろう? 僕の目…見れない?」
「…私…」
「うん。」
彼女が発する言葉を聞き逃すまいと顔を近づける。
「…恥ずかしくて…」
「…え?!」
「昨日の事…恥ずかしくて… どんな顔してあなたに逢えばいいのか解らなくて…」
「…ファリア…」
目の前で彼女は恥ずかしげな表情を浮かべうつむいていた。
抱きしめたくなるがこらえる。
「僕だって…そうだけど…普通にしてなきゃいけないだろう??」
「え?」
「君の父上に言われたって事もあるけどさ。
だから余計に…今までどおりの二人にならなきゃ…」
彼が困惑している。
それに言われる事ももっともだ。
自分たちがどういう間柄になったのかまだ両親には知られたくない。
「あ…私…ごめ、ごめんなさい。」
「ほら…泣かないで… せっかくのキレイな君が…」
ぽろぽろと零れる涙を彼は指先で拭う。
優しい翡翠の目で覗き込んでくる彼。
「ホールに戻ったら…踊ってくれる?」
「えぇ…勿論よ。」
まだ少し恥ずかしいけれど彼を困らせたくはないと感じ
かぶりを振って思いを振り切る。
笑顔を見せてくれる彼女を見て安心する。
「ごめんなさい…リチャード。」
「いいよ。さ。戻ろう。」
「はい。」
大ホールに戻るとちょうどワルツが演奏され出した。
中央で何組かが踊っている。
「レディ・パーシヴァル。お相手お願いします。」
丁寧に彼は申し込む。
「えぇ。」
その手を取って彼女は笑顔を見せる。
彼の手に引かれホールの中央でワルツのステップを踏み出す。
二人のワルツを父親達は見つめていた。
「君の娘はやはり美しいな…」
「え?」
「セーラ様の血もあるが…パーシヴァル家の血もしっかり継いでる。」
「そうだな…」
娘を褒められ嬉しいパーシヴァル伯爵。
確かに妻に似た美貌を持ち、自分の黒髪とそっくりの娘。
娘が生まれた直後から、縁談の話がいくつもあった。
リチャードと口約束の婚約をするまで何件断ったか忘れるくらいに。
実はそれ以降も何回か話がきている。
英国王室の血を引く公爵家令嬢―
それだけで国内の貴族やヨーロッパの貴族にとって名誉な花嫁。
来年、リチャードとの正式な婚約発表をすればそこで安心できる。
父親としては正直、手放したくないというのが本音だった。
目の前のランスロット公爵がふっといった言葉。
「それに…あの二人を見てると未来を見てる気がするよ。」
「未来?」
「そう、二人があのまま結婚すれば、あんな感じだろう。」
「そうだな…」
娘のデビューパーティでも感じていた。
確かに二人が近い未来、手を取り合って歩き出していく姿を―
*
ワルツを終え、人波の中に父たちの姿を見つけ近づこうとした時、二人にかかる声。
「久しぶりねファリア。 元気そうね〜★」
「「リズ??!!」」
二人は同時に声を上げていた。
「相変わらずなのね、お二人さん♪」
二人に声を掛けたのはテニスの名門校に移っていったファリアの親友・エリザベス=マーシャル伯爵令嬢。
「ファリア…ごめんね、あなたのデビューパーティ行けなくって…」
「ううん、いいの。私のほうこそ、コンクールでリズのデビューパーティ行けなくて…ごめんなさい。
そういえばあのすぐ後の試合…勝ってたわね。遅くなっちゃったけどおめでとう。」
「ありがとう。…で、相変わらず二人一緒なのね。羨ましい…」
二人が手を組んでいるのを見て本気で羨ましい。
「リズ…」
「ふふッ…」
「それにしても元気だね。それに背、また伸びてないかい?」
リチャードの言葉で笑顔が出るリズ。
「そうよ。まぁリチャード君には負けるけど…今何センチよ?」
「僕? 176。」
「ふーんそっか… 私が今169センチだからね〜。」
「5センチも伸びたの??」
「うん。成長期みたい☆」
「…羨ましい…」
「え?」
「だって私なんて157センチのまま止まってる…」
「何言ってるの?小さいほうが可愛いわよ。ね、リチャード君?」
「人にもよると思うけど…ファリアはそれくらいでいいよ。」
「ん、もう!」
少しだけ背が低い事をコンプレックスに感じているけど二人にそういわれるとこそばゆい。
「「はは…」」
ひとしきり笑い終わるとファリアはリズに切り出す。
「ね。リズ。ちょっと二人だけで話せる?」
「あ、いいよ。」
「ごめんなさい、リチャード…ちょっと行ってきていいかしら…?」
「あぁ。いいよ。久しぶりだからな、リズと会うの。
気にするな。」
「うん…ありがとう。」
その場を離れる乙女二人。
「いいの?リチャード君、放っておいて?」
「…うん。」
二人はパウダールームへと。
他に誰もいない。
「ね、…ちょっと相談というかなんというか…」
その言葉で何を話したいか察したリズ。
「…リチャード君と何かあった??」
「うん…あのね…」
耳まで真っ赤に染めたファリアがリズの耳元に昨日の事を話し出す。
「でね、私すっごく恥ずかしかったの…」
「そりゃそうだろうね。…リチャード君も随分大胆な事を…」
「それで、私、恥ずかしくて顔見られないって思ってたの。
けど、彼がね「今までどおりの二人にならなきゃ」って」
リズは親友の言葉で何を言いたいのかわかった。
「まぁ…二人の立場考えたらそれが正しいね。
いきなり親密度UPしちゃったら…バレバレだし。
ファリアんちの格とか品位とか言われたら…それこそ怒られるだけじゃすまないだろね。」
「やっぱりそうなんだ。
私たち…普通の恋人同士じゃないのね…
この間、父に二人でロンドンに出るなとか言われちゃったし。」
「…そっか。大変だね。公爵家も。」
「ね、私、変? ずっと彼と一緒にいたいって思うの。
何されても構わないって…」
「変じゃないよ…それが恋って気持ちじゃない。
羨ましいね…」
「え?」
「そんなにストレートにリチャード君のこと好きって言えるの、凄いと思うよ。」
「…リズ…」
親友の言葉に嬉しさを隠せない。
「ま、昔からだけどさ。
とりあえずリチャード君が暴走しないようにだけ気をつけないと…」
「…うん。」
「ねぇ、ファリア。リチャード君に抱きしめられて幸せ?」
「え、あ。 なんて言うの…満たされてる気がする…」
「…そっか…」
リズは昔から二人を知っているだけにふと思う。
(こりゃ…このままの二人じゃ…学校でHもありだよ…(汗))
「そういや…二人とも学校変わるんでしょ?
この間の手紙で書いてきてたじゃない。」
「えぇ。」
「かえっていいんじゃない?」
「え?」
「会えないのは淋しいかもしれないけど…彼が暴走しないのは確かね。」
「…そうね。…そうかも。
色々聞いてくれてありがとう、リズ。」
「いいよ。…演奏会とかあったら教えてよ。行くから。」
「えぇ。」
二人が微笑み合っていると貴婦人が何人か入ってきた。
「あら?ホールにいないと思ったら…こんなところにいたの?」
「お母様…。」
娘のそばにいる彼女に気づく。
「あら?リズ、お久しぶりね…」
「ご無沙汰しています。パーシヴァル伯爵夫人。」
「ずいぶんあなたもキレイになったわね。」
1年半ぶりに会う、少女リズに微笑みかける。
「そんな事…」
「マーシャル伯夫人もさぞお喜びでしょ?」
「いいえ、姉の方が美人ですから…」
そんなこんなでクリスマスパーティは終わってしまい、
二人がそれぞれのロンドンの邸に帰る。
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(2005/8/12)
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