sweet pain -2-
―週末
ファリアが久しぶりにランスロット城に泊まりで遊びに来た。
土曜の午後にピアノの指導があるので
夕方、パーシヴァル家の車でやってくる。
出迎えてくれる執事頭に笑顔を向ける。
「こんにちは、Mr.アンダーソン。久しぶりにお世話になります。」
「いえ… ようこそ、ファリアお嬢様。さ、どうぞ。」
使用人が彼女の荷物を持っていく。
着替えと勉強道具だった。
「やぁ…来たね。」
階段の上からリチャードが姿を現す。
「…リチャード。」
ファリアが清楚な紺のワンピース姿なのでピアノのレッスンの帰りだと一目で解る。
そんな彼女の前に降りてくる。
「ごめんなさいね。遅くなって。
今日に限ってレッスンが長引いちゃって…」
「気にしてないよ。
それより母上が君とお茶飲もうって待ってるよ。」
「そうなの?悪い事しちゃったわ…お待たせして。」
「大丈夫。さ、行こう。」
彼に城の大居間に連れて行かれる。
長ソファには彼の母・メアリ夫人が腰掛けていた。
「こんにちは、ご無沙汰しています。メアリ様。」
「こんにちは。よく来てくれたわ。
しばらく会わない内にキレイになったわね。」
「そうですか?…あまり変わってない気もしますけど…?」
「意外と自分では気がつかないものよ。」
「そうかもな… 僕はほぼ毎日学校で会ってるから…あまり変化に気づいてないかも…」
「そうかしら…?」
夫人に褒められ照れ臭い。
メイド頭が3人のお茶を淹れてくれる。
ふわりといい香りが立つ。
3人で淹れたての紅茶を楽しむ。
「相変わらずセーラ様はお忙しそうね。」
「えぇ。私も弟も手が離れつつあるせいか、のびのびといろんな活動しています。」
「そのようね。…元王女のセーラ様は大変ね。」
「元々、外交的な性格してますもの。私と違って。」
「そうかしら…? あなたも血を引いているのですもの…」
「いいえ。私と違って奔放なんです。母は… 父と逆ですわ。」
「ま。確かにそうね…」
メアリ夫人は学生時代の後輩に当たるセーラの事も、夫の後輩になるアーサーのこともよく知っている。
それだけにその二人の娘の言葉は的を得ていると感じた。
「でも似てるところもあるんですよね… 不思議ですね、夫婦って。」
「そういうものなのよ。
…あなたとリチャードもそうね。」
「「は??」」
少女と少年は同時に声を上げていた。
「似てるところもあると思っているわよ、あなたたち。」
「母上…一体何処が?」
「そうですわ。
母親であるメアリ様から見て私と彼が似てるだなんて…??」
くすくすとメアリは笑いながら言う。
「ほら…今の反応が一緒。
それに妙なところで頑固よ二人とも。」
楽しそうな母の笑顔を見て、困惑する少年と少女。
場をしのぐために紅茶を口にする二人。
「あら…お茶がなくなったわね。
おかわりを…」
メイドに言おうとする母に彼は言う。
「母上。僕たち勉強するから…」
「そうだったわね…」
「すみません。メアリ夫人。
失礼します。」
息子と少女を見送るメアリ。
二人は少年の部屋の居間でテキストとノートを広げる。
「久しぶりだわ…リチャードの部屋。」
「そうだな。
…最後に君がこの部屋に来たのってあの頃…14だっけ??」
「とすると…2年振りかしら…??」
「あぁ。」
久々に来たので見回す少女。
少々、置かれているものが変わっている気がした。
「で、どこが解らないの?」
「相変わらず…数学なのよ。」
「あぁ、これ…??」
少し接近するリチャードは鼻にきた
ふわりとやわらかな彼女の香りにドキリとした。
鼓動が高鳴るのが自分でも解る。
なんとか気取られないように冷静を保つ。
数式を前にするとなんとか気をそらせられた。
「…で、コレを…」
「あ。そうなのね…
ありがと。やっと解ったわ。」
笑顔を見せてくれる彼女。
「…確か、女子部の数学ってさ、…オニール先生だよね?」
「そうよ。」
「男子部でも同じ2年を見てるらしいけど、あんまり評判良くないみたいだね。
教え方良くないってさ… うちの学校では珍しい…」
「そうみたい。だからクラスの子のほとんどが数学は外で勉強してるわ。」
「じゃ…僕が君の数学の先生?」
「そう、よろしくお願いします。」
「いいよ。卒業まで見てあげる。」
「ありがとう。
それじゃ何かお礼をしなくちゃね。」
「いらないよ。」
「でも…」
「全部の授業が終わってからでいいよ。」
「あと2年あるのよ?」
「全然OK。」
「…解ったわ。」
彼に笑顔で言われるともう何も言えなくなる。
次の問題も解き方を教えてもらう。
やはりオニール先生より彼のほうが解り易いと思っていた。
夜19:30に夕食だと執事が呼びに来た。
二人連れ立って大食堂に向かう。
テーブルにはメアリ夫人と彼の父・エドワード=ランスロット公爵が待っていた。
満面の笑顔で公爵は少女に告げた。
「いらっしゃい。ファリア。久しぶりだね。」
「こんばんは、ランスロット公爵さま。お邪魔しています。」
「あぁ…ファリア。 "エドワードおじさん"でいいよ。
昔はそう呼んでくれていたじゃないか。」
「…え? でも…」
「そうよ。私のことも"メアリ様"じゃなくて…"おば様"でいいのよ。」
「あ…はい。」
幼い子供の頃は何も思わずそう呼んでいたが
さすがに16歳ともなると礼儀をわきまえたいと思っていた。
メアリは今日、自分の息子と目の前の幼馴染の少女を見ていて良く解った。
二人は幼い頃から好き合っている。
一応、4年前に婚約の口約束を両家でした。
二人のペースで愛情を育んでいる事を感じていたメアリ夫人がいた。
(もう…ファリアも16歳。すっかり乙女だわ。
パーシヴァル公爵家の令嬢らしく…品のある美しい娘になっているわ。
この娘は…私の息子をこんなにも好いていてくれている。
それにリチャードもこの娘を大切にしてるみたいね。
…結婚は近そうだわね。)
内心、安心する母心。
それと同時に息子が遠くなる気がした。
けれどいつかは嫁を迎えなければならない。
それならばやはり貴族の血筋の令嬢をと願う。
彼女なら申し分ない。
何より赤ん坊の頃から知っているが、自分の事を慕ってくれているのを感じていた。
和やかな雰囲気の中、4人の夕食は楽しく進む。
父も久々の少女の訪問で上機嫌。
「それにしても…ファリアが来てくれるだけでこんなに華やかになるとはな…」
「あなた…少し飲みすぎですわよ。」
「そうか?」
妻にたしなめられたので息子にもワインを勧める。
一応、口にはするがグラス1杯だけにしておくリチャード。
デザートにプティングが運ばれ、紅茶で締めくくる。
「ごちそうさまでした。」
ファリアは彼の両親に笑顔を向けると微笑み返された。
「それじゃ…父上、母上。おやすみなさい。」
「あぁ。おやすみ。」
リチャードは両親の頬にキスして下がる。
「それでは失礼します。
おやすみなさい、おじさま、おばさま。」
「あぁ、おやすみ。ファリア。
…いい夢を。」
彼の父親に軽く抱きしめられる。
おやすみの挨拶を済ませると食堂を出る。
二人は一緒だったがそれぞれの部屋に引き上げる。
「あ、いけない。テキストとノート… 彼の部屋ね。
明日でもいいけど…」
ふと思い出す夕方の彼の言葉。
"2年間の数学を教えるお礼は授業が全部終わってから…"
(…別に、今でもいいのに… でも、今日はダメね…)
ふうと溜息をつく。
***
一方、リチャードは自室で夕方の彼女の香りを感じたときを思い出していた。
「はぁ…」
切ない溜息。
(あの時…数式がなかったら… 無理やりにでもキスしそうだった…)
昨日の学校の図書館でのキスも思い出す。
(昨日のファリアも可愛かったな…)
思い出すだけで身体が熱くなる。
その時、遠慮がちにドアをノックする音。
「…はい?」
彼が出るとファリアが立っていた。
思いがけない彼女の姿に驚く。
「どしたの…ファリア?」
「あ、あの…私のテキストとノート、忘れちゃったて思い出して。
明日でも良かったんだけど…」
「あ、あぁ。」
「それに…あなたの顔を見たくなったから…入っていい?」
「え…あぁ。」
「ありがとう。」
彼女が部屋に入ってくるとふわりと薔薇の香りが漂う。
(あ、ファリア… 薔薇の香り…って、風呂上り??)
どくんと胸が高鳴った。
「ごめんなさい。こんな時間に。」
そういってもまだ夜9時をまわった頃。
「いいよ。僕も君をもう少し話したいって思ってたから。」
「そうなの…?」
「あぁ。」
ファリアは彼の姿を見つめていた。
久々に見る制服以外の彼はパジャマ姿。
まだ伸びそうな背丈は175センチを越えていた。
自分がまだ157センチだから少し背伸びをしないとキスも出来ない。
ときめきで胸が一杯になるファリア―
「少し座らないか…?」
「えぇ。」
居間の長ソファに腰を下ろす。
彼は自分の早くなっている鼓動を気取られまいと冷静を装う。
(これじゃ夕方と同じ… っていうか、もっと凄い状況…(汗))
彼女の格好は既に寝る用のネグリジェ。
まだ9月末なのでちょっと薄物の上に共布の長袖を羽織っていた。
襟ぐりが大きく胸の谷間も見えている。
彼女の隣に腰を下ろすとそっと白い手を握る。
「…リチャード?」
「……ファリア。キスしていい??」
「え? あ…うん。」
少し恥ずかしげに応える。
「……ん…」
いつものように優しい触れるだけのキス…と思っていたら昨日と同じように
おずおずと彼の舌が割って入ってきた。
少し戸惑いながらも受け入れる。
少年の舌が少女の舌に絡んでくる。
「ん… ふ…」
彼の手が黒髪を掻き分け首の後ろに廻る。
耳たぶを指先で撫でられるとびくりと身体が震える。
気づけば彼の右手が胸のふくらみに乗っていた。
少女は自分の身体の奥からじんわりと熱くなるのを感じていた。
「んッ… ゃ…」
「…ファリア。僕…君が欲しい。
僕だけのものになって…」
「…え?」
「ダメなら…諦める。はっきり応えて…」
彼の切なげな表情で胸がいっぱいになる少女。
「リチャード…私…
私も…そう思うの。でも今日はダメ。」
「え?」
「その…私、今日ね、そのつもりで来たの。
けど、お昼に来ちゃって…」
頬をピンクに染めている少女に問いかける。
「何が?」
「その… 女の子の日。」
「え?…あ…!」
その言葉が何を意味しているのかやっと理解した。
「それは仕方ないな…」
「…ごめんなさい。」
「いいよ、女の子はデリケートだもんね。」
泣き出して謝る彼女。
「ごめんなさい…。」
「気にしないで。じゃ、もう少しだけ…キス…しよ。」
「えぇ…」
少女の溜息も飲み込んでいく少年の唇。
そっと彼の手が布越しに彼女の胸に触れる。
薄い布越しに感じるやわらかさと…敏感に反応している事を示す尖り。
やさしく手のひらで触れているだけでびくりと少女の身体が震える。
反応に嬉しくなるが今日はここまでに留めておくことにした。
(これ以上…触れていたら…無理やりに押し倒しかねない…)
ふっと身体を離し、彼女に告げる。
「ファリア…ごめん。 もう部屋に戻った方がいい。」
「え?」
「これ以上君に触れていたら… 僕、自分でも止められないかもしれないから…だから。」
少年の切なそうな苦しそうな声を聞いて、自分も切ない。
「…わかったわ。ごめんなさい、リチャード。
…おやすみなさい…」
「あぁ、おやすみ。」
切なげな表情で出て行った彼女。
(仕方ない…さ。
自分でコントロール出来るか自信ないよ…)
ベッドに横になり目を閉じると…さっきの続きを妄想している自分がいた。
余計眠れなくなる。
(僕って…バカ…)
何とか欲望を鎮めて眠りに落ちるが
夢の中でも彼女を求めていた―
to -3-
__________________________________________________
(2005/8/10)
to -1-
to Bismark Novel
to Novel menu