sweet pain -1-
―2082年9月
今までファリアと学年が離れるのが嫌だったが
両親と彼女に説得されて飛び級で1コ先輩になってしまったリチャード。
そんな新学期…
高等部の図書館が二人のデートの場。
男子女子が一緒にいても咎められないので校内カップルのデートスポットと化していた。
二人もその中の一組。
ファリアは学年トップの彼に勉強でわからないこととかをよく聞いていた。
他のカップルと違い、二人並んで座り、真面目に勉強に取り組む姿。
静かな図書館だから筆談。
"カフェテリアに行かないか?"
"いいわよ"
放課後のカフェテリアは一ヶ所しかオープンしていないため普通の生徒には不人気だったが
カップルにとっては絶好の場所―
「ごめんなさいね、リチャード。」
「何が?」
二人は紅茶を片手に会話する。
「あなた…レポートで忙しいっていうのに…」
「いいさ。それより…1年先に卒業する事になって淋しいよ…」
「そうね。あなたと一緒のキャンパスもあと9ヶ月…」
「君の制服姿、好きなのにな…」
リチャードの呟きに一瞬で顔を赤く染めるファリア。
「照れるところか…?」
「だって…」
そんな二人のところに馬術部の仲間が彼を探しに来ていた。
「あ。いたいた。 ランスロット!!」
「あ…ホプキンス。何だい?」
「来週の試合の事でさ…」
ちらとホプキンスは申し訳なさそうにファリアを見る。
「あぁ。すまない、ファリア。
ちょっと行って来るよ。」
「えぇ、私は図書館に戻っているから。」
「また後で。」
笑顔を見せる彼女に安心してリチャードはホプキンスと共に行ってしまう。
ファリアは仕方なくひとりで図書館に戻り、自分の課題に取り掛かる。
(えっと…資料が…って。 借りに行かなくちゃ。)
席を立ち、膨大な歴史のコーナーを調べる。
(あら…ない?? 誰かに借りられちゃったのかしら… 仕方ないわね。)
はぁと溜息をつく彼女の背後に立つ男子生徒。
「おや…この本を探していたのかい?」
「え?」
振り返ると声の主が差し出している本こそ目当てのものだった。
「すみません… この本です。ありがとうございます。」
声の主の顔を見て小さく叫ぶ。
すぐ目の前に立つのは生徒に人気のあるラルフ=ハワード学生会会長。
リチャードと同じくらいの背丈に甘いマスク。それにやや低くて色っぽい声。
「あ! ハワード会長…??」
「君は…噂の"レディ=パーシヴァル"だね?
今日は君の騎士は一緒じゃないのかな?」
「さっきまで一緒でしたわ。」
「はは…そうか。」
笑顔でラルフは本を彼女に渡す。
「はい、レポートに必要なんだろう?」
「…はい。」
彼はこんな至近距離で初めて見る"レディ=パーシヴァル"ことファリアじっと観察する。
透き通るような白い肌に黒く艶やかな黒髪。
澄んだサファイアの瞳には教養の深さと高貴さを感じる。
(やっぱり大貴族の令嬢は違うよな…)
ラルフの家は貴族と言っても子爵家。それに領地もない。
会社を経営しているというだけ。
それに比べ目の前の少女は名門中の名門・パーシヴァル公爵家のご令嬢。
それもただの公爵令嬢じゃない。
母親が元王女。
高貴すぎるその血は貴族の憧れ―
学院の男子生徒たちはリチャード=ランスロットさえいなければ…と思う者も少なくなかった。
ランスロット家も名門公爵の家柄ゆえに誰も二人の間の邪魔をしようとしないのが通例―
つい悪戯心がわいてしまったラルフ。
「ねぇ…レディ。」
「…はい?」
「ローゼル先生の歴史の授業のだろう?」
「えぇ、はい。」
「それならいい資料がある。こっちだよ。」
「あ、あの…」
そういって手を引かれ図書館の奥へ…
リチャードがやっと図書館へ戻ってきた。
彼女の姿が見当たらない。
二人で使っていた机にノートと筆記用具は残ってる。
(どこだ…?資料探しに…?)
不意に目の端に入った彼女の後姿を追いかける。
ファリアが男子生徒に手を引かれて最奥のエレベーターに乗り込むのを目撃。
追いかけたが間に合わない。
彼は慌てて3階へと向かう。
古い旧式のエレベータなので、ドアの開閉ボタンを押さないと開かない。
定員2名の狭いカゴの中で抱きすくめられ、唇を奪われる。
「イ…ヤ…止めてください…ハワード…先輩…」
強引なキスの上、狭い密室で逃げる事さえ出来ない。
リチャードとのキスでもこんなに激しくされた事がないので戸惑う。
「い…や…」
逃れたくて開閉ボタンを押したくても自分の真後ろにあるために無理だった。
巧みなキスだったが嫌悪感しか感じない。
(嫌…助けて…リチャード…)
リチャードが3階のエレベータの前に行くと格子窓の向こうでキスされている彼女の背が見える。
慌てて開閉ボタンを押すとガタンと音を立てて開く扉。
「ファリア!こっちだ!!」
何とかラルフの腕から逃れリチャードの元へ駆け出す。
ファリアの瞳からは涙が溢れていた。
「リチャード!!」
「おやおや…騎士様のご登場か…」
リチャードは静かに檄昂していた。
本気の怒りの色の瞳になっていた。
「いくら…ラルフ先輩でも…」
彼の怒りが目に見えていたがあまり悪びれずに謝る。
「いやいや…すまなかったね。お二人さん。」
「…え?」
「あまりにレディが可愛くてキスしたんだが…
少し違ったようだ。」
「「は??」」
呆れる二人に構わず言葉を続ける。
「丁重に君にお返しするよ。…じゃ。」
すたすたと立ち去っていく。
「…なんなの…?」
キツネにつままれてたような気持ちのファリア。
リチャードは彼女の手を取り、貸し出し禁止の書庫へ連れて行く。
司書からカードキーを借りないと入れない。
一般では手に入らない貴重な資料などが並んでいる。
奥に閲覧用のテーブルと3人は座れそうな大きなソファが置かれていた。
彼は少女を座らせ自分も腰を下ろす。
「大丈夫…か?他に変な事されなかったか?」
「え…えぇ、キスだけよ…」
「そうか…」
安心するがキスされただけでも彼は面白くない。
「でも…」
「「でも…」? 何だ?」
「あんなキス…初めてだった。」
「あんなってどんなだ?!」
珍しく声を大にして問いかける。
「え…、あ、あの… あれってディープキスっていうのかしら…?」
「あ…」
リチャードも知識は知っていたがまだ実行に移してなかった。
12と13でファーストキスを交わしてから、何度もキスはしてきたが…
いつも優しく触れるだけのキス。
「ファリア…その…先輩とのキス…良かったのか?」
「いいとか悪いとかそんなんじゃなくて…何も感じなかった…けど。
けど、リチャードとなら違うのかなって… 嫌だ、私、何言ってるのかしら…
恥ずかしい…。
忘れて、リチャード。」
頬をピンクに染めたファリアは顔を背ける。
そんな彼女の腰を抱き寄せる。
「あ…」
「キスしていい…?」
「えぇ…」
顔を覗き込まれ触れる唇。
初めはいつもの優しいくちづけ。
そっと彼の舌が少女の唇を舐めると舌先で割って入る。
「ん…ふ…」
わずかに漏れ出た声も彼はくちびるで飲み込む。
初めての熱く甘いくちづけに酔う少女が彼の腕の中にいた―
体中が喜びに震える―――――
***
ソファの上で二人は寄り添っていた。
リチャードが白い手を握り、ファリアは彼の広い肩に頭を預ける。
「ねぇ… リチャード。お願いがあるの…」
「うん?」
「あのね…勉強で教えて欲しいところがあるの。
泊まりで行っていい? …前みたいに。」
「え…?」
確かに初等部のころは無邪気に泊まりでお互い遊びに行っていた。
中等部に上がってから、少しずつ行かなくなり、
最近ではほとんどなかった…
「あ、あぁ。いいよ。」
「ありがとう、よろしくね。先生。」
NEXT
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(2005/8/9+2017/03/31加筆改稿)
*あとがき*
ついに始まった"高校生編"
甘く切ない思いに翻弄される二人…
ふふふ…(怪しい??)
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