summer days -3-
―翌日
ランスロット一家3人とアーサー父娘はビーチに来た。
私有地なので5人と使用人たちだけ。
パラソルの下でにこやかに座る公爵夫人。
波打ち際で父親二人と子供達がはしゃぐ姿を微笑んで見守っていた。
しばらくして父たちは遠泳に行ってしまう。
「お前達には無理だから、来なくていい。」
父に言われ面白くない少年リチャード。
「ほら、リチャード。ファリアも、こっちに来て冷たいものでも飲みなさいな。」
「はい。母上。」
「はい、メアリ夫人。」
笑顔でアイスティを口にする少女の傍らで少年は憮然としていた。
そんな息子に構わず笑顔の少女を見て微笑む夫人。
「やっぱり女の子は可愛いわね♪」
「それ、どういう意味ですか?母上。」
先ほどからちょっと面白くない少年は母に突っ込む。
「リチャードも可愛いわよ。」
「僕、男なのに?」
「そうよ。母親の私から見れば、ずっと可愛い息子なのよ。
ファリアは… やっぱりセーラ様に似てるから…。
将来が楽しみね。」
メアリ夫人に微笑まれファリアは照れ臭い。
「そうですか?
時々、親戚のおじ様たちにも言われます。
母の子供の頃に似てるって…」
「でしょう? 大人になったら美人さんね…
ねぇ、ファリア。」
思いがけず呼ばれると反応してしまう。
「はい?」
「将来… 大人になったら、リチャードのお嫁さんになってくれない?」
母の言葉でグラスを落としそうになったリチャード。
「え…あ、はい。」
少しテレながらも返事する少女。
「は、母上!? 何言ってるんですか?」
「あら?リチャード…イヤ?
ファリアがお嫁さんで…?」
困惑している顔を知られたくなくて伏せる少年。
「…イヤじゃないけど…」
「じゃ、考えておいてね、ファリア。」
「あ…はい…」
少女は頬を染め、少し嬉しそうにしていた。
***
夕方になり、別荘へ戻る。
リチャードとファリアは持ってきた学校の数学の課題に取り掛かる。
「ねぇ、リチャード、この問題。どう解くの?」
少女は真剣に教えてくれる少年の横顔を見つめていた。
(やっぱり…かっこいいな…)
「ファリア?聞いてる?」
「え、あ。ごめんなさい。
も一回教えて。」
「じゃ、もう一回言うね。」
真面目に聞いて問題に取り組む。
なんとか式を書いて、回答を書く事が出来た。
そこへドアをノックする音。
「坊ちゃま、お嬢様。お夕食の時間です。」
「「はーい。」」
食堂に行くと父たちは上機嫌で酒を飲んでいた。
「リチャード君もファリアも課題をやっているのか?
関心関心。」
アーサーが二人に笑顔を向ける。
「リチャードが8歳でファリアが7歳か…毎日が勉強だね。」
「そうね。学んで大きくなっていくのね。」
親達は子供達が元気よく食べる様子をみて微笑んでいた。
少年と少女は食事を済ませると部屋へと下がる。
「じゃ、お休みなさい。」
メアリに言われ二人は返事する。
「おやすみなさい。母上。」
「おやすみなさい。メアリ夫人…また明日。」
***
夜・突然の雷雨―
ベッドの上で少女は怯えていた。
(怖いよ… お父様…)
半泣きで薄暗い廊下に出る。
父の部屋に行こうとするが足がすくむ。
リチャードは書斎から借りてきた本を返した帰り、
廊下で座り込んでいる少女を見つけた。
「どうしたの?こんなところで…」
「…カミナリ……」
「え?」
「怖いの…」
また雷鳴が響く。
「きゃ!」
叫びながら泣きそうな顔をしていることに気づき、手を引くリチャード。
「部屋へ戻ろう。」
「うん…」
少年は少女を部屋へ連れて行く。
また何処かへ雷の落ちる音。
しがみついてくる少女を見て呟く。
「そんなに怖いんだ…
大丈夫だよ。僕もいるから…」
「うん…」
いつしか少女と少年は眠りに落ちていく。
***
―朝
メイドがリチャードを起こしに行くとベッドにいない事に気づく。
慌てて邸内を探すが見つからない。
廊下でおろおろとしているメイドに気づいたのは主人・エドワード。
「どうした?何か落としたか?」
「そ、それが…リチャード坊ちゃまがいらっしゃらないのです!」
「!? よく探したか? 何処かに隠れてるのではないか?」
「はい。ベッドも冷たくて… 一体何処に…」
半泣きになっているメイドに問いかける。
「邸の中は探したか?」
「はい…」
騒ぎになりそうな予感がしたエドワードの耳に息子の声。
「おはようございます。父上…」
「リチャード?!」
メイドとエドワードが振り返るとパジャマ姿の少年。
「お前、一体何処に?」
「え…?あ、あの…ファリアのところに。」
意外な答えに驚く。
父は少年の目線にかがみこんで尋ねる。
「ちょっと待て、リチャード。
お前…一晩、あの娘のところに?」
「…はい。」
「なんでまた?」
「…夕べ、カミナリが鳴ってたでしょ?」
「あぁ、そうだな。」
派手な音を立てて雷が落ちていたと思い出す。
「ファリア… 怖がって泣いて廊下にいたから…部屋に連れて行ってあげて…
しばらく一緒にいたんだけど。 知らないうち僕もに寝ちゃってた。」
メイドと父は驚いていた。
そっとドアが開き、ワンピースに着替えた少女が出てきた。
「おはようございます。ランスロット公爵様。…リチャード。」
「あぁ、おはよう。」
「おはよう、ファリア。」
父と息子は挨拶を返す。
さっきの会話を聞いていたのか少年に近づいて言う。
「夕べはありがとう、リチャード。
私、お父様のところへ挨拶に行ってきます。」
「うん。」
駆け出していく少女を見送る。
「ま、半分は褒めてやろう。
女の子に対して優しく接したことにはな。
しかし、レディのベッドに入ったのはいかんな。」
「父上?」
少し意味が解らない少年は首をかしげる。。
「…まだ8歳じゃ、解らない…か。」
メイドと顔をあわせる父親。
「いいか、リチャード。
いくら幼馴染でも相手は女の子だ。つまりレディだ。
むやみにベッドに入るんじゃないぞ。解ったな?」
「…はい。父上。」
to -4-
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(2005/6/16)
(2015/04/29 加筆改稿)
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