Step back in time   -2-



調査団の船が到着したのはスイスにある地球連邦本部。
出迎えたのはルヴェール博士以下、連邦政府首脳陣。

これから彼女は全身検査の為に病院でのドッグ入り。
それと家族とのDNA鑑定。






半日後、完全な健康体であるとの診断が下りる。
そして父・アーサー=パーシヴァルとの親子鑑定の結果は99.9%間違いなく親子。




彼女の身分が英国女王・ヴィヴィアン7世の姪と言う事もあって、
異星人の星・デロスからの生還したということは公表されない事となる。
表向きはガニメデ星のデスキュラ秘密基地に幽閉されていたと言う事で。
勿論、彼女の母セーラの遺体もそこで発見されたと言う事に…





―夕方

英国からチャーター機が降り立つ。


「ファリアが生きて帰ってくる…」

それを知らされた家族が揃って乗り込んでいた。



連邦軍本部の一室を与えられ、くつろいでいた彼女を呼びに来た女性将校。
その人に連れられ、エアポートへと。

目の前で小型の飛行機が着陸する。
女性将校は乙女に告げた。

「あなたのご家族が迎えにこられたのよ。」
「…え?!」



タラップから降りてきたのは父・アーサーと弟・アリステア。
そして祖父母の4人。

「!!」

思わず駆け寄る乙女に父のほうも気づき抱きとめる。

「ファリア!?」
「お父様!!」


父の胸に顔を埋め泣き出す。
抱きしめる父もまた滂沱していた。


「お父様… 私… 私…」


「あぁ…よく顔を見せてくれ…」

腕を緩め、娘の顔を覗き込む。
もう19歳になっている娘はとても美しい。

「若い頃のセーラに少し似てるな…」
「お母様に?」
「あぁ。 ひょっとしたらセーラよりも美しいかも知れんぞ。」
「お父様ったら…」


ぽっと頬を染める娘がとても愛おしい父。



「ワシだ… ファリア。」
「お爺様…」

最後に逢った時よりも、しわも増えてごま塩だった髪は真っ白になっていた。
何より祖父がこんなに小柄だったかと思ってしまう。
それは自分が成長したからなのだと、後で気づく。



「あぁ… 確かに大きく…美しい娘になったな…」
「お爺様まで…」

しっかりと孫娘を抱きしめる。
あんなに小さかった娘がこんなに大きくなったものだと実感していた。


「ファリア… 私よ。」
「えぇ… おばあ様…」


祖母も祖父同様に変わっていた。
しかし優しく包容力のある笑顔は変わらない。


乙女が視線に気づくとローティーンの少年の姿。
自分と同じ瞳、同じ髪をした男の子…

「アリステア…なのね?」
「はい、姉さま…」


あれから6年、わずか7歳だった弟は13歳に成長していた。
身長も随分伸び、すでに150センチは越えている。
160センチのファリアと並ぶと子供の頃が嘘のようだ。


「姉さま… 姉さま…ぁ」

姉に抱きつき泣きじゃくる。

母と姉を一度に失くし、一番淋しかったのはアリステア。
まだ母に甘えたい年頃に失くした少年は今でも甘えっ子。

「姉さま…」

母に似た姉の姿に母親を思い出していた。






感涙が落ち着いた頃を見計らって女性将校が声を掛ける。



「皆様、どうぞ中へ。」

「あぁ…そうですね。」


家長のアーサーが家族を促す。



一同は嬉し涙を流しながら、部屋へと案内される。


向かう途中の廊下で乙女は女性将校に声を掛けた。

「あ、あの…母の遺体が冷凍コンテナに移される前に父達に会わせてあげたいのですが…
ダメですか?」
「いえ。大丈夫です。 どうぞ、こちらです。」


そういって連れて行かれた先の白い部屋の中心に
セーラの遺体が収められたカプセルが横たわっていた。

ブルーの液体の中に浮かぶセーラ。


「!! セーラ!!」

父は一番にすがりつき泣いている。
声も出さずに涙していた。

弟もすがりつく。

「母様… 昔の… ままなんだね…」
「そういえば…そうだ。6年も経っているのに…」

「このカプセルの中の液体には防腐剤も入っているの。
これから出せば…」

「そうか…」


「お父様、ごめんなさい。 お母様は私を守るために…」

悲痛な顔をする娘を見つめる。

「え?」

「お母様、私の為に自分の酸素まで与えて生かしてくださったの。
あの酸素がなければ私も…死んでいたわ。」


「そうか… そうだったのか…
セーラ、君は君と僕の娘を守ってくれたんだね。ありがとう…」

父は美しいまま眠っている母に感謝を示す。



「申し訳ありませんが… 離陸時間のこともありますので…
コンテナに移させていただきます。」


男性職員がカプセルを別の部屋へと運んでいき、
女性将校が一家5人を別室に案内する。

連れて行かれた先にはルヴェール博士と数人の幹部が待っていた。


そこで乙女と出合った時の状況とセーラの遺体のことの説明を受ける。
これからのことを話されていた。


デスキュラ以外の異星人の星のことは幹部以外にはトップシークレットだと告げられ、
この場の5人には口外しないようにと言葉を受ける。

一応、乙女とその母はガニメデ星のデスキュラ基地で発見されたということ言う事にして欲しいと。



最後にルヴェール博士は乙女に一枚のカードを渡す。


「君のIDカードだ。
それと今回の彼らとの交渉で君は大いに活躍してくれた。
だから謝礼として金も入っている。」

「!? そんな… 私、要りません。」

「何故だね?」

「私は彼らに命を救われ、彼らのためになると思ったから働いただけです。
そんなつもりはありません。」

きっぱりと言い切った乙女にルヴェール博士は感心する。

「しかしコレは私達地球連邦からの感謝のしるしなのだ。
本来ならば勲章モノなのだが… 非公式の事なので…」

「!! わかりました。そういうことなら…」

自分の功績を認めてくれていると解り、両手で受け取る。



パーシヴァル一家5人はエアポートへと向かう。

「それでは皆さん、お幸せに。」

「ありがとうございます。ルヴェール博士…」



アーサーは連邦政府と博士に感謝を示してから、
待機していたチャーター機に乗り込む。


スイスから英国だと数時間で帰ってこれる。
機中、乙女は家族にどんな生活を送っていたか話していた…


過酷な状況の中で、異星人たちと暮らしていた娘は子供の頃と違い
凛とした強い瞳をしていた。






   *



夜10時を廻った頃、家族は全員自室へと引き上げる。

弟だけは姉のそばにいたいと駄々をこねたため
一緒に休む事になった。




アーサーだけは明後日の妻の葬儀の為に起きて書斎にいた。



親友でもあり先輩でもあり、仕事の仲間でもあるエドワード=ランスロット公爵に電話を入れる。


「やぁ。久しぶりだね、アーサー。」
「あぁ。」
「昨日。手紙を受け取った。
…セーラ様の遺体が帰って来るって?」
「今日…引き取ってきた。セーラは美しいまま亡くなっていたよ。」


連邦軍から4日ほど前に連絡を貰っていたアーサーはごく親しい友人達にだけ
葬式の日取りを決めて手紙を出していた。


淋しげな親友の言葉に何もいえない。

「…しかし、娘は生きて帰ってきたよ。」
「何だって!!? ファリアが…生きていたのか?」


その言葉に本気で驚く。

「あぁ。しかも素晴らしく美しい乙女になって帰ってきた。」

「美しい? …あぁ、確かに君の奥方も美しいレディだったから当然だろう。」
「いや、親の欲目を外しても私の娘は美しいよ。
嫁に出すのが惜しいくらいだ。」
「それほど?!」
「あぁ 子供の頃… ウチの娘はどちらかというと内向的でおとなしい感じだったのを憶えているか?」
「あぁ…」
「しかし…19歳になった娘はなんというか…
凛とした芯の通ったというか… 清冽なというか…
なんとも言えん空気を持っている。」
「…そうか…」

あの幼い日の少女を思い出すが、
今の言葉でイメージしようとしても想像つかない。
父親であるアーサーがこれほど褒めちぎるのだから相当美しく成長したのだろうと感じた。


「ん? どうした? エド?」

「あ、いや…それほど美しくなったのならウチの息子の心も動くかもしれん…」

「あ。あぁそうか…」

心情を察してアーサーは呟く。

リチャードが何処の馬の骨ともしれん娘を
ガニメデ星から連れて帰って結婚したいという噂話を耳にしていた。
今のランスロット公爵家にふさわしい嫁でないと一族に判断され
断固結婚反対されていると。


「確かに… ウチの娘をあれほど好いていてくれたリチャード君だからな…」

自分達一家の事件の直後、少年リチャードはショックのあまり倒れ
一時期、車椅子の生活をしていたことを知っている。


「そうだ… いい考えがある。」

「何だ? エド。」

「君のセーラ夫人の葬儀にファリアがいることを息子には言わないでおく。」
「ほう?」
「するとあの美しい乙女は誰だろうと思うだろう?」
「あぁ…」
「それがファリアだと解ったらどうなる?」


親友エドの思惑に気づく。

「確かに…あれだけ子供の頃からお互いを好いてた二人だ。
ありえないことではないな。」

「だろう? わざと息子には言わないでおこう。勿論、妻にもだ。」
「おいおい。悪いやつだな…」
「敵を欺くにはまず味方からってな…」
「そういえばそうだな。」

「それでは明後日、よろしく頼む。」
「あぁ。こちらこそよろしく。」



エドワードは息子がシンシアのところへあまり行かないようにと仕事をたくさん与えていた。

今夜は邸にいるはずだ。
すぐに書斎から息子を呼び出す。


しばらくして しぶしぶといった様子でやってきた。

また説教かと思うとうんざりしている彼。

しかし今日は違っていた。


「リチャード… 先ほど大至急の連絡があってな。」

「はい。」

また仕事の話かと思う彼。


「パーシヴァル公爵夫人セーラ様の遺体が帰ってきたそうだ。」

「!!? 何ですって?」
 
エメラルドの瞳が驚愕に彩られている。


「それで今日、英国の家族の元に帰った来たそうだ。
明後日の土曜、午後1時に寺院で密葬がある。
お前も参列しろ。いいな!」

「父上…彼女は… ファリアは…??」

悲痛な表情で彼は父に問いかける。

「そのことは私も知らない。」

「そう…ですか…」

息子の言葉にエドワードはまだファリアに心があることが解った。
意気消沈する息子に今、真実を告げたらどうなるのか気になるがぐっとこらえる。


「12時20分ぐらいには家を出る。いいな?」

「はい…」


しょぼんと落ち込んだ顔の彼は書斎を出て行く。







   *


リチャードは金曜から土曜の朝にかけて 無理に時間を作りシンシアに会いに行った。
土日で彼女のそばにいる予定だったからだ。



ベッドの上で白い肌を求め濃厚に絡み合っている―

彼は心の奥にある少女の面影を追い求めて、シンシアに重ねていた。




皮肉な運命の扉が少しずつ開きだす…









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(2005/10/6)
(2006/1/30 加筆)
(2011/11/14 加筆訂正)
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