smile -2- #1 girl&girl ファリアは少し顔色が良くなったのもあって、 ラクロスのユニフォームから制服に着替える。 保険医クルスが呟く。 「食事してから帰ったほうがいいわね。 あ。もう生徒用の食堂が終わってしまってるわ。」 「いいです。家で食べますから。」 「ダメよ。 ちゃんとお昼に食べてちょうだい。 そうだわ、私と一緒に教職員用の食堂に行きましょう。」 笑顔でクルスに言われ、従うことにする。 メニューが少々生徒用と違っていた。 しかも同じセルフでも生徒はお金は払う必要がないが、 教職員用は専用カードで支払うことになっている。 「あの…先生。私、お金持ってきてないんですけど…」 「いいのよ、これくらい。 好きなの頼みなさいね♪」 「いいの? ここ、生徒が使って。」 「稀にいるのよ。 別に誰も咎めないわ。」 「はい…」 学院内の教職員の間でも美人と評判の保険医は 気さくな人柄で生徒の間でも人気がある。 その人とふたりで食事、という状況に置かれて 少女は嬉しくて 戸惑っていた。 空腹感を感じていたので遠慮なく カウンターの奥のおばちゃんにに注文する。 少女はサンドイッチとミルクティを頼んだ。 保険医と同じテーブルにつくと 目の前の先生の食事の量の多さに目を丸くする。 「先生…(汗)」 「え? やっぱり多いかしら?」 パスタ大盛りにサラダ、スープにパンにデザートまで既に乗せられている。 「Missパーシヴァルが少なすぎない? いくら胃が小さいと言っても…」 「私、そんなに食べれないです。 これでも頑張ってるんです!!」 大人用のサンドイッチでも多いと感じている少女。。 「そうか…じゃ、サプリメントで補うしかないわね。」 「サプリメント?」 「頼りすぎるのは良くないけど、 あなたみたいな子には必要だわね。 摂るならFe…鉄分とCaカルシウムってトコかしらね?」 「解りました。 それじゃ家に帰ったら乳母に言って用意してもらいます。」 「そう…」 少女の返答に思わず心の中で呟く。 (そういえば… 名門貴族パーシヴァル公爵家ですものね。 一般家庭なら母親なんだろうけど…)」 名門貴族の子女が多い、この学院でもトップクラスの家柄。 目の前の小さな少女が王室の血までも引いているのだと思うと 少し考えてしまう。 *** 保険医と昼食を済ませた少女は家の車を呼んでもらって帰宅する。 早退した少女を出迎えたのは乳母のメレデス夫人。 少々顔色の悪い事に気づく。 「お嬢様… 早退されると聞いて驚きました。 貧血でお倒れになったと。」 「えぇ。 保険医の先生にね、鉄分とカルシウムのサプリメントを取るように言われたの。 用意してもらえるかしら?」 「そうでございましたか… お食事には気をつけてはいるのですが お嬢様も成長期ですものね。。。 わかりました。サプリメントの方は本日中に用意いたしますね。」 「ごめんなさいね。 手間かけさせちゃって… あと、これ…お母様に渡すようにって、保険医の先生から手紙を渡されたの。 お願いできるかしら?」 「承知いたしました。お預かりいたします。」 手紙をメレデス夫人に渡す。 「私、部屋で休むわ。」 「はい。 後でミルクたっぷりのティ・オーレを持っていきます。」 「ありがと。楽しみにしてるわ。」 少女は自分の寝室へと… ティ・オーレを口に運び、しばらくしてベッドに横になる。 (リズがリチャードに会う頃ね…) 窓の外はまだ明るい青空――― ***** 放課後になり、少年リチャードは図書館へ。 2日ぶりに大好きな幼馴染に会えるので嬉しくて頬が緩む。 いつもの場所… 1階の奥の机に彼女の姿がない。 (珍しく遅刻か?? めったに遅れることないのに…) そう思いつつ席に着き、テキストを机に載せて肘を突く。 3分ほどして人の来る気配。 振り向いて彼女かと思いきや、そうではない。 「あれ? リズ?? どうしたの…ファリアは?」 脳内は疑問符だらけの少年。 目を丸くしている彼にリズは真面目な顔で告げる。 「あのね… ファリアから伝言を預かってきたの。」 「ヘ?」 「「早退しちゃうから、今日は行けなくてごめんなさい。」って。 確かに伝えたわよ。」 リズの言葉を聞いて、思わず少年は叫んでいた。 「早退!? 何かあったの!?」 静かな図書館で大きな声を上げてしまった彼を 周りの生徒達がギロリと睨む。 思わずすくむ彼につられ、リズまでもちぢこまる。 「ファリアになんかあったの?」 小さな声で問いかける彼の袖を引くリズ。 「ちょっと…外、出よう。」 「あ。うん…」 ふたりは図書館の外へと。 図書館脇の芝生のそばのベンチまで行く。 どちらも座ろうとしなかった。 「で…ファリアはどうしたの?」 改めて問いかける。 「あのね… 4限目の体育のラクロスの試合中にね、 貧血で倒れちゃったのよ。」 「!? 何だって!?」 またも叫んでしまう彼。 それを察していたリズ。 「で、保健室に?」 「うん。 で、しばらく休んでから早退したわ。」 「そう…」 心配を顔に浮かべる彼を見つめる。 自分も昼休みは同じ顔をしていたんだろうなと思う。 「それで…原因は?」 「えっと…そのね… ファリアは女の子の日だったの。」 思い切って隠さずに告げる。 「え…それって…!?」 リチャードが逆に頬を真っ赤に染めた。 リズの言いたいことが理解できたから。 困惑して固まってしまった彼を見て、リズは少し微笑む。 「ひょっとして…ファリアの事、まだ子供だって思ってた?」 「え?」 「リチャードくんは知識も豊富で、何でも知ってると思うし、 色々と解ってるんだろうから…口にしないこともあるんだろうけど。」 「う…」 返答に困る彼を見て、心の中で優越感に浸るリズ。 このことはさすがに親友も彼に言ってなかったのだと。。。。 「ファリアさ…いつまでも小さな女の子じゃないよ。 言ってる間に乙女になってさ、きっと男にもてるよ。 ま、仕方ないけどね。 あの娘って、パーシヴァル公爵家令嬢だし。 …リチャードくんはさ、幼馴染だけってだけでそばにいられると思ったら大間違いだよ。」 「何で?!」 少々憤慨した様子で問いかえす。 「あの子が他の男に目が行くって事も考えられるしね。 中等部に上ってからまだ2ヵ月半ほどだけど、あの娘は7人に告白されてるよ。」 リズの言葉にまたショックを覚える。 「えッ!? ぼ、僕、そんな事、聞いてないよ!!」 「…そうなんだ。 ま、7人中5人は私がそばにいるときに告ってきたのよ。」 ショックで混乱しそうになるが、なんとか平静を装う彼。 逆に微笑を浮かべるリズ。 「なぁ…その7人って誰か知ってるんだろ? 教えてくれる?」 「いいけど…ひとつ条件つけてイイ?」 「何だい?」 「今日の数学の宿題の答えを教えて!!」 「は? そんなことでいいの? っていうか、今日の授業は何処やったの?」 「え、あ… ちょっと待って…」 リズは自分のカバンからノートとテキストを出してくる。 ノートを開いて見せる。 「これ。 明日、当てられるのよ。」 「ふ〜ん… ファリアのノートと確かに同じだね。 今日の男子部と大して変わらないな。」 ちゃっちゃと式と回答を書いて、ノートを返す。 「はい。」 「はッや!! やっぱり学院一の天才は伊達じゃないのね〜。。」 自分では答えを出すまでに何分かかるだろうと思う。。。 切迫した顔で彼は問いかける。 「で、誰なんだ?! 7人の男子って!!」 「えっとね… 3年のステファン=ロウズ、ダグラス=ウィール、ケン=ラッセル、 2年の… ジョージ=ランドール、ウォルト=ニューマン、バルバロッサ=コンスタンティン… っとあとは1年のジョー=ウィンスピア…の7人。 ファリアがひとりの時に来たヤツってのは ウィンスピアとニューマンよ。」 リチャードは脳にその名前をしっかりと入れていく。 「…ふーん… 馬術部のロウズ先輩に フェンシング部のウィール先輩とニューマン先輩。 それからテニス部のランドール先輩にラッセル先輩。 地学部のコンスタンティン先輩ね。 ウィンスピアって同じクラスで、サッカー部だったな… …ありがとう、リズ。」 「いいえ。 っていうか、全員のこと知ってるの?」 「一応な。 君が気にする必要はないよ。」 最近、馬術部でもフェンシング部でもやたら風当たりの強い時があった3人の先輩。 (どうりで… ファリアが彼らを振った。 その理由が僕だったから… なんだな…) 考え込むリチャードを見て、リズが告げる。 「じゃ、私、テニス部があるから行くわね。」 「ありがとう、リズ。ファリアのためにわざわざ。」 優しい笑顔をリズに向け、礼を言う。 「いいわよ、これくらい。 私、ファリアの親友だもの。」 「…そう言ってくれるの、君だけだよ。 ファリアにとっても僕にとってもな…」 「え?」 行こうとしたリズは振り返り彼を見る。 「リチャードくん…?」 「だってさ、男子部女子部に分かれてるから… 僕はずっと守ってあげられない。 そばにいられない。 けど、リズがいてくれるから僕は安心してるんだ。 ホント、感謝してるよ。 …君は女騎士だね。」 意外な言葉を聞いてリズは彼の瞳を覗き込む。 「私が女騎士?」 「そうだろう? 君はいつも彼女を一番に考えてくれている。 ありがたく思っているよ。」 リズは自分がとても心の狭い人間のように感じた。 ファリアもかなり心の広い少女だけど、 彼も同じように寛容な少年だと。 「あ〜あ… やっぱりリチャードくんには敵わないなぁ…」 「は?」 いきなりのリズの発言に目を丸くする。 「ふたりともやっぱり何処か似てるわ。」 「そうかい?」 照れ臭げに少年は指の甲で鼻下をこする。 「ファリアが…リチャードくんを好きなワケ… 少し解った気がする。」 「え…??」 リズは自分では少年に勝てないとやっと悟った。 真剣な顔になった少女は彼に告げる。 「リチャードくん、お願いがあるの。」 「何?」 「近い未来… ファリアにちゃんと好きって言ってあげて。 ずっと待ってるよ、あの娘。。。」 「リズ?? 何でそんな事を君が??」 「他の男子から …告白されてるあの娘を見てると困惑しているだけなの。 きっと…誰が熱い告白をしてもきっと振り向かない。 リチャードくんしか見てないから…だから。 ファリアの喜ぶ顔が見たいの…。 だからちゃんと言ってあげて。 …リチャードくんもあの娘のこと、好きなんでしょ?」 リズに問われて、頬を染めて彼は応える。 「…うん。」 「おせっかいかもしれないけど、ふたりが幸せになってくれないと 私も困るの。 だって私もファリアのこと、好きなんだもの。 大切な親友なんだもん。」 「リズ…」 その時の少女の瞳をリチャードは見ていて気づく。 彼女もまたファリアを好きだということ。 そしてそれが女同士の友情という感情だけでないことに。。。 「私、今度こそ、テニス部に行かなくちゃ。 じゃ…ね。」 リズは彼に背を向けて、駆け出す。。。。 リチャード少年は机上の知識は確かに同世代の子供より豊富。 けれど…人間として男としての経験はまだこれから。 少女の親友・リズの言葉が彼の心に染み入っていた。 自分と彼女が幸せになることを願っているのは 家族だけではない。 そう知った彼は少しだけ、大人びた瞳をしていた――――― to -3- __________________________________________________ (2006/2/23) to -1- to Bismark Novel to Novel Top to home |