serenade -5-





ソファを勧められ腰を下ろすとメリル夫人は僕の向かいに座り、話してくれた。

2年半前の事件の直後、フルシーミに心ならずも来てしまった事。
呆然としたままだった彼女はハイスクールに入れられ、
3日目の帰りに男子生徒3人に乱暴されたと…

朦朧となった彼女は気がつけば学校をシティを飛び出していたという。
荒野で倒れていたのをメリル夫人とその夫が見つけ、村に連れて帰り介抱した。

そしてメリル夫人は自分の娘のように見守ってきたと。


僕は話しを聞いているうちに涙が溢れ出す。
彼女に襲い掛かった運命がこれほど残酷なものだと想像も出来なかった。

「私はね… あの娘に幸せになって欲しいんだよ。昔のあたしと同じように。」

「え?」

「私もね…17の時に同じ目に遭ったの。
そして子供の産めない体になってしまった。
けど…ピーターはそんなあたしでもいいと、結婚してくれと…言ってくれた。
愛されてると…女は幸せなんだよ。
それをあの娘にも解って欲しい。
心を閉ざしているから…今も。」

「だから…だから彼女の瞳は昔と違う…悲しみに帯びた瞳をしているんですね?」

「あたしは昔のあの娘を知らない。けど…心からの笑顔を知らない。
泣いている顔しか…」

メリル夫人は僕の前で静かに泣いていた。
僕はソファから立ち上がり、彼女のいる部屋へと向かう。

泣いている声が廊下でも聞こえていた。

ドアを叩き、声を掛ける。
鍵がかかっていて開かない。

「ファリア!! …ファリア! 開けてくれ!! 
話は聞いた…
僕は君を愛してる…それだけじゃダメなのか?!」

「リチャード…私…」

ドアのそばにいた気配が遠くなる。
それが解ると僕は鍵のかかっているドアにタックルする。
3度目にしてドアが開き、転がり込むように部屋に入った。

驚く彼女が壁際に逃げるが構わずにドアを閉めた。

壁の前に佇む彼女に近づき、そっと抱き締める。
相変わらず華奢な身体は震えていた。

「…ずっと逢いたいと… キスしたいと…思ってた。」

戸惑う彼女のくちびるを奪う。
重ねたくちびるから解る。

   (変わってない… 君のくちびる… やわらかさも…その味も… )



突然我に戻ったのか、僕を突き放し叫ぶ。

「止めて!!」

「ファリア… 僕を愛してくれているんだろう?何故だ?
僕は…君が乱暴されたからって、嫌いになんてなれない。」

彼女は顔を伏せ、震える声で僕に言う。

「私… 確かに3人の男に… でもそれだけじゃない!!
私は自分が許せない!! だからあなたに愛される資格なんてないのよ!!」

「何が…許せないんだ?」

僕は静かに問いかける。
彼女の身体がびくりと一瞬硬直したあと、小さく震え出す。
自分で自分を抱いて、
絞り出すような声で言葉をつなぐ。

「私… 私… あの時… 犯されてた時…
吐き気と嫌悪感しか感じなかった。
苦しくて泣き叫んでも、執拗に私は… 嬲られ続けた。

あなたの名を叫んだ時…
あなたの声を、顔を思い浮かべた時…
あなたじゃないのに…私のカラダは反応してた。
私のカラダは…男を受け入れてた。
快楽に震えていた…

そんな自分が許せないの!!
ここにいる私は…ファリアの生きる死体なの!! 抜け殻なのよ!!」

彼女の絶叫に僕は固まってしまう。

「…ファリア…」

「私を助けてくれた、メリルおばさん…救おうとしてくれているのは解ってる…
けど… けど… 汚れた汚されたカラダなの私…
もうあなたにふさわしくない。
悦んで他の男を受け入れた自分を許せない!!
だから… 死んだと思って諦めて… お願い… 忘れて…」

滂沱する彼女の声はかすれていきそうな声。
僕はきっぱりと告げる。

「イヤだ。」

「…え?」

「僕は何があっても君を愛すると誓った。
それに他の女性じゃダメなんだ。君しか抱きたくない。」

「でも私は他の男で…」

彼女のくちびるは手は震えていた。

「…それは君の罪じゃない…」

「え…?」

「女性には防衛する術がある。たとえ強姦という最悪の出来事に対しても。」

「何故…そんな事が言えるの?」

「…僕は大学と情報部の訓練所で様々な知識を身につけた。
女性は… 例え、男に犯されても…ある程度の刺激を受け続ければ
知らず知らずのうちに反応してしまう。
そう…聞いているよ。
だから、君が罪悪感を抱く事はない。
むしろ…僕の事を思い描いただけで感じてしまったんだろう?」

「あ あぁ…」

彼女は手で顔を覆い、泣き出してしまう。
僕はその手を掴み、壁に押し当てる。
泣きっ放しで…目を赤くして、震える様は小さなウサギのように感じた。

「それでも…気に病むというのなら…僕がその3人を罰してやる!!
僕の大切な君を汚した罰をね…」

「リチャード… 私を… 私を許してくれる…の?」

言葉尻が震えている。
僕は目を細めて彼女の目を見つめた。

「許すも許さないもないよ。
君に罪も咎もない。
僕達は愛しすぎて… 運命の女神に嫉妬されて、引き離されただけだ。
僕がどれだけ君を愛しているか試されたという事なんだ…」



彼女の涙の色が変わった。

「リチャード…私… 私…」

僕は彼女の両手を解放する。

そして…昔と同じように優しく抱き締め、背を撫ぜる。

「もう…何も悲しむな… 苦しむな… 
僕が君のすべてを受け止める。引き受けるから…」


彼女の手が僕の背に回る。
力を込め、僕に抱きつく。
もう言葉はなかった―――


視線が重なると僕達はキスしてた。
触れるだけのくちづけ…
しばらくして僕は舌先で彼女のくちびるを割って入る。

「ん… ふっ… ん!!」


舌と舌が絡み合い激しくお互いを貪っていた。


「ん… ん…ッ!! リチャード…ッ!!」


僕はもう止められなかった。


彼女の背に回した手はドレスのファスナーを引き下ろす。

「あ…ッ!?」

ぱさりと音を立ててドレスが落ちるとハイヒールとショーツだけの可憐な姿。

「あ… やっ…!! 」

僕は有無を言わさずにベッドに連れて行く。
ハイヒールを脱がせて投げ捨てた。
細い足首も愛らしい。

「あ…リチャード… 恥ずかしい… 私だけ…?」


僕は彼女の前でシャツとスラックスを脱ぎ捨てた。
彼女は僕の中心に目を奪われていた。
既に熱を帯び、布の中で脈打っていた。

「僕がこんな風になるのは君だけだ…
君しか欲しくない…」

僕は彼女にキスして、ゆっくりとベッドに押し倒していく。
2年半前より豊かになった乳房に触れると吸い付くように肌はすべらか。
優しく丁寧に愛撫を重ねると彼女のくちびるから可愛い溜息が漏れる。


   (変わってない… 可愛い声… この肌も…)

指先に想いを込めて頂に触れる。


「あんッ!! は…あぁ…」

僕の動きに合わせて声が上がる。


「ファリア…僕のものだ。僕だけの…」

僕は彼女のヒザを割って、身体を入れる。

「もう一度…全てを僕に見せて…」


溢れ出した蜜でショーツの底は濡れて張り付いていた。

僕が指先で縦になぞると陸に上がったサカナの様に激しく身を震わせる。

「あぁん…ダメ…リチャード…!!」


僕はもどかしくなって最後の小さな布をそっと外す。
小さな抵抗はあったが顔を真っ赤に染めながらも僕に従ってくれる。

さらけ出された彼女自身は昔と変わらず可憐なたたずまいを見せていた。


「あ、あぁ…見ないで…恥ずかしい…」

あの5日間で毎日のように見せてくれていたことを忘れたかのように恥らう。


「ファリア… 可愛いよ…あの頃とちっとも変わってない…」

指先でそっと撫で上げると熱い蜜が溢れ出してくる。

「はっ…ぁぁん…」

僕は耐えられなくなって舌先で掬い取る。

「やぁああん…!!」

細い足首を掴み、2年半ぶりに彼女の蜜を味わう。


「何もかも変わってない…美味しいよ… ファリア…」


「んんッ!! はぁんッ!!あぁッ!!」

彼女は何度も小さな絶頂の波に飲まれている様で、びくびくと身体をわななかせる。


「あぁッ!! はぁぁあんッ!!」

頬を紅潮させ、乱れる姿は16の頃より艶やかな気がする。
僕はもう我慢の限界だった。
腹につく勢いの己自身を彼女の内部へと沈める。


「はッ!! あぁあああん!! リ…リチャードぉッ!!」


僕を埋め込んだだけで彼女は激しく身体を揺らす。

「くうッ!!」


早く達したいと思うのと彼女を感じさせたいと思うのが僕の心の中で拮抗していた。


「あぁ…ファリア…はぁ…」

「リチャード…ご…めんな…さい…
ごめんなさい… 私… 私…」

僕は快楽の波に飲まれまいと話しかける。

「もう…苦しまないでくれ… 僕のファリア…」

「私… ごめん…なさい…」

ひっくひっくと泣き出す彼女の頬を両手で包み込み、サファイアの瞳を覗き込む。


「僕のファリア… 僕を刻み込む…
僕を感じてくれ…」

「あぁ…私… 私…」

「大好きだ… 昔よりも。
あの頃より…愛してる…」

「…リチャード…」


まだ子供のように泣きじゃくる。

「ファリア… ファリア…
もう離さない… ずっと僕のものだ…」

僕の涙が彼女の顔へと落ちる。
口元に落ちた雫がするりとくちびるを濡らした。

そっと彼女の手が僕の頬に触れる。

「リチャード…あぁ… 私も…愛してる。
幼い頃より…」

「僕達はあの日からヒトツだ。
欠けたら…生きていけない…」

「私…  私も…  ずっと逢いたかった…恋しかった…」

「あぁ。僕もだよ。」

「この星に堕ちたから… 汚されたから…
もう2度と逢えないって
もうこんな日は来ないって思ってた…」

僕は黒髪を撫で上げる。

「汚れてなんかないさ… 君は…
今もあの日と同じように… 可憐で無垢な乙女のままだよ…」

「でも…でも…」

首を横に振り、黒髪が乱れた。
僕は頬を両手で包み、言い聞かせるように告げる。

「まだ自分が汚れていると感じているなら僕が取り払う。
僕がキレイにしてやる。
僕を感じろ…」

彼女の瞳を僕は見つめたまま、抽送を始める。


「あぁ…ッ!! リチャードッ!!」


粘着質な水音と可愛い喘ぎ声が僕の耳に響く。


「はんッ!! ああ あぁ… あん…あっ!! リ…チャード…
リチャー…ドぉッ!!」


僕は達してしまいそうになるが歯を食いしばってこらえる。
何より彼女を感じさせたかった。

「あぁッ!! も…ダメぇッ!!」

僕の腕を掴んでいた彼女の手に力が入り、爪が食い込む。

「う…あ… ファ…リア…ッ!!」


そこまで感じてくれているのだと解ると痛みさえ快感になっていく。
耐え切れず最奥を突き上げると彼女も僕も今までにないほど身体がビクビクと震えていた。

「う…はぁッ!! ファリアァッ!!」

「あぁーーッ!!」


僕達はほぼ同時に大きな波に飲まれていった。

僕の灼熱が彼女へと流れ込む。


   (子供が出来ても構わない!! ファリアは僕の妻だ!!)



2年半の想いを解き放つ―――そんな思いだった。



   *



失神してしまった彼女から身を離すと、自分と彼女の間には透明な蜜と白濁した蜜が溢れていた。
自分でも驚くほど。

僕は彼女をキレイにしたあと、己も拭う。
まだ力を失っていない―

でも穏やかな気持ちで彼女を腕に抱き横になる。
狭いベッドなので彼女を自分の上に乗せた。

顔を覗き込むと涙の痕とまだピンクの頬、薄く開いたくちびる。
長い黒髪は僕の素肌の胸に触れていた。

   (まるであの日と同じだ…

    "愛してる"… そんな言葉じゃ足りない…
    僕にとって最高の伴侶… 妻、恋人、女…
    すべてに当てはまる存在…)


そっと涙の痕を撫でるだけで胸がいっぱいになる。


   (取り戻せたんだ… ファリア…)


嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。
事件のあった時と真逆の意味の涙は熱かった―――




「う…ん…」

彼女のくちびるから声が漏れた。
まつげが揺れ、サファイアの瞳が僕を見上げる。

「リチャード… 幻でも夢でもない… 本物のあなた…」

「そうだよ。」

ボロボロと涙する彼女を僕は止めない。僕も涙が溢れていた。

僕の首に腕を廻し、抱きついてくる。

「リチャード…リチャードッ!! 逢いたかったの…抱き締めて欲しかった…」

「あぁ。僕もだよ。」

「ずっと… 苦しくて切なかった… 淋しかったわ…」

ずっと抱いていた想いを僕に吐露してきた。

「僕も…君がいなくて…辛かった… 孤独だったよ。」

「私…もう離れたくない…」

「あぁ。もう離さないよ…」

僕の胸に顔を埋める。しなやかな黒髪を指で梳く。




「ファリア… 僕、さっき…君の中に子種を… 」

「え…」

「もし…子供出来ていてもいいよな? 
僕達結婚するんだから…」

「!? リチャード…ホントに私でいいの? 後悔しない?」

「するもんか。モノゴコロついた子供の頃から…好きだ。
初めてのあの日から僕の妻なんだ… 君は。」

「あ!? えぇ… えぇ…」

ボロボロと涙する。
彼女の黒髪を掻き上げ、顔を覗き込むと…輝くばかりの笑顔。
キラキラとサファイアの瞳は光に溢れていた。

「リチャード… 私の夫で、恋人ね…」

「そうだ。」


どちらかともなくキスする。


「…ん…」

僕の頬にかかる黒髪が心地いい。
くちびるが離れると…彼女は僕に微笑みかける。


「リチャード… あなた…、まだ…?」

「ん?」


まだ力を失っていなかったために彼女のお腹に当たっていた。
すっと彼女の手が僕の強張りに触れる。

「凄い…のね、リチャード… 」

「ファ…ファリア…」

戸惑いを覚えながら、彼女の手に触れられていると思うだけで、
さらに熱く昂ぶっていく。

「ね、リチャード…触れていい?」

「もう触れてるじゃないか…」

「…そうね。」

平静を保っているだけで、精一杯だ。
彼女の手はゆっくりと僕自身を包んで撫で上げる。
それだけで気持ちよくてたまらない。

愛する彼女に触れられていると思うだけで爆ぜてしまいそうだ。

「あぁ…ファリア…」

「…凄い… 脈打ってて…とても熱い…の…」


彼女は上掛けの中に入っていく。

「ちょっと…ファリア…?」


両手で僕を刺激し始める。

「う…あぁ…」

僕はもどかしくなって上掛けを床へ落とす。
彼女はうっとりとした瞳でぼく自身を見つめ、両手を上下に動かしていた。

ぼくはその光景を目にしただけでカッと身体中が熱くなる。
惚れてる女が僕自身にくちびるを寄せていた。
もうそれだけで理性は飛んだ。

「うぁ…ッ!! ファリア…ッ!!」

気づけばあっさりと達してしまう。
噴出した白いモノは彼女の顔と髪を汚してしまった。

「あ…ご、ごめん…」


僕は慌ててティッシュを手に取り、拭き取る。

「いいの…」

「良くない。」

「だって…リチャードだから…」

その言葉に嬉しくなるが、真顔になって僕は言う。

「あ…でも… ダメだ。」


僕は陶然としている彼女の顔と髪を拭いていく。
でも僕は正直、嬉しかった。


「ごめんなさい。リチャード…」

「いいよ…」

「違う。…ホントは口で…って
でもあなたの大きく口にて入らない…」

少し恥ずかしげに顔を背けながらも告げてきた。
驚いたけれど、胸がきゅうと締め付けられた。

愛する女に言われて男として当然だろう。

「いいんだ。
君が…そんなことする必要はない。
でも…何で? 僕、昔、教えなかったよな…?」


一気に顔を真っ赤に染める。

「あ、うん…あのね…
忌まわしい出来事で忘れたいのだけど…
忘れられない…あの時に… 無理やり…。

でも私、あなたが悦んでくれるのなら…
なんでもする。何でもできるわ。」

「!?  …そうか。
思い出させて悪かったね。」

「確かに嫌な体験だったけど…リセットするのあなたに。」

「あ。そうだな。 …これから二人で…楽しい思い出に変えればいいんだ。」

「えぇ…」

「僕がこれからたくさん愛するよ…
だから嫌な事は忘れろ!! いいな?」

「…はい。」

思わず命令口調で告げるが素直に返事してくれた。

「僕と二人で…ずっと生きていくんだ…」

「…はい。」

僕は愛しいファリアのくちびるに優しいキスをする。
誓いのキスのような思いで僕たちはくちびるを重ねた―――――







to -6-
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(2005/8/28)

to -4-

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