Secret Garden -5-





両親が病院に駆けつけたとき、手術室の前のソファにリチャードが沈んだ面持ちで座っていた。


「リチャード!?」

「父上、母上…」

「何があった! リチャード!!」

両親が彼を見ると袖口に血がついていた。


彼は母に顔を向ける。

「母上… ファリアと僕のことを認めてくださると…
メールを貰いました。
僕…休憩中に見て、嬉しくて… ダイヤルしたらまだ車の中であと少しで学校だと。
会話中にものすごい轟音がして…しばらくしたら電話にロビンが出たんです。
トラックの大型パイプが落下して直撃したと。
車の屋根とシートの間にまだファリアが残されていると…」

「「!?」」

「僕はいつの間にか学校を飛び出して駆けつけていました。
現場は騒然としてましたからすぐに解った。。
ファリアは救急車に乗せられる直前で…

一瞬、ウチの車を見ました。
屋根の中央部が大きく陥没していて… ベコベコに変形していました。
レスキューが電動カッターで切ろうとしたらしいですが
傷つけるかもしれないと、ジャッキで上げて、引きずり出したと
救急車の中で聞きました。」

「なんてことだ!!」

「ファリアぁッ!!」

父は彼の話を聞いて顔色を変える。
母は手で口元を覆い、瞳からは涙が零れた。


「今、手術中です。
とりあえず今、解っていることは、肩と鎖骨骨折と…出血によるショック状態…
…うッ…」

声を詰まらせ、ソファに崩れるように腰を下ろす。



「リチャード!! しっかりしなさい。
あなたが今、しっかりしないと娘も助からないわ!!」

「母上…」


リチャードは母の胸で嗚咽を上げる。



傍らで悲痛な顔で話を聞いていたエドワードが問いかける。

「セーラ、ひとつ聞きたい。」

「何でしょう?」

「ファリアとリチャードのことを認めるとは何のことだ??」

セーラは夫を見つめて話を切り出す。

「…あなた、実はね…
あなたの息子のリチャードと私の娘のファリアは恋仲なのよ。」

「何!?」

予想もしなかった答えに驚くエドワード。

「この子達、初めて逢ったのは7歳と6歳。
すぐに兄妹のように仲良くなって安心してたわ。
この頃はお互い「好き」と無邪気に言ってた…
だけど違ったのよ。
同じ時を過ごすうちに恋になっていった…
ふたりとも。

私、娘がこの子を好きだと言うことには気づいていたわ。
けどこの子の想いには気づかなかった。
兄として妹をとても大切にしているとしか見てなかった…」

「私もそう思っていたが?」

「娘は自分の想いを隠したくて、封印しようとして家からこの子から離れようとした。
けど… リチャードがそれを許さなかった。
思いあまってあなたは娘に想いを告げたのでしょ?」

「はい…母上。」

「私も本物の兄妹のようにしているふたりだから 安心していた…
けど本当はふたりともお互いを求めていたのね。。。」

「母上…」

「セーラ…」


セーラは夫と義理の息子を涙を浮かべた瞳で見つめる。


「私とエド…私達のようにふたりには回り道して欲しくない。
だから私、昨夜一晩考えてみたの。
それが例のお話。
リチャードの携帯にメールであるのでしょ?
お父様に見せてあげて。」

「はい、母上。」


持っていた携帯のメールの本文を父に見せる。

受け取り、目で文章を追う。


「!? あ… セーラ、お前…」

「そう。そういうことです。」

「義理の娘が息子の嫁になると言うことなのだな。」

「えぇ…」

「解った。
セーラの言うとおり話が進むのなら問題はないだろう。」

「はい。パーシヴァル家のほうには私から説明しますわ。」

「あぁ。それより今は… ファリアの生還を祈らねばな。」

「そうね。」

「えぇ…」


両親と兄は"OPERATION"のランプを見つめていた。






   ***


4時間後―

やっとランプが消え、ストレッチャーに乗せられたファリアが運び出される。

「「「ファリア!!」」」


3人は一斉に叫んでいた。
そんな様子の一家に声を掛けるのは手術した医師。

「あなた方は… ご家族ですね?」

「はい。」

「それではお嬢さんの容態を説明しましょう。
こちらに。」

「はい。」



3人は別室でファリアの身体の状態を告げられる。


「患者はファリア=ランスロットさんでよろしいですな?」

「はい。」

「16歳と4ヶ月。血液型はB型。」

「えぇ、間違いなく娘ですわ。」

「…よろしい、では。」


ぱちんとスイッチを入れる医師。
CTスキャンの画像がずらりと並ぶ。


「レスキューの報告よると
落下してきた大型パイプで押しつぶされた車の天井とシートに挟まれていたということです。

お嬢さんの怪我は…ここ。
左鎖骨と肩の亀裂骨折。
それに胸部肋骨にひびが入っているのが4本。
救出された時点でショック状態でした。
出血もありましたが 輸血が早かったためにそちらは問題ありません。
とりあえず先の手術で骨折の治療の為に細パイプを入れて固定しました。
あとは打撲があります。

それから万が一、頭を打っていた場合、
障害が残ることがあります。」

淡々と説明する医師の言葉に一家は衝撃を受ける。

「そんな…まだ娘は16歳になってまだ…」

「CT画像では今のところ問題はありませんが…
予断は許しません。
2,3日中に意識は戻るはずです。」


「……ファリア…」

ボロボロと涙を流す母。
かつて夫を失ったもの車での事故。
忌まわしい過去を思い出してしまう。


「私があんな時間に送り出さなければよかった…。
夜に話せば良かったんだわ…」

「母上、母上のせいじゃない。
原因があるとすれば僕だ。
僕なんだ…」

母の肩を掴み、彼は告げる。

「リチャード、家族に原因はない。
原因はトラックの荷台のパイプ。
絶対に責任の所在をはっきりさせてやるさ。
私の娘をこんな目に合わせて…」

父は悲壮な面持ちで二人に言う。



「みなさんが元気になると信じてあげてください。」

医師が家族に悲しい笑顔で告げると父が応える。

「あぁ。もちろんです。
また私達にあの笑顔を見せてくれると…」

「僕の…ファリアは必ず帰ってくる…」

「あぁ。」



「当分、集中治療室ですので、面会は2名までですよ。」

「解りました。」

3人は説明を終えると、早速集中治療室へと。
ガラス越しにしか様子は見れない。


彼のエメラルドの瞳から涙が溢れた。

   (何故… こんな目に??
    もし僕達が…兄妹で愛し合ったことが罪なら罰を受けるのは…この僕だ。
    何故…何故に…ファリアが…)





ガラスに拳を当てる彼を見て、両親は悲痛な顔になっていた。



「リチャード。 お前、中に入らせてもらえ。」

「え?」

「あの娘が一番そばにいて欲しいのはお前だろうしな。
行ってやりなさい。」

「父上…はい…」



彼はICUの受付に行く。


息子を送り出した両親は顔をあわせる。

「私は情報部に行ってくるよ。」

「あなた…今??」

「あぁ。 報道管制を引いてもらうのと、女王陛下にご報告を。
君の娘は陛下の孫娘でもあるのだからな。」

夫の意図を理解して、落ち着いた顔を見せる。

「はい…。
それでは私は入院手続きと… 必要なものを家から持ってこさせますわ。」

「あぁ。頼む。」

「はい。」



両親は今ある悲しみを押し殺して、病院から出て行く。


リチャードはICUのベッドに横たわるファリアを見つめる。


白い肌に巻かれた包帯。
長い黒髪はヘアキャップの中に収められていて見ることは出来ない。

鼓動と脈拍、体温をはじき出す機器が彼女の生命が無事のなのを伝えていた。

細い腕には点滴の針が刺され、ポトポトと薬液を沁み込ませている。

顔を見ると…少し色白く見えた。
いつも薔薇色のくちびるが白い。
長いまつげの下で輝くサファイアの瞳には瞼が下りている。

朝に会ったとき、彼女は笑顔だった。
家族みんな笑顔の朝食の席…


その少し前には ファリアは自分の腕の中で眠っていた。

昨夜の肌のぬくもりと吐息と…
くちびるから出た愛の言葉を思い出す。


   (ファリア… もう一度 微笑んでくれ… )


昨夜のベッドの上で恥じらい苦痛に耐えながらも処女を捧げてくれた。
甘い声で自分の名を呼んでくれた時の幸福感。
切なく熱く包み込んでくれた彼女の中にいる時の一体感と充足感。
17年間生きてきてこんなに"幸せ"を感じたことはなかった。


彼女に向けられなかった性衝動を他の女性で紛らわせた時と全く違っていた。


   (ファリア… お前しか愛せない… 
    お前だけしか 僕を幸せにしてくれる。
    そしてお前を幸せに出来るのも僕だけだ…
    戻ってきてくれ…)






彼はずっとそばについていた。


面会時間が終了だと告げられるとロビーで時を過ごす。


母とメイド頭が彼女の身の回りのものを持って病院に戻ってきた。
彼を見つけると声を掛ける。

「リチャード…どうしたの? こんなところで?」

「ICUの面会時間が終了だと…」

「そう。じゃ、こっち行きましょ。」

「?」

「病室。 まだしばらく本人は入れないけど、手配してもらったの。」

母に連れられ行った先には特別エレベーターでしか行けないVIP用の病室。
ホテル並みの内装と設備が整っている。


「え? VIP用??」

「そうよ。あなたも忘れがちだと思うけど、
あの娘は一応公的に女王陛下の外孫。
今はランスロット公爵家の令嬢でもあるわけだし。
マスコミもここには入れないから…」

「は…なるほど…」

母の配慮に納得した。

そんな彼を見てみるといつもの覇気が彼から感じられないと思い、
心配になる。

「あなた… 一睡もしてないでしょ?
少し休みなさい。
付添い用のベッドがあるから。」

「いい。
いつ目覚めるか…解らないし。」

「じゃ、あなたの着替えも持ってきたから、
制服から着替えなさいな。
それと、せめて食事してちょうだい。
あの娘が目覚める前にあなたに倒れられちゃ困るわ。」

「…はい。」


母の言葉におとなしく従い、着替えを済ませ
病院内の食堂へ行く。

口へ物を運ぶが味を感じない…






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(2006/1/9+10)


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