Secret Garden -4-
小書斎に残っていたセーラはチェアに深く腰掛けて呟く。
「…本当にあの娘が…リチャードを愛していたとはね…
運命は不思議だわ。
さ、私も仕事に行かなくてはね…」
公爵夫人・セーラは青空の窓を見上げてから、
立ち上がり 書斎を出て行く。
義理の息子が二重の意味での息子になる。
そう思うと笑顔が零れた。
明るく優しい光が 心に射していた…
*
ファリアはいつもより1時間ほど遅れて出発したためにロンドン市内から郊外へ抜ける途中で
通勤ラッシュの渋滞にハマっていた。
手持ち無沙汰なこともあって、携帯電話で兄にメールを送る。
今朝の母のあの話を誰よりも早く知って欲しかった。
彼はちょうど、2限目の授業に入ったところ…
2限目と3限目の間の休憩の時にメールが着いている事に気づく。
画面を見ると妹・ファリアから。
内容を読んで嬉しさでいっぱいになる。
廊下に出て、ダイヤルするとすぐに出た。
「ファリア?? まだ移動中か?」
「えぇ… 渋滞にハマってしまって… あと少しで学校なのに…」
「車から降りて歩いて来れば??」
「う、ん…でも車線の真ん中だから無理だわ。」
「そうか…
ところでメール見た。
母上の提案、僕は賛成だよ。」
リチャードの言葉で声が明るくなる。
「!? そう!!
じゃ、あとはお父様ね。」
「あぁ、早く夜になって欲しいよ。」
「ふふ…そうね。」
車の中でファリアが微笑みを浮かべた直後…
真横のトラックの荷台のロープが緩んでいたために
積まれていた大型パイプが車に向かって転がり落ちた。
ガラガラ…
「!?」
ファリアが窓の外を見上げた時にはもう車に直撃していた。
「きゃあああッ!! 兄様!!」
「えっ!! ファリア!? ファリア!! 何かあったのか??
返事しろ!! ファリア!!」
携帯越しに派手に大きな金属音というか轟音が響く。
ガシャガシャ… グシャッ!!
「ファリアッ!?」
ただ事ではない音に一気に顔色が変わる。
駆け出した彼をクラスメイトが呼びとめようとするが
その声は耳に届いていない。
彼は携帯を手にしたまま、学校を飛び出していた。
**
事故現場は壮絶なものになっていた。
渋滞の中、トラックの荷台から落ちた大型パイプが10数本…
車を3台押しつぶしていた。
その真ん中の車がランスロット家のもの。
後部座席中央に座っていた彼女は押しつぶされた車の天井と座席に挟まれていた。
その手にはまだ通話中の携帯電話。
「ファリア!! ファリアッ!!」
駆けつけたレスキュー隊員が携帯からの声に気づく。
車の中にいる少女を見つけた。
「!? 大変だ!! 女の子が!!」
ランスロット家運転手・ロビンは意識を失い頭から血を流していたが
意識がもどるとなんとか今の状況に気づく。
車の天井中央が前後に大きく陥没していた。
「お嬢様!!」
後部座席のファリアの状況に愕然となる。
彼女の手の中の携帯から聞こえる声を耳にしてロビンが手に取った。
「あッ!? リチャード坊ちゃまですか?!
まだ通話中だったんですね…」
「ロビンか!? どうした? 何があった??」
「横にいたトラックの荷台の大型パイプが落下してきて…
車に直撃しました。
私も怪我を負っていますが大したことは…
それよりお嬢様が!!」
「何だ?! どうした!?」
「車の天井とシートに挟まれたままで… 今、レスキューが…」
ロビンの目の前でレスキュー隊5人がかりで
車に挟まれている彼女を救助に掛かっていく。
「場所何処だ!?」
「あと8分ほどで学校になる最後の交差点近くです。」
「解った。」
彼は通話を切り、駆け出していた―
レスキュー隊が少女を救出に成功したが
意識はなく重態。
すぐ救急車のストレッチャーに乗せられる。
リチャードが駆けつけたときには救急車に乗せられる直前。
「ファリアッ!?」
「君は?」
救急車要員に問いかけられ応える。
「あ、兄です!! 携帯で話していたら
ものすごい音がして…」
「あぁ、解りました。
とりあえず乗って下さい!」
「はい!!」
応急処置を救急車内で受ける彼女は一瞬意識を取り戻した。
「あ…リ、チャード…??」
「ファリア!!」
手を握る兄の手。
「私…私…」
意識が朦朧とする中、愛しい彼を見つめる。
「何も喋るな。僕がついてる…」
「リチャード…あ、い…し…」
ふうと意識を目の前で失う。。。
救急車は病院へと到着した。
その頃、軽症のロビンも病院へ搬送されるが
途中、警察の事情聴取を受けていた。
すぐに少女の父親のランスロット公爵と母親のセーラ夫人に連絡が行く。
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(2006/1/8+9)
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