Secret Garden -3-





廊下を歩いていた妹に追いついた兄は腕を掴む。

「何故なんだ?? 突然…!?」

「兄様なんて嫌いよ!!」

「ファリアッ!?」


今まで聞いたことのない言葉を聴いて驚きの目を見せる兄。

「兄様のせいで… 私に男の子が寄ってこなくなったのよ?!
兄様が男子部で睨みを効かせているんですってね…」

「…!! お前を守るためだ!! 守るためにしていることだ!!」

「守る?! 束縛したいだけでしょ?」

こらえていた涙が少女の頬に零れ落ちる。

「何言ってる?! 嫌な男からの告白に困っているお前をいつも助けているのは僕だぞ!!」

「そうね。
でも もう…イヤなの!! 
兄様がいるせいで、他の男の子に目が行かないの。
本当は他の学校に移りたいくらいなのよ。
でもそんなことすればお父様達が心配するから…」


「!? お前…」

「もう触らないで!!」

そっと肩を抱きしめようとする兄の手を振り払うと自室へと駆け込む。

せっかくの決意が崩れてしまいそうになると感じた少女。。。


兄には止められる、反対されると解っていたけれど…


リチャードがドアをノックして寝室に入ってきた。
4年前から1歩も入らせなかった…寝室に兄が入ってきた。

「兄様…入ってこないでよ!!」

「…解っているのか?? 父上にも母上にも、そして僕にも会いにくくなる。
寮に入ってしまえば、学校からの許可書がないと僕もお前に話しかけられない。」

「そうね。」

「…僕が嫌いになったのか?
あんなにずっと一緒だったじゃないか?」

「えぇ、兄様なんて嫌い。」


妹の返事にかぁーっと怒りが込み上げる。


「僕が…どんな思いで見ていたか…守っていたかなんて知っていて
そんな事を望むのか?
そんなに僕に触れられたくないのか?!」

「えぇ。解ったなら、出ていって!! 出ていってよ!!」

絶叫するファリアに彼は飛び掛り、ベッドに押し倒す。

「僕が…どんな想いでいたのか知らずに、
よくそんなことが言えるな!!」

「私はただの妹でしょ? 
血は繋がっていなくても!!」

「そうだ。僕はお前の血の繋がっていない兄だ。
けど、その前に男だ。」

鼻先が触れそうな距離で告げられる。

「え…?」


困惑していると兄のエメラルドの瞳が強い光を帯びる。


「ずっと…ずっと好きなんだ。
妹ととしてではなく、女として。
いつか、お前が他の男のモノになるのじゃないかって…怖い。
そんなのイヤだ。
お前がどうしても出て行くというのなら教え込んでやる!!」


両腕を掴み、強引に彼はくちづけ、舌で割って入った。

ずっと触れたかったやわらかなくちびるを貪る。

「んッ!! いゃあ…」


胸板を叩かれるが決して離しはしない。

「ん…く…ッ!! キ…ラ…ィ…よ。」

「僕は愛してる…ずっと前から…」

「!? え…」

絞り出す様な声の兄を見つめるサファイアの瞳。

「父上にお前の妹になる子だよ、って紹介されたあの日…
初恋に落ちてた。
自覚したのはずっと後のことだけど…」

「兄様…」

「お前が僕を兄としてしか見ていなくてもな…」

「……バカな兄様…」

「あぁ、バカさ。
義理の妹を愛してる…」


ぐいと再び強引にくちづける。

「ん…ん…ッ…」



くちびるを離すと耳元に囁く。

「逃げられなうように…僕のモノにしてやるさ。」

「あ…ダメ。 兄様…」

「イヤだ、止めてやらない。
罪も罰も僕が引き受けるから…」

「ぁ…ッ!! リチャード兄様…あぁん…!!」


そっと手がまだ成熟していない やわらかな胸に触れる。

逃げられないと悟った彼女が兄を見上げると
切なげな表情。
きゅうと胸が締め付けられた。

  (あ…私… やっぱり、ダメ…)




熱い吐息で囁かれる。

「愛してる…ファリア…」


身体に熱い電流が走った気がした。
もうどうしようもないと彼女も理解する。

「あ…兄様… 私、私も…」

「え?」

「私も……愛してる。。」

「!?」

「私もあの日から… リチャード兄様が好き。
だけど世間一般にはあなたは兄…。
恋してはいけない人… だから、離れたかった。」

彼も妹の突然の言葉に驚くしかなかった。

「!?」

「だってそばにいたら… どんな男の子も…霞んで見える…
どんな素敵な男の子に告白されても、紹介されても…
兄様には敵わないの… 私にとっては…」

「ファリア…」

「だから忘れたかった。
忘れなきゃならないって…封印しなきゃならないって…
だから離れようとしたの…」

「あ…」


ぎゅっと抱きついてきた妹をもう女としか見れなくなっていた。

「ファリア、何処にも行くな。
僕が一生守ってやる。
結婚するな。 僕も…しない。
家はチャールズに継いでもらえばいいさ。」

「兄様…」

兄の言葉に胸が嬉しさでいっぱいになる。



「リチャードと呼べ。
もう僕達はただの男と女だよ。」

こくりとうなずく妹。


「愛してる…ファリア。
もう離さないよ。」

「リチャード…私もずっとそばにいる…」

ぎゅっとふたりはきつく抱き合う。



もう言葉はない。
ただ甘い囁きと吐息がファリアの寝室に響いていた。




   *


この時、母・セーラが隣の居間でドア越しにふたりの会話を聞いていた。

娘と義理の息子のお互いの愛の告白を聞いて、ショックを受ける。


   (なんてこと… でも、やっぱりあの娘は、そうだったのね…
    リチャードのことは気づかなかったけど…)



母はそっと娘の部屋を出る。

夫婦の部屋に戻るとすでに夫は眠っていた。


セーラは母として女として、
娘が幸せになる道を模索し始めた。






   ***

―翌朝

ファリアが目覚めると兄の腕の中。

「おはよ、ファリア。」

「…おはよう。兄様」

「こら… ふたりだけの時はリチャードって呼べって言ったろ?」

「でも、もうクセで…」

「…ま、仕方ない…か。」


身を起こし、床に散らばった服を拾って身に着けていく兄。


「じゃ、朝食の時にな。」

「えぇ。」





兄は静かにドアをくぐって去っていく。


彼女は昨夜の兄の…リチャードの囁きが胸に耳に残っているのを感じていた。

満たされた幸せな時間……






ファリアはベッドから降りると 軽くシャワーをして 制服に着替える。
身支度を済ませると 食堂へと向かう。

途中、弟・チャールズに会う。

「おはよう、チャールズ。」

「おはよう、姉さま。
どしたの?? 随分ご機嫌よさそう。。いい夢でも見た?」

「実はそうなの。
とても素敵な夢…」

笑顔を見せると納得した弟。
実は夢ではないけれどと心で呟いていた…


「そうだったんだ…」

「早く食べて出ないと遅刻するわよ。」

「は〜い。」

足音が追いかけてくるので振り返ると兄の姿。

「おはよう、兄様。」

「あぁ、おはよう。ファリア、チャールズ。」

「おはよう。兄様〜。」


3人は揃って食堂に入ると両親に挨拶。


「「「おはようございます、父上、母上。」」」

「あぁ、おはよう、3人とも。」



それはいつもの朝の光景―







食事を終え、食堂を出ようとすると母に呼び止められるファリア。

「ファリア、ちょっと…」

「え? あ、はい。お母様。」

「ちょっとお話があるの。 大切な事…
多少、学校に遅刻しても大丈夫でしょ?」

「いいわ。今日の1限目は美術だし。
兄様、チャールズ、先に行ってちょうだい。」

「あぁ、じゃ、行くぞ、チャールズ。」

「はい、兄上。」


幼い弟は兄とともに車に乗り込み、学校へと向かう。






母娘は母の小書斎へと。


「…私ね、昨夜あなたの身に起こった事を知っているわ。」

「!? お母様!!」

まさか母に知られてしまったとは…表情が固くなるファリア。

「リチャードを…愛しているのでしょ?」

「…はい。」

ここでヘタに弁解するよりも正直に言ったほうがいいと感じての言葉。



「仕方ないわね… リチャードはとても素敵な少年ですもの。」

「…お母様??」

「私ね、昨夜…あなたたちの兄妹ケンカの結末が気になって
あなたの部屋に夜遅く行ったわ。
ひとりで悩んでいるか、泣いているのではないかと思って…
そうしたら… ふたりの告白を耳にした。」


「あ…」

あの瞬間を聞かれたのだとすぐにわかった。


「最初はショックだったけど… 
あなたたちは元々、血の繋がりも何もない赤の他人同士。
恋に落ちても仕方ないわ。

実の兄妹なら問題だけど…

それでね、あなたたちが幸せになる道はないかと考えたのよ。」


一呼吸置いた母。

「…パーシヴァル公爵夫人アニー…つまりあなたの祖母に当たる人物は元々はハープ奏者。
ピアノもプロ並みの腕前なの。
祖母の手ほどきと王立音楽院での教育でピアニストを目指すと言う名目で
パーシヴァル公爵家に戻るのよ。
もちろん、名前もランスロットからパーシヴァルへね。
そして…何年後かにリチャードと婚約なさい。」

「!? あ…!!」

「解った?? 私の提案の内容。」

自分だけパーシヴァル公爵家に戻る。
そうなれば何も問題はない…母はそう言いたいのだと。

「…お母様。 どうして許して、こんなことまで考えてくださったの??」

「苦しかったでしょ?何年も…
相手に想いを告げられないのは。」

こくりとうなずくファリア。


「私とエドワードもそうだったの。」

「え? お義父さまと…?」

「えぇ。 あなたのお父様のアーサーも愛していたわ。
けど… それ以前からエドワードは幼馴染でね。
ほのかに好きだったの。
大学生になった頃… 卒業生も交えたパーティで再会したの。
向こうにはメアリ様が、私にはアーサーと言う婚約者がいた。
恋も結婚も…タイミングなのよ。

私はね… あなたに幸せになって欲しいの。

リチャードは素晴らしい少年だわ。
母親としてもそう思ってた。
あなたがほのかに好意を寄せていると感じていたのはホントだった…。」

母の言葉でボロボロと涙が溢れ出す。

「お母様…」

「あぁ、泣かないで。
リチャードはランスロット家の跡取りで素敵な少年だと私は知っている。
まさかあの子まであなたを女として愛してるとは気づかずにいたわ。
母親失格ね…彼にとっては。」

「お母様…そんなこと…」

笑顔を見せる母につられ笑顔になる娘。


「今のお話は夜にきちんとエドワードとリチャードに話しましょう。
きっと解ってくださるわ。
さ、今から学校に行って来なさい。
入寮の話を取り消してもらうのよ。…ほら!」

「はい。お母様!!」

一礼して娘は書斎を出る。

涙を拭い、学校へと向かうために車に乗り込む。








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(2006/1/7+8)


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