Secret Garden -1-




―あれから5年…

リチャード13歳、ファリア12歳の秋…


いつものように兄は妹を部屋に迎えに行く。
制服に着替え、ふたりそろって食堂へ向かうのが毎日の光景。


ドアをノックし、返事を待つ。

「…仕度出来ているか?」

いつもの返事が返ってこない。
仕方なく、部屋に入るといつも居間で待っている妹の姿がない。
まだ寝室なのかと奥のドアをノックする。

「…ファリア…??仕度出来ているか? 起きているのか??」

「イヤ!! 来ないで!!」

思いがけない返事に困惑する。

「何言ってる?! 遅刻するぞ!?」


ドアを開けて寝室に入ると
シーツに紅い血が拡がっていた。


「!? ファリアッ!! 怪我でもしたのか?? 」

「イヤぁ!!来ないで!!」


悲痛な少女の悲鳴を聞いて、メイドが駆けつける。

「!? お嬢様!!」

メイドの眼に映ったものはリチャードと同じものだったが反応が違った。


「!!  …リチャード様、申し訳ありませんが部屋を出て行ってくださいませ。」

「何で? こんなに血を流して…怪我か病気かもしれないだろう??」

「いいえ…お嬢様は大丈夫ですよ。」

「でも…」


ためらい出て行かないリチャードを放って、メイドはベッドサイドの電話でセーラ夫人を呼ぶ。

すぐに駆けつけてきた母は娘の身体に起こっていることに気づく。
娘の肩を撫で、落ち着くように諭す。

「あぁ…ファリア。 来てしまったのね、突然。」

「ぅ…ん…」


「ところで…リチャード。
早く学校に行きなさい。ファリアは大丈夫だから。」

「母上…わかり、ました…」


母に言われやっと部屋を出て行く。
食堂に行くと既に父の姿はなく、出勤した後。
ひとりで朝食を摂って、学校へ行く。
こんなことは初めてで困惑していた。






―男子中等部


彼は少々ブルーな顔で教室にいた。

  (ファリア…大丈夫なのかな…?? あんなに血が…)


初めて目にした大量の血に驚いていた。






その日、偶然…
保健の授業は男と女の性差についてのこと…。



そこで女性の月経の話を初めて耳にした。

壇上の教師は淡々と説明する。

「たいていの女性は11〜14歳くらいの間に初潮を迎えます…   」



  (え!? あッ…)



説明を聞いていて彼は初めてやっと妹の今朝の様子を思い出す。


  (ファリアが… 初潮の日…だったのか??
  だから母もメイドも、僕に部屋を出て行くように…? 
  そうとしか考えられないな…)


教師は説明を続けている。


「…このように女性が妊娠できる身体になったというしるしです。
つまり"性交渉"すれば、もう妊娠が可能と言うことです…  」


  (…!? ファリアが…いつか僕以外の男の子供を…産むってことなのか…)



そのことに気づいた時、ずきりと胸が痛くなった。








   *



ファリアは母から月経についての話を詳しくされていた。
一応、学校の授業で知っていたが、突然自分の身に起こるとは思ってもいなかった。


この日はびっくりしてしまい、慌ててしまった。
しかも兄に知られてしまったことが何より恥ずかしい。


少女のベッドは血まみれで 
シーツも下のベッドパッドにまで血が染み入っていたために交換するしかなかった。

すぐに業者に頼んで取り替えてもらう。。。








   *

―学校の昼休み


リチャードはあの授業を受けてから、少々険しい顔。

「どうした…? リチャード。」

「何でもない!!」

思わず声が上ってしまう。

「…何でもないって言う様子かよ、それが。
何か家であったのか? また妹とケンカでもした??」

不意に今朝の光景が脳裏に蘇る。

「違う… ちょっと心配なだけだ。」

「ふ〜ん… ま、可愛いもんな〜♪ ファリアちゃんって★」

にやけた顔で親友エリックが言うので、キッと睨みつける。

「おっと… お前がシスコンっていうのわかってるってば!!」


エリックに言われちょっとむっとする。

リチャードとエリックのやり取りを聞いて何人かのクラスメイトが集まってくる。

「珍しいよな〜リチャードが叫んでるなんてよ… ケンカか??」

「違うよ。」


むすっとした顔のリチャードが応える。

「ひょっとして…今日の授業のことかよ…
うちも1ッコ下の妹がいるから解るよ。
ついこの間まで 一緒に風呂に入っていたのに
もうダメとか言われたし。」

「ヘ?? お前、妹と風呂に入ってたのかよ〜」


ゲラゲラと何人もの口から笑い声が上る。

「あ、うちも。
姉貴の部屋にむやみに入るなとかさ〜…」

「女兄弟いるやつって今日の授業は生々しいよなぁ。」


リチャードはクラスメイトのパトリックの言葉に同じ想いだった。


「特にリチャードのトコは、血の繋がってない妹だろ?? 余計だよなぁ…」


他のクラスメイトの言葉で胸に杭を打たれていた。


「…確かに…血は繋がってないけど… ファリアは妹だよ…」

「そっか…」


周囲のクラスメイトは一応、納得して聞いていたが、本人は違っていた。
まるで自分に言い聞かせるように…




   *


リチャードは部活も終え、帰宅の為に家の車に乗り込む。

「セドリック… すまないけど…途中で寄って欲しいところがあるんだ。」

「何処です?ぼっちゃま。」

「えっと…ゴディバの店に。」

「かしこまりました。」



運転手・セドリックはルートを少々変更して運転する。


リチャードがチョコレートを1箱買って、戻ってきた。
朝の騒動を少し耳にしていたセドリックは、優しい目で少年を見つめていた。


邸に帰ると彼は制服のまま、妹の部屋へと向かう。


ドアをノックすると、メイドが出てきた。

「ファリアの具合はどうなの??」

「お元気ですよ。 …少々、お待ちを。」


メイドは中に姿を消したがすぐに戻ってきた。

「どうぞ。」

「ありがと。」



彼が部屋に入ると母と妹がソファで楽しげに話していた。

「ただいま、母上、ファリア。」

「おかえりなさい。リチャード。
今日の学校はどうだった??」

「…まあまあだよ。。」

「おかえりなさい、兄様。」

笑顔を見せてくれる妹にほっと安心した。

「よかった… 元気になったようだね。
コレ…お見舞いというか、お土産…。」

「え?」


差し出された箱のラッピングを見て気づく。

「チョコ??」

「あぁ。 ファリア…好きだろう?
元気ないかもと思って…帰りに買って来た。」

「あ、ありがとう…兄様。」

「良かったわね。お父様に帰りに買ってきてもらおうかって言ってたのよね。」

「う、うん…」

「そうだったんだ。良かった。」



和んでチョコを口にする3人がいた。

そこへぐずり出した弟・チャールズが連れてこられ 家族は一気に賑やかになる。
ファリアにと買って来たチョコを口にして弟も笑顔を見せた。


リチャード少年は義母と義妹と弟に囲まれ、幸せな日々を送っていた。。。。。。





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(2006/1/7)


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