rose tear -2-
あれから6年という歳月が流れた…
最初の頃の怯えたような少女は今はなく、清清しい空気を纏った乙女へと成長していた。
厳しいキングの教えのおかげでその瞳には理知の光が宿っており、
体つきも大人の女性へと変化していた。
身に付けるものは一番近い村から買い取っているため質素だったが、
かえって精霊のような彼女の美しさを引き立たせていた。
6年間、伸ばしたままの黒髪も艶やかで、
肌は透き通るように白く、それが黒髪をなお美しく見せている。
キング老人はそのローズの姿に満足していた。
亡くなった妻より、息子の嫁より、そして誰よりも美しいローズをずっと見ていたいと願う。
乙女は無邪気に自分にまとわりついてくる。
本当の孫のように。
永遠にこのままでと願った。
老人の願いが打ち砕かれる日が密かに近づいていた。
最近、宇宙空間では再びデスキュラ星人が跳梁しており
地球の連邦政府軍は"ビスマルク作戦"を実行に移していた。
その日、いつものようにローズは森の中の泉に水浴びに出掛けた。
夜空には満天の星が広がり、
泉にはその星々が映りこんでいた。
まるで星空に身を浮かべているみたいで、ローズの好きな時間だった。
辛いことも悲しいことも全て癒されるようなそんな感覚が大好きだった。
この星にたどり着いて6年…
徐々に記憶が戻ってきていたローズはキングに本当のことが言えなかった。
いつからなのか自分でも解らない。
自分の本当の名を、家族のことも、許婚のことも全て思い出していた。
己の身の上に起こったことも。
思い出すと惨くて哀しい真実だけが彼女を蝕んでいた。
事故とともに失った家族。
自分がいなくなって6年が経ち、許婚には新しい恋人がいるだろうと思うだけで、苦しく切ない。
それらを忘れさせてくれる森の泉の時間…
何もかもを飲み込んで浄化してくれている… そんな気がしていた。
18歳になったローズは傍目に見ても美しい乙女に成長した。
時々、近隣の村から生活用品を分けてもらっているのだが、
若い男が来ることが最近多くなったように感じる。
その理由に老人は気付いていた。
しかしどうすることもできない。
若い乙女はいずれ若者と恋をし、自分から決別するだろう事を感じていたから。
しかし村の青年にはローズを渡したくはなかった。
6年をかけ、己の知識を与え続けた彼女は何処へ出しても遜色のない淑女に育てたつもりだ。
こんな田舎の星の村の青年ごときには絶対に譲れないと思っている。
ヴァリス星の豊かな水と緑に目を付けたデスキュラ星人たちは密かに侵攻していた。
地球人がいないエリアに基地を作り出したのだ。
そのうちのひとつがキング老人の屋敷裏の森の中。
ビスマルクチームはヴァリス星にデスキュラが侵略しているという情報を本部からもたらされ
排除するために降り立った。
デスキュラたちはヴァリス星に5つの基地を建造していたが、
そのうちの4つがビスマルクチームと連邦軍によって破壊された。
最後のひとつを死守すべくデスキュラたちは一番近い村を見せしめとして襲う。
もちろん、キング老人の屋敷もターゲットに入っていた。
その頃―
キング老人の屋敷に数人の若者が入り込む。
最近、人口が増え、不埒な若者も増えていた。
そんな男達が美しい娘がいると聞きつけ、やってきたのだ。
「ヘ〜、確かに綺麗な娘じゃん♪」
「こんなヒヒじじいにゃもったいねぇな。」
4人の男達が下賎な目的でやってきたことは明白だった。
老人の影に守られていた乙女はどうすることも出来ない。
キングはローズに裏口から逃げるようにそっと告げる。
「で、でも…」
戸惑うローズにきつくキングは言う。
「私に構うな!逃げなさい!」
「嫌です!見捨てるなんて出来ません!」
しかしキングは彼女の言葉に構わずライフルを乱射し男達を威嚇する。
一瞬、やつらがひるんだ隙に二人は逃げ出すが乙女は転倒してしまう。
その好機を逃すはずもない男たちのひとりが羽交い絞めにする。
「離せ!」
キングがライフルを撃つがまったく当たらない。
「そんなへなちょこに当たってたまるか!」
二人の男がキングの背後に回って後頭部を殴打する
声をあげる間もなく倒れる。
「お爺様っ!」
「さぁ〜て、邪魔者はいなくなったし、これからが本番だぜ♪」
4人の男達は1人のか弱い乙女に襲い掛かる。
服を引きちぎられあられもない姿にさせられる。
そのとき、屋敷の外で轟音が響いた。
デスキュラが攻撃を始めたのだ。
「なんだ?」
様子を見に行った男が撃たれる。
そのほかの男達もデスキュラの銃弾に倒れた。
昏倒していた老人と乙女には気付かずデスキュラたちは目的の村へと向かう。
ローズは自分の姿に構うことなく、老人に近づく。
「お爺様!お爺様!」
頭を殴打されていたから、頬を軽く叩く乙女。
「う…」
「お爺様!大丈夫?」
「う…ローズ…か?」
「えぇ、私よ。」
「お前、あの男達に…」
「いいえ、デスキュラが彼らを殺したわ。だから私はまだ…」
「そうか。」
しかし老人は乙女の姿に驚く。
着ていた服を引き裂かれ白い胸元や太ももが露わになっていた。
その姿を見て息を飲む。
やっと自分の姿に気付いた乙女が自室に向かって走り出した。
服を身につけキングのところに戻る。
「お爺様…ひょっとしてデスキュラが…?」
「あぁ、そうらしい。」
「村が心配だわ。」
「見に行こう。」
二人はジープに乗り、村へと向かう。
たどり着いた先には焼け野原が広がっていた。
村の建物のほとんどが破壊されている。
惨い光景に二人は嘆く。
「なんと酷い事を…」
キング老人が目を細めながら呟く。
ローズも涙が止まらなかった。
いつも優しくしてくれた村の人たちの遺体がそこここに転がっていた。
柔らかい暖かいパンを分けてくれたパン屋のおばさん、おじさん。
ローズが行くと薔薇をくれる花屋さん。
優しく微笑みながら皆に教えを説いていた牧師様。
村の中を走り回っていた子供。
それを楽しそうに叱っていた母親。
二人の心に悲しみと悔しさがこみ上げる。
村の入り口に佇んでいるふたりを見つけたデスキュラ兵は容赦なく襲い掛る。
キング老人は乗ってきたジープに飛び乗り、ローズを乗せてアクセルをふかし逃げ出した。
デスキュラ兵の銃弾がジープを破壊する。
何とか車の爆発から二人は逃れたが、もう逃げ出す力はなかった。
キング老人がマントと身体でローズを庇い、目をつぶった瞬間―
襲い掛かってきたデスキュラ兵のマシンが爆発した。
破片と爆風が二人を襲う。
キング老人が目を開けると、そこには巨大な黒いマシンが上空にいた。
マシンは轟音をたてて降りて来る。
マシンのヘッドに日本、米国、英国の国旗を目にしたキングは安堵するが油断はならないと
ローズを抱きしめる。
2人の目の前に3人の地球人が降り立つ。
赤いプロテクトギアを着た男が声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
声を聞くとまだ少年のようだ。
「あ…あぁ。」
訝しがっている老人に気付いた3人はヘルメットを脱いだ。
3人ともまだ少年だとキングは感じた。
やっとローズを抱いていた腕を緩める。
マントの中に守られていたため、3人は見えていなかった乙女の姿に驚く。
BACK/NEXT
_________________________________________________
(2005/7/3加筆改稿)
Bismark Novel Top