#19 THE HERMIT-2





「あいててて… もうちょっと丁寧に降りられないのかよ、ホリディ!!」 


ビルはよろけて壁にぶつけてしまった頭さする。

「すまん、すまん。
何せ、目的地が小さかったからなぁ…」

「たくよぉ…」



そんなビルを放って、マリアンは進児に声を掛ける。

「降りてみましょ、進児様。」

「あぁ、マリアン。」


さっさと行こうとする二人を追いかけるビル。

「俺達も行こうぜ、ジョーン。」

「えぇ。」

「待っててくれ、ホリディ。」

「了解した。」




4人は塔のてっぺんに無理やり降り立った全長30メートルの船から降りる。


屋上に階下への階段を見つけた。


「ここから入れるんだ…行こう、マリアン。」

「はい。って…明かりを。」


マリアンが指で火を点す。


4人がゆっくりと降りていく…








  ***


何かが降りてくる気配。


「誰かが降りてくるようだ。
…ファリア、こっちに。」

「はい。」

リチャードの腕に抱きかかえられる。




「カイ。今までありがとう。
本当に感謝しているよ。」


"You are welcome."
(どういたしまして)


「あなたが人間だたら…一緒に帰りたかったわ」


嬉しくて言葉がでないカイ―




ついに王子と姫の部屋に入ってきた人影が4つ…


「「!?」」


二人はその人影の正体に気づく。


「あ。やっぱり… ここにいた!! 姉さま!!」
「兄上!!」

弟妹がふたりに駆け寄ってくる。


「え…?? マリアン?それに 進児…??」
「どうして…ここが??」


ふたりは訳がわからない。
ただ目の前に涙でいっぱいの進児とマリアン。

「いろんな人に助けてもらって… ここだってわかったの。」

「マリアン。…ごめんなさい。」



「色々…すまなかった。進児。」

「あぁ。いいんだ…兄上…」



兄弟、姉妹はやっと感動の再会…




「ね、マリアン。そちらの方たちは…?
おひとりはジョーン様よね?」

ひっくひっくとしゃくる妹に問いかける。

「あのね… 進児様とリチャード様のお知り合いの魔術師・ビルさんよ。」

「お久しぶりですね…ファリア姫様。」

ジョーンは笑顔で姉妹に近づく。

「えぇ…」



「おいおい…感動の再会はあとあと!! さっさとこんな所、出ようぜ!」


ビルが湿っぽくなった空気を払拭しようと明るく言う。


「あぁ、そうだな。」

進児が階段に向かうけれどリチャードが止める。

「ちょっと待ってくれ!! 
持って行きたいものがある!!」

「は??」



リチャードの言葉にファリアが反応する。

「カイ…ね?」

「あぁ。」

「「「「カイ??」」」」


4人の口から疑問符。
彼は思わずファリアに振る。

「私達をずっと助けてくれた…精霊というか… 何だ??」

「テーブルに封印された神官の心…かしら?」

「あぁ、そうだな。」

「「「「はぁ…?」」」」

「まぁ、とにかく説明は後だ。
運ぶの手伝ってくれ!! 進児とビル。」

「しかたねえなぁ…
俺が運んでやる。」



ビルが単純な魔法の呪文を唱えると
ふわりと浮き上がる。

「ほら、行こうぜ。」

「あぁ…」


6人はホリディの船に乗り込む―







   ***


リチャードとファリアは自分たちの身に起こった事を話す。




「そっか… 兄上もファリア様も… いろいろ大変だったんですね。」

「で、姉さま。テーブルの"カイ"ってこのテーブルのコト??」

「そうよ。
古の神官の…魂というか、意思が封じ込められているの。
あの男に封印されたと話してくれたわ。」

「ふーん… ね、私達とも話せるのかしら??」

「試して御覧なさいな。」



船のキャビンの一角に置かれたテーブルに向かうマリアンと進児。
ふたりはそれぞれ手を突いてみる。


「マリアン…解る?」

「ううん…全然。 進児様は??」

「いいや…」


ファリアは立ち上がり、テーブルに突いた二人の手の上に自分の手を乗せて問いかける。

「じゃ、こうすればどうかしら?? 
カイ??  解る?」

『あぁ…姫。 このふたりがお二方のご弟妹か…』

「そうよ。リチャードの弟王子・進児様と私の妹のマリアン。」

「…え!? 何、今の声??」
「あぁ…??」

「マリアン、進児様。 彼が"カイ"。
ずっと私達を助けてくれていたのよ。」


彼女は笑顔で二人に言う。

『おふたりとも…リチャード王子にもファリア姫にも似て…
お優しくていい力を持っているようだ。』

カイは手を突いたふたりを感じていた。




「ねぇ、何故こうしないと二人には通じないのかしら?」

『あぁ。私はリチャード王子とファリア姫の声に反応するようにされてるから…
おふたり以外には通じない。』

「そうだったの…
あの男には?? 」

『あの男には聞こえない。
仕掛けをしてからはな。
それ以前は…』

「そう… 辛い過去があったのね。
ごめんなさい。」

思わず落ち込む彼女にカイは問いかける。


『…ファリア姫。
リチャード王子は??』

「そこにいるわ。」

『皆さんに聞いてもらいたい。
私の身の上話だ。』

「え?    …解ったわ。
リチャード、ちょっと来てくださる?」


向こうのソファで紅茶を口にしていた彼に声を掛ける。

「ん? 何だ?」

「カイが話したいことがあるんですって…」

「解った。
ところで進児、なんでファリアに手を握られているんだ??」


テーブルの上で彼女は二人の手を握っていた。

「あぁ、カイって人の声がこうしないと聞こえないんだってさ。」

「…僕が握ってやる。
ファリア、放して。」

「えぇ。」

「ちぇ、ファリア様のほうがよかったな。」

不満そうに進児が小声で呟く。

「何か言ったか?? 兄の手では不満か?」

「…いいえ。」


ぎろりと兄に睨まれ居すくむんでしまう。

   (もう…兄上、独占欲丸出しだな…)



「なぁ、俺達も聞かせてくれよ。」

ビルとジョーンもテーブルに近づく。

「じゃ、ジョーン様、私の手を。」

「えぇ。」

「ちょっと、俺もファリア姫が…」

不満を告げるビルの肩を掴むリチャード王子。

「…何言ってる? 
私もちょっとイヤだが… ビル?」

「解ったてば!!」


ファリアの両脇にマリアンとジョーンが、
リチャードの両脇に進児とビルという形でテーブルを取り囲んで天板に触れる。



『初めまして…の方もいるな。
よろしく私はカイ。
かつて…神官という身分にいた男だ。
ラーン王国もルヴェール王国もビスマルク大陸になかった時代に生きた神官だった…』





それからカイは自分の過去を話し出す。


幼くして神殿に上げられ、修行を積み、20歳になる前に大神官となった。
ずっと修行ばかりで少年時代をすごした彼は、初めて恋したときには既に21歳。

相手はまだ16歳の少女。

混沌としたビスマルク大陸では常に魔物が徘徊していた。
…少女も魔物の犠牲者のひとりとなってしまう。

魔物討伐に加わった大神官・カイの力は凄まじく、
魔物の長・デスキュラ族のヒューザーはその力が欲しくて
少女にかりそめの命を与え、彼を誘惑した。

あっけなく魔物の手下となったカイ。

しかし…裏切り者として、司に囚われ、
神殿の地下牢に閉じ込められる。


カイの"力"を恐れた司までもが何重もの術を駆使して
…鎖につなぎ2度と出られないようにした。



時が流れ… 神官も司もその封じ込めたカイの事を忘れ去ってしまう。


何百年も立ち…
神殿には誰もいなくなっていた。


カイの肉体は朽ち果てたが、その"意思"は"力"はずっとそこに囚われていた―


もう自分が何者かもわからなくなったカイの前に現れたのがペリオス。


ペリオスは戒めからカイを解放し、自分に従うように契約させた。

そして肉体のない彼に与えられた使命は…
テーブルに"意思"を与え、次なる人間の言葉に反応せよ―


それがリチャード王子とファリア姫のこと。


最初はただ命令をこなしていくだけ。


しかしふたりの言葉を聞いていくうちに
自我が戻り、記憶もはっきりとしてきた。


忘れていた人間としての想いと心―



そんな中、リチャードとファリアが自分のことを話していた。

 −「テーブルさんに人格があるなら とてもいい人で優しい方のようね。」

ファリア姫の言葉が嬉しくて、どうしても伝えたくなって
…願ったらメッセージカードが出せた。
ふたりと奇妙な形だけれど、"会話"出来たのが嬉しかった。

ふたりはペリオスにさらわれて幽閉されていると知る。




普通なら尋常でない環境で、人格も狂ってしまいそうな状況なのに
そばにいるふたりは…
お互い好意を持ち、いつしか愛し始めた。



それは自分の過去の恋とは違う、
切ない恋と穏やかな愛情を見せられた。


しかもふたりともテーブルの自分の事を不気味ともなんとも思わず、
"人"として扱ってくれていることに喜びを感じ始めた。



"ファリア姫とリチャード王子の為に何かをしたい。"


そう思えばなんでも出来るような気になっていく…




   *


『リチャード王子とファリア姫には感謝している。
こんな私の存在を認め、信頼を下さった。
私は確かに意思を持ったテーブルだ。
今は誇りに思っていますよ…』


「「カイ…」」


テーブルのカイの話にふたりは切なくなっていた。

『私はお二方に教えられた。
どんな辛い時でも、悲しい時でも"優しさ"を忘れてはいけないと。
私はあの少女を失った時に…心を失ってしまったようだ。

…リチャード王子。
許して欲しい。』

「うん?」

『私はあの少女の次に… ファリア姫を愛している。』

「え!?」

当の本人は驚くだけだが彼はそうでもない。

『私はテーブルだ。
それにリチャード王子が誰よりも姫を大切に想っているのか良く解っている。
どうか姫に…幸せを。』

「あぁ。勿論だ、カイ。
私も気づいていた。
君の想いを。」

彼は穏やかな笑みで答えていた。

『…ありがとう。王子。
少し疲れた。
休ませてもらいます。』

「あぁ。」




ふっとテーブルから手を離す6人。



「そうだったんだ… 神官で…
この方もヤツに利用されていたんだ。」

「そうね…悲しい方だわ。」


ファリアとリチャードはそっと寄り添う。

進児もマリアンもビルもジョーンもやるせない想いでいっぱいだった−







to #20


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(2005/12/12)

" THE HERMIT">隠者 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.9.

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