#18 THE HERMIT-1






―魔塔



ベッドの上で横になっている少し顔色が良くなった彼女に声を掛ける。


「ファリア…大丈夫か?」

「えぇ…なんとか。 ありがとう…」

「いいや。 君を失いたくない…
それだけだ…」

「リチャード…」


そっとふたりは抱き合う。



「ファリア、ここから出よう。」

「え?」

「また僕に何かさせようとして…アイツが君を傷つけるだろう…
だから…」

「…解ったわ。」

「あぁ、行こう。」



ふたりは少し暗い笑顔―





「ね、リチャード。
あなた…剣を呼び出してなかった??」

「憶えているのか?」

「うっすらと… ねぇ、ひょっとして"聖剣"じゃないの?」

「え? "聖剣"??」

彼女に問われても、心当たりがない。

「えぇ。風の神殿に封印されているという事だったはずよ。
あなたは風の加護を受けてる…
だから喚べたのではなくて?」


思わず言葉に詰まる。
確かに自分は神殿の御前試合で何度も優勝し、
"聖騎士"の称号も得た。

聖剣が封印されているという話は聞いたことがあったが
自分が喚べるなどとは考え付かなかった。


「……そうか。
アイツは僕に聖剣を出させるために…君を傷つけた。
僕を怒りで暴走させるために…」

「リチャード…」

ふたりはやっと自分達がここに閉じ込められた理由に気づいた。


「僕自身を傷つけたところで…殺されても僕は出せなかっただろう。
でも… 僕の君への愛情をアイツは利用したんだ…
ファリア…すまない。
僕が君を愛したばかりに…ぅ…」


彼は悔しくて思わず涙が零れる。


「リチャード、お願い、泣かないで。
私、後悔なんてしてないわ。
あなたを愛して、愛されて… 嬉しいわ。幸せよ。」

「あ…  ファリア…」

「だからそんな風に思わないで。ね?」

「あ、あぁ…」


ファリアはギュッと抱きつくが
すぐに身を離して彼に問いかける。


「それにしても…あなた自身が聖剣のことを知らされていなかったの?」

「存在はしていると聞いていたけれど…」


"Prince&Princess…"
(王子、姫…)


テーブルからカードが出てきた。


「あ。カイ、あなたなら何か解るの?
ねえ、教えて。」

そっとテーブルに手を乗せるふたり。

『リチャード王子が風の神殿で修行して加護を受けているという事は
なんとなく感じていた。
聖剣のことまで気づかなかったが…
アレはおそらく王子の奥底に封印されていたはずだ。』

「…そうなのか?」

『王子は普段から冷静沈着で思慮深い性格だ。
だから司や神官たちが王子を選んで…

…修行で夜に神殿に泊まったことがあるだろう?』

「…あぁ。 奉納試合の夜にな。」

『その時に封印したのだろう。
聖剣の力のみをな。
剣そのものは神殿の地下にあるはずだ。
いや、あったんだ。
しかし王子が我を忘れるほど…怒ってしまった。
それで喚んでしまったんだ。』

「あいつはそれを知っていた!?」

彼も姫も驚く。

『あぁ。だから君を殺さずに確実に手に入れる方法として姫も連れてきた。
人間は自分を愛してくれる者を傷つけられると…
誰でも怒りを覚える。

二人の愛は本物だ。
何も畏れるな。大丈夫だ。』



ふたりはずっと謎だった…
ここに閉じ込められた理由をはっきり知ることが出来た。




「ありがとう。カイ。
君がいてくれて助かったよ。
色々と…感謝してるよ。」

『王子…』

姿はテーブルだが"カイ"に感謝を示す。




「すまないが、カイ、私に鎧と剣を。
そしてファリアに身軽な服装を。」

「リチャード…?」

カイに言った言葉に姫は彼の顔を覗き込む。

「脱出しよう、ファリア。」

「は、はい…」




しばらくして彼に鎧と剣を出してきた。

『リチャード王子、聖剣は奪われてしまったので私から贈り物だ。
"白き剣"を。』

「"白き剣"? 何処かで聞いたことがあるな。」

「…その剣、持つ人の術法レベルによって、変わる魔法剣だわ。
私、本で見たことあるもの。」

『さすが、巫女姫。 良くご存知だ。
次は姫に…』



テーブルの上に出してきたものは薄物の衣服。
少々露出度が激しく、胸の谷間も白いおなかも見えている上、太ももも露わ。

「ねぇ…コレ、 踊り子の衣装じゃないの??」

『見かけはそうだが、護法がかけてある。
肌が晒されていても多少の事では傷はつかない。』

「ほんとに?」

『あぁ… それからコレを。』


テーブルに出てきたのは1本の錫杖。
リチャードは武器でないので少々驚いた目。

「杖?」

『あぁ。 その杖は…」

「まさか"月影の錫杖"??
なんでまた… 確かコレって月神殿の宝物庫に…」

『姫の為にひっぱってきた。
月の力を増強するはずだ。
持って行きなさい。』

「ありがとう、カイ。
私、着替えてくるわね。」



彼女が出してもらった衣服を持って、衝立の向こうに消えた。

その間に自分も鎧を身に着けていく。

「カイ。」

『何だ?』

「なんで彼女に選んだの…あれなんだ?」

『…身軽な服装と言ったのはあなただが?』

「確かに身軽だが…」

『目のやり場に困るか? 今更何言ってる?』

「そういう問題じゃないだろう?」

『ご不満か?』

「もう… ま、目の保養をさせてもらうよ。
君のセンスは一流だな。」

『お褒めに預かり光栄だ♪』


テーブルとの会話にすっかり慣れていた。





   *

「リチャード、お待たせ。」

「あぁ。」



やはりこんなに肌を晒す服をつけたことがないので少々心もとない姫。

「…って、なんかやっぱり少し恥ずかしいわ。」

「だろうな。」




テーブルに手を突いて問いかける。

「ねぇ、カイ。
他に何かないの?」

『…ご不満かな?
リチャード王子は満足してくれたみたいだが?』

「ほんとに?」

『あぁ。』

確かに目の前の彼は少し嬉しそうにしている。

「なら、いいわ。」






ふたりは紅茶を片手に脱出の方法を考える。

「ね、ところで、どうやって出るの?
塔は上にしか行けないし…
てっぺんから地上まで50メートルはあったわね。
それと谷と山脈ね。」


「…僕も少し考えてる。」


「脱出するつもり満々なのに手段がないのではね…」




ふたりは溜息をついてしまう。





静けさを破るように塔全体に轟音が響く。


どぉーんッ!!



「何?! 何かがぶつかったようだが…??」

「そんな感じね…」


ふたりは不安を感じて抱き合う…








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(2005/12/11)

" THE HERMIT">隠者 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.9.

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