#16 THE MAGICIAN-2
マリアン姫と進児王子は姉姫が巫女を務める月神殿へ―
こちらでは妹マリアンが来たと告げるとすんなりと迎えてもらえる。
もちろん、進児王子も…
奥の間で司に会えた。
月神殿の司…ファリアの母親である。
美しく真っ直ぐな黒髪と深い海のような濃紺の瞳。
白磁のように白い肌…
冷たさを感じるが、誰よりも慈悲深く
月神殿の巫女の最高位を務めている。
月の女神の化身の様だと人々に讃えられえていた。
司の瞳には悲壮感が浮かんでいた。
「…そうか。
やはりファリアは…連れさらわれたか…」
「司様… 姉さまはまだ生きているのですか…?
それとも…??」
「まだ生きている。
しかし感じる波動が弱い。
やはり暗黒の地に連れて行かれたのだね…
月の光も太陽の日差しもあまり射さぬからな…」
マリアン、それに進児殿。
ファリアとリチャード王子を助けに行くつもりですか?」
「そのつもりですが… 居場所がはっきりと解らないので困っています。」
溜息混じりにマリアンが告げる。
瞳を閉じた司は 思案の後、目を開けた。
「ちょっと…待ってください。」
「「はい。」」
月の神殿の司・セーラは娘の居場所を探ろうと"力"を行使する。
もう外には夜のとばりが降りて、月が姿を現していた。
水鏡に映る…ファリアの姿。
様子を伺ってみると、ワイングラスを手にしていた。。
「姉さま…?! 一応、元気みたいね…ワインを飲んでるの??」
「兄上は…?」
映し出す光景の中でふたりは笑顔でワインを飲んでいた。
「良かった… なんとか無事のようだ。」
「でも何処なのかしら? 薄暗い室内ね…」
「あぁ。」
司が水鏡に手をかざす。
「… 北の暗黒の地。 谷… ヘルペリデス… 魔塔… 」
司のくちびるから呟くように出てきた言葉。
「そこにふたりがいるのね?
ね、進児様、早く行きましょう!!」
「マリアン、落ち着け!
北の大地に行くには険しい山脈がある。
馬では無理だ。」
「そんな…」
娘の妹とその恋人の会話を聞いて、話し出す。
「お二方… ひとつ、星が見える。」
「え? 星??」
「えぇ、多分、その方があなた方の力になる人間…」
「誰なんです?」
進児が尋ねる。
「……放浪の魔術師・ビル。」
「…へ?? 本当にアイツが??」
「進児様、知っているの??」
進児の反応にマリアンは問いかける。
「あぁ。俺と兄上の友人というか…知り合いというか…
でもアイツ、何処にいるのか…」
「私が調べたところ、この大陸から離れているようです。」
「はい?? またかよ、アイツ…」
「でも…ある女性のところに戻ってくるようですよ。」
「どなたなんです?」
マリアンが尋ねるとまた意外な名前が挙がってくる。
「…女占い師・ジョーンの元に戻ってくるはずです。」
「え? あの都で有名な??」
「マリアンはその人を知っているのか?」
「えぇ。美人でよく当たるという評判の占い師なの。
私も2度ほど城を抜け出して…占ってもらったわ。」
「おやおや…相変わらずのようですね、マリアン姫。」
マリアンは司の言葉にはにかむ。
幼い頃からふたりの母に育てられ、いつも"おてんば娘"と呼ばれていた。
「それじゃ、ジョーンさんのところで待っていれば、会えるのですか?」
「えぇ。そのはずです。ヘタに探しにいくより確実なはず。」
「解りました。進児様、都のジョーンさんのところに行きましょう!!」
「あぁ。」
「ありがとうございました。司様… 」
「いいのよ。ファリアと恋人のリチャード様を助けてあげて。」
司・セーラの言葉にふたりは驚く。
「!? ご存知だったのですか?」
「……。
ラーン王国に行く前に…あの娘が来た時にね、
何も言わなかったけれど解ったわ。
やっと心から愛する男性が現れたと…でも 皮肉ね。
まさかラーン王国の第1王子とは…
でも王子も… 見たところあの娘の事を…
運命に翻弄されて苦しんでいると…解ったの。
水鏡に危険が迫っていると、兆しが出たから
あの娘を守りたくて伝令を出したけれど、間に合わなかった…
さっきの水鏡に映った様子だと…ふたりは… 」
思わず母の顔になる司・セーラを見て、ふたりは意を決した。
「解りました。姉さまたちを必ず助け出してみます。」
「お願いしますね、マリアン。それに進児王子…」
「「はい。」」
行こうとした二人を思わず引き止めた。
「あぁ…ちょっと待って。」
「はい?」
「あなた方に幸せな恋と穏やかな愛を…」
月の司の手の中にふわりと優しい光。
ふたりを包んだと思ったら、光は天に舞い上がる。
「あ…」
姉から聞いた事がある。。。
司が祝福を与えたふたりには必ず幸せが来ると…
「ありがとうございます。司様…」
「いいのよ。あのふたりをお願いしますね。」
優しい月の光に包まれた司は 進児とマリアンを見送る。
その顔には微笑が浮かんでいた―
***
ふたりはもう夜も遅いので、一旦ルヴェール王宮へ戻る。
翌日、都の女占い師のところへと。。
都の中心部の街で占いを生業としている女占星術師・ジョーン。
進児たちは仕事中のジョーンの元へと。
「あら?マリアン様。 また恋占いに?」
「違うの。今日は違う用件で来たのよ。
えっと、とりあえず紹介するわね。
私の…恋人の進児王子。」
「ま!! やっぱり!!そうだと思ったわ。おめでとう!!」
「…ありがとう。それでね実は…魔術師のビルさんってご存知?」
「えぇ…何度も来られているわ。
でも今はゲヴィト大陸に渡っているみたいなの。
あと1週間は戻らないわ。」
「…って、マジ??」
「えぇ。ひと稼ぎしたら戻ってくるとは言っていたけど…」
はぁと進児とマリアンは溜息をつく。
「しょうがねぇやつだよ…まったく…」
「どうしようかしら… 進児様…?」
「…ヘタに探すよか、ここで待っていたほうが良いんだろう?」
「そうよね…」
「何かあの人に御用なの?」
「あぁ…」
「実はね…」
マリアンが事情を説明する。
「そういうことなら…とりあえずビルが戻ってくるまで
お兄様とお姉さまの無事がわかればいいのでしょ?」
「そりゃそうなんだけど…」
ジョーンはにっこりと笑顔を向ける。
「ファリア様なら一度お会いして、占っているし…
今の情況を占って見ましょうか?」
「そんなことできるの?」
マリアンが驚きの目で見る。
「えぇ。 ちょっと静かにしてくださる?」
「あ、はい。」
タロットカードと占星術を駆使するジョーンは精神を集中していた。
結果は…「THE LOVERS」それと「THE HARMIT」
「どういうこと??」
マリアンが問いかける。
「しばらくは無事みたいね。
それに…この「恋人達」…かなり意味深ね。」
「え?」
「確かに進児様とマリアンを占った時にも出たけど
おふたりの状況からすると… かなり想いあっていると見ていいんじゃない?」
「そうなんだ…」
進児が呟くと横でマリアンは笑顔になっていた。
「そういえば、水鏡に映った姉さま…幸せそうだった気が…」
「…兄上も… そういえば…」
「状況はともかく、おふたりは幸せみたいね。」
「そうみたい。」
「…ビルが戻ってきたら、連絡しますね。マリアン様。
王宮にお戻りになるのでしょ?」
「そうするしかなさそうね…」
「あぁ。じゃ、頼めるかい?」
「解りましたわ。」
進児とマリアンは占い師ジョーンの店を後にする―
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(2005/12/10+11)
" THE MAGICIAN">魔術師 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.1.
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