#7 THE DEVIL
―2日後
ラーン王城にルヴェール王国の使者がやってきた。
「火急の用件で…ファリア姫にお取次ぎを!!」
リチャード王子とふたりで庭園にいたところに使者は連れて行かれる。
「一体何事なの?!」
「はい…それが… 月神殿の水鏡に…姫様に危険が迫っていると兆しが。」
「何ですって!?」
使者の言葉で顔色が変わる姫。
「それで大至急、神殿に入られ、篭られる様にと…司様が。」
「解ったわ。
王子、申し訳ありませんが…」
「あぁ。承知した。
ところで妹君はどうされます??」
「… もうしばらくいさせてやってくださいませ。
私はすぐに出発します。」
「私が国までお送りしましょう。」
王子の目には迷いはない。
「え?」
「あなたの身に危険が迫っているのならなおさらです。
私に守らせてください。」
「でも、王子は…」
ファリア姫は彼が第1王子だからそんな事をさせたくはなかった。
「大丈夫です。
これでも国一番の剣士で魔法も行使できます。」
言い切った王子は力強い瞳を見せる。
「…解りました。
お願いします。
1時間後には出発します。
妹にはまだ知らせないで下さい。」
「えぇ、解りました。」
ファリア姫は身支度をして、最低限度の荷物を積め、馬車に乗り込む。
護衛にとリチャード王子以外にもラーン王国の魔法剣士が7名つく。
黒塗りの覆面馬車は一路、ルヴェール王国へとひた走る―
***
半日ほどで 明け方の国境の草原に着く。
ここを越えればルヴェール王国の領土。
国境の草原でルヴェール王国の10名の近衛兵が待っていた。
これはただごとではないと王子も魔法騎士達も感じる。
「リチャード王子。
もう国です。
兵士もいますし… お戻り下さい。」
馬車の窓から馬上の王子に告げる。
「いや 国までお送りするとお約束した。
神殿に入られるまでお供します。
お前たちは戻れ。」
「はッ。 はい!」
王子が魔法騎士達に告げた直後、一気に明るくなりかけていた周辺が暗くなる。
空を見上げると …3匹の飛竜。
「!?」
急降下して、こちらに向かってくる。
咄嗟に王子は叫ぶ。
「シールドを展開しろ!! 姫を守れ!!」
「はッ!!」
ラーン王国の魔法剣士も、ルヴェール王国の近衛兵もそれぞれ 魔法でシールドを展開する。
飛竜は降りてきた途端、炎を吐いた。
「うあぁああ…」
「くッ!!」
凄まじい火炎は術法レベルの低いモノからシールドごと飲み込んでいく。
シールドが一気に破れ、瞬時に灰と化していくものも。
「何だと!?」
リチャード王子はシールドが持たなくなるのを恐れて
範囲を縮め、自分と姫の馬車を守ろうとする。
「くう…ッ!!」
馬車から降りてきた姫は王子の背後に立ち、
彼を援護するために術法を唱える。
なんとかシールドは強まったが、それでも火炎の勢いは凄まじく、気圧されていく。
「うッ…!!」
チリチリと焼けるシールド。
何とか踏ん張るがじりじりと押されている。
(もう…もたない…か…!?)
シールドごと弾き飛ばされるが、姫だけは守ろうとして覆いかぶさる。
「くうッ!!」
背に高温を感じ、シールドが破れかけている事を悟った。
「おっと。肝心の姫と王子を殺しては元も子もないな。」
男の声がして、火炎が止んだ。
王子は身を起こし、声のした方を見ると
竜の背に立つ黒いマントにグロテスクな黒い鎧を纏った緑の髪の男。
顔は秀麗だが瞳は鋭く冷たい。
「お、お前は!?」
「ははは… よく守ったなリチャード王子。
そんなにその姫が大事か?」
剣に手を掛け、叫ぶ。
「彼女には指一本触れさせんぞ!!」
「くッ…はははは…
お前も姫も見ただろう?
私の竜の炎の凄まじさを!!
見ろ!! そこに転がる死体を。」
「「!?」」
人間の原型を留めていない焼け焦げた遺体がそこここにある。
みな魔法騎士と近衛兵。
馬車も破片が残っているだけで、ほとんど燃え尽きていた。
馬も逃げる間もなく焼かれ、肉塊と化している。
「きゃ…」
「うッ!!」
姫は思わず、王子の胸に顔を埋めていた。
彼も抱きしめていた。
あまりにも凄惨な光景。
まだ草原の草もくすぶり、嫌なにおいが漂っていた。
「こうなりたくなければ、私の言う事に従ってもらおう。」
自分ひとりなら 戦いを挑むだろうが 今は守るべき姫がいる。
腕の中にいる姫に告げた。
「ファリア姫… 私が必ずお守りします。
ついて来てくださいますか?」
「そうするしか…ないようですね。」
二人の言葉を聞いた男は満足げな顔。
「懸命な判断だ。 ここに乗るがいい。」
男の竜は他の2匹に比べ ふた回りほど大きい体躯。
「姫…失礼。」
「え? きゃ…」
王子は姫を抱き上げ、竜の背に飛び乗った。
「よし! 帰投する!!」
男の一言であっという間に3匹の竜は上空に舞い上がる。
一路、北に向かう―
「お前は何者だ? 私達をどうするつもりだ?」
リチャード王子は怯むことなく、キッとした瞳で問いかける。
「…私はペリオス。
お前たちが暗黒の地と呼ぶところに来ていただこう。」
「「!?」」
ふたりは思いがけない言葉に驚く。
「それではお前は… 私の国とルヴェール王国を…狙っているのか?」
「答える必要はないな。」
ペリオスと名乗った男は行く先の暗い北の空を見つめていた。
「目的は…それ以外何がある? 姫なのだろう?」
「……。 確かにそうだが、お前も目的のひとつとだけ言っておこう。
いずれ解る。」
謎めいた言動に意図が読めない。
姫は不安を感じているのか王子にしがみついてくる。
彼の抱き上げる腕にも力が入っていた。
(守ってみせる。 例え 僕の想いが…届かなくてもな!!)
*
険しい山脈を越えると一気に気温が下がった気がする。
「姫、寒くはありませんか?」
「大丈夫です。」
そういう返事でもリチャード王子は自分のマントを脱いで姫に羽織らせる。
「そんなはずないでしょう。
あなたの方が薄着だ。着ていて下さい。」
「…はい。」
そんなやりとりをペリオスは冷めた瞳で見つめていた。
突然、降下を始める竜。
他の2匹は真っ直ぐ北に飛んでいった。
竜が降り立ったのは…暗い谷。
そこには石造りの大きな塔が建っているだけ。
塔はゆうに高さ50メートルはある。
塔のてっぺんに降り立つとペリオスはふたりに言い放つ。
「この塔にしばらくいてもらおう。」
「何?」
「そこに入り口がある。
中にしばらく滞在していただこう。
リチャード王子、ファリア姫。」
冷たい笑顔でふたりはぞっとした。
「くッ…」
ここで逆らっても無駄だと悟り、王子は姫を抱き上げたまま竜を降りる。
「私の言う事に従えば、命までは取らん。
安心するんだな。」
「その言葉、信用できるのか?」
「信じる信じないはお前たちの勝手だ。
ははは…」
ペリオスは竜の背に立ったまま、上空へと姿を消した。
to #8
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(2005/12/6+7)
" THE DEVIL">悪魔 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.15.
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