#15 THE MAGICIAN-1



☆ここで進児王子とマリアン姫の時間に少し戻ろう☆



姉に月神殿の使いが来て、帰国したと夜になって聞いた。
リチャード王子が護衛についていったと聞いて安心したマリアン姫。


進児王子とはすでにお互いを恋人として認める仲となっていた。


「近々… 私も帰国しまわ。」

「えぇ。俺がお送りしますよ。」

「ありがとう…進児様。」



マリアンはすっかり彼を信頼し、愛していた。



「ね、進児様。
私の姉とあなたのお兄様のリチャード様のこと… どう思います??」

「え?」

マリアンは視線を進児から外した。

「私の姉…私にも隠してますけど… リチャード様のこと お好きみたいなの…」

「えっ!? ホントに??」

「えぇ。自分が未来のルヴェール王国の女王で リチャード様がラーン王国国王だから…
多分、ご自分の想いを閉じ込めているの。
私、今は姉の気持ち…とても辛いと解るから…」

「マリアン…」

「好きな方が目の前にいるのに…伝えられないのって…
とても苦しんでるって…
多分、姉は優しいから…周りにに迷惑かけたくないと思って言えないんだと…」

マリアンのそう言ったブルーの瞳から綺麗な雫が零れ落ちる。



進児の胸も苦しく締め付けられていた。

「あの…マリアン。
実は…俺の兄はあなたの姉上に恋なさってる。」

「えっ!!ホントに??」

「あぁ。兄上も… お互い第1子で国の跡継ぎだから、
結婚は無理だと諦めかけていた。
けど、俺は兄上に幸せになって欲しいから 諦めるなってたきつけた。
マリアンの姉上なら 素晴らしい女性だと思ってさ。
実際、ウチの城で一緒の時間を過ごして、お話しててよく解った。
あの方は兄上の妃にふさわしい方だって…」

「進児様…」


なんとなくリチャード王子が姉を好きなんじゃないかとは感じていたが
マリアンも進児の言葉に驚きを隠せない。

「でも今、兄上は… 結婚できなくてもいい。そばにいて見つめるだけで良いって…
そんなの切な過ぎるよ… 悲しすぎるよ…
兄上達が結婚できる方法… マリアンも考えてみてくれないか??」

「えぇ…!! 進児様、もちろんだわ。
私達だけ幸せになんてなれないもの…」



マリアンの笑顔に進児も笑顔。

「あなたも…あなたの姉上も素晴らしい女性だ。
俺達兄弟はとても誇りに思うよ。」

「私もです。進児様もリチャード様も素敵な方…
頼もしくて優しくて…」

「マリアン…」

そっとキスを交わすふたりー




「もうこんな時間だ。おやすみ、マリアン。」

「えぇ。おやすみなさい。」




進児は笑顔で部屋を後にする。

まさかファリア姫が兄に好意を持っていたとは気づかずにいた。





マリアンは4人で幸せになれることを願って、ベッドに入る…








   ***


―明け方


名を呼ばれた気がして目覚めたマリアン。

「姉さま…?」


空はもう白み始めていた。



   (もうそろそろ…国境くらいね…)




ベッドに横になり、もう一度寝ようとする。

   −マリアン!!−


「えっ!? やっぱり…姉さま…??」



心で問いかけても返事はない。

今まで何度かお互いの危機を感じて声を掛け合ってきた。



   (何かあったんだわ… しかも… 返事がない!?)




マリアンは慌てて早朝の寒い廊下を進児の部屋に向かって駆け出した。




「進児様!!」

「ん…ぁ… ?? マリアン?? どうしたの… ってまだ5時過ぎたトコ…」

のん気な返事の進児の前でマリアンは切羽詰った顔。


「ごめんなさい。進児様… でも聞いて。
姉に…何かあったみたいなの。
呼びかけても返事がないのよ!!」

「は?!」

「今までこんな事なかったの!! 何か…大変な事が…」

「兄上が一緒だが…」

魔法も使いこなし、剣の腕も国ではトップクラスの兄が自慢の弟。
有事があっても大丈夫だとふんでいた。


「進児様、お願い!! 一番速い馬を貸してください!!」

「え?!」

「もう間に合わないかもしれないけれど…追いかけます!!」

マリアンの真剣な顔を見て、やっと状況を理解した。


「…解った。
父上のカイザー号を。
俺も一緒にレオン号で行こう。」

「ありがとう、進児様。」

「じゃ、仕度しよう!!」

「はい!!」


ふたりは急いで着替え、軽く食事して出発した。
2人の護衛兵だけを連れて…







「あっちはお姉さまの馬車があるから…追いつけるはず…」

「あぁ、普通なら午後には追いつけるさ。」





2度ほど休憩を入れただけで ひたすら馬を走らせる。

太陽が真南になる正午過ぎ…
ふたりと護衛兵は国境の草原まで来た。


「「!?」」



異様な光景が…そこに広がっていた。



草原の草は広範囲に燃えた痕。
一部、焼け焦げており、土がむき出しになっている。

その上に転がる人間らしき形のモノ。

「なんだ…これ??」

進児が触れると炭化していたので、ボロリと崩れる。



「進児様…こっち…」

「ん?」

馬車らしき燃えカスと すぐそばに焼けた肉塊。
肉食の狼に齧られた痕がある。


「なんだ? コレ… まさか、馬車と馬…なのか?」

「そう…みたい。」


大きな肉塊は4つ。
馬車は4頭立てだった。



「ちょっと、マリアン。 静かにしていてくれる?」

「え? えぇ…」




土が覗いているトコロに手を突いた進児は残留思念を読もうと口の中で術法を唱える。




一気にその場で起こった出来事がまぶたの中に映りこむ。



   <
「姫を守れ!! 展開しろ!!」

    兄上の声だ…

    
草原の草も人間も空気も何もかもを燃やし尽くす竜の火流―

    何!? 


    
必死にファリア姫を庇うリチャード王子―

    「こうなりたくなければ私に従え!!」


    誰だよ、コイツ… 兄上?ファリア様?


    
兄とファリア姫が男の竜に乗ると 空高く飛び去っていく―   



目を開けた進児は一大事だという事を理解した。




「マリアン。あなたの姉上と私の兄が竜に乗った男にさらわれた。」

「何ですって!?」

「ここで竜を操る男に襲撃されたんだ。
そこここにある 人の形らしきものは…
わが国の魔法剣士たちとルヴェール王国の近衛兵たちの遺体だ。」

「アレが!?」

「あぁ。竜の轟炎で焼かれたんだ。
兄上は必死にファリア様を守っていたけど…竜を操っていた男に脅されたみたいだ。
多分、あの竜の炎でふたりとも殺すとか言ったんだろう…

だから逆らえなかった。」


「姉さま…」

ショックで滂沱するマリアン。


「おい、良二。」

「はッ!」

共にきていた兵士に声を掛ける進児王子。

「この事を… 兄上達が竜に乗った男に拉致されたとと父に報告に戻ってくれ。」

「かしこまりました。」

「マイケルは… 先にルヴェール王宮に行ってこの事を知らせに行け。
俺とマリアンはもう少しここを調べる。」

「「了解しました!!」」


兵士達はそれぞれの任務を負って 馬を走らせる。



「マリアン…あなたはファリア様の思念を感じ取れるようだが…
今何処にいるか解るかい??」

涙の痕が痛ましいマリアンに問いかける。

「いいえ…」

「そうか…」


「アトの手がかりは竜を操る男…か…」


涙を拭い、マリアンは立ち上がる。

「ね、進児様。
とりあえず私の太陽神殿に行きませんか?」

「え?」

「太陽神殿なら…たしか今は賢者様がいらっしゃるはずなのです。
何か方法がないか聞いてみましょう。」

「あぁ…そうしよう。」







   ***



進児王子とマリアン姫は夕方に 太陽神殿に到着。

巫女がひとり、姫を出迎えた。

「マリアン様!?」

「あぁ。ダイアナ。
…申し訳ないけれど、大至急お母様に…いいえ、司様に取り次いでもらいたいの
私とラーン王国の王子が相談したいことがあると…」

「かしこまりました。」




すぐに奥の間に通されるふたり。


「司様、ご無沙汰しています。」

「えぇ…マリアン。
しばらくラーン王国に行っているはずだったのでは?」

「えぇ。… こちらがラーン王国第2王子の進児様です。」

お辞儀をする進児王子。





太陽神殿の司…つまりマリアンの母親である。
美しい波打つ金の髪と空のように澄んだブルーアイ。
優しさと厳しさを兼ね備えた巫女の最高位を務めている。

その美貌は国内外にも知られている。

優しげな顔でふたりに問いかけた…


「で? 何用かしら?」

「その…今朝未明に姉とこちらの進児様の兄上・リチャード様のおふたりが
竜を操る男に襲撃を受け、連れさらわれました…」

「何? 竜??」

「はい。」

進児は真剣な眼差しで見つめ、告げる。

「…司様。
私が残留思念で確認いたしたのですが、黒い飛竜が3頭。
そのうち一番大きな竜に乗り、操っていた男が兄とファリア様を脅し、
竜に乗せて連れ去ったのです。
目的は不明ですが…
ふたりとも殺せたのにそうしなかったトコロを見ると何か魂胆があると見て取れます。」


司は進児王子の言葉を聞いて、瞳を閉じた。

「…そうか。
とりあえず一連の事件の詳細を調べてみよう。
…レンはおりますか?」


「…はい。こちらに。」

突然現れたのは 賢者・レン。
厳しい修行の結果、様々な魔法を使いこなし、
魔法の知識は世界一と評される老師。


「話は聞いていたでしょう?
今朝未明の国境を光鏡に映し出せますか?」

「太陽が出ていますので…おそらくは。
何かその場に残されたものをお持ちか??」

「あの…これを。」


マリアンは馬車の金具だった…変形した金属を差し出す。

「ふむ…」


賢者は手に握り締め、何か呪文を唱え始める。


「………!! はぁああッ!!」


ぶううんっと音がしてその部屋の中央に直径7フィート(2メートル強)ほどの銀のプレートが浮かび上がった。

すぐに明け方の空が映り出し
ちょうど馬車と護衛についていた魔法剣士7名とリチャード王子が草原に差し掛かるところ。

ルヴェール王国の近衛兵10名と合流していた。

「!?」

一気に周辺が暗くなったので空を見上げた兵士の目に映ったのは3匹の飛竜。
急降下して近づき、着地と同時に炎を吐く。
あっという間に火炎地獄と化した。

リチャード王子がシールドを展開しているが兵士が次々と轟炎に飲まれていく。
ついに彼と馬車だけになる。

ファリア姫が馬車から飛び降りた途端、馬車も一瞬で炎上。
逃げる間もなく馬4頭も炎に飲まれた。

リチャード王子のシールドがファリア姫の援護で強まったように見えたが
弾け飛んでしまい、彼女を庇うように覆いかぶさる王子の背のすぐ上を火炎が踊る。


声がして炎が止むと…怜悧な美貌の男が竜の上に立つ姿。
黒い鎧に黒マント。
美形ではあるが何か企んでいそうな不敵な笑みを浮かべている。

「この男が姉たちをさらったのね?」

「あぁ。」

ファリア姫を庇う、兄を見て進児は誇らしげに感じていた。

   (こんなに命がけで…ファリア様を守ったんだ…兄上…)



竜の上の男を睨みつけていたが脅され仕方なく彼女を抱き上げて竜に飛び乗る。

上空へと消え去る竜―


そこまででプレートには何も映らなくなった。



「こういう経緯…か。」

司は納得したように呟く。

「そのようで。
それにしても凄まじい火炎で。
あの王子の判断は賢明ですぞ。」

「そうですか…」

そう言われても兄と姉姫は連れて行かれたのだ。
悔しい思いで拳を震わせていた進児…


「見なさい。この金具。
半分融けた上、変形もこんなにしている。
あの炎は…800度以上あるだろうな…」

「そんなに?! リチャード様、凄い…」

マリアンが驚きの声を上げる。

「兄上の…想いの強さですかね??」

「それもあると私は見ますね。」

司もリチャード王子の目を見て、どれほどファリア姫を想っているのか察した。



「そうなんだ… リチャード様、そんなに姉さまの事…」


「…で、何処に連れさらわれたか解りますか?」

進児は司と賢者に問いかける。


「竜の向かった方向は…北。
それに竜の胸にあったプレート… 
アレに何か見覚えがあるわね。
レン、解りますか?」

「ふむ…確か…」


ちらっとプレートに映りこんでいたのを思い出し、書き出してみて気づく。


「むむむ…これは…暗黒の地の古の魔族・デスキュラの紋章…だな。」

「「デスキュラ?!」」

ふたりは昔話でしか聞いたと事のない名を聞いて驚く。



「あぁ、古に封印されたとされておるのだが… 
封印が弱まって何かのはずみで解けかかっているのかもしれぬな…」

「封印?」

「あぁ、北の大地の封印の祠と南の<テカニ島>の封印の祠。
アレを解き放つには…聖剣…つまり"風の聖剣"が必要なのだ。
聖剣も風の神殿に封印されているはず。」

賢者の言葉に一番反応したのは進児王子。

「風の神殿??? つまり兄上が修行している神殿…か…」

「あなたの兄はそこで修行を?」

「はい。5歳からずっと通っています。
私は大地の神殿に…」


進児の返事に司と賢者は顔色を変えた。

「と、いうことは… あの王子は聖剣を呼び出せる可能性もあるわけだ…」

「しかし…神官クラス以上の術者でないと…無理だな。
だかさっきのシールドのことからしてもかなりレベルはあると見えますね。」


賢者と司の言葉に進児が気になる一言を更に告げる。

「兄は…一応、神官クラスの術者です。」

「「何ッ!?」」

「風の神殿の剣の御前試合で何度も優勝しています。
ですから…"聖騎士"の称号を授かって、奉納試合も…」

「何だと!! それは真か!!?」

「はい。それが何か大変なことで…?」


賢者は真剣な顔で話し出す。

「それでは紛れもなくあの王子に聖剣が封印されておる。
本人も知らぬうちにな。」

「「はぁ!?」」

「あの男の意図が読めてきましたな。」

レンが確信の言葉を呟く。



「そうですね。
リチャード王子を痛めつけて剣を出させるより…姫も連れ去って…
情を交わさせた上で姫を痛めつけるか、殺して、彼の怒りを起こせば…」

「おそらく剣が出現するでしょうな。」


賢者と司の言葉にマリアンも進児も愕然とした。

「!? そのために姉さまが!!」

「そのようだ。
最悪の事態は… 剣を出させた後にふたりとも殺されている…」



泣き出してしまうマリアンを進児は抱きとめる。。。


「兄たちの生死を確認する方法はないのですか?」

「…ここでは無理だ。
ファリア姫の加護は月の力だからな…」

「じゃ、月神殿に行きます。」

「そうしたほうがいい。」

司がそう言うと、マリアンは涙を拭う。

「姉さまのために行って来ます。」

「あぁ。… マリアン、これを持っていきなさい。」

「え?」


母でもある司が差し出したのは太陽の形のトップのネックレス。

「お前の守護を…力を強める。
もし暗黒の地に行くのなら… 持っていきなさい。」

「ありがとうございます。…司様。」

「いいや。 …この世界のバランスが崩れるかもしれぬ。
…早く行きなさい。」

「はい。 
進児様、月神殿に行きましょう。」

「あぁ。
それでは失礼します。」






ふたりは慌てて太陽神殿を後にする。




   *

「あの王子なら… マリアンを幸せにしてくれそうだな、レン。」

「えぇ。マリー様。」


残された司と老師は微笑み合う。

「良い目をしていた… 。

それにしても古の魔族・デスキュラが復活をもくろんでいるとすれば…
封印をとかれるのも時間の問題。
神官や巫女たちを武装させなければならないかも…」

連れさらわれたふたりの身を案じたいが…胸には嫌な予感があった司。


「はい。準備させておきましょう。
事を起こすとすれば…次の新月でしょうな。」

「あぁ…」





to #16


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(2005/12/9+10)

" THE MAGICIAN">魔術師 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.1.

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