#13 THE LOVERS -5



翌日―
目が覚めた王子は少し驚く。

腕の中の彼女の白い肌に残るキスマーク。


   (え、ぁ… やっぱり夢じゃなかったんだ… 僕、 ファリアを抱いてしまったんだ…
    確かに 結婚すると誓いは立てたが… 今は抱くつもりなかったのにな…
   
    そんなになるほど、ワインを飲んでしまったか…?)

はぁと溜息をつき、自己嫌悪。


シャワーを浴びて、服を調え、カイに告げる。

「カイ。すまんが、冷たい水を…」

すうと氷の入った水がグラスに入って出てきた。


テーブルの天板に、文字が浮かぶ。

"Prince…"
(王子…)

「ん?」

"last night…  a lovepotion in wine."
(昨夜… ワインに媚薬が入っていた)

「何?! 媚薬??」

"Yes."
(あぁ)

「それで、半分記憶がないのか?」

"Propably…"
(おそらく…)

「仕方ないな… 情けない… 」



溜息をついた彼はテーブルに手を乗せていた。
脳裏に昨夜の光景が浮かぶ。


   (え? あ、そうか…)


ぼやけていた記憶が鮮明に思い出せた。

「って、カイ。君の力なのか… 今のは?」

"Yes, Prince…"
(あぁ。 王子…)

「すまんな。」


どんな風に彼女を求め、どんな風に自分が感じたかを克明に思い出した。


   (って… あれ? ってことは… まだ、最後まで…!!)


確かにファリアの肌のやわらかさを熱さを憶えているが…
最後まで至ってなかったと思い出せた。



思わず口元を手で覆い、テーブルに手を突いていた。
はぁと安堵の溜息をつく彼にダイレクトに話しかける。

『思い出せたか?』

「あぁ。すまん。よかった…」

『王子…だかしかし、姫をちゃんと愛してあげなさい。』

「え?」

『彼女は非常に切なそうだった。』

「そうか… それでは今夜、彼女に断りを入れて…
…なッ… カイ…   君…聞いていたのか?私達の昨夜の声を?」

王子は顔を真っ赤に染めてテーブルに問いかける。

『それはそうだ。
テーブルだから見えてなくても、聞こえているのだよ。
まぁ…状況も声の様子で大体解る。』


思いがけない事に彼は恥ずかしさを感じた。

「すまんが… 今夜は聞かないでくれないか?」

『無理だ。』

「何故?」

『耳があるわけではないが、あなた方の声を聞き取るようにされている。』

「それでは、君に布でもかけようか?」

『…わかった。 プライバシーの侵害とでも言いたいのだな?』

「あぁ。 それじゃ… テーブルクロスを夜にかけるよ。」

『承知した。』






王子とテーブル・カイの会話がひと段落着いた直後、姫の声がベッドからした。

「リチャード…?」

「ファリア…目が覚めたか?」

「えぇ… 」

ポッと頬を染める彼女に気づく。

「私… シャワーして着替えてきますから…少しだけ朝食を待ってくださいな。」

「あぁ。入っておいで。」


王子が笑顔で答えると 姫が慌ててバスルームに駆け込んでいく。


「な、カイ…」

『ん?』

「なんで彼女の反応、あぁなんだ?」

『どうした?』

「頬を染めていた。」


一瞬カイは黙ったがすぐに答える。

『それは… あなたがテクニシャンだからだろう…?』

「は? テクニシャン??」

『自覚ないのか? 
女を喜ばせるテクを持っているということを。』

「…!?」

彼は指摘されて、頬を染めた。


確かに以前、閨の教師キリーに言われた言葉を思い出す。

  「殿下が…愛する女性は幸せになれますわ。」

   (そういう意味だったのか…)


確かにキリー以外にも相手にした時、
自分は醒めていても相手の女性はかなり乱れていた。

思わず微笑が浮かぶ。


   (と、いうことは… ファリアを歓ばせてあげられるって ことだな…)

手をテーブルに載せていたために 心の呟きをカイが聞いていた。

『そういうことだ。
ひとつだけ教えておこう。』

「何だ?」

『姫は…巫女だ。
         
おとめ
汚れを知らない処女だという事を忘れてはいけない。』

「…解った。」



ふたりは会話していたが 
カイの声は姫の耳に聞こえていない。

「リチャード、お待たせしましたわ。
カイ、すまないけれど朝食をお願いね。」

"Yes, Princess."
(はい。姫。)


いつものように朝食が並びだす。



ソファに腰を下ろし、食事をしようとする姫。
王子はまだ立っていた。

「どうかなさったの…?」

「何でもないよ。」

「? そう、ならいいけど…」

テーブルに文字が浮かぶ。

"Good-morning, Princess."
(おはよう、姫)

「えぇ、おはよう。カイ。 今日も一日お願いね。」

"Ok."
(了解)



王子は複雑な笑顔を浮かべていた。




朝食を済ませると、王子は階段で腕立て伏せを 姫はハープを弾いている。


汗をかいた彼は再びバスルームでシャワーした後、
カイに水を頼む。
ことりとテーブルにグラスが出てくる。

"Prince…"
(王子…)

文字が浮かんできたので、手を突く。

『おふたりにプレゼントしたいのだが…?』

「プレゼント?」

『あぁ。 受け取って欲しい…』


テーブルの上に直径1インチ(約3cm)ほどの赤い木の実が出てきた。

「コレは?」

『姫なら…正体を知ってる。
彼女が食べてくれるかどうかは…彼女自身の判断による。』

「一体、何だ??」

『聞いてみるといい…と言いたいが、
彼女の口からは言いにくいかもしれんので 私が教えよう。
この木の実は「コムの実」
一言で言うと…避妊薬だ。』

カイの言葉にびっくりした王子。

「!? 何でそんなものを!!」

『… ここを脱出する時に…彼女が身ごもっていれば不都合だろう??
だからだ。』

「…何故、そんな事を?」

『… 姫と王子なら最初で子を授かる可能性が大きい。
それを回避するために。』

カイなりの気遣いと解るとありがたく思う。

「…気を使ってもらってすまんな。」

『いいや。 私はあなた方が幸せになってくれることを願っている。
それだけだ。』

「ありがとう…カイ。」


テーブルから手を離し、姫に声を掛ける。

「ちょっと…こっちに来てくれないか?」

「何ですの?」

ハープの手を止め、テーブルに近づく。


「カイがコレを私達にくれた。
後の判断は君に任せる。」

王子が差し出した木の実を受け取り、それが何かを悟る。

「!? これ… 」

「やっぱり知っているのか?」

「えぇ。 この実は コムの実… 
神殿の春の大祭の時に選ばれた巫女だけが食べるものなの。」

「なんでまた…??」


少し言いにくそうに姫は話し出す。

「… その… 選ばれた巫女達は…奉納してくださった殿方に身を捧げるの…
数人の方と交わるから… 子が出来てしまったら誰の子か解らない。
だから… 食べるの。   
…避妊のためにね。」

王子は彼女の言葉に目が大きく開く。
自国にある神殿ではそのような祭事はない。

「そうかのか…カイ?」

"Yes."
(あぁ。)


テーブルに手を突いて姫は尋ねる。

「どうして私にくれたの?」

『今は…身ごもるにはふさわしい時期ではない。
いずれその時は来るだろうが… 』

「そう…」

昨夜のことを思い出すと、近日中に彼に抱かれる瞬間があると予感する。
カイの心配も 理解した。

「ありがとう、カイ。頂くわね。

リチャード…あのね、この実、3ヶ月間効果があるの。」

「そうなのか?」

「…だから愛してくださいね。」


コムの実を口に運ぶ姫。


「ん…」

カリカリと歯ごたえのある実を1粒食べきってしまう。


「…あまり美味しくない… 
カイ、口直しに何か下さいな。」

"Ok."
(了解)



テーブルの上に小さめのホールのストロベリーケーキと紅茶がふたり分。


「美味しそう♪ 頂きましょ。」

「あぁ。」


直径15センチほどのケーキを皿に切り分け、皿に載せる姫。

「はい。リチャード。」

「ん。 …ファリア。」

「なぁに?」

「はい。」

口元にケーキの上に乗っていたイチゴを持ってこられた。
嬉しそうな彼の顔を見て、口をあけると一粒入れられる。


「ん…」

「美味いか?」

「えぇ。じゃ…あなたにも。」

「んッ…」

「おいし??」

「あぁ。 …でも、もっと甘いものが欲しいな。」

「なぁに?」

ちゅっとキスしてきた王子。


「君。」

「え…?」

「カイ、すまないが…テーブルクロスを。」

"Ok."
(了解した)


テーブルの上のものが消えて、ふわっと白いテーブルクロスがかかる。




「何??」

「いいから…」


ひょいと姫を抱き上げ、ベッドに連れて行く。



「ケーキより甘い君が欲しい…」

「リチャード…」

熱く潤んだ瞳は見つめ合い、気づけばくちびるを重ねていた。




ひとつに解け合い… 喜びを分かち合う―――










   *


それから3日間、ふたりは今まで知らなかった甘美な時間を過ごしていた。

ペリオスは水晶球で そんなふたりを覗き見て、満足げに微笑んでいる。

「そろそろ…次の段階に行くかな…?」


黒いマントを翻し、椅子から立ち上がるとふっと姿が掻き消えた…









to #14


______________________________________________________________
(2005/12/7+9)

" THE LOVERS">恋人達 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.6.

to #12

to Bismark Novel

to Novel top

to Home