#12 THE LOVERS -4
―次の日もふたりは穏やかに時間を過ごす…
王子は階段の斜めを生かして 腕立て伏せをして 身体を鍛えることを始めた。
「無理なさらないでね…」
「あぁ…大丈夫。」
汗を滴らせ、片腕1本で頭を下にしてこなしていく。
「88、89、90…」
姫は多少ハラハラしながら見守っていた。
ソレを終えるとバスルームで汗を流し、服を調えた後は、
ふたり揃って魔法の研究書を開いての小さな修行。
少しでも術法のレベルを上げたいと王子が言い出したのでふたりで取り組む。
ランチを済ませると少しカウチでうとうとする彼にハープを聴かせる姫がいた。
その様子を見ていたペリオスは 怒りを通り越して呆れていた。
「全くこいつら… 私の与えた環境に順応しすぎではないのか??
緊張感ゼロだ…」
ペリオスの思惑では 閉鎖された空間でふたりが急速に近づき、
お互いを求めセックスすると思っていた。
しかしその思惑は外れていた―
ふたりは拉致以前から 片思いしあっていた。
ここに来て初めて お互いの想いを知り、素直に愛を育みはじめている。
ペリオスにとって理解不能な人間の愛情…
*
カウチで眠ってしまった彼にそっと毛布を掛けると
姫はテーブルに頼んで毛糸と編み棒を出してもらう。
「なかなかイイ色ね♪」
ソファに腰掛け、嬉しそうに編み出す。
愛しい彼の寝顔を時折見て、手を動かしていた。
(こんな…幸せな瞬間がくるなんて…思いもしなかったわ…)
まるで新婚家庭のような、幸せな時間が過ぎていく…
「ん…?」
目覚めた彼の目に入ってきたのは 編み物している姫。
「あれ? 眠っちゃったのか…?」
「えぇ。。小一時間ほど。
テーブルさん、紅茶と何かお茶菓子を出してくださいな。
…リチャード様、 ノド渇いてません?」
「あぁ。いただくよ。
それにしても久しぶりだ、昼寝なんて。」
「急にあんなことなさるからよ。」
「…そうか。 久しぶりだったからな、筋肉使って汗かいたの。」
「…筋肉痛になってません?」
「大丈夫。」
「そう。でも無理なさらないでね。」
「あぁ。自重しよう。
それにしても編み物かい?」
出てきた紅茶のカップを口に運びながら問う。
「えぇ。」
「なかなかいい瑠璃色だ。
私の好きな色だね。」
「やっぱりあなたもそう思います?」
「あぁ。」
「私、このテーブルに濃紺のような瑠璃色の毛糸をってお願いしたの。
そしたら…」
「この色が来たのか…
なかなかイイセンスをしているようだな。このテーブル。」
「でしょう?
テーブルさんに人格があるなら とてもいい人で優しい方のようね。」
「だな。」
ふたりが笑顔でそんな会話をしていると 当のテーブルがカタカタと揺れ出した。
「「え??」」
ふっと1枚のカードが出てきた。
"Be careful."
彼がカードを手に取る。
「気をつけなさい?? 一体何をだ?」
文字がテーブルに浮かぶ。
"Perios"
「ヤツに?? どうやって??」
" Take a peep at you."
(あなた方を覗き見てる)
「!? 今もか?」
"No."
(いいえ。)
「何故それを私達に教えてくれる?」
王子は思わず尋ねた。
"I Like You."
(あなた方が好きだから)
「ヘ??」
"You parmitted me to existence."
(私の存在を認めてくれた)
「君に人格があると言うことか?」
"Yes, Prince."
(あぁ、王子)
ふたりは思わず顔を見合わせる。
「私…直接 尋ねてみるわ。」
「え?」
テーブルに触れ〈彼〉の思念に問いかける。
ふうと姫の周りの空気が揺らぐ。
「…!?」
瞳を閉じて10分ほどで目を開けた。
「はぁ…」
「大丈夫か?」
「えぇ。少し色々解ったわ。」
「そうか…」
疲れた様子の彼女の肩を掴み、ソファに腰掛けさせる彼。
「テーブルさん、「彼」と言っていいかしらね…
「モノ」につく精霊…魂と言うか思念…なのよ。
それが閉じ込められてるの。」
「何?」
「私達の言葉を認識するために…封じられているのよ。」
「そんな事…出来るのか?」
「やはりあの男… 相当な魔力の持ち主ね。
たいていの事なら出来るでしょうに… 」
「他に解った事は?」
「ここはヘルペリデスの魔塔。
強力な魔法で閉じられた空間に近いみたい。」
「そうなのか… どうりで私達の魔法もあまり効果がないわけだ…」
「えぇ。」
王子はふっとテーブルに向かって問いかける。
「…おい、テーブル。って、名前はあるのか?」
"kai."
「カイ…か。 すまないが夕食を頼む。
今日は…魚料理で。ワインは白な。」
"Yes.sir."
すぐに出来立ての料理が並ぶ。
「ん。美味そうだな、今日も。」
「そうね。ご苦労様、カイ。」
"Thank you,Princess."
「ま。なんだか ここにいる仲間が増えたって事みたい。」
「はは…そうだな。」
この時、ペリオスは水晶球で見つめていた。
「ふッ…」
男の冷たい指先がぱちんと鳴る。
その瞬間、ワインボトルにあるものが混入される。
テーブル・カイが気づくが何も出来ずにいた―――
***
食事が済むと何事もなかったかのように いつもと同じように片付く。
「…リチャード様?」
「ん…あぁ。」
「どうかなさった?? 大丈夫?」
「少し酔ったみたいだ。身体が熱い…」
「横になったほうがいいわ。 カウチとベッド、どちらがいいかしら…?」
暖炉の前でふたりは立っていたのだが…
王子は暖炉前のラグの上にもつれ込むように倒れる。
「きゃ…」
毛足の長いラグの上に押し倒された形になってしまった姫。
「ちょ… 今日は随分ご機嫌で、飲んでいらしたけど…
大丈夫ですの? ねぇ…」
黙ったままの王子。
「リチャード様…?」
「ファリア…愛してる…」
いきなり耳元で熱い吐息と共に囁かれ、びくりと震える。
「えッ!?」
「ファリア…僕のファリア…」
「え…あぁ…」
突然、ワインの味のキスをされ酔いそうになる。
舌を絡め取られ、息苦しさを感じた。
「ん…んッ…」
確かに毎夜、抱きしめられ、口づけされてきたが こんなに荒々しいキスはなかったので戸惑う。
くちびるが離れるとふたりを銀の糸が繋ぐ。
つうっと姫のくちびるに落ちて消えた。
「リチャード様…??」
彼女の目に映ったのは… "男"の色彩をしたエメラルドの瞳。
次に覆いかぶさってきた彼は ドレスの上から胸をまさぐってきた。
「やん…ちょっ…と…」
「ファリア…ファリア…」
熱く囁くように名を呼ばれ、胸が切ない姫。
彼の心の中では葛藤が起こっていた。
大切にしたくて今まで一線を越えないでいようとした心と
ずっと恋しくて恋しくて甘い瞬間を求める心―
彼のくちびるから漏れる、呻くような声が切なく姫の耳に届く。
彼女は心を決めた。
「リチャード…様…
いいの…いいのよ。
あなたの思うままにして…
あなたの望みのままにしていいのよ…」
「ファリア…」
彼の中の理性が崩れ去っていく。
それはペリオスの仕込んだ媚薬の効果を打ち消すほどの願望。
「ファリア…僕は… 僕は…」
「リチャード…」
ぎゅっと彼の首に抱きつく。
「あぁ…」
そのまま肌を求めて、ドレスを奪おうとするが姫が止めた。
「待ってください…」
「ん?」
「ここではイヤ… お願い。 ベッドで…」
「あぁ。」
軽々と抱き上げベッドに運び、降ろす。
「僕の…ファリア。」
「えぇ。ごめんなさい。
ずっとあなたに甘えていたわ。
あなたも…健全な青年ですもの。
ずっと… 押さえつけていたのでしょ?」
「ファリア…僕は…」
「リチャード、あなたの本当の妻にして…
もう、何も我慢しないで…
私だけに教えて…あなたの愛を…」
「あぁ…愛している…」
もうふたりに言葉はなかった―――
彼女の甘い熱を求めて、彼は愛撫していた。
ふたりが溶け合い、甘ったるい悲鳴を上げていくのを…
テーブル・カイは聞いていた。
ペリオスもまた水晶球を通して見ていた。
にやりと笑う男の顔には満足げな顔―
「よし、これで第2段階は終了だな。」
*
…実はペリオスは媚薬のおかげでふたりがそうなったと思っていたがそれは違っていた。
テーブル・カイが媚薬の量を抑えることに成功していた。
王子は単純にワインの量がいつもより多かったのもあって…
媚薬の効果も多少はあったが 彼女を求める思いが際立ってしまっただけ…
to #13
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(2005/12/7)
" THE LOVERS">恋人達 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.6.
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