#11 THE LOVERS -3




リチャード王子はいつもより少し早く目覚めた。

彼女を起こすのはしのびないと、そっと腕を脱いでベッドから降りる。


ふっと思い立ち本棚に向かう。

   (15の頃… 読んだ小説というか… 恋物語は何処だ??)


探してみたが見当たらないので テーブルに頼むと出てきた。



   (あの頃は… この話のような恋は僕にとって無縁のものだと思っていた。
    けど…今なら、主人公の気持ちが解る…?)



彼は手に取り、読み出す。




物語は悲恋。

主人公はある神殿の神官の青年。
ある日、花屋の娘が花を奉納しに来た時に一目で恋に落ちてしまった神官。

しかし自分は神官。
乙女に想いを抱いていることもタブー。
乙女が19歳になる少し前、彼女は街の男と結婚。

結婚式を執り行った神官のひとりなってしまう…

彼女が幸せになるならと願って祝った。

しかし8年後、男は他に女を作ってしまう。
二人の間には子供がなかった。
子供が出来ないと彼女を罵り、暴力をふるうようになっていた。
彼女は神殿に何度も子供を授かるように祈りを捧げてきたけれど… 子供は出来なかったのだ。

彼女は夫の暴力から逃れるために 何度も神殿に逃げ込んでいた。
そんな彼女を見かねて…神官は夫を殺してしまう。
翌日、神官は彼女に自分の犯した罪を告げにいく。

「夫を愛していました。けど…もっと昔から…あなたをお慕いしておりました。
でもあなたは神官。 結ばれると事はないお方と…
私は…私は!!」

神官は彼女の本心を聞いて…決心する。

「私もずっとあなたを愛しています!!
紙に罰を受けても構わない!! 」

その夜ふたりは初めて結ばれる。
しかし翌朝、ベッドでふたりが手を握り合い、死んでいるのが発見される。


作者は禁断の恋には不幸が付きまとうものだと言いたいのだと彼は理解した。


   (今なら…この神官の思いが、痛いほど解る。
    でも僕はきっと、彼女が他の男の妻になる瞬間を 優しく見守る事なんて…出来ない!!)




カウチで涙を流し、本を読んでいた。


「リチャード…?」

「あぁ。起きたか…。」

「どうなさったの?」

「なんでもない。」

彼の声は明らかに涙声。
ふと気づくと本を手にしている。

その本を読んで涙を流していたとすぐに解る。

「一体…何の本?」

「…何でもないよ。」

「じゃ、見せてください。」

「…」

王子は迷う。
この物語に彼女がどんな反応をするのか怖かった。
すっとカウチから立つと 本をテーブルに載せる。

「引き上げてくれ。」

「えッ!?」

テーブルはすうと本を消した。
その行動に何かあると思い、駆け寄った姫はテーブルに叫ぶ。

「出して!! 今の本を!!」

「ファリア!!」


出てきた本のタイトルを見て解ってしまう。
ルヴェール王国内でもベストセラーの悲恋本。

「!? あ…。」

「ファリア…」

「…リチャード様は、私を花屋の娘と??」


その言葉で彼女がこの本を読んだことがあると解り、返事する。

「あぁ。」

「そう…」


しばらくの沈黙の後、姫が口を開く。


「この物語は… 半分史実。半分はフィクションですのよ。」

「え?」

「作者をご存知?」

「いいや。」

「この本の著者はアネット。
わが国の太陽神殿の巫女のひとり…。
私、彼女に会ったことがあるんです。
彼女に解説していただきましたの。

〈話は確かに悲恋で、悲しい結末。
私が伝えたいのは… 神官の事。
徳を積めば妻帯出来ます。
…結婚は可能なのです。〉と。」

「え?」

「神官で高位になれば…その力を継ぐ為には子が一番だと考えます。
例え若くても厳しい修行を積んでいれば。
だから私の母もマリアンの母も結婚できた。」

「え? あぁ、そうでしたね。あなたの母上は巫女だった。」

「アネットに言わせると…
神官や巫女が恋をするのは確かにご法度。
でも… 勇気と努力があれば望みは叶います。
史実の方ではこのふたりは結婚して子供をもうけています。
この物語の神官は恋にふけり、修行を怠ったゆえの不幸として描かれているのです。
神官や巫女達へのメッセージなのですが…

だから私も修行に出さされました。3年間。
私の場合、母が高位の巫女で、今は司となっています。
そのおかげもあるのは確かですが…


この本は一般に向けて出版したらベストセラーになってしまった…
こういうことなのです。」

「…そうだったんですか。」

「リチャード様はあまり恋愛モノはお読みになったことはございませんのね?」

「えぇ。普段は哲学論や経済論などの書物を。」

「…でしょうね。 テーブルさん、アネットの「セレナーデ」を出して下さいな。」

「ファリア…?」

「こっちは…一応悲恋ではありますが、ハッピーエンドです。
お読みになってはいかが?」

「…あぁ。」





朝食を済ませると彼は彼女の出した本を読み出す。
午前中には読み終えた。



「ファリア…」

「はい?」

「私は…もう、迷わない。」

「え?」

「必ずあなたを正妃にする。」

「リチャード様…」

「私は絶対にあなたをひとりにしない。
悲しませない… 
いずれこの塔から出て、ラーン王国の王子としてあなたを迎えに行く。」


ぽろぽろと涙が溢れ出す姫。

「は…い。」


彼はすぐそばにあるテーブルに告げる。

「すまんが…レースのベールと百合の花冠を出してくれ。」

ふわりとふたつがテーブルの上に出てくる。

「それから…」

少し照れ臭くて、口に出来なくて、テーブルに手を突いて願う。

彼がベールと花冠を手に取るとその下に真鍮製の小さな宝石箱。


「リチャード様…?」

「ファリア…こちらに。」

「…はい。」

そっとベールを黒髪に載せ、その上に百合の花冠を載せた。



「ファリア… ここで誓わせてくれ。」

「え?」

「私の正妃はあなただけだ。 何があっても…」


嬉しくて言葉にならない姫はただうなずくだけ。
王子は宝石箱を開け、その中にある金の指輪を彼女の左手薬指に嵌める。


「あ…」

「私の妻に…なってくれるね?」

「…はい。」


真鍮製の宝石箱にはもうひとつの指輪。

「リチャード様。私にも…誓わせて…」

「え?」


自分のより少し大きいサイズの指輪を手に取り、彼の左手薬指に嵌める。


「私には…あなた以外に夫は必要ありません。
あなたを…お待ちしております。」

「…ファリア。」



ふたりはそっと誓いのようにキスを交わす。






その光景をまた水晶球で見ていたペリオスは今日こそふたりがベッドの上で愛し合うと思っていた。





しかしふたりはただ 穏やかに微笑みあいながら抱擁するだけ。


「チッ!!」

水晶球を壊しかねない勢いで怒りの視線を送っていた。






この夜も…優しく抱きしめて眠る彼がいた。

「全くコイツは… 朴念仁なヤツだな。

しかし私が操っても…意味はない。
あいつらが本気で"セックス"しなければな 意味がない。
くそ…ッ!!」


苛立ちが顔を険しくしていた。

「んん…?? ふむ… この手は使えそうだな。」


微笑んだペリオスの顔には 成功をする鍵を見つけた喜びが浮かんでいた…








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(2005/12/7)

" THE LOVERS">恋人達 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.6.

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