#10 THE LOVERS -2



ふたりが食事を終え、テーブルを離れると 一瞬で全て消えてしまう。

「まさに魔法のテーブルですのね…」



彼女はテーブルに近づき、両手をついて瞳を閉じる。
リチャードにはわからない言葉を呟いていたと思うとぱちと瞼が開く。

「…姫?」

「あ…リチャード様。」

「…何か解ったのですか?」

「少しだけ。
暗黒魔法ではなくて… ただ高度な術が何重にも施されているようです。
人の言葉に反応するように…」

「そんなことがあの一瞬で解ったのですか?」

「えぇ。 もっと… 見てみたかったのですけど、
少し嫌な波動を感じたから…止めました。」

「…それにしてもあなたの術は古代魔法??」

「私は月の加護を受けた月神殿の巫女でもありますから…
12歳から15歳まで3年間の修行と…幼い頃から母に教わった護法。
あなたとは系統が違うけれど…
補助魔法なら効果がありますから あの時は飛び出しました。
あなたも何処かの神殿で修行をなさったのでしょう?」

「えぇ。」

彼は姫の手を引いて並んでカウチに腰掛ける。


「私は… 都の外れにある風の神殿で。
両親は早く子供が授かるようにと国内にある風の神殿と大地の神殿に奉納したそうです。

私が生まれた日… 風が強く吹いていたそうですから、
ひょっとしてと思い、風の神殿の神官に私を見せたそうです。
その時に生まれながら風の神の加護を受けていると…
5歳からずっと修行に通ってますよ。」

「それでは進児様は…大地の加護をお受けに?」

「弟も同じで…大地の神殿に通ってます。
だからそれぞれ得意分野か違うのです。
私は剣を弟は柔術を。」

王子の言葉を聞いて納得したが、また考えてしまう姫。


「…ということは、また不思議がひとつ増えますね。」

「え?」

「私は月、妹は太陽。
地上のエレメントに倣っていくと…私は水、妹は炎。
水が馴染むのは大地、風と共の起こるものは炎。
私達パートナーを間違えているの…??
何故なのかしら…??」

「……」


しばらくふたりとも黙り込んでしまう。



「姫。コレは私の勝手な憶測ですが、聞いていただけますか?」

「はい。」

「…太陽と大地はお互い顔をあわせるけれど… 交わる事はない。
お互い見詰め合っているだけの存在。
ふたりを示すエレメントは… お互いないものを求めて惹かれあう…

私とあなたもだ。
水面を撫でる風がある。
けれどやはり共存は出来るが、ひとつにはなりえない…」

「!!?? あッ…」

「確かに人は自分にないものを相手に求める傾向がある。
私は…マリアン姫は城で4人でいたときのことを思い返してみると
私にとっても妹のように感じた。 あなたはどうです?」

「私も…進児様とは波長が合うとは少し違いますけど…何故だか安心感を憶えます。
リチャード様とは全く違うけれど、凛々しくて頼もしいと… 」

少し険しい顔になった王子が言い出す。

「そうなると 少しあの男が何故私達を連れてきたのか… 解ってきた気がします。
私達4人が揃えば、何か大きな"力"になる。
だから進児とマリアン姫から私達を引き離し、ここに閉じ込めた。」

「あ。それは…確かに…」

「おそらくあの男は…私達4人の"力"が揃う事を畏れているに違いない…
私達には何か "運命"が 待っている。
そういうことなのだと思いますよ…」

「そうですね…」



ふたりは自分達の出逢いが運命だったと悟る。

カウチで並んで座っていたふたりは黙り込んでしまった。




「ファリア姫…」

「はい?」

「考え込んでも仕方ない。
私の…遊びに付き合ってくださいませんか?」

「なんですの?」

「チェスでもしませんか?」

「チェス? でもここには…」

「ないのなら 出させればいいのでしょう?
テーブル、すまんが私愛用のチェスを出してくれ。」


彼の命令を認識したのか、すぐにコマと盤が出てきた。

「ほら… コレは確かに私が普段使っているもの。
1年ほど前、進児が白のルークを失くしてしまったので、別に用意した。
少しデザインが違うでしょう?」

「あら、ホント。」

白のルークが確かに微妙にデザインが違う。

「やはり…このテーブルは複製を持ってくるのか、本物を引っ張ってくるのか知らないが…
便利は便利だな。」

「ふふ…そうですわね。
と、いうことは… ね、テーブルさん。 私のハープを…って
大きすぎてダメかしら?」

「「え…!?」」

次の瞬間、ふたりは本気で驚く。
テーブルの横に高さ1.5メートルのハープが出現した。


「え?? ウソ。 ホントに??」

まじまじと観察してみると間違いなく自分のハープ。




「人間以外何でもOKなのか… このテーブル。」

「そのようですわね。」

「それにしてもあなたがハープをお弾きになるとは…」

「あら? 意外でした?」

「いいや。お似合いですよ。是非1曲聴かせて頂けませんか?」

「勿論ですわ。」


ハープの位置をソファの前に動かし、絃に触れる。
コンディションは変わってない。
呼吸を整え、つま弾き出す。


うっとりとした顔で聴き惚れる。

   (似合いすぎだ… 月の神殿にいるあなたが目に浮かぶようだ…)


曲が終わると、彼は惜しみない拍手を送る。

「素晴らしい!! 私ひとりが独占とは…嬉しいな。」

「リチャード様…そんなに喜んでくださるなんて… 私も嬉しいです。
いつでも弾きますわ。あなたが望んでくださるなら…」

「あぁ…また聴かせて下さい。」

「はい。 それでは…リチャード様のチェスをしましょう。」

姫は盤にコマを並べていく。

「あなたはチェスは?」

「私は父とたまにしますわ。
あとは引退した祖父のところに行くと必ずつき合わされますの。」





ふたりは笑顔で勝負を始める。



勝負が終わると…リチャードの勝ち。


「やはりリチャード様、お強いわ。」

「いや… 2手ほど間違えていたら、あなたの勝ちだった。
スジがいい。 どなたの手ほどきで??」

「…祖父ですの。」

「そうでしたか。 進児よりもお強いですよ。
僕も油断したら負けそうだ。」

「まぁ…それでは退屈させないですみそうですわね。」

「いい勝負が出来ますよ… 楽しみだ。」



ふたりとも笑顔で見詰め合う。

「リチャード様。そろそろ、おなか空いてらっしゃいません??」

「あ? あぁ、そういえば…」

「テーブルさん、ランチを出して。
って、メニューを言っても大丈夫なのかしら?」

「試しに言ってごらんになれば?」

「えっと… フレッシュサラダとコンソメスープ、量控えめのトマトのパスタ。
それにアイスティ…デザートにウチのパティシエ作のプチプリンって こんな細かいこと…
って、え???」


ふたりの目の前でポンポンと出てきた。

「凄いな…じゃ、私にも同じメニューで、パスタは倍の量で頼むよ。」


次の瞬間にはテーブルの上に並ぶ。

呆気に取られるしかなかった。

「これは…このテーブルを持って帰りたいよ…」

「まっ…」


差し向かいでランチを楽しむふたりがいた―





   ***

「そういえば、今、何時なのだろう…??」

「えぇ…ぁ!!」

「どうしました?」


ふたりして暖炉の前に腰を下ろしていたが、彼女は立ち上がりテーブルに命ずる。

「テーブルさん… 置き時計とカレンダーをお願い。
もちろん今年のものよ。」

一瞬、間が開いたが、ふたつとも出てきた。

「ありがとう。」

笑顔で姫はソレを手にして、王子に見せる。

「そうか… この部屋に足りないものを出させれば…」

「えぇ。時計やカレンダーってあの男は気づかなかったのじゃないかしら…??
家具と本と食料品しか置いてなかったのですもの…」

「そうだな。 あのペリオスという男が人間の形をした魔物と考えれば納得いく。
人間の生活に何が必要かなんて知らないんだ。
しかし…この時計は何処から…??」

「あ。えっと… 確かラーン城の私が滞在していたお部屋に…」

「どうりで見覚えがあるはずだ。
それにカレンダーは私の部屋のものみたいだ。」


再び立ち上がり、姫はテーブルに告げる。

「それじゃ… あとは… パーヴの新作のルージュとネイルをお願い!!」

ポンと出てきた。

「ま、本物だわ。嬉しい♪」

「姫…嬉しそうですね。」

少々呆れ顔の王子。

「えぇ。ラーン王国に出かける前に 侍女に頼んでましたの。
帰らないと手に入らないと思ったましたから…」

「ぷッ…ははは…」

「あら。何がおかしいんですの?」

「やっぱりあなたは私から見れば可愛い普通の乙女ですよ。」

「リチャード…様。」

「そんな姫が私は大好きですよ。」

飾り気のない素直な彼女にますます惹かれていく…
立ち上がるとそっと抱きよせ、くちびるを奪う。

彼女が持っていたネイルボトルとルージュが手から零れ落ち、床に転がる。




王子に抱きしめられ、甘いときめきで胸がいっぱいになっていた姫―



くちびるが離れると胸に抱きとめられる。
ふたりはただ 無言で抱き合っていた…







   ***


―ペリオスに拉致されて1週間が過ぎた



ふたりは幽閉生活という言葉が不似合いなほど甘く幸せな時間を過ごしていた。

塔の部屋は直径20メートル・高さ10メートルほどの空間。
確かに暖炉とローソクの明かりしかなく
少々薄暗いが、本を読むときくらいしか不便を感じない。


少々肌寒いほどの室温の時もあるが それがむしろふたりを近づけた。
お互いのぬくもりを求め そばにいる。
特にベッドは暖炉から離れていることもあって ひとりだとかなり寒く感じるが
ひとりではない。


毎夜、彼女を抱きしめて眠る王子がいた。


しかし…一線は越えないまま。
時折、首筋にキスしたり、やわらかな胸に顔を埋めるくらいで
彼は常に紳士的に振舞っている。






水晶球でペリオスはふたりの様子を垣間見ていた。

「あの男…いつまで耐えるつもりだ…?」

不機嫌そうな顔でペリオスはベッドで抱き合い眠るふたりを見つめていた。


「さっさと抱けばいいものを…意気地なしめ!!」


面白くないといった面持ちでペリオスは水晶球に布を投げつけるように掛けた。







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(2005/12/7)

" THE LOVERS">恋人達 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.6.

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