Persona-3-   〜re:set



病院へ到着すると廊下を掛けたくなるのをこらえ病室へと向かう。


ベッドの上に彼女の姿はない。


「!? 何処に行った?」


いたであろう場所に触れるとほのかにまだ温もりが残っていた。

嫌な予感がする。

   (ファリアが死にたがってるとすれば…何処に行く??)




リチャードは再び駆け出す。
夜の病院は静かで人影はほとんどない。






   *



「…あった。」



ファリアは病院内薬局の奥の薬品倉庫の中で薬の小瓶を手にしていた。

「これで…楽になれるわ。」


呟いたその顔には嬉しげな色。


薄暗いその部屋の中で、小瓶の蓋を開け口につけようとしたその時、
突然ドアが開く。

誰かに見つかったと思い振り返ると…彼− リチャードの姿。


彼は目の前の光景に駆け出し、手の中の小瓶を叩き落とす。

「きゃッ!!」


「どうして…?? どうして…死にたいんだ?」

目の前に現れた彼は怖い顔で問いかけてくる。


「あなたには関係ないわ。
どうでもいいのでしょ? …私のことなんて…」

彼に背を向け薬品棚に向かう。
リチャードは背から抱きとめる。


「放して!!」
「イヤだ!!」


腕から逃れようと暴れる彼女をきつく抱きしめる。


「!! イヤッ!! こんな時に抱きしめるなんて…ずるいわ!!」

「!? …ファリア…」

ずるいと言われ腕を緩めると彼女は冷たい床に崩れて座り込む。


リチャードは目の前に屈みこみ、再び問う。

「どうして…? 死にたいなどと…」

「あなたには関係ないわ!!」

「いいや!! ある。僕はまだ君の婚約者だ。」
「婚約破棄するってあの子に伝えて、ネックレスを渡したわ。」
「あぁ…聞いた。 例の恋人と幸せじゃないのか?」

眼前の彼の言葉に溜息が出る。

「あなたも… やっぱり、そう思ってるのね。」

「違うのか?」

「違うわ。あんな大衆紙の記事をみんな鵜呑みにするのね…
私が誰を愛してるのかなんて知らずに…」

「…ファリア…?」


彼女はうつむき、嗚咽を上げる。
戸惑いどうすることも出来ない彼。



「もう… こんな生活イヤなの!! 誰も知らないトコロへ…
何も縛られないトコロへ行くの!!」


突然立ち上がり、薬品棚へと向かう。

「止めろ!!」
「あなたに止める権利はないわ!! 
放っておいてよ!!
何もかも終りにするの!!」

リチャードは再び抱き止める。
あごを掴み強引にくちびるを奪う。

「!!?」

胸板を叩かれるが痛くもなんともない。
貪るように深く深くくちづける。



リチャードは初めて知る…ファリアの身体が華奢でたおやかなことを。

彼女の両手を片手で掴み、壁に押し当て動きを封じる。

彼自身までキスに酔っていた。


「んッ…やぁ… イ、ゃあ…!!」

逃げ出すくちびるを再び捉え深く浅く求める。



   (僕は…やっぱり… ファリアをまだ好きだ… 愛してる…)


一気に身体が熱くなっていき、自身が昂ぶっていくのを感じた。


くちびるを離すと彼女は涙が溢れ、目は真っ赤になって頬は紅潮している。
呼吸がかなり乱れていた。
そんな様子を見て、やっと両手を解放する。


真剣な眼差しで彼は当惑してる彼女に告げる。


「ファリア… やっぱり僕は…君が好きだ。」

「!?」

「13歳のあの日、僕は君に置いていかれた捨てられたと…絶望した。
悲しくて苦しくて… 忘れようと思った。
けど、デビューパーティのエスコートに選ばれて…
正直嬉しかったけど、反面、君の顔を見るのが辛かった…

もう他の男のものになっていても… やっぱり君を… 愛してる…」


切なげに絞り出すような声で告白する彼をじっと見つめていた。

彼女の白い手が彼の白い頬に触れる。
その手を掴み彼は手のひらに優しくキスを繰り返す。



「リチャード…


ごめんなさい…

私、ずっと謝りたかった… 
ウィーンに行くって決まってすぐに連れて行かれて…
あなたに連絡する間もなくて…

やっとあなたに連絡できる状況になった時には…
ひと月経ってたの。
メールも手紙もしたけど…返事がなくて、不安で何度も英国に帰りたいって思ったわ。
でも私にはいつも人がついてて自由はなかった。

ずっとレッスンとコンクールばかりで…

あなたに逢いたい、声が聴きたいって…

やっと去年、プロデビューして少しは自由になれるって
英国に帰れるって思ってたけど…
今度はあなたが英国を地球を出て行ってしまった。


私の周りに来る男達はみんな名誉や私の身体目当てばかり…

私、もう嫌!! こんなはずじゃなかった…

あなたの笑顔が見たくて、賞賛の言葉が欲しくて…
ピアニストになりたかっただけなのに…」


彼女の言葉をずっと聞いていた彼は細い肩先を撫でていた。
エメラルドの瞳は優しげに見つめている。


「…ファリア… 僕の…?」

「学内コンクールで金賞取った時のあなたの笑顔が嬉しくて…


私… ずっと幼い頃からあなたが好き… 大好きなの…
 今更だけど、ごめんなさい…」


彼の胸に顔を埋め、激しく泣き出してしまう。
そっと黒髪を撫でる彼の手。


「ごめん。僕、あの頃… 君からの手紙もメールも目を通さなかった。
僕を捨てていった、置いていった理由を知りたくなくて…。

デビューパーティの時も… 素直になれなくて…
君に振られるのが怖くて…言えなかった。」

抱きしめていた彼の手に力が入る。
腕の中で泣きながら謝り続ける乙女。

「リチャード…ごめんなさい。ごめんなさい…
私… 私… あなたを傷つけてた… 苦しめてた… ごめんなさい…」

「もういい… 僕も悪かったんだ…
あの時の手紙を読めばよかったんだ…
 ごめん…」




ふたりとも床に座り込んでいた。
彼の腕の中ですがりつくように抱きつく。


「私… ピアニスト辞めるわ。」
「えっ!? でも…」

「あなたのためだけに弾くことにする。」
「…ファリア…」

その顔を見つめ、黒髪に手を入れ撫で上げる。

「リチャード…ごめんなさい。」
「もういいと言っただろう?」



彼は懐から四つ葉のクローバーのネックレスを出してきた。
彼女の首にそっと掛ける。

「…え?」

「破棄の話はナシだ。
…僕の花嫁になってくれるね?」


エメラルドの瞳はあの13歳の時と同じ瞳…
いや、あの時以上に熱い想いを込めた男の瞳―


「あ…。 私なんかでよければ…、リチャード…」

「よかった… 
僕がもっと早く素直に気持ちを伝えればよかったんだな…
ごめんな…」

「もう…いいの…いいの…」

ぎゅっと彼の首に抱きつく。彼は細い肩を掴んで身を離す。


「あ…」

彼が胸に抱きしめると優しくくちびるを求め、重ねた。


「愛してる、ファリア…」
「私も… リチャード…」



彼の手はそっとふくらみに触れる。

「あ… ! ダメ…」
「一刻も早く…君を僕のものにしたいんだ…」
「こんなトコで嫌…」
「嫌だ。 …ファリアの可愛い姿が見たい。」
「私… 私…」

頬を染める彼女のやわらかなふくらみを両手で包み込む。

「私… 他の誰ともこんな風になってないわ…」
「えっ!?」
「あなた以外、触れたことはないの…」
「ホントに?」
「えぇ…」

恥じらい震える彼女を見て、やっと納得して手を離す。


「解った。 
こんなトコ… ホントは僕達の初めての場所にふさわしくないからね…」

思わず苦笑する。
ここは病院の薬品倉庫。




「ファリア、立てるかい?」
「ん。」


一応彼の手を取り、立とうとするが無理だった。
よろめき彼の胸に倒れこむ。

「無理だな…よっと。」
「あ。」
「…思ったより軽いね。何キロ??」

「…レディに体重を聞くものではなくてよ。」
「…45キロ位か?」
「惜しいわね。46キロよ。」

「なんだほぼ正解じゃないか。」

笑顔でリチャードが言うとポッと頬をピンクに染めた。
そんな彼女が愛しく感じる。


抱きかかえたまま、暗い廊下を歩く。


病室のベッドに横たえるとおでこにキス。


「…ファリア。これからはもっと素直になろう。お互い…」
「えぇ…」
「いろいろあって疲れただろう? お休み…」


彼女は彼を見上げていた。
もうその表情は穏やかそのもの。

「リチャード、ありがとう… ね、今日最後のわがまま聞いてくれる?」
「何だ?」

「…キスして。」
「あぁ。」


彼は白い手を握り、そっとくちびるを落とす。

「おやすみ、僕の姫君…」
「おやすみなさい。私の王子様…」

少し後ろ髪を引かれる思いで病室を出る。



半日前とは違う思いで心は満たされていた。





   *

ビスマルクマシンに戻ると下2段のふたりはぐっすりと眠っていた。


   (朝になったら… マリアンにありがとうって言っておかなきゃな…)



ずっと抱いていた後悔と悲しみが消え去っていた。



   (−愛してる…− そう君に伝えただけで… こんな気持ちになれた…

    僕は回り道をしてきたのだろうか…?
    僕も彼女もお互い、誤解してたんだな…

    素直になれば… 簡単だったんだ…
    もっと早くこんな気持ちになれてた…


    もう君しか愛せないよ―  ファリア…)












fin
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(2005/10/4 )

*あとがき*

ふたりの関係をちょっと変えて見ました。
微妙????
結果はやっぱり甘甘♪
完全に引き裂く事が出来ないのよ〜!!

6年間すれ違っていたふたり。
どっちも素直になれなかった似たもの同士(笑)

救いは両家の親がふたりの絶縁状態に気づいてなかったこと〜☆

詳しいすれ違いの内容は続編で!!


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