Persona-2-   〜re:set




デスキュラが定期船を襲ったと連絡を受け、ビスマルクチームが駆けつける。


小型マシンを蹴散らしたが、船は既に沈んでいた。

「嘘だろ!? 全滅かよ!!」


ビルの叫びにリチャードがスキャナーで周辺を走査すると
生体反応がひとつだけ。


「ん? 生存者がいるようだ。」

「救助しよう。」

「あぁ…」



ビスマルクチームが見つけたのは小さなカプセル。

プロテクトギアに身を包んだ3人がカプセルを運ぶ。
どうやら最新型の緊急避難カプセル。
船の爆発に巻き込まれた証拠である焼け焦げた跡が痛ましい。


「唯一の生存者か…」

ビルが呟く。



ビスマルクマシンに運び込むと進児がリチャードに尋ねる。

「リチャード… コレ、最新型だけど、開けられるか?」
「あぁ。」


先日、情報部からデータは貰っていた。
解除コードを打ち込むと、外から手動で開けられる。

ガコンと音を立てて、ドアが開く。

狭い中にいたのは黒髪の乙女。
顔には涙の痕。

進児とビルの目に映る痛ましい姿。

「あぁ…可哀相にな…」
「奇麗な顔が台無しだぜ。」

二人の言葉にリチャードは周り込んで覗き込むと一瞬、息を飲む。

「あ…!?」

「どうした…? リチャード。」

進児が問いかける。

「まさか… ファリア?」

「え?知り合いかよ?」

ビルの問いかけに応えることなく、彼女をカプセルから抱き上げると
しゃらんと音がしてネックレスが零れ出る。

「え?」

リチャードは驚いた。
それは幼い日、彼女に贈った四つ葉のクローバーのネックレス。


「やっぱり…ファリアか…」
「怪我はないみたいだけど… 病院へ運ぼうぜ。」
「あぁ…」


進児たちは助け出した乙女を知っていたリチャードに問いかけたかったが
それをゆるさない空気があった―






   *

病室のベッドの乙女の横にマリアンがつく。
リチャードは腕を組んで壁際に立っていた。


「奇麗な人ね…」
「あぁ。 昔から奇麗な娘だよ。」
「え?」

マリアンはリチャードを振り返る。

「…幼馴染みなんだ。」
「そうだったの…」

マリアンは目の前の乙女に視線を戻す。



「…… 許婚なんだ。」

「えっ!?」


再びマリアンは振り返るがその目は驚きに満ちていた。

「僕が13、彼女が12の時にね…両家でね、決まったんだ。」
「そうなの…」


リチャードの実家が上流貴族だと言うことを理解しているので
許婚がいても何ら不思議はないと感じていた。


「それじゃ、頼むよマリアン。」

「え? リチャードがついてるほうがいいんじゃない?」


訝しげに問いかけるマリアンの瞳には困惑の色。

「僕は…彼女と顔を合わさないほうがいい。」
「何で?」
「ちょっと…いろいろあってね… じゃ。」


リチャードは少し悲しそうな笑顔を浮かべて部屋を出て行く。



廊下まで出たのを追いかけるマリアン。

「待ってよ!! リチャード!!」

「ん?」

「彼女のこと… どう思ってるの?」

彼はマリアンに背を向けて応える。

「…キライだよ…あんなファリア…。」

「え…?」

「昔の彼女が好きだった。  けど…」

言葉を飲み込む彼を見てマリアンは気づく。


「解った…。」



病室へとマリアンは戻っていく。



しばらくジッとベッドに横たわる乙女を見つめる。

そう言われれば何処かリチャードと似たノーブルな感じがする。

それに自分と全く違う長い黒髪に白い肌。
長いまつげにつんとした可憐なくちびる。
すっと鼻筋は通っている… 


「ホント… 奇麗なひと…」

同性から見ても清冽な美しさが解る。
どうしてこんな奇麗なひとをリチャードが嫌いと言うのか…
彼女との間に何があったのか気になりだす。





見つめているとゆっくりと瞼が開いていく。


「あ… ?! 私…」

少し眩しげにしている乙女に声を掛ける。

「大丈夫?」
「え?」

乙女が顔を向けてくると奇麗なサファイア色の瞳。

「ここはガニメデ中央病院よ。」

「!? … そう…」

天井を見つめる彼女の瞳からつうと涙が頬を伝っていた。


「私だけ…助かったのね?」
「…えぇ。」

「どうして助けたの?!」

思いがけない言葉にマリアンは驚き、答えられない。

「…私、死んでもよかったのに… 死んでしまいたかったのに…
みんなの方が…生き残るべきなのに…
どうしてッ!!
私なんかが生き残ったの!!」

ベッドに突っ伏し激しく泣き出してしまう。



悲痛な姿を見てマリアンは呟く。


「…ファリアさん…」

名を呼ばれてびくりとした乙女は少女を見つめる。

「え!?どうして? 私の名を…??」


「あ、あの… リチャードから聞いたの…」

「えっ!?」

乙女は突然起き上がり、金髪の美少女を見る。

「何処にいるの? あの人…?」

「…ビスマルクマシンに戻ったわ。」

「…そう。 私のことなんてどうでもいいってコトね。」

「そんな事…」


マリアンは愁涙を見て心が痛くなる。


「あなたは…ひょっとしなくてもビスマルクチームの方ね?」

「えぇ。マリアン=ルヴェールです。」

「…私は…ファリア=パーシヴァルと申します。
ね、マリアン、ひとつ頼まれて下さらないかしら?」

「何でしょう?」

乙女は自分の首にかけていたネックレスを外す。


「コレを…彼に渡してください。
そして…婚約破棄すると。」

「えっ!?そんな…!!」

乙女の言葉に驚愕する。

「どうせ私のことなんて忘れて… 新しい恋でもしてるのでしょ? あの人…
…コレは私が10歳の時に彼から貰ったものなの。
ずっと宝物だった。  …初恋の思い出…


私はまだ…彼のこと好きだけど…もう無理だから。
コレを見ると辛いから… 渡してください。
手間掛けさせて、ごめんなさいね。」

「でも…」

「お願いします。自分では処分できないから…」


涙を流す乙女の顔を見てマリアンは渡されたネックレスを握り締める。

「…解りました。お預かりします。」

「よろしくお願いしますね。」


沈黙するふたりの元に医者と看護婦がやってくる。

マリアンは診察される乙女を見て、病室を出た。
彼女からの預かり物をビスマルクマシンに戻って渡すために―




ビスマルクマシンに戻ると3人衆はダイニングでコーヒーブレイクしていた。
(リチャードだけは紅茶だが)

「や。お帰り、マリアン。」

進児が戻ってきたマリアンに声を掛けるが無視される。
妙に険しい顔でリチャードに近づき、声を掛けた。

「ちょっと……いい??」

「何だい?マリアン…」

「二人だけで話したいことがあるの…」

「え?」


マリアンは彼を進児たちがいるダイニングから連れ出してコクピットへと行く。


彼の前に立ち、握ったままだった手を広げる。

「コレ…彼女から預かったの。」

「!? …昔、僕が彼女に贈ったんだ…」

彼はマリアンの手の中のネックレスを手に取る。
握られていたため、ほんのりとマリアンの手の温もりが移っていた。


「そうだって言ってた。
リチャードに渡して欲しいって頼まれたの。
それと "婚約破棄しましょう"って…伝えてと。

でも、ファリアさん… リチャードのコト、愛してるわよ。」

「!?」

マリアンの言葉に目を剥く。

「目を見れば解るわ。
リチャードとあの人の間に何があったか知らないけれど…
ファリアさん… あなたのこと、好きなのよ。
切なそうに苦しそうにしてた。
このネックレス… 初恋の思い出だから宝物だから、見るのが辛いって…

リチャードは本当に彼女のこと、キライなの?」

「…マリアン…」


マリアンは思い出しながらリチャードに伝える。

「あのひと…死にたいって言ってた。」

「何だって!?」

「どうして助けたのって…」

マリアン自身も泣き出してしまう。


「死にたがってる?? ファリアが??」

思いがけない言葉に彼自身も驚きエメラルドの瞳が大きく開く。


「理由は解らない…  けど…」


リチャードの手は震えていた。




「マリアン… ちょっと出てくる。」

「うん…」

彼の行き先は解ってる。




駆け出していく後姿を見送るマリアン―







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(2005/10/3)

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