Persona-1- 〜re:set
―――僕はあの日を忘れてない
―――ずっと幼い頃から一緒の幼馴染み
―――僕が好きと告げたら、頬を染めてうなずいてくれた彼女
―――両思いだとわかって… 嬉しかった
―――そっと 初めてくちびるを重ねた瞬間 …僕も震えてた
***
リチャードのランスロット家とファリアのパーシヴァル家の間で婚約が決まった。
お互い、生まれた頃から、なんとなく話があり
仲のよいふたりを見て両方の親が勝手に決めた。
改めて13歳の少年が両親と共に挨拶に行くと
少女は嬉しそうにはにかんでみせる。
その時の少年と少女はお互い照れ臭いように見えた。
親達は… ふたりが好きあっていると解っていた。
それから3ヶ月後の初夏のある日…
少年は少女を遠乗りに誘う。
いつも行くクローバーの咲き乱れる丘でふたりは"約束"。
初めてのキスは やわらかな風に包まれてた−
***
9月に少女が13歳になった直後、
ピアノの勉強の為、ウィーンに突然旅立つ。
少年は何も聞かされていなく、
新学期の学校に姿を見せない少女に不安を覚えた。
ロンドンの少女の邸に電話する。
彼女の乳母が対応に出た。
「お嬢様は… ウィーンに行かれました。」
「いつ戻るんですか?」
「…当分、戻られないそうです。」
「そんな…」
少女は少年に何も告げることなく英国を出て行った。
彼女がピアニストを目指していることは知っていたが
自分に一言もなく行ってしまったことが悲しい。
悲しみは怒りに変わっていく。
「ファリアは僕を置いていった。 僕よりピアノを取ったんだ!!」
少年の初恋は突然、終りを告げる−
やや女性不信の彼は勉学に励み、飛び級で中等部、高等部を出て
大学までもわずか1年…
軍士官学校に進む。
いずれは情報部部長職ということもあり軍士官学校を出ると
情報部の訓練所へと。
リチャード18歳− 地球連邦のルヴェール博士が結成すると言う
ビスマルクチームのメンバーへと選出される。
彼がガニメデ星へ旅立った直後、ファリアはピアニストとしてプロデビューした。
リチャードは婚約者として一応、彼女が新聞に華々しく取り上げられている記事に目を通す。
大衆紙は「新鋭の美貌のピアニストに新恋人!!」等と文字を躍らせる。
相手は同じピアニストや指揮者、映画スターなどと事欠かない。
(もういい… 僕は名ばかりの婚約者で… 記事にすらならないさ…)
***
ガニメデ星でのデスキュラとの戦争の中でビスマルクチーム4人は青春を謳歌している。
リーダー・進児は真面目で熱血漢・曲がったことが大嫌いという日本人。
ビルは自称2枚目だが実は2.5枚目のトラブルメーカーの米国人。
ビスマルクの生みの親・ルヴェール博士の一人娘でしっかり者のマリアンは可愛いパリジェンヌ。
リチャードは久々に楽しいと感じる時間を過ごしていた。
―朝(と呼べる時間)
ダイニングで4人が朝食を済ませると、
マリアンはリアコンソールに着き、到着しているメールをチェックする。
3人それぞれに割り振っていく。
「あー… 俺、今日は1件かよ。」
「…3件か…」
リチャードにはいつも10〜20件くらい入る。
情報部からの国内外のニュースや定期購読しているメルマガ等と
目を通すものが多い。
3件のメールに目を通し終わった進児はコンソールのシートに身を沈め
隣のリチャードを見ていた。
素早い手つきでキーボードを叩き、返信したりしている。
そんなリチャードの手がいきなり止まった。
顔を見ると、驚いている顔。
リチャードは1通のメールの差出人の名を見て心臓が止まりそうになっていた。
(え?! ファリア=パーシヴァル…?? 本人からメール…?!)
驚きつつも開けてみる。こんなことは初めてだ。
"Dear Richard
ご無沙汰してます。
今月18日から22日までガニメデ星に行きます。
セントラルシティフィルとの演奏会が、20,21日となりました。
もしお時間が合えば来て下さい。
From Faria.
PS. 受付で名前を言ってくだされば、案内してくれます。"
半ば事務的な文面のメール。
(でも… 僕のコト、憶えててくれたんだ…
あ… 明後日にガニメデと言うことは今頃は…向かっている頃か…)
はぁと溜息をつくリチャードを見て進児は声を掛ける。
「どうかしたのか?」
「いや。なんでもないよ。」
「そうか?」
(行けるかなんて保証はないから… 返事はしなくていいだろう…)
少々気になるが言及しなかった進児。
リチャードはフロントの窓の外に見える宇宙空間を凝視していた…
***
ファリアはその頃、地球発ガニメデ星行きBR011便に乗っていた。
彼女自身はファーストクラスのシート。
マネージャーやスタイリストたちスタッフはビジネスクラスに乗り込んでいる。
窓の外に見える暗い宇宙空間をじっと見つめる。
(この… 宇宙に… 彼がいるのね…)
はぁと溜息が出る。
隣のシートの映画スターが声を掛けてくる。
「どうかしましたか、Missパーシヴァル…?」
「いえ…何でもありませんわ。」
作り笑顔を向けて返事する。
顔を背け、窓の方に向けると自分の顔が映りこむ。
「何かお持ちしましょうか?」
美しい金髪のキャビンアテンダントが声を掛けてくる。
「何もいらないわ…」
ここ数年の自分を思い起こしていた。
ずっとレッスンと演奏会、コンクール…そんな毎日で正直、疲れていた。
彼の賞賛の声が嬉しくて選んだピアニストの道。
実際なってみると、全く違っていた。
リチャードには会えず、辛い日々。
16歳の春にデビューパーティの為に帰国した時… 彼の目は冷たかった。
エスコートはしてくれたけれど、仮面のような笑顔を向けられ
話をしたくても… それを許さない彼の態度。
…辛い失恋。
気づけば彼でない男達に囲まれ、作り笑いをしている自分。
英国女王陛下の孫、パーシヴァル家の令嬢、美貌の若きピアニストという
色眼鏡で見られ、苦しんでいる。
男達は皆、何か下心を持って近づいてくる。
どの男もそうでうんざりしていた。
止めたい思ったことは何度もあった。
逃げたいと思ったことは何度もあった。
けれど周りがそれを許さない。
何よりパーシヴァル家の名誉を汚すとして
父や祖父が許してくれないだろうと思うと口に出来ずにいた。
シートに身を沈め、ブランケットを被り声を殺して泣いていた。
(戻りたい… あの日に… リチャードとキスした 幼い日に…)
戻れない やさしい時間がとてつもなく恋しい…
***
ファリアが泣きながら寝入った頃、船体に衝撃が走る。
デスキュラの小型マシンの来襲。
ミサイルを被弾し、船体は破壊されていく。
「こちらへ!!」
キャビンアテンダントに手を引かれ、緊急避難カプセルに押し込まれた乙女。
ドアを閉められると窮屈な狭い空間。
小さな窓から外を見ると、乗っていた船が沈んでいくのが見える。
「嘘ッ!! Miss.ダイアン!! セシル!! Mr.シモンズ!!」
自分の大切なスタッフの名を叫び泣く、その目の前で船は大爆発。
「嘘よぉッ!!」
ショックのあまり気を失う―――
to -2-
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(2005/10/3)
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