not guilty -2-



リチャードとシスターが穴に落とされた頃、村も襲撃されていた。

ビスマルクチームはすぐにビスマルクマシンに戻り、敵を倒してゆく。


敵が巨大メカを繰り出してきたため、変形して戦う。
3人のビスマルクチームはやや苦戦していた。

「おい!リチャードのやつは?」
「連絡が取れないのよ!」
「まさかやられちまったんじゃ…」
「そんなことあってたまるか!!くそっ!」




***************

穴に落とされたリチャードが気付くとあたりは真っ暗。

ヘルメットのライトを点けると洞窟のようだとわかる。
そばにシスターが倒れているのに気付き、身を起こす。

「大丈夫ですか?シスター…」

「う…あ…  な、なんとか…大丈夫ですわ。」

リチャードは抱き起こしたシスターの華奢な身体に驚く。
先ほどの剣捌きを見た後だけに何処に筋肉があるのかと思ってしまう。


シスターも周辺を見渡す。

「…!! やっぱり。」

ここが何処だか彼女にはわかっていた。

(もう私は助からない。 けれどこの人だけなら…)


「どうかしましたか?」

顔が凍るシスターに問いかける。

「ここは…”氷の棺”。」

「氷の棺?」

「えぇ。ここは年老いて働けなくなった人が来ていた所。忌むべき場所。
2年前に封鎖したんです。」

「どういうことです?」

彼に問いかけられ静かにシスターは語り出す。

「…この奥には大きな氷窟があります。
ガニメデ星創成期の氷が残っているんです。
ここは普通の地球人なら凍死するほどの寒さ。
だから昔は働けなくなった老人が最後の場として入って行った。
けれど2年前に子供が迷い込む事故があったから封鎖に…
こっちはかつての入り口。岩盤で塞がっているんです。」

「え…?」

リチャードがセンサーで調べると厚さ6メートルほどの岩盤。

「この洞窟の反対側に出口がありますが…
そこに行くためにはマイナス40度の氷の世界を通り抜けなければなりません。
あなたは防護服がありますから戻ることが出来るでしょう。…けれど私には無理です。」

「!!」

「ここに入ったものには死あるのみ。すでにここでも0度近いはずです。」

確かにシスターの吐く息は白くきらきらと結晶化する。
リチャードはセンサーで外気温を測定した。  <−2度>


「あなたは…早く、脱出してチームのところへ戻ってください。」

「!! シスターをひとり残してなんて行けませんよ!他に方法があるはずです。」

リチャードはビスマルクに通信を図ろうとするがデスキュラの妨害電波で通信不能。


すでにシスターの指は凍傷になりつつあった。


彼と違い布の服のシスターには過酷過ぎる寒さ。
次第に身体も冷えてゆく。
ふうっとリチャードの目の前で意識を失う。

脱出しようにも何処にも行けないとわかった彼は
とにかく岩盤だと言われた方へシスターを抱き上げて移動する。

それでも気温2度。

この寒さではいずれシスターは死んでしまう。
通信もつながらない状況じゃどうすることも出来ない。

見殺しに出来るはずもない。
とりあえず燃やすものはないかと周辺を探す。

すると穴があった頃に落ちていたのか木の枝が転がっていた。
何とかかき集める。
途中、氷の棺に入った老人のものか毛布があった。
傍らにミイラ化した遺体が横たわっている。
ないよりはマシかと毛布を手に取った。

銃のエネルギーパックを使って何とか火を起こす。
毛布でシスターを包み、火の傍に横たえるが一向に蒼白の顔に血の気が戻らない。
唇が真っ青だ。


「やはり…古典的だが、あの方法しかないのか?」

リチャードはおもむろにプロテクトギアを外しにかかる。
さすがに身一つになると自分でも寒い。


「シスター、すみませんね…」

一言謝ってから、彼女の黒衣を脱がしてゆく。

華奢な手足は既に冷たい。
しかしリチャードはあることに気付く。
ベールを取ると見事な黒髪。
そして胸元にはロザリオだけではなく古ぼけた四つ葉のクローバーのペンダント。

(見覚えがある…!! まさか!)

リチャードは慌ててシスターの左手を取る。
手首の内側に小さな痣。



「気付かなかった…。君、だったのか…」

リチャードはぎゅっとその手を握る。
冷たいが自分が熱くなるのを感じていた。
瞳を閉じ、微笑まない彼女に囁く。

「ずっと…ずっと…  探していた、ファリア…」


彼の心の中にずっと住んでいる幼馴染で許婚―――ファリア


5年半前、宇宙で行方不明になったきり。
まさかガニメデ星で修道女になっていたなんて想像も出来なかった。



(なおさら、死なせるわけにはいかない…!
もう君を失いたくない!)

ずっと幼い頃から一緒で、ある日彼女に恋していると気付いた。
そしてあのアテナU号事件。
宇宙で彼女は行方不明に。
恋慕は行く先をなくしても消えることはなかった。
そのファリアを見つけられた興奮で彼の身体は冷えるどころか逆に熱くなる。
彼女を抱きしめ、毛布に包まる。
その手を掴み指を絡ませた。

ぱちんと木の弾ける音が洞窟内に響く。

薄暗い中、じっと彼女の顔を見つめていた。

変わらない黒髪。
長い睫毛。
すっと通った鼻筋はパーシヴァル家のもの。
つんととがった形のいい唇。

細い肩。
華奢な身体に程よく盛り上がった胸。


そっと頬をなでても冷たい。

「嫌だ!絶対に死なせない!
僕の目の前で死ぬなんて許さないぞ!」



反応のない唇に唇を重ねる。
彼は情熱のままに唇を貪る。

「ふ…ぅ…ん…」

うっすらと声が上がる。
反応があった事に喜ぶリチャードはさらに深くくちづける。


「んん…っ」

彼女の舌が反応し、押し返してくる。

さっきまで凍っていた睫毛が揺れていた。

心なしか頬に赤みが差している。

「ん…んッ!」

ゆっくりとまぶたが開く。
目が覚めたが、意識はまだ朦朧としているようだ。

しばらくして自分の状況に驚き、彼を手で押し返そうとするがびくともしない。
激しいキスの攻めに抵抗しようとするが無駄だった。

呼吸が苦しくて逃げようとするがすぐに捕らわれる。

「やっ…!」

やっとの思いで唇が解放された。

「目覚めてくれた…嬉しいよ。」

「何をなさるんです!私を修道女と知って…」

涙目で訴える。

「君は…ファリア…だろう?」

名前を言い当てられた彼女は狼狽する。

「!! ど、どうして?」

「その胸のペンダントと手首の痣が証拠だ。」

「あ!!」

服を着ていない。白い胸元で揺れる四つ葉のクローバーのペンダント。
幼い日、幼馴染に贈られた思い出のもの。
その言葉で目の前の青年が誰だかわかった。


腕で胸を覆う。

「い…いや!見ないで!」

あとじさる彼女をその場にとどめたくて構わずに抱きとめる。

「…昨夜の夜中に…湖で見たよ…」

「!!」

かああっと顔が熱くなるのを感じるファリア。
そこへさらに耳元へ囁く。

「君は…僕と一緒に帰るんだ。」

「い…嫌よ!」

「何故?」

怒らずに冷静に訊ねる。
絞り出すような声でファリアが尋ねる。

「だ…だって、あなたにはもう他の婚約者が…いるのでしょう?」

「そんな人はいない。君だけだ。」

「う、嘘!」

信じられなかった。
会えなくなってもう5年半。
彼はもう19歳。
ありえないと思っていた。

でも懐かしいエメラルドグリーンの瞳が真実を語っていることに気付く。


「何なら、今すぐここで僕の妻になるかい?」

「!!」

リチャードに両手をつかまれ毛布の上に押し倒される。

寒い空気が白い肌を包み、
背に冷たい岩肌を感じる。

思わず昨年の強姦未遂を思い出し、悪寒が走る。

「い…いやっ!やめてっ!」

両手をつかまれ開かれた白い胸とペンダントが闇の中で光っていた。
思わずリチャードの身体に電流が駆け抜ける。
征服したい欲望が湧き出すが理性で押さえつける。

彼の体の下で子供の頃と同じ泣き方をする彼女に気付き、動きが止まった。

「うっ…ひっく…ひっく…」

しゃくりあげながら顔をそむけていた。

ぞくぞくと劣情を掻き立てられるがぐっとこらえる。


「…ッ。 すまない。…けれど、僕と一緒に英国に帰るんだ!」

毅然と言い放つリチャードに驚く。

「私は修道女なのよ。それに今更、パーシヴァル家に戻れない…」

「なら今ここで俗世に戻してやる。」

彼の唇が白い首筋にキスマークを残してゆく。

身体に甘い痺れが走るのを感じていたが抵抗する。

「いや!止めて!お願い! あなたはそんなことする人じゃない!お願い…いやぁ…」

尋常でない抵抗に彼は嗜虐心を掻き立てられる。
だけど泣き声を聞いて再び手と唇が止まる。

「戻るんだ…戻ってくるんだ…」

そっと泣きじゃくる彼女を抱き起こし、その揺れる黒髪を撫でる。

「いくらでも帰れる。君の父上も弟のアリステアも…生きてる。
ローレン卿もアニー様も…」

「!! 父は、弟は生きているの?」

リチャードの言葉に驚愕する。

「あぁ、生きてる。だから僕のそばに帰ってきてくれ。
いや、連れて帰る!」

強く言い切る彼にどう答えていいのかわからずに混乱する。

「私… 私…」

彼の広い胸に顔をうずめて泣きじゃくる。
そっと抱きしめ黒髪に頬を摺り寄せるリチャード。


その時、傍らに転がっていたリチャードのヘルメットからマリアンの声。

『リチャード!リチャード!生きているのなら返事をして!』

ヘルメットを手に取り、返事する。

「生きてるよ、なんとか。でもこの洞窟から出る手段があるかどうか…」

『出れるぜリチャード。下がってろ!』

進児の叫び声がしたと思ったら、岩盤の方から激しく響く音。
慌ててリチャードは叫ぶ。

「待て! 慌てるな進児!ちょっと待て!」

『何だ〜?』

ビルの声も聞こえた。

リチャードは通信を切り、彼女に服を着るように告げた。
自分はプロテクトギアを急いで身に着ける。

そしてヘルメットを被り、通信を入れる。

「こちらリチャードだ。岩盤を掘るのか?」

『村人に聞いた。それしか方法がないらしい。』

進児の返答が返ってきた。

「すまんな。頼むぞ。」

ロボット形体のビスマルクが岩盤を割った。
やっと外気で寒さが和らぐ。

「ところでデスキュラはどうなった?」

『あぁ、俺たちで殲滅したさ。』

進児の声が心地よく響く。

「そうか、すまなかったな。」

『ところでリチャード、お前さん。なんでこんなところに?』

「あぁ、パトロール中にやつらに襲われてね。亀裂に落とされて閉じ込められた。」

『シスターも一緒にか?』

「そうだ。」

リチャードに抱き上げられてるシスターの姿を見ていた。
ビスマルクは2人の見ている前で母艦へと変形する。
彼はシスターを抱き上げたまま、ビスマルクへと入っていく。

「ちょっと…リチャード、下ろして。恥ずかしいわ。」

さっきまでと様子が違う。
シスターから昔のファリアの顔になっている。
ベールを着けていないから黒髪が揺れていた。

「…体温は戻ってるようだけど…一応医者に診てもらった方がいい。」

「ううん。もう平気。だから下ろして。」

「…。」

彼は無言で彼女を下ろした。




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(2005/4/5)