not guilty -1-
ビスマルクチームはガニメデ星南部地区の外れにある村に着いた。
規模としては中くらいの人口2000名程度の村。
買出しと言うこともあってメンバー4人は村のメインストリートを歩く。
「あとはね…パンを買ったら終わりよ!」
元気良くマリアンが同行している3人に言う。
荷物持ちさせられている3人はあまり面白くない。
特にビルはちょっとでも美人を見かけようものなら荷物を放り出して
追いかけかねない勢いだった。
この村は物資が豊富だ。
村の外れに小さいけれど湖があり、水が豊かなので野菜や果物、魚が新鮮。
「俺、肉食いたいんだけどな〜、マリアン?」
「ダメ!ここじゃお肉って高いのよ!魚食べて!」
「ぶぅ〜!」
駄々っ子のようなビルを母親のごとくマリアンが言い聞かせていた。
進児とリチャードは傍らで笑っている。
往来の激しいメインストリートには歩道と車道の区別がない。
そこを車が行き交う。
4人の目の前で6歳くらいのハシバミ色の髪の女の子が転ぶ。
運悪く車が走りこんで来た。
「危ねぇ!」
4人と周辺の大人が叫んだ瞬間、黒い影がふわりと舞った。
キキキキーッと急ブレーキの音。
車は止まったが女の子の姿は既にない。
女の子を助けたのは黒服のシスター。
長いスカートを翻し、着地していた。
女の子は道に立つシスターの小脇に抱えられている。
わあっと歓声が上がる。
母親が駆け込んできた。
「ありがとうございます、シスター!」
涙を流し感謝を示す母親に対して彼女は微笑んでいた。
「いいのよ。」
そこへ車の運転手が降りて走ってくる。
「す、すみませんシスター!大丈夫ですか?」
「私は大丈夫。それよりミーガン、大丈夫?」
サファイア色の瞳のシスターが幼い女の子を腕から下ろし、覗き込む。
「うん。ありがとう、シスター。」
幼い少女ミーガンは少し涙目で礼を言う。
「もう飛び出しちゃダメよ。 レナ、あなたも母親なのだから気をつけてあげて。」
「…はい。すみませんでした。」
車の男にも声をかける。
「ジム、あなたもスピードの出しすぎには気をつけてね。」
「申し訳ない、シスター。肝に銘じるよ。」
「それじゃ、私はこれで。」
自分でとっさに放り投げた籠と散らばった中身を拾って足早に去ってゆく。
「凄いシスターだな、。」
「あぁ。」
リチャードと進児は去ってゆくシスターの後姿を見つめていた。
「しかし美人だったな〜♪」
ビルの目じりは少々下がっていた。
「「「ビル!」」」
またいつものビョーキだと3人は思わず叫んでしまう。
***************
4人が買い物を終え、村はずれに止めたビスマルクマシンへと戻る。
キッチンに立つマリアンがふと呟いた。
「あらいけない。
レモンを買い忘れちゃったわ…どうしよう。」
ちろんとマリアンは3人を見る。
当然、視線をそらす進児たち。
ヘタにもめるよりかはとリチャードは立候補する。
「僕が行って来よう。」
「いいの?リチャード。」
「ドナテルロで行ってくればすぐさ。 レモンだけでいいのかい?」
「うん。」
「それじゃ行ってくる。」
リチャードはドナテルロにまたがり、村のメインストリートへと向かう。
マリアンの要望通り、レモンを買って、ビスマルクマシンに戻ろうとする。
戻る途中、教会の鐘が響く。
ふと回り道をするリチャード。
(ビルじゃないけど…あのシスター、少し気になる…)
顔は良く見えなかったが、身のこなしと立ち居振る舞いが洗練されていると感じていた。
夕飯時分で村の中の家々から様々な料理の匂いが流れてくる。
メインストリートの一番奥に教会はあった。
リチャードは教会の聖堂に入るが誰もいなかった。
(誰もいなくて当然か… 僕らしくもない。)
シスターを一目見たかったが仕方がないと教会を出る。
ビスマルクマシンに戻るとマリアンが料理の仕上げに使うレモンを待っていた。
「遅いわよ〜、リチャード。」
「すまない。ほら。」
買ってきたレモンを渡す。
「やっと完成できるわ♪」
―夜中
コクピットには進児とリチャードがいた。
最近、この村の近くでデスキュラが目撃されたということで
村が襲われるかもしれないと警戒していた。
リチャードはレフトコンソールのシートに身を沈め、レーダーの監視をしている。
進児はメインコンソールのシートに座らずにリチャードに向かって腰を下ろしていた。
「やっぱデスキュラが襲ってくるっていうのはガセかな〜?」
「そうとも言えんだろう。この村には小さいけれど水質のいい湖がある。
狙われる可能性は大きいと思うな。」
「まあ、そりゃそうなんだけど…」
リチャードがレーダーを見ていると湖のそばに人影が映る。
「ん…?人…か?」
カメラのズームを上げてデスキュラか地球人かを確認する。
(黒い服を着ている… 女の人だな。ん、あの人は…ひょっとして昼間のシスター?)
服のシルエットですぐにわかった。
じっと見ていると彼女はベールを取り、服を脱いで木に引っ掛けて湖に飛び込んだ。
(!!)
白い裸体を目にしてしまった。
見てはならないものを見たと思い、慌ててカメラを切る。
その様子を進児は見ていた。
「リチャード、どうしたんだ?」
「なんでもない。」
レーダーで影は見える。
彼女が湖で泳いでいるのが鮮明に映っていた。
(今、デスキュラが襲ってきたら 大変だな…)
はぁとため息をつくリチャードを見て、進児が問いかける。
「何か映ったのか?」
「いいや。」
「本当に?」
「あぁ。」
「…ならカメラを点けてくれよ。」
「…どうしてもか?」
「どうしても。」
きっぱり言い切った進児にリチャードは仕方ないといった風情でスイッチを入れる。
「あ…?!」
進児も彼女の影に気付く。
よりによって湖からヌードの女体が上がって来たのだから進児も当然、反応する。
「お…おい、アレ…?」
さすがウブな進児は顔が真っ赤になる。
白い女の裸体がはっきり映る。
「わかったか?切った訳が…もう切るぞ。」
「あぁ。」
しばらくの気まずい沈黙の後、進児が口を開く。
「さっきのアレ、村の人かな?」
「おそらくな。」
誰かわかっていたが言わずにいた。
結局、この夜にデスキュラは襲ってこなかった。
―次の日
村の周辺をパトロールする3人。
マリアンがビスマルクに残り、進児ビルリチャードが村の周辺と村の中を見て回る。
村の中をビルが、西と北を進児が、東と南をリチャードが見て回る。
村の北側から東にかけて森があり、北西のはずれに湖が。
デスキュラが潜伏するには絶好の場所になりかねない森はかなり広い。
リチャードは森の中を警戒しながら歩く。
ヘルメットのレーダーに映る人影。
気をつけながら近づくと昨夜のシスターだとわかった。
野草を摘んでいるらしい。
大きな籠に摘んだ葉や実を入れている。
「ふう、これくらいでいいかしら? …氷室に持っていかなきゃね。」
ひとりごちるシスターの耳にがさがさという物音。
帯剣していた剣を抜き、構える。
ヘルメットを小脇に抱えた金髪の青年が出てきた。
「失礼。シスター。」
「え?あなたは…?」
ヘルメットや左上腕部に英国の国旗を認めたシスターは地球人とわかり、剣を収める。
「それにしても…あなたのような方が何故、剣を?」
「身を護るためです…。修道女と言えど女ですからいつ危険が及ぶとも限りませんし。」
事実、彼女は昨年、旅行客の男にこの森で犯されかけたことがあった。
「あなたはどなた?何故、私に声をお掛けに?」
サファイア色の澄んだ瞳のシスターに問いただされる。
「僕はビスマルクチームのリチャードです。
怪しいものではありません。」
「ビスマルク…?」
繰り返す様に呟くシスター。
「最近、デスキュラが目撃されたと聞いて…パトロールしているんです。
このあたりは大丈夫ですか?」
「…。一度見かけましたわ。けど、すぐに追い払いました。」
「ほう、そうでしたか…」
森の奥からマシンの音がした気がしたリチャードはヘルメットをかぶりセンサーをチェックする。
すぐそばまでデスキュラが迫っていた。もう間に合わない。
2人の前に飛び出してきたデスキュラ戦闘マシン。
「きゃあああっ!」
「ふんっ!」
サーベルで一刀両断するリチャード。
リチャードがシスターの手を引いて走り出す。
「待って!その先は…!!」
シスターが注意するが遅かった。
森が突然途切れ、崖になっている。
そこへ運悪くデスキュラ戦闘マシンが踊り来る。
銃で撃ち落すが数が多い。
傍らではシスターが剣で迫り来るデスキュラを倒している。
なんとか崖から森の中へと戻れたが二人は追い詰められて、ぱっくりとあいた岩の亀裂に落とされる。
そこへ容赦なく銃撃の嵐が。
穴は塞がれてしまう。
「ふははは…これでビスマルクのひとりは片付いたぞ!」
デスキュラ兵の部隊長が声を上げて笑っていた―
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(2005/4/5)
(2012/02/16 加筆)
Bismark Novel