not guilty -3-


コクピットへ向かう途中、ロボットホース・ドナテルロの前を通る。
ヒンと彼に向かっていななく。
そして彼女の姿を見て、ドナテルロは擦り寄る。

「お、おい。ドナテルロ…?」

「ひょっとして、あなたの馬?」

「あ、あぁ。」




確かに最初、ドナテルロの内臓コンピュータのデータベースに
彼女<ファリア>のデータを入れた事は覚えていた。
5年半前の彼女のデータなのにドナテルロは反応を示した。
彼女になついているようだ。

「どういうことだ…ドナテルロ?」

主のリチャードの言葉に反応せず、ファリアに鼻面を摺り寄せ、
心なしか機嫌よさそうに見えた。



戻ってこないリチャードが気になって3人がやってきた。

「何やってんだ?リチャード。」

ビルが声をかける。

「あ、いや。ドナテルロが…」

「「「へ?」」」


確かに4人の前でドナテルロはシスターに鼻を摺り寄せていた。

「どういうことだ…ドナテルロがなんでシスターになついてる?」

「僕にもよくわからん。彼女に関してのデータは5年半前のものなのに…」

「「「は?」」」

3人同時に声が上がる。

「彼女…ってシスターのこと?」

マリアンがリチャードに問いかける。

「そうさ。…シスターは… いや彼女は僕の許婚のファリア。」

「「「「はぁ〜!?」」」」

今回はファリアも入った4人が人が同時に声を上げた。

「ちょっと…どういうことなの?」

「今でも僕の婚約者は君だって事。
…それにしてもドナテルロ、お前、何で一目でわかったんだ?僕は解らなかったのに…」

悔しげにリチャードはドナテルロに告げる。
ヒンと自慢げにいななく白いロボットホース。



その光景を見ていたビルは納得がいかなかった。

「つーか、リチャード。説明してくれ。
俺にゃ何がなんだかさっぱりわかんないぜ。」

「そうそう。俺たちにわかるように話してくれ。」

ビルと進児に言われるのは当然だ。
5年半前に許婚を失ったことはみんなに話してない。
マリアンだけはビスマルクチーム選出の時に知っていた――




「とりあえず立ち話もなんだし、ダイニングに行きましょ。」

マリアンの一言で移動する一行。


ダイニングに着くとマリアンは進児とビルにコーヒーを。
自分にカフェオレを。
リチャードとシスターに紅茶を出す。


「で、どーゆーワケ?」」

ビルの鬼気迫る問いかけにリチャードは冷静に説明した。




5年半前にガニメデ星に家族旅行で出かけた彼女の一家を襲った悲劇―
父と弟は救出されたが母と彼女は行方不明―――
アテナU号事件と世に呼ばれていた。
彼女―ファリア=パーシヴァルは幼馴染。
自分が13、彼女が12のときに内々に婚約したと。



「君は…あの直後、どうなったんだ?」

リチャードは彼女に問いかける。

ファリアの手の中のカップが震えていた。

「私は… ガニメデ星に向かうキリスト教神父の乗る宇宙船に助けられたの。
一緒に緊急脱出用カプセルに乗っていた母はあの時、亡くなったわ…」

その時のことを思い出しているのか体も震えている。

「私は手当てしてくれたレイモンド神父に引き取られたの。
この星のドラドスという村に暮らしていた。修道女見習いとして。
今から4年前のある日、デスキュラの奇襲を受けて滅んだわ。私一人を残して。」

「「「「何だって!?」」」」

「そして…何日か彷徨ったあと、森に迷い込んだ私を助けてくれた人がいたの。
その方のもとで剣の修行をした。
己の身を護るために…
復讐の為に…

そして旅に出たの。

けれどこの村のロナルド神父様にここに留まる様に薦められた。
村の人も私を必要としてくれた。

…まさか… 父と弟が生きてるなんて…彼に教えられるまで知らなかった。
てっきりあの時の宇宙船の爆発で亡くなったと思っていた……」

瞳を伏せ、涙をこらえているように見えた。

「それにしても何で修道女に?」

マリアンに問われる。

「私、両親と弟が亡くなったと思っていたから、冥福を祈るために…
デスキュラに滅ぼされたドラドス村の人たちの為に。
それと…己の身を護るために。」

「己の身って…?」

進児が口にする。

「私、14くらいの頃から…男の人に言い寄られたり、襲われたりしていたんです。」

「「「「!!」」」」

彼女の告白に驚く一同。

「だから…自分の身は自分で護らなきゃって…
ご存じないでしょうけど、剣術はウィルヘルム男爵という方にご指導いただいたんです。」

「知ってる。」

リチャードが呟く。うんうんと他の3人もうなずく。

「え?」

「白亜の城に住むウィルヘルム男爵だろう?」

「えぇ。」

「良く知っている。あの方に僕はバグパイプを譲ってもらったよ。
キルトもね。」

「そ…そうだったの。」





しばらく沈黙が続く。

ふっと思い立ったようにリチャードが立ち上がる。

「すまん、みんな。ちょっと待っていてくれないか?」

「え、あ。いいけど…」

進児の返答を聞いてリチャードは彼女の手を引いてダイニングを出た。

ビスマルクからも出て行く。

「ちょっと、何処に行くの?」

「行けば解る…
その前にひとつ聞いておきたい。」

「…何?」

黒の清楚なシスター服の彼女の前に立つ彼はじっとサファイア色の瞳を覗き込む。

「君の父上と弟が生きてることを知って、
僕の想いを知った上で英国に帰る気持ちはある?」

「!!」

一瞬息が詰まる。

「…私、どうすればいいのかわからない。 
これでもシスターのはしくれだもの…
いまさら、戻れない。」

顔を背け、震える自分を自分で抱いている。
語尾も震えていた。
これだけ拒否すれば彼が激怒するだろうと思っていた。
しかしそれは間違いだとすぐに気付く。

リチャードは立ち震える彼女を抱きしめる。

「そう言うと思った…けど、許さない!
僕から逃れるなんて許さない。」

強引に唇を奪う。

「…やっ…!」



熱いキスを受け脱力した彼女を抱きかかえ、教会へと向かう。

戦闘の爪跡を残した村の奥にある教会。
何とか建物は無事だった。
そのことに安堵する。
中に入ると避難した村人と神父たちがいた。

「シスター!!」

中年のロナルド神父と青年神父セバスチャンが駆け寄る。

「無事だったか…良かった。」
涙を流し喜ぶ神父たち。
彼の腕から降りてロナルド神父の手を握る。

「ごめんなさい…心配かけて。こちらの方に助けていただいたのよ。」

少しその言葉によそよそしさを感じたリチャードだがあえて何も言わなかった。

「あなたがビスマルクチームの方ですね。ありがとうございます。」

彼の手を握り感謝を示す神父たち。

「実は、お願いがあってきました。」

「何でしょう?私たちで出来ることなら何でもおっしゃってください。」

「ここにいるシスターを地球の家族の元に返したいのです。」

「何ですと?! どういうことです?シスター?」

驚愕する神父と教会内にいた村人たち。

「実は…彼は、私の幼馴染。
私は事件で家族を失っていたと思っていました。
けれど彼に教えられたんです。父と弟が生きていると。」

「何ですと!!!!」

「出来れば彼女をすぐにでも母国の家族の元へ帰したいのです。
シスターから俗世に帰属するにはどうすれば?」

神父は想像もしなかった話に驚いた。
シスターからは家族は全員死んだときかされていた。
しかし家族が生きているのなら帰すべきだと考える。



「…彼女は、このガニメデ聖教会の一員だ。
しかし地球では…ただの乙女になる。」

「!! そんな…」

「だから地球に帰ればいい。」

神父の言葉にファリアは戸惑う。

「お帰りなさい…地球に、家族の元に。」

ロナルド神父はシスターの肩に手を載せ、告げる。

「私…帰ってもいいのですか?」

「あぁ。」

父のように慕ってきたロナルド神父に言われやっと帰る決心をする。

「…解りました。」


リチャードはその言葉に安心した。
そして更なる願いを告げる。

「神父様、もうひとつお願いしたいことがあります。」

「なんでしょう?」

「彼女と僕の結婚式を。」

教会内にいた全ての人が驚く。

「略式でいいんです。今、ここで僕が誓いたいのです。お願いします。」

神父に頭を下げるリチャード。
彼の決意にファリアは驚く。
5年半会えなかったのに、再会直後にこんなことを言い出すなんて考えもしなかった。
でもあの洞窟内でも「僕の妻になれ」とまで言ってくれた。
思わず涙が溢れる。

傍らに立つセバスチャン神父がその様子に気付き声をかける。

「シスターファリア。…あなたも彼を愛しているのでは?」

こくりと縦に首を振る。

「…私、子供の頃の夢は…彼の花嫁になること。
もう諦めていました。
でも、でもまさか…こんな日が来るなんて…」


ロナルド神父もセバスチャン神父も二人の想いが深いと感じていた。



***************

セバスチャン神父が鐘を鳴らすために塔に上がる。

ロナルド神父は二人に祝福を与えていた。

教会内にいた村人は思いがけないシスターの結婚の誓いに拍手を贈る。






黒服のシスターと黒い騎士の誓いは愛に溢れていた―






END

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あとがき(2005/4/6)
描き終わってみるとすっげ〜くさいんですけど…(汗)

ソードシスターシリーズ笑かす!

しかし一番かいてて楽しかったシーンは洞窟のくだりだったり…
最初はR指定のつもりで書いてたんだけど思ったより
過激にならなかったので…

また次回に。



(2005/04/07加筆)
(2005/04/09加筆)
(2013/02/17改稿)

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