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metamorphose -3-
4人はピアニストの楽屋へと向かう。
"Faria=Percival"の名を掲げたドアをノックすると先ほどの女性が出てきた。
「あら…やっと来て下さったんですね。
さ、どうぞ。」
ダイアンは長身で金髪碧眼の彼が婚約者だと聞いていたので
その姿がない事を不思議に思っていた。
鏡の前のスツールに腰掛けていた彼女が4人を出迎える。
「いらっしゃい、ビスマルクチームの方…それにリチャードって…
あら??」
彼の姿が無い事に気づく。
「あの…リチャードは?」
「僕はここだよ。ファリア。」
「えっ!?」
目の前には7歳ぐらいの姿の彼。
「え…!? リチャード…?? 何で?? どうしちゃったの??」
「ごめん。 原因不明なんだけど…こんな姿になってしまったんだ…」
悲痛な顔で告げる彼の前にしゃがみこみ、顔を覗き込む。
「…なんだか、初等部1、2年の頃のあなたって感じね。」
「あぁ。
一応、7,8歳の頃の僕のデータに近いらしい。
中身は19歳の僕なんだけど。」
じっと彼を見つめて、彼女は言う。
「なんだか…懐かしいわ。」
ぎゅっと彼を抱きしめる。
その光景を3人は見ていた。
ビルは内心、羨ましくなる。
(あ…リチャードのヤロ~。 あんな美人に抱きしめられて…)
彼女が身を離して、肩を掴んで小さな子にするように問いかける。
「ね、またこのまま…行ってしまうの?」
「…一応、30時間後くらいにチームは出発予定だけれど
…僕は未定。」
「そう…
あの…ビスマルクチームの皆さん、改めて初めまして。
私、彼の婚約者のファリア=パーシヴァルと申します。」
「あ、ども、輝進児です。」
「マリアン=ルヴェールです。」
「ビル=ウィルコックスです。」
次々と自己紹介する。
「彼…このままで大丈夫です??」
「少々、不便なんですがね。」
ビルがポロッと言ってしまう。
「そう…
あの、もし、 彼を火星に置いて行かれるのでしたら
私に預からさせてくださいません?」
「「「「は??」」」」
「彼一人だと、色々と大変でしょうし…」
リチャードは言い出した彼女に問いかける。
「君のスケジュールは? 忙しいんだろう?」
にっこりと微笑んで彼女は応える。
「大丈夫よ。
この後、半月ほどは入れてないの。 久しぶりにゆっくりしようと思って。」
ビスマルクチームの3人に向き直った彼女は頭を下げる。
「お願いします。
彼を預からせて下さい。」
真摯な姿に3人は胸を打たれていた。
「どうするよ、進児…??」
「俺はリチャードの意思を尊重しようと思う。
どうしたい?」
考え込んでいる彼に問いかける進児。
「確かにこのままの僕ではチームの足手まといだ。
残るよ、火星に。
せめて原因がわかるまで。」
「あぁ。解った。」
進児とリチャードの間で話は決まった。
傍らで聞いていたビルはふと思ったことを口にした。
「な、お前さ、ホントはこの美人と一緒にいたいんだろう?」
「……それもあるがな。」
意外に正直に本音を言った。
その答えにビルは笑顔になって、乙女に問いかける。
「こんなガキのリチャードなんてやめて、俺にしません?」
「えっ!?」
「ビル…お前の病気は本当に無節操だな!!
僕のファリアにまでちょっかいかけるな!!」
2人のやり取りを見て3人の口から笑い声が上る。
乙女は少年の肩に手を乗せていた。
「あなたは素敵な仲間に出会えたのね…」
「あぁ…」
リチャードは病院でも原因が判明しなかったので独自に調べるつもりだった。
しかし意外な展開になってしまったので 当分、様子を見ることに変更―
彼は宿舎から彼女の宿泊するホテルのセミスイートに移る。
「ホントにいいのか? こんな僕で?」
「…何言ってるの?
外見は子供でもリチャードはリチャードだもの。
それに私はちょっと嬉しいのよ♪」
思いがけない言葉に目を丸くする。
「は?」
「だって… 初等部の頃のあなたにもう一度逢えるなんて…」
「ファリア…(汗)」
彼女に抱きしめられると目の前にやわらかな胸…
19歳の身体では別に「大きい」とは意識していなかっただけに
少々戸惑う。
子供の身体での感触はまるで違っている。
「ねぇ、今日まで色々とあって大変だったのでしょう?
ゆっくり休んで…。」
「あ、あぁ…」
セミスイートのベッドはダブル。
今は少々広いと感じる。
大人の身体で、同じベッドに入るなら
甘い言葉を囁いて抱きしめるのに…と少々切なさを感じていた。
7歳の身体の自分がすると滑稽になるだろうと…
彼女のぬくもりと優しさを感じて彼は瞳を閉じた―
*****
翌日―
子供になって3日目の朝。
やっぱり7歳児の身体のまま。。
少し慣れてきたけれど、それでも妙なアンバランスを感じる。
不意にビルの言った言葉を思い出す。
「見かけは子供、頭脳は大人。」
「はぁ…」
そうなんだと思うと、今日も溜息が出てしまう。
横を見ると恋人である彼女の眠る姿。
今の自分の目には十分過ぎるほど大人の女を感じてしまう。
白い肌のデコルテと胸の谷間―
触れたい衝動に駆られても 指に髪を絡めてみるだけ―
(ファリア… やっぱり君だけは他のヒトと違う反応だった。
みんな、子供になってしまった僕を見て、不便だの使えないだのと言ったけれど
…君は違う。
僕がこの姿になっても。
そりゃ、最初は驚いていたけど、認めてくれた。
嬉しいよ… )
彼女の愛情を感じて彼は胸が熱くなる。
頬をぬらした雫が、彼女の腕に零れ落ちてしまった。
「ん…?」
「あ。ごめん、起こしちゃったか…」
手で雫を拭い、笑顔を見せる。
「おはよう…リチャード。」
「おはよう、ファリア。」
寝起きでも笑顔を浮かべる彼女がいた。
「なんだか… 懐かしい夢を見てたわ。」
「夢?」
「えぇ。そう。
初等部の頃の…」
「そうか…」
「なんだか私も7,8歳になりたいわ。」
「何言ってるんだよ?!」
「だって… 」
少し申し訳なさそうな顔をするが
彼女は言葉を続ける。
「あの頃の私達って、ワリと無邪気に"好き"って言っていた気がするわ。」
彼女の言葉に 同じ想いを感じた。
「あぁ…そうだったな。」
「今は愛してるだけど。」
「!? …ファリア…」
さりげなく彼女が本心を告げていると気づく。
「ねぇ、今日は何処かに出かけない??
動物園でも遊園地でも。
子供に戻りたいの、私。 いいでしょ?」
彼女に子供のような笑顔で首をかしげて問われ、
うなずいていた。
「ねぇ、どっちに行きたい?」
「そうだなぁ… じゃ、遊園地なんてどうだい?」
「いいわね♪」
「じゃ、マルスシティの郊外にあるマルスランドに行こう。」
「えぇ。」
2人は朝食を済ませると、連れ立ってモノレールに乗ってマルスランドへと。。。
***
遊園地の定番・絶叫コースターやメリーゴーラウンド…
いくつも乗って廻って ふたりは本当の子供のようにはしゃいでいた。
ゴーストハウスでは少年に抱きつく乙女がいた。
午後を廻って夕方近くになると 園内にも人が増えてきた。
一息つこうとふたりはベンチに。
「私、飲み物でも買ってくるわ。」
「いいや、僕が行く。 ファリアは座ってて。」
子供の姿であっても、彼は彼だと感じる。
「えぇ。じゃ、お願いね。」
「あぁ。」
彼はフードコートのドリンクコーナーへと駆けていく。
その様子はまるっきり12年前と同じだと感じる―
嬉しくて笑顔の乙女はベンチに深くもたれ、瞳を閉じていた。
不意に前に人の気配を感じて開けると、下心見え見えの20歳位の男達。
「ねぇ~、彼女~。ひとり?
俺達と一緒に廻らない?」
「ご遠慮します。 連れがいますから。」
そこへ少年の彼が戻ってくる。
「ただいま☆ …って、誰??」
少年の両手にはアイスティ。
「おっや~!? 君の連れってこのちびっ子?
ショタコン?」
むっとした彼女はベンチから立ち上がる。
「行きましょ。」
「あぁ。」
少年と一緒に行こうとする彼女の腕を男が掴む。
「待ってくれよ。
こんな美人なのに、こんなガキが相手なんてもったいないぜ。」
「放して!!」
「いいじゃねぇかよ!!」
男達は強引に腕を引いて抱き寄せようとする。
「イヤッ!!」
「その手を離せ!!」
彼は手にしていたアイスティを投げつけ、ファリアの手を引いて逃げようとする。
今の自分では立ち向かう事も出来ない。
「このガキ!!」
怒りを覚えた男達は少年の彼に殴りかかろうとする。
「やめて!!」
咄嗟に彼女が飛び出し、少年を庇う。
「「「!??」」」
彼女の頬に男の拳が入り、次の瞬間には吹っ飛ばされていた。
地面に倒れる乙女…
騒ぎに気づいた園の警備員が駆けつけてきた。
男達は一目散に逃げ出す。
「大丈夫ですか?お嬢さん!!」
「あ…リチャードは無事?」
「男の子なら無事ですよ。」
「そう…」
「ファリア!!」
彼女は警備員に抱き起こされた腕の中で気を失う…
少年は傍らで泣いていた。。。
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(2006/3/2)
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