metamorphose -2-




−翌日

やはり7歳児のままのリチャード。

「はぁ…」

今日は偶然にも婚約者が火星に来ることになっている。

彼女はピアニストでマルスシティ中央にある
コンサートホールでのシティフィル演奏会に客演する事になっていた。

本人に会えなくても演奏は聴きたいと思う彼は
一応、タキシードも昨日の内に買っておいた。。




夕方、タキシードを着て、外出しようとする彼を見つけたのはマリアン。

「何処に行くの? タキシードなんて着ちゃって…??」

「…コレに行こうと思って。」

「何々…??」

渡されたチケットを見る。

「マルスシティフィル・第36回演奏会…
ってクラシックコンサートに行くつもりなの?」

「あぁ。招待券なんでね。
…よかったら、マリアンも一緒に行くかい?」

「え? いいの??」

「このチケット、BOX席のだし…大丈夫だよ。」

「行くわ☆
着替えてくるからちょっと待って!!」

「あぁ。」

マリアンは急いで自分の部屋に駆け込む。



4人が滞在しているのは軍の宿舎で4人部屋。
とは行っても、4部屋に分かれていて、中央にリビングのある
マンションタイプ。。

リチャードがリビングでマリアンを待っていると
外出していた進児とビルが帰ってきた。

「あれ…? リチャード?
どした? タキシードなんて着ちゃってさ…」

またからかいモードのビル。

「…はぁ…仕方ないなぁ…」

「なんだよ〜?!」

ビルが不満そうに突っ込む。

「…これからマルスシティフィルの演奏会に行くんだ。
二人も来るか?」

「いいのか?リチャード?」

「って、クラシックコンサート?」

「…ビルなら途中で寝てしまいそうだな。」


そんな会話の中、マリアンが可愛いワンピース姿で戻ってくる。

「あれ? 進児君たちも行くの?」

「どうする?ビル?」

「俺も行ってやるよ。
リチャードの保護者として。」

「来なくていいよ!!(怒)」

ビルの言葉につい怒ってしまう。

「あぁ、ごめんて。
リチャード、ビル兄ちゃんも連れて行ってくれ!!」

一応(?)、下手に出てきたビルを見て呟く。

「しょうがないなぁ…」



結局4人は連れ立って、マルスシティコンサートホールへ。。。



彼はこの日の午前中の内に
彼女の元に花束を届けるように手配しておいた。。






ホールの楽屋で美貌のピアニストは鏡の前で最終チェックをしていた。


「ファリア〜! また花束が届いたわよ。」


スタッフのひとりが淡いピンクのバラの花束を持ってくる。

「今度はどなたから?
さっきはシティの市長さんだったわね?」

「えっと…カードがあるわ。
"Dear my princess.
     From. your knight."


ですって… 誰かしら?? ちょっとキザ〜☆」

ファリアはその言葉だけで誰からなのか解った気がした。

「ちょっとカード見せて。」

「あ、はい。」

差し出されたカードを見て見ると直筆。
その文字をなぞって微笑む。
間違いなく彼の筆跡。


   (リチャード…来てくれてるんだわ…)



カードを見つめて微笑む彼女を見て
スタッフのダイアンは声を掛ける。

「どなたからだったの?」

「彼…から。」

「え? ってことは婚約者の?」

「えぇ。 時間、取れたんだわ。
嬉しい…
きっとあとで会えるのね…」


ふふっと満面の笑みを浮かべる。


開演5分前のベルが響く。
軽い足取りで舞台袖へと向かう。。。



今回でマルスシティフィルでの客演は2回目。

前回が好評だったからと 3ヶ月も開かずに再び来る事に…



真っ赤なベルベットのベアトップドレスを纏ったピアニストは最高の演奏を披露する。。


曲目はショパン・ピアノ協奏曲第1番 ホ短調op.11
     第1楽章 アレグロ・マエストーゾ
     第2楽章 ロマンス(ラルゲット)
     第3楽章 ロンド(ヴィヴァーチェ)

    ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18
     第1楽章 モデラート
     第2楽章 アダージョ・ソヌテート
     第3楽章 アレグロ・スケルツァンド



   ***


演奏が終わるとスタンディング・オベーションの嵐―


場内がプリンセスコールで揺れていた。

「なんだぁ〜?!」

うとうとと舟をこいでいたビルはスタンディングオベーションの声で起こされた。

「彼女を呼んでるんだ。」

「え?」

「コレが有名な<プリンセス・コール>」

「何だよ、それ?」

ビルの問いに答えなかった彼に進児が再び問いかける。

「ピアニストの彼女をクラシックファンの間では、
<プリンセス>と呼んでいる。
彼女にアンコールを願うファン達の間で始まったとされてるんだ。」

「「「へぇ…」」」


一旦演奏者たちも指揮者も引き上げてしまうがピアニストの彼女だけは
ステージ上に戻ってきた。

わぁああ…と歓声の上る中、彼女はお辞儀をしてピアノに向かう。

モーツァルト・幻想曲・ハ短調K.475 を弾き出すとしんと静まり返って
みな、聞きほれていた。



音がやむと再びスタンディングオベーションの拍手の中、
ピアニストは笑顔でお辞儀―

会場内の視線は優雅な美しいピアニストに集まっていた。



   ***

「な、リチャード。
このチケットを贈ってくれたの、ピアニストのこの人なんだろ?」

「え?」

「だってさ、パンフに載ってるプロフィールを見て気づいたんだ。
同い年で、同郷ってことは…幼馴染とか??」

進児の指摘は正しかったので答える。

「あぁ。
彼女が贈ってくれた。
ファリアは… 幼馴染で 僕の婚約者だよ。」

「「「え〜!!」」」

リチャードの口から出た始めて聞く言葉に驚く3人。


「マジかよ!? こんな美人と?!」

「あぁ。」

「なぁ…楽屋に顔出さなくっていいのか?」

進児に言われ、悲壮な顔になる彼。

「… こんな姿で行ったら、驚かせるだけだ。
行かない方がいい。」

「いや…むしろ行くべきじゃないのか?」

進児の言葉に伏せた顔を上げる。

「だってさ、せっかくこんなに近くまで来てるのに…
会わないほうが辛いんじゃないのかよ?
お前、この人のこと、好きなんだろ?

だったら、今の自分を見て貰ってもいいんじゃないか?」

「子供になってしまった僕を見たら…
失望して婚約破棄されてしまうんじゃないかって、不安なんだ。」

「リチャード…」


3人が泣きそうな顔の彼を見つめているとドアをノックする音。

「はい?」

マリアンが対応に出ると
栗色の髪の女性が立っていた。

「あの…サー・ランスロットが来ておられますよね?」

「えぇ。」

「Missパーシヴァルが待っているとお伝えしに来たんです。」

「あの…あなたは?」

「私は彼女のスタッフのダイアンと言います。
確かにお伝えしましたよ。 …それでは。」

一礼して女性は去っていく。


「やっぱり会いに行った方がいいんじゃねえの…リチャード?」

ビルにまで言われ、こうなったら腹をくくるしかないと。。

「わ、解ったよ…」





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(2006/3/2)



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