lovin' you -5-



朝食の席で顔を合わせてもジョーンはファリアを無視していた。
嫉妬が彼女を変えているとリチャードでも理解できる。


「マリアン…少し、ファリアのコト頼むよ。」

「え?あ、はい。」

席を立つリチャードに声をかける。

「…リチャード…?」

「ちょっと話してくる。」


ビルと食堂を出て廊下を行こうとするジョーンを呼び止める。

「何です?」

彼が声をかけてもやはり表情は硬い。

「ちょっといいかな?」

答えようとしないジョーンにビルが囁く。

「いいじゃねぇか…」



3人は黙ったまま庭園に向かう。

ベンチにジョーンを腰掛けさせて、ビルは立っていた。
リチャードは同じベンチの端に腰を下ろす。

「あの…何か誤解があるようなので…ジョーンさんに話しておきたいと…」

リチャードが切り出すと不機嫌な表情。

「なんですか?」

「ファリアの事…彼女のあんな顔…見たくない…」

「…だから?」

溜息をつくリチャードはそれでも言葉にする。


「キスの一件は…ビルが僕の妃だと言うことも忘れて暴走した結果だ。
彼女に罪はない。
それに…そのドレス。
彼女が君にって用意したものだ。」

「え?」

「それに…門衛に止められない様に門衛にジョーンさんを通すように…
部屋を用意してくれるようにと進児王子に頼んでいたのもファリア。
昨夜は…僕に抱かないで欲しいと… 
君のために浜に行かなきゃならないからって…」

「!? そんなこと…」

「だから彼女に辛く当たらないでくれないか?」


リチャードの瞳には優しさと彼女への愛情が溢れている。

傍らでビルは目を細めて聞いていた。

本当なら自分が進児に頼むべきことなのに
ファリアが便宜を図っていてくれたと初めて知った。

   (どうりで…今朝の門衛はすんなりと通してくれたわけだ…)



「君がビルを探してくれるよう頼んだ日から…
僕の妃は…毎朝、祈っているよ。
君がビルと幸せになれるようにと…」

「あ…あぁ…」

泣き出してしまったジョーンの肩をビルはベンチに座り、優しく抱きしめる。


「ファリアも僕も…恋する気持ちは解ってる。
君が大変な決意をして人間になったことも…。
ビルに対する想いも大切だと思うが、
せめて同じ境遇のファリアには…辛く当たらないでやってくれ。
…僕のことはどう思ってくれてもかまわないから…  」


ビルがリチャードを見ると妃を深く愛しているということを理解した。

「…リチャード…」

子供の頃からお互いを知っている。
リチャードがここまで本気で女に惚れるとは思ってなかった。

どこか醒めたヤツで何を考えてるのかわからない…
同じ王子という立場でありながら、
生まれながらの気品のよさを漂わせていたリチャードを羨ましく思っていた。
嫉妬した時もあった。
けれど丸2年間、ドメス師のもとで時間を共にして最良の友だと…


そんな彼の妃にしたこととジョーンを傷つけたことにやっと気づく。
ビルはベンチから降り、ふたりの前に真剣な顔を見せる。

「リチャード…すまなかった。ジョーンにも…
俺が…すべて悪かった。
ファリアさんにキスしたから…
ジョーンもファリアさんも…傷つけた。
リチャードまで迷惑かけた…」

「…。」

リチャードははじめて見る真剣なビルの顔を見つめた。
ジョーンは涙が溢れて止まらない。

「ごめん…

俺…ジョーンのこと大事にする。
だから…許してくれ…」

「…ビル…」

ジョーンに向ける真剣な瞳は彼女の心に刺さっていた。


「俺なんかの為に… 辛い思いして人間になってくれたんだもんな…」

「あぁ…」


ボロボロと泣いているジョーンを抱きしめるビル。


リチャードはすっとベンチから立ってその場を離れようとする。


「あの… リチャード様… あとで…ファリアに会いに行きます…」

ジョーンがか細い声で告げた。


「…そうしてやってくれ…」





リチャードは庭園を出て部屋にいるファリアとマリアンのところへと。


「ただいま…」

「おかえりなさい…リチャード。」

「お帰りなさい。義兄さま。」

ソファに腰掛ける妃の頬にキスする。

「お茶、入れますね。」

入れ替わりにソファから立ち上がり、紅茶を入れる用意をするファリア。


「お義兄さま… ジョーンお姉さま、どうしちゃったの?」

朝食の席で再会した従姉・ジョーンに驚いたが
その表情にさらに驚いていたマリアン。

ふうと溜息をついて言葉を発する。

「……恋に一途になりすぎたってトコかな?」

「え?」

「…多分そうね。」

淹れた紅茶をトレイに載せ、運んでくるファリアが言う。


夫と妹の前にカップを置いて、自分も席につく。

「私も…マリアンも… まだ人魚の時、同じ瞳をしてたもの…多分。
私はリチャードを、マリアンは進児君しか… 見えてなかった。
周りのことなんて考えてなかった。
だから…お姉さまの気持ち、解るのよ。」

「あ、うん… そうかも…
私も進児様しか…見えてなかったわ。」



呟くように言葉を交わす姉妹。

そっと妃の腰を抱き寄せるリチャード。

「君もマリアンも、ジョーンさんも…
僕達のそばにいたいと人魚であることを捨てた。
それがどれほど辛いことなのか僕達にはうかがい知ることは出来ない。
けど…僕は感謝してる。
本当に愛しい女性を抱きしめる幸せを知った。 だから…」

「リチャード…」

ファリアはリチャードの首に腕を回し抱きつく。


「進児も解ってる。マリアンと出逢って…どれほど幸せか。」

「お義兄さま…」

潤んだブルーの瞳で見つめるマリアンにも涙が浮かんでいた。

「たぶん、ビルもいずれ気づくさ。
ジョーンさんがどれほどの覚悟で人間になったのか…」

「…そうね。」


3人はしっとりとした幸せを感じていた。




そんな空気を打ち破って、ドアを開けて進児が入ってくる。

「あー…疲れた〜(汗)
お待たせ、マリアン。やっと今日の執務終了したよ。

…二人に当てられてたの??」

妙にシリアスな空気の3人。
マリアンに笑顔で問いかける。

「うん…当てられっぱなしよ。」

「やっぱりな。」

進児の微笑がマリアンの笑顔を誘う。



「ねえ…進児様… ありがとう。」

「ん?なにが?」

「私のこと、好きになってくれて…」

「え?あ!?」

思わず頬を染める進児を見てほほえましく見ているリチャードとファリア。




そこへドアをノックする音が響く。
主である進児が答えると入ってきたのはビルとジョーン。


「おや…みんなおそろいか。」

ビルが4人を見て言う。

「あぁ。」

進児がビルに顔を向けた。


ジョーンはファリアの前に進み、膝を折る。

「お姉さま!?」

その光景に皆驚く。

「ごめんなさい。ファリア… 
私一番に感謝しなければならないあなたに…嫉妬してたの。」

「いいのよ。私、お姉さまのお気持ち解ってるから…
ね、座ってくださいな。」

笑顔でファリアはジョーンにソファに座るように勧める。

「…でも…」

「私のほうが年下なのよ。  ね。」

優しく言われ、ソファに腰を下ろす。

「ありがとう…」



顔を伏せてジョーンは謝る。
4人は見守っていた。

「ごめんなさいね…ファリア…」

「もういいの。
ね、これからはマリアンも私も…同じ立場なの。
頑張りましょ。」

「え?」

従妹の言葉が理解できずにいた。

「私の夫も、マリアンの未来の夫も、お姉さまの彼も王子だもの。
それぞれの国の妃として…頑張らなきゃ…ね?」

「あぁ…そう、そうね…」


彼女の腕の中で泣き出してしまう。




「あの…ファリアさん… 改めてごめんな。
俺が軽率なことしてしまったせいで…ジョーンもあなたも傷つけた。」

ビルは真摯な顔で謝る。

「もういいの。 これからジョーンお姉さまを幸せにしてあげて…」

「あぁ…必ず。」





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(2005/9/18・2020/09/14加筆改稿)


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