lovin' you -4-




浜辺でビルとジョーンは…黙ったまま見つめ合っていた。


「君…わざわざ俺に??」

「はい。あの時のお礼を…」

「そうか…」


ビルは波打ち際に座る人魚を見つめる。

初めてあった時のことを思い出す。


―アイリス国の朝の浜辺を散歩中、網に絡まっていた大きな魚に気づいた。
助けてやろうと思って、網を外していくと現れたのは…

美しいブロンドとラベンダー色のうろこを持った人魚…

伝説だと思っていた存在を目の当たりにしてビルは驚いた。
あまりの美しさに言葉を失ってしまうほどに。


見詰め合った瞬間− ビルは恋に落ちていた。
それはジョーンも同じだったが−

お互い人間と人魚− 叶うはずもないと言葉も交わさずにビルは諦めた。
ジョーンもまた… 無言のまま、海へと戻った。
人間と接触した事が父に解れば、岩屋に1年間入れられるのが掟。



出会いから1ヵ月半後…

ジョーンは父・ネプチューンの兄・ポセイドンの娘の人魚姫ファリアとマリアンが
人間になって人間の男と結ばれたといううわさ話を耳にした。

ポセイドンに会いに行って話しを聞くとふたりの人魚姫は…
自らの勇気と純粋な心ゆえにずっと民を苦しめていた黒き人魚を倒したのだという。

そしてそのふたりの姫と人間の王子たちの愛の深さに気づいて
人間にしたのだとポセイドンは少し切なげな瞳で話してくれた。




自分はせめてビルに自分の想いを打ち明けて…
少しでもそばにいたいと願った。
たとえ数日でもいいと…

海の魔人魚・ザトラーに頼んで髪と引き換えに薬を貰った。
効果はわずか3日間。
その間に彼の心からのキスとそのハートを手に入れなければ人魚に戻る。





   *


ジョーンは潤んだ瞳でビルに告げる。

「ずっと…あなたをお慕いしておりました…ビル様。」

「え?」

「助けていただいたあの時から…」

ジョーンの言葉に驚きながらもビルは何とか言葉を発する。

「!? 俺もさ… でも俺は人間。君は人魚。
無理…だと思ってた。 昨日まで。」

「え?」

「昨日… ファリアさんとマリアンさんに会った。
ふたりが元人魚姫だって聞いてさ… 驚いたけど…
まさか君と知り合いだとはね…」



しばし黙るふたり。


沈黙を破ったのはジョーン。


「あの… 何故さっき…ファリアにキスしてらしたの?」

ビルをブルーの瞳が見上げる。

「えっ!? あの、それは…その… つい衝動的に…
リチャードのヤツの妃って解ってたけど… 
あの人がリチャードのコト愛してるって解ってたけど…つい…」

ジョーンは目を細めた。

「あの娘… 美しいものね…
人魚の世界でも並外れて美しいと評判だったわ。」

「そ、そーなんだ…」

自分とは違う漆黒の髪と生まれながらの気品を持っていると感じていたジョーン。

「私やマリアンは母親が人魚だけど…あの娘は違うの。だからなのかしらね…」

「人魚じゃない? まさか…人間??」

「いいえ、違うわ。あの娘の母親はね…月の女神。」

「!?」

ビルはポセイドンやネプチューンというのが実在するというだけでも
驚いたけれど、さらに月の女神と聞いて驚き入った。


「…そうなのか…」

「私、普通の人魚です。けど…あなたのそばにいたい。
そばにいられるなら…人間になりたい…」

「え…!?
そんなことできるのか?…って、ファリアさんたちなってるか…」

こくりとうなずくジョーン。

「でもあの娘達は…父・ポセイドンの力でなった。
私は…薬でなれるんです。」

「薬?!」

瞳を伏せジョーンは告げた。

「海の魔人魚に貰ったの。
でも…3日間だけ。」

「3日間?! ずっと人間になる方法はないのかい?
ファリアさんたちみたいに…」

「あります…。 けど…」

「けど?」




伏せていた顔を上げてジョーンは涙目で問いかける。

「…あなたは私を愛してくれますか?
そばにおいてくださいますか?
私だけをずっと見ていてくださいますか?」

その真剣な眼差しはビルの心に突き刺さる。

「えッ!! あの…その…」

どもるビルに問いかける。

「…ダメならダメとはっきりおっしゃってください。」


ジョーンの眼差しでビルは真剣な顔でやっと答える。

「あの…俺… 自信ないけど…あんたのこと…ジョーンのことずっと気になっていた。
人魚だから俺の一方的な恋だって思ってさ…諦めていた。」

「ビル様…」


潤んだブルーの瞳でビルを見つめている。


「でもホントに俺でいいの? ちょっといい加減な男だしさ…」

ふるふると首を横に振るジョーン。


「私…あなたが好きです… 
いい加減な方が人魚を助けて、逃がしてくれるなんてことはしないと…」

真っ直ぐな瞳でビルの瞳を覗き込む。

「…そう。そんな風に言ってくれる人、初めてだよ。
嬉しいよ、ジョーン…」

ビルは濡れるのも構わないまま、波打ち際で抱き寄せ
くちびるを寄せた。


   (あ… ビル様…)


月のいなくなった星空の下…
ふたりは初めて熱いキスを交わす…






   *


「私…薬飲みます。
ビル様を信じてます!!」

「そう…」

ジョーンは身を離し、ビルの前で小瓶を手に取ると中身を一気に飲み干す。


手から小瓶がするりと落ちた。

「あ…う…」


ビルの目の前で身悶えるジョーンは苦しさのあまり、海の中へ。

「ジョーン!!」

ビルは慌てて、海に入ると…ジョーンの下半身は脚になっていた。


裸身のジョーンはビルに抱きつく。


二人は波まで抱き合っていた。

そっと口付けを交わす頃…
海に太陽の光が昇って来る―−−




ジョーンは浜辺に置かれていたドレスに身を包み、
ビルの手に引かれて城へと向かう。





歩きながらビルは笑顔で囁く。

「ファリアさんに謝って…お礼を言わなきゃな…」

「別にいいんじゃないかしら…」

憮然とジョーンは言う。

「へ?」

「あの娘、あなたとキスしてたもの…」

嫉妬してると感じたビルは嬉しく思う。

「いや、俺が悪いんだ。
強引に抱きしめてキスしたから…」

「でも…」

はずみとはいえ自分の思っている男とキスしたファリアが許せずにいた。

   (あの甘美な幸せをあの子も感じたのだとしたら…許せない…)




城へつくとすんなりと入らせてもらえたジョーン。

朝食前に謝りに行くというビルにとりあえずついていく。


二人の部屋を訪ねるともう起きていた。
居間でビルは膝を折り、真面目に謝罪する。
その様子を見て、リチャードは一応、許してくれた。


「…もう僕の妃に無礼は許さんぞ!! 解ったな!?」

「…解ったよ。」


ジョーンは彼女の夫・リチャードにそんな風に言われるのを観て面白くなかった。
ファリアは目をあわそうとしないジョーンに気づく。



ふいとビルと共に部屋を出て行く。


「ジョーンさん、変だね。」

彼の言うとおりだと感じていた。

「…多分、ビルさんと私がキスしてたのが面白くなかったんでしょ…」

「へ?だってあれはビルが強引に君に迫ったんだろう?」

「そうよ。でもお姉さまにとっては…多分、既成事実しか目に入ってない…
いいのよ… お姉さまが幸せになってくれるなら…」

「…ファリア…」


リチャードは知っている。
自分の妃がジョーンの為に色々と便宜を図っていたことを。







To -5-
__________________________________________________

(2005/9/18・2020/09/14加筆改稿)


to -3-

to Bismark fantasy*


to Bismark Novel


To home