lovin' you -3-





リチャードと部屋に下がったファリアは二人並んでソファに腰を下ろす。


「ね、リチャード…前から聞きたかったのだけど…」

「何だい?」

「進児君とは…何処で出会ったの?
幼い頃からお互い知っているのでしょ?」

「あぁ…初めて会ったのは僕が7歳で進児が6歳。
同じ帝王学の師についててね…二人一緒だったんだ。」

「そうだったの…」

懐かしそうな表情で彼は話しだす。

「随分厳しい師でね、このレオン国に住んでらっしゃる。
ドメス師は…厳しいが優しい師だよ。
進児たちの結婚式が終わって… 機会があれば会えるだろうな。」

「そうなの…」





   *


リチャードは思い出していた。
初めて進児に会った幼い日…

まさか…義理の兄弟になるなんて想像もしていなかった…



遠い目をする彼にぽつりと尋ねる。

「ね、ビル王子は?」

「あぁ…僕と進児がドメス師について…1年後くらいに来た。
随分、マイペースなヤツでね。
よく師に怒られてたなぁ…」

彼の口元に笑みが浮かぶのを見て、
ファリアは思わず幼い3人を思い浮かべてみた。



「ふふ…なんだか想像つくわね…」

彼女の笑顔を見て、彼も微笑んでいる。

「そうか?」

「優等生のリチャードと真面目な進児君。
やんちゃなビルさんって…」

一瞬、驚いた顔を見せるが笑い出す。

「はは…確かにその通りだったよ。」

「ふふッ…」




彼の手は優しく彼女の頬を撫でていた。
気になっていたことを口にする。

「な、ファリア。 ビルのことどう思う?」

「そうね… 第一印象はなんて野蛮で強引な人って思ったけど…
さっきは少し違ったわ。 
多分、ジョーン姉さまは王子様ぽい時にお会いになったのじゃないかしら?」


リチャードはまた、返答に驚く。

「…確かに君にとっての第一印象は悪いよな…
悪いヤツじゃないんだが…

ここ数年、女癖が悪いという噂を聞く。
君も一度あんな目に合ってるのだから…一応気をつけてくれ。
ふたりきりになるなよ。」

真剣な目で彼は注意する。

「はい。 
それにしてもジョーン姉さま、
…一体何処を好きになったのかしら…??」

「さぁ…ふたりの出会いがどんなものか知らないからなんとも言えないな。
それに…また会ったとしても…二人の問題だろう?
君が気に病む必要はないよ。」

「そ、そうね… 
ね。リチャード… 
ジョーンお姉さまのことなんだけれど、
私とマリアンの従姉だから進児君にお願いすれば
お城に滞在させてくださるかしら?」

「あ? あぁ、そうだな。自分の妃の従姉だし…大丈夫だろ。」


「じゃ、今日中にでもお願いしておかないと…」


リチャードは従姉の為に気を揉んで動いているファリアを優しい瞳で見つめていた。




   *


午後、ふたりが庭園にいると進児がやってくる。

「あ、ここにいたか…すまんな。
せっかく来てくれている客人なのに相手できなくて…」

「いや、構わんよ。
僕達は新婚なんだ。ふたりだけでいられるだけで十分だ。」

「そうか…」

進児もその思いがわかるので早くこの場を離れようとした。
しかしファリアが呼び止める。

「あ、ねぇ、進児君。
ひとつお願いがあるんですけど…?」

「何です?姉上?」

「私とマリアンの従姉が来たがっているのよ。
ある方に恋して人間になりたいらしいの。
それで…2,3日お城に滞在させていただけないかと…
勿論、人間の姿で来るの…」

「…!? ホントに?」

「えぇ。マリアンの結婚式も見て見たいといっていたし…」

「そうか。そういうことなら喜んで。
で、いつ来られるんです?」

「早くて明日の朝。遅くても…明日中位には…」

「お名前は…?」

「ジョーン。金の髪にブルーの瞳の奇麗な方よ。
マリアンと同じだけど全然雰囲気は違うわ。」

「…わかりました。門衛達に言っておきます。
それでは俺、失礼します。」

「ありがとう、進児君。」
「進児、すまんな。」


リチャードとファリアに微笑まれ、ちょっと照れ臭い進児がいた。

「いいさ、じゃ…」





   *


―その日の深夜

ファリアは自分のドレスを持って、ジョーンが現れるのを浜で待っていた。

昨日と変わらぬ静かな穏やかな海。
月はは新月近いため弦のように細く空に浮かんでいた。


そこへ砂浜を歩いてくる足音。

リチャードが心配して見に来たのかと思い振り返ると…ビルだった。

「あ…!?」

一瞬、身を硬くするが逃げなかった。

   (大丈夫よね… 昨日謝って下さったし…)

向こうもファリアがいることに気づく。

「おや…またここに?」


ビルはファリアを見つめる。
薄い夜着の上にショールを羽織り、手元にはドレスを持って腰を砂浜に下ろしていた。


「あの…?」

ファリアはビルを見上げる。
ビルからは胸の谷間が見えていた。
冷静を保ち声を掛ける。

「どうしたんです?リチャードとケンカでも?」

「いえ…違いますわ。」

「でも…そのドレス。」

「…ちょっと…」


まさかここで従姉の人魚が人間になるなんて言えない



ビルは昨夜と同じように美しい乙女を見つめる。

   (この人が…リチャードの妃…
    人妻だなんて… 見えねーよな…)


横60センチくらいあけて隣に腰を下ろす。

白い胸元のその谷間と首元。
風に揺れる黒髪と細い肩を見てごくりと生唾を飲み込む。


   (男として… やっぱいい女はいい女… だよなぁ〜
    欲しくなって当然だよ…)


昨日のリチャードの怒りを忘れてビルは手を伸ばす。


「あ、あの…?」


戸惑う乙女を見てますます鼓動が高鳴る。
腕を引き寄せると手にしていたドレスが落ちた。

「い…いや!! やめて!! やめてください!!」

完全にファリアしか見てない男の熱い瞳―


「イヤッ!!」

逃れようとして立ち上がろうとするが砂に足を取られて転倒してしまう。
夜着の裾が乱れ、砂の上に黒髪が広がり扇情的に見えた。。

乙女はあとじさるがビルはのしかかり、両手を掴んで強引にキスしてくる。

「!!」



波間からジョーンが姿を現した。
浜を見ると…男女の姿が見える。
砂の上で抱き合っているのかと思って見つめていると
その男の背中に見覚えがあった。

   (え?! ビル様…?)


強引にディープキスを繰り返すビル。
囚われてなすがままにされていたファリア。

   (なんか…すっげー美味だな…やっぱり…)


逃げたくて身体をよじるが余計男を刺激していた。

「ん…んんッ!!」


瞳から涙が溢れる。
リチャードの言葉が耳に響く。

  ―「ふたりきりになるなよ!」―


ちゃんと忠告を聞いておけばよかったと後悔していた。



ジョーンはそのふたりに近づいていくとやっぱり自分の恋しい人…ビル。
しかもキスの相手は他ならぬ従妹・ファリア。


「!? ファリアッ!! 何故…ビル様とキスしてるの??!!」

「「!?」」


ビルが声に気づき顔を上げると海面に見覚えのある人魚の顔。

「あれ…君…あの時の人魚!?」

ビルの声を無視してジョーンは叫ぶ。

「ひどいわ…ファリア…
私の気持ちを知ってて…」

涙が溢れてはっきりと見えてなかった彼女の耳にジョーンの怒りの声が響く。

「違うわ!! ジョーンお姉さま!!」

「へ?」

ビルは乙女と人魚のやり取りに驚く。


ビルを押しのけ、ざぶざぶと海に入っていくファリア。

「お願い!!信じて!! 私…お姉さまを待っていたの…
だけどこの方が強引に…」

すがりつき弁解するファリアを受け入れられないジョーン。

「やめて!! ビル様はそんな方じゃないわ!!」

「ジョーンお姉さま…」

涙を流しファリアの言葉を拒絶する。



帰りが遅いので様子を見に来たリチャード。

ファリアとジョーンが波打ち際に。
そして砂浜には呆然と腰を落としているビルの姿。


リチャードは濡れるのも構わないまま海に入り、
泣いている彼女を抱きしめる。


「ファリア!! どうした? 何かあったのか?」

彼女の様子を見てもそれは間違いないと解る。

「大体…なんでお前がここにいる?」


ビルに顔を向ける彼の顔は静かに怒りが浮かんでいた。

「す、すまん。俺…つい昨日の事、忘れちゃって…
お前の妃だってコト、忘れてキスしちまった…」

ばつが悪そうに謝るビル。
しかし彼は構わずに言葉を聞き終わった時点で
ファリアから身を離す。
拳を振り上げると次の瞬間に
ビルは砂浜の上に吹っ飛ばされていた。



「リチャード!!」

「あれほど…僕の妃に手を出すなといっただろう!! 貴様…!!」

逆鱗に触れたビルを睨みつける。
傍らでファリアは泣きすがる。

「お願い!! やめて!! リチャード!! 私かいけなかったの!!」

「…君は悪くない。
ジョーンさんの為にここにいたんだ。」

「…リチャード!!リチャードッ!!」

彼女の想いを理解しているだけにちゃんとコトが成るようにと彼も願っていた。
泣きじゃくる彼女を抱きしめる。



ビルは赤くなった頬をさすり立ち上がる。

「大体…なんでここにファリアさんがいたんだよ?
それにあの人魚…???」


「…お前も聞いているだろう、僕の妃が元人魚だと…」

「あぁ。」

「あそこにいる人魚は彼女の従姉… 」

「何だって!?」


ビルは波打ち際で固まって泣いているジョーンを見つめた。


「お前に逢いたい一心で、ここに来た…」

「えっ!? そ…そうだったのかい?
でも君…あの美しいブロンドは…??」

初めて会った時、ジョーンは長く美しい波打つブロンドを煌めかせていた。
それが肩上までしかない。

ジョーンは震える声で告げる。

「私は…あなたに逢いたくて…人間になりたくて… 
薬を貰う代償に髪を…」

ジョーンの言葉を聞いてビルは驚愕した。

「そんな…そうだったのか…」



初めて見たとき、なんと奇麗な乙女だと思った。
美しく波打つブロンドにたわわな胸元。
白い肌とラベンダー色に輝く美しいうろこ。
生まれて初めて見た本物の人魚に心奪われた。

そんな人魚が自分に合いたくて、髪を失ったという姿を見つめる。





見詰め合うビルとジョーンを見てファリアは囁く。

「リチャード…私達、行きましょ…
あとは二人にしてあげたほうが…」
「あぁ…」

ふたりはそっとその場を離れる。


城に帰る道中、優しく指で彼女の涙の痕を撫でるリチャード。

「ファリア…大丈夫か? 
今は咎めないが… 今度顔見たら…アイツ…許さん!!」

「リチャード…あなた…」

彼の愛情を感じて嬉しくなるが、ビルに対しての怒りが半端ではない事を感じる。
明日、また彼の怒る姿を見ることになると思うと悲しくなった。
力強い彼の腕が身体を抱き寄せる。

「…海に入って身体が冷えてしまったな… 風呂に入って温まろう。」

「はい…」

「一緒に入ろう…。」

「え?」

「イヤとは言わせないよ。」

「…はい。」

彼には逆らう事などしない…妃・ファリア。
自分に向けてくれる愛情に答えたいと思うから…






To -4-
__________________________________________________

(2005/9/18・2020/09/14加筆改稿)


to -2-


to Bismark fantasy*


to Bismark Novel


To home