lovin' you -2-



―2日後
レオン国の港へと入港する。

進児王子が二人を出迎えた。

「やぁ…久しぶりだ。元気そうだな、さすがに。」

「リチャードこそ… 幸せそうでなによりだ。
いらっしゃい。ファリア姉上…」

「えぇ…そうね。進児様。」

妹が結婚する相手…つまり義理の弟と姉になるふたり。


「あぁ…俺は義弟なんですよ。"様"は止めて下さい。」

「じゃ… 進児君。」

「"君"か…まぁ、それで。」

二人が微笑み会っているとリチャードが呟く。

「そうなんだよな… 僕は進児の義理の兄…という事で。」

「そうなんだよ…義兄上。」


3人で声を出し合って笑い出す。




進児に連れられリチャードたちは王宮へ。


進児の母である女王に会う。

「お久しぶりです…女王陛下。」

膝を折り、王子リチャードは挨拶する。

「こちらこそ… 新婚早々…わざわざお越しいただき…ありがとう、リチャード王子。」

彼は後ろに控えさせていた妃を横に立たせる。

「紹介します、陛下。私の妃のファリアです。」

「初めまして…女王陛下… ファリアと申します。」

女王は進児と同じダークブラウンの髪と瞳の持ち主。
美貌は優しさに満ちていた。

「あぁ…あなたのことは…進児とマリアンから聞いておりましたよ。
確かにお美しくて… ホントにマリアンとは違う雰囲気の美しさをお持ちね。」

「ありがとうございます…。」


「式は3日後ですから… ゆっくりなさってね。」

「はい。ありがとうございます。陛下…。」

リチャード夫妻も進児も女王も皆笑顔であった。





夫婦は部屋へと案内される。


進児はふたりを自分の部屋の居間に連れて行く。

「姉さま!! リチャード様!! いらっしゃい!!」

満面の笑顔のマリアンに出迎えられる。

「マリアン…久しぶり。元気そうね…」

「えぇ…お義母さまもお城の皆もみんな親切にしてくださるわ。」

「そう…」

優しい笑顔を妹に見せている。


進児がふっと切り出してきた。

「あぁ…姉上、お願いがあるのですが…」

「あら?改まって何かしら?」

「…その…披露宴の席でハープの演奏をお願いしたいと…思っているのですが。」

「え? あぁ、いいわよ。
いいでしょ?リチャード…」

首をかしげ夫に尋ねた。
可愛いしぐさに思わずどきりとする。

「あぁ…。」



「そうそう…姉さまとリチャード様の結婚式、こっちの国でも噂になってるのよ。」

「え?」

「海の王国の姫君のお輿入れって… 評判よ。
それにリチャード様が姉さまに夢中だって!!」

「まぁ…」

ファリアは思わず頬を染める。
その横でリチャードも照れ臭そうに微笑む。

「僕が夢中なのは確かだな…」

4人は笑いあっていた…





夕食の席でリチャード夫妻は女王と既に引退している皇太后に引き合わせられる。

二人を笑顔で迎える皇太后…




   *


―深夜
ふたりはお互いの肌の熱さを分け合っていた…



明け方、不意に目覚めたのはファリア…



白いワンピースを着て、ショールを羽織り浜辺へと出る。

トパーズのような粒のはねる波打ち際で
ひとりたたずみ、昇って行く朝陽を見つめる。

(ジョーン姉さまの恋が成就しますように…)

そう願うサファイアの瞳は輝きを放つ―




(さ、戻らないと…リチャードが心配しちゃうわ…)

城へ向かって歩き出すと、若い男がこちらへ向かって歩いてくる。



(リチャードでも進児君でもないわね…??)



近づいてきた男はやはり若い男。
旅人風の格好であった。
声をかけてくる。

「あの…」

「何でしょう?」

「こんな朝早く、どちらから?」

「あの城からですわ。」

男はまだ幼い感じの残る…少年と言ってもよさそうに若い。
上から下まで見つめる視線を感じた。

「へぇ…ひょっとしてあなたが…進児王子の結婚相手?」


「違いますわ。…失礼します!!」

好奇の目で見られていることを感じて逃げようとするが腕をつかまれた。

「違うのなら…少しぐらい…」

「止めて!!」

強引に抱き寄せられ顔を覗き込んでくる。

「なんと美しい方だ…」

見ほれて男は腕に力を入れる。

「イヤ!! 離して下さい!!」

若い男の胸板を叩くが無駄だった。

朝陽の中で煌めく白い肌、揺れる黒髪に華奢な身体。
そして何より…高貴な空気を感じていた…


「あぁ…なんと素晴らしい… ぜひ私のものに!!」

男の言葉にぞっとした。

「イヤ!! 私は結婚しています!! 離して!!」

「!? しかし、ひとりでおられた… この際、さらってでも…」

「イヤぁッ!! 離して!! リチャード!! リチャードッ!!」

暴れる乙女を抱きしめる男の手は緩まない。


「その汚い手を離せ!!」

声がして振り返ると愛しい夫が立っていた。
すでにその顔に怒りが生まれているのがわかる。

「リチャード!! リチャード!! あなたぁ!!」


彼女の叫びを聞いてやっと男は解放した。
夫の胸に飛び込む乙女。

「まったく…いないと思ったら… やっぱり海か…
それにこんな男に君を触れさせるとは…」

ぼろぼろと泣き、抱きつく妃の頬を撫でるリチャード。

「さっさと何処か行け!!」

怒りの形相を向けられるが、逃げようともしない。

「…あんた確か… ランスロット王国の王子…?」

「え? あ?!」

リチャードが男の顔を真正面から見て気づく。

「お前…テキサ国のビル王子…?」

「え?!」


ファリアが振り返り見ると確かにヘイゼルの髪にブルーの瞳。



「あ…リチャード王子の妃だったのか… すまん…俺…」

マントの端を指で玩びながら謝罪するビル。


「あぁ…もういい。さ、戻ろう…」

「はい…」

愛する妃を抱きしめたまま彼は歩き出す。
そんな二人に声を掛けるビル。

「あの…俺も連れて行ってくれないかな?」

「は?」

「夕べさ… 門衛に入れてもらえなくってさ…俺。
招待状なくしちまって…こんなカッコだし。
信じてもらえなくて…」

確かに王子というには身なりは貧相で薄汚れている。


「仕方ないな…」

「すまん!!」

リチャードは翠の目を細めてビルに告げる。

「じゃ、その前に謝ってもらおうか?」

「何!?」


頭を下げていたがその言葉で彼の顔を見るとまだ怒っているのがわかった。

「僕の大切な妃に無礼を働いたコトをワビてくれなければ、連れて行かない。」

「わーったよ!! …すみませんでした!!」

「…ま、いいだろう。
ファリア…もう大丈夫か? ん?」

優しい瞳で妃を見つめ、頬を撫でる。

「えぇ…」


ふたりとその後ろにビルが城に向かって歩く。


「リチャード…結婚式に行けなくて悪かったな。
イタック国にいて…間に合いそうにないかったから…諦めた。」

「そうか…」

一方的にビルは話しかける。

「…それにしても…お前のお妃、めっちゃ美人だな。
噂では…海神ポセイドンの姫で元人魚だとか。
ホントか?」

「…あぁ。
進児の妃になる乙女は彼女の妹だ。」

「え?じゃ…その乙女もめッちゃ美人?!」

「そうだ…」

「ふーん…そうだったんだ…」


ビルはリチャードにぴったりと寄り添う乙女を見つめる。
さっき感じた高貴さは海神ポセイドンの娘とわかれば理解できる。


   (それにしても…超美人!! …ホントに元人魚なのかよ??
    つーことは… 進児の相手の乙女も…こんな美人なんだな…
    ちょっと羨ましいぜ…
   

    俺だって美人のお妃が欲しいよ!!
 
    …こいつの妃じゃなければ、マジで奪っていきたかったな…)




城の門に来るとリチャードたちは問題なく入れるがビルは門衛に止められる。


「おい!!リチャード!!リチャード王子!!」

「あぁ…忘れるところだった…」

すでに城内にいるリチャードが振り返る。

「おめー ぜってーわざとだろ?!」

「そう言うなら…」

立ち去ろうとするリチャードを見て叫ぶ。

「解ったよ。…ごめんって…」


彼は振り返り門衛に言う。

「…その男はテキサ国の王子。ビルだ。
入れてやってくれ。僕が身元を保証しよう。
それから進児王子に知らせてやってくれないか?」

「かしこまりました。」

門衛はリチャードに告げられと丁寧にビルに謝り、
中に入れてくれる。


「お前…自分の城でもねーのに…」

毅然と命令していたリチャードを見つめるビル。

「…普通だろう。
さ、戻ろう…」

「はい…あなた。」


ふたりはビルを放って部屋に戻り、服を着替え終わると朝食の為に食堂へ。
すでに女王とマリアンがいた。


「おはようございます。女王陛下。
それにマリアン。」

リチャードが丁寧に挨拶すると笑顔で返してくれる。

「おはよう…リチャード様…お姉さま…」

「えぇ…おはよう。」


リチャードは妃の椅子を引くと自分も席につく。

「進児は用で席を外してますから、先に頂きましょう。」


女王の言葉で食事が始まる。


10分ほどして進児が食堂に姿を現した。

「や、おはよう。リチャード王子、ファリア様…」

「あぁ、おはよう。進児王子。」

進児は席に着くと母である女王に顔を向ける。

「ところで客がひとり増えます、母上。」

「どなた?」

グラスを口に運びながら尋ねる。

「あぁ…あとで来ますが…テキサ国のビル王子が来られました。」

「そう…何故すぐに来られないの?」

「それが…(汗)」

返答をどうしようかと進児は考える。

「あぁ…確かにすぐは無理だな。」

リチャードがふっと口にする。


「あら…リチャード王子、何かご存知?」」

「さっきビル王子にチラッと会ったのですが…
諸国を旅しているせいか…ホコリまみれでしたのでね…
たぶんそれで…」

彼の言葉で事情を察した女王。


「ま、それじゃ仕方ないわね。」




食堂にいる女王以下5人の食事が終わる頃にやっとビルがやってきた。

「ご挨拶が遅くなって申し訳ありませんでした…」

ビルが王子らしい衣装で食堂に立っている。

ファリアは驚いた。
さっきと同一人物とは思えぬほど凛々しい少年の姿。
リチャードとはまったく違う…何処か野性的な目。


「ご無沙汰しておりました。女王陛下。」

「えぇ…そうね。最後にお会いしたのは…5年位前かしら…」

「相変わらずお美しくていらっしゃいます…」

「ま、口も上手になったのね。」

ほほほと女王は笑ってしまう。


進児は母が落ち着くと声を掛ける。

「ビル、紹介するよ。
俺の婚約者のマリアン。」

「初めまして、マリアン殿…」

ビルは丁寧に手を取り、甲にキスをする。

「こちらこそ…」

思わぬ行動にマリアンは頬を染めていた。


   (姉妹なのかよ…!? この子が??)

ビルはファリアと同じ雰囲気の姫君だと想像していただけに驚いてしまう。


「紹介する必要もないと思うが…リチャード王子と
先月結婚なさったばかりのお妃のファリア様。
マリアンの姉上になられる。」

ビルは二人に顔を向ける。

「…久しぶりです、リチャード王子。
そして…先ほどのご無礼をお許し下さい…ファリア殿。」

「…いえ。」

浜であったときと打って変わった姿に戸惑いを覚える。


   (ひょっとして…ジョーンお姉さま… 今のビル様のお顔を…見てたのかしら…??)



ビルは遅れてきたこともあり、別室で朝食を取ることに。


女王と進児は執務へ。
リチャードとファリアは部屋へと引き上げる。
もちろんマリアンはいろいろと覚えなければならないので教師の待つ図書室へと…




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(2005/9/17・2020/09/14加筆改稿)


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