Love's contagious -4- |
―パリの朝 ふたりはまだ眠っていた。 抱き合い、お互いの素肌の温もりを感じたまま… ![]() ☆ ここで少し時間が戻ることをお許し願いたい ☆ リチャードとファリアがユーロスターに乗り込んだ頃、 パーシヴァル家の運転手が異変を感じて携帯電話で 邸にいる主人・パーシヴァル公爵に知らせた。 「お嬢様が… チャリングクロス駅近くで降りられて… 買い物に行くと言われたまま、戻られないのです。」 失態ではあるが一大事だと言うことを理解していた運転手。 どんな咎めがあっても仕方がない。 ファリアの乳母が同じ頃、部屋のドレッサーの前に残されていた置手紙に気づいた。 邸には少女の両親である公爵と夫人がいて、ふたつの報告を受けた。 パーシヴァル公爵は運転手からの報告と置手紙の内容から 娘が家出したと理解した。 「ファリアは…やはり結婚がイヤだったのか?!」 妻に向かって問う。 「あなた…やはり一言もなく、いきなり縁談を決めたなんて話をするから… あの年頃の娘の気持ちとしては当然でしょう? まだ私たちの娘は16歳ですのよ?」 「しかし…」 良かれと思ってしたことが裏目に出てしまったことを後悔していた。 置手紙の内容を繰り返し見る。 "お父様、お母様へ ごめんなさい。 私、やっぱり結婚はイヤです。 探さないで下さい。 ファリア" パーシヴァル公爵家の令嬢の家出が外に漏れるとまずいと思い、 警察ではなくMI5に捜索を依頼する。 一応、娘は女王の孫娘でもあるのでMI5だけでなく、王室情報部にも… 1時間ほどで、情報が上がってきた。 報告してきたのはMI5の幹部の一人・カーナボン少佐。 「ファリア嬢は…どうやらおひとりではないようです。」 「何だって?! 男が一緒なのか?」 「はい。どうも同じ学校の男子生徒らしく… 制服姿で目撃されています。」 「素性は?」 「まだ調査中です。」 「どんな少年だ?」 「金髪碧眼の長身としか…」 「ふむ…」 しばし考え込む公爵。 「学校で…ということは、娘の親友が何か知ってるかもしれんな?…セーラ?」 「えぇ… マーシャル伯令嬢のリズですわ。私が連絡してみます。」 すぐにセーラ夫人が電話をするとリズは車で駆けつけてくれた。 ファリアの両親の前ではっきりと言う。 「やっぱり… 思いつめていたんだわ。」 「ね、リズ。何か知っているのなら話してくださらない?」 親友の両親の心配は理解できるが、 彼女がここまで行動した想いを知っているリズは真剣な眼差しで告げる。 「あの… どうか、ファリアの気持ちを考えてあげてください。」 「え…??」 「…ずっと彼と出逢ってから…苦しんでいるんです。」 リズの言葉に両親は顔を合わせる。 「何でだね? 貴族じゃないのかね…?」 ふるふるとリズは首を横に振る。 「貴族です。彼は跡取りですから。 …今日の昼、学校で会った時、 少し様子がおかしかったんです… 私、心配してました。こんなことになるんじゃないかって… 今日は頼まれて… コレを預かったんです。」 コレ…といって差し出されたのはファリアの日記帳。 じっと見つめる母親のセーラが問いかけた。 「リズは… 何を知っているの?」 「彼女の恋の相手のこと… 彼に逢ってから、ものすごく幸せそうな顔してると思ったら 落ち込んでる時もあって… ケンカでもしたのって聞いたら違うって… 彼のことを少しずつ、話してくれるようになって… 相手のことを話してくれてるファリアはキラキラとした瞳で… いい恋をしてるんだなって、羨ましくなりました。」 両親は驚きの目を見せる。 「最近、あまり顔を見てなかったこともあるけど… 気づかなかったわ。」 「あぁ…」 「で、リズ。相手の少年の名は?」 父親のアーサーが問いかける。 「…リチャード=ランスロット君です。」 「「!!??」」 二人揃って息が止まるかと思うほど驚いてしまう。 「何だって!? ランスロット公爵家の跡取りの…!?」 「えぇ… だから… 好きになってから彼がランスロット家の人って解ったらしくて… 向こうもそうだったらしいって言ってました。」 「なんてことだ…」 「ファリア…かわいそうに…」 アーサーもセーラも涙が溢れていた。 祖父の言葉があったから言い出せなかったのだとやっと理解した。 「この…預かった日記。 私は見てませんけど… 多分、そのことが書いてあるんだと思います。 "祖父と両親に見つかったら…とんでもないことになるから… 預かって欲しい"と…託されたんです。」 父が手に取り、ぱらぱらとページをめくる。 ある日から文字面からも解るほど恋慕に溢れていた。 ![]() 9月2×日 (Sat) 私は…今日生まれて初めて、本当の恋に出逢った。 集団ワルツのパートナーの二人目。 170センチは越えてる長身で、柔らかそうな金の髪、 聡明さを漂わせたエメラルドの瞳、 彫りの深い顔立ちには幼い頃に読んだ物語の騎士様のような凛々しさを感じた。 彼に手を取ってもらった瞬間、カッと身体が熱くなった… 恥ずかしくてうつむいてしまったけど… 顔を上げたら優しい瞳で私を見つめてくれた。 さりげないリードと安心できる大きな手。 私…一瞬で恋に落ちてた。 ふっとステップで寄り合った時、 "あとで…踊りませんか?"と誘ってくださった。 思わず嬉しくてうなずいていた。 他の男子とも踊ったけど…彼だけが心に残った。 ふたりで3曲ほど踊ったけど、私はずっと彼の腕の中にいたいと望んでた。 火照った頬が赤くなってる気がして… 外に出たかった時、中庭に連れ出してくださった。 ベンチでふたりで黙ったままでいた… ずっとこのままでいたい… そう思ってたら、いきなりくちびるを奪われた。 けれど…優しいけど熱いくちづけに何も考えられなくなった― 出逢って1時間ほど… だけど、この人のことがもっと知りたい、 もっと好きになりたい… そこで自分の気持ちにはっきり気付いた。 一目惚れしちゃったんだって… 直後、彼もテレくさげに言ってきた。 "君に一目惚れしちゃったみたいだ… 嫌なら言って… 今ならまだ… " 私も同じ想いだったから…嬉しかった。 お互いの想いが解ってから交わしたキスは…とても熱かった。 身も心も震えた… 私、この人の花嫁になりたい… そう思えるほどに… 彼が"好きだ"って言ってくれた時、生まれてきて良かったって思った… もう…私は何も考えられなかった。 目の前の彼が恋しくて、切ない… 彼に名を問われ、名乗ると可愛いと褒めてくれた。 けど… 彼の名を聞いて私は運命を呪った。 彼の名は…リチャード=ランスロット。 ランスロット公爵家の跡取り… なんてことなの… お爺様に関るなと言われた家の…どうして… どうしてなの?? でももう私の想いは…もう止められない。 リチャードのこと、もう愛してる― ![]() それからつらつらと毎日、彼とのデートのこと、 パーシヴァル家とランスロット家の確執について悩んでいることが綴られていた。 母・セーラはポロポロと涙を流しながら読んでいた。 激しい恋心とパーシヴァル公爵家令嬢としての責務心。 そして父に告げられた縁談のことが彼女を追い詰めていったということ― 「なんて!…なんてことなの?! 可哀相に…こんなに苦しんで…ファリア…」 母は涙なしでは読めなくなっていた。 「と、いうことは…家出じゃなくて、駆け落ちか??」 「そのようですわね…」 父親は母親の肩を抱きしめていた。 「リズ…教えてくれてありがとう。 このことは口外しないで貰えるかい?」 「はい。お願いです… ふたりを引き裂くことなんてしないであげて下さい…」 目を細め公爵は口にする。 「私は…娘が幸せなら…ランスロット家の男でも構わないさ。 けど…父上が…」 「何が原因か知りませんけど… お願いします!!」 「解ってるよ、リズ。 セーラ…ランスロット家に行ってみるか? 多分向こうでもリチャード君が戻らないと大騒ぎだろうしな…」 「えぇ…」 パーシヴァル公爵はとにかくランスロット公爵邸に電話を入れる。 「公式でない電話とは一体何事だね?」 ランスロット公爵は口調からしても、苛立ちが見えていた。 「息子のリチャード君が戻ってないのだろう?」 「どうして、それを?!」 驚愕の叫びを上げるランスロット公爵。 「原因は…私達の父上にある。 とりあえずそちらに行っていいかね? 話を聞いてくれれば君も納得してくれるだろう…」 「う…うむ。」 ワンブロックしか離れていないランスロット家とパーシヴァル家の邸… to -5- _______________________________________________________________________ (2005/10/13) to -3- to Bismark Novel to Home |