Love's contagious -5- |
パーシヴァル公爵夫妻を出迎えたのはランスロット公爵ひとり。 もともとリチャードの母・メアリ夫人は少し身体が弱く、 1年の大半をスコットランドのランスロット城で過ごしていた。 普段からロンドンの邸は父子家庭。 応接間にパーシヴァル公爵夫妻を迎え入れる。 「…ひさしぶりだな。非公式に会うのは。」 出迎えたランスロット公爵エドワードは苦い笑顔を向ける。 「あぁ…そうだな… それより、娘達のことだ。 おそらくリチャード君は私の娘と一緒だ。」 「!! 何だって?!」 「実はついさっき、娘が書置きを残して家出してると解った。 それに…親友に託されていた日記を読んで初めて解ったことが…。 …君の息子のリチャード君と…恋愛関係にある。 それを知らずに私が娘に縁談話をしたものだから…」 悔しげに切なげにパーシヴァル公爵アーサーは告げる。 「家出…というか…駆け落ちを??」 「あぁ。娘の姿が最後に目撃されたのはチャリングクロス駅。 制服姿のリチャード君と一緒だったらしい。」 「!! 確か、ウチの運転手からの報告でも… チャリングクロス駅のすぐ近くで息子を降ろしたと言うことだ…」 ふたりの父親は偶然とはいえない一致に確信を憶える。 「リチャード君の方は…何か… 日記とか残ってないのかね?」 「う…探してない。 とりあえず王室情報部の手の空いている者に探させている。」 「じゃ…リチャード君の部屋に行ってみよう。」 親達がリチャードの自室に入る。 居間にも寝室にも特に変わったところはない。 父がPCを起動してみると―― パスワードを入力しないと開かない。 「え?」 とりあえず知っているのを入力してみるがダメ。 「君の娘の名は…ファリアだったな?」 「あぁ…fariaだ。」 「f ・a・r・i・aっと…」 すぐに画面が通常画面に切り替わると3人が同時に声を上げる。 画面いっぱいに少女の写真。 「この黒髪の娘が君の娘か…??」 「あぁ… そうだが… この笑顔…」 妻を見やると、妻も画面の娘の笑顔を目を細めて見ていた。 「えぇ…あなた… 最近、こんな顔を私達に見せてませんわ。」 「!?」 エドワードは少女の両親であるふたりを驚きの目で見る。 「リチャード君に向けて…なんだな…」 やるせない想いでいっぱいになる父親と母親。 エドワードが”My pictures”を開けてみると更に驚く。 中身は100%ファリアの写真。 「この写真…何処で!? ほとんど制服姿…だな?」 アーサーが写真の背景を見つめる。 「ふむ… おそらく学校の図書館…らしいな。」 「そのようね…見覚えあるもの…この窓の格子。」 「校内パーティで出逢って、図書館でずっとデートを重ねていたのか…」 アーサーの呟きは日記を見たからわかったことでもあった。 「それにしても…君の娘は…美しいな。」 エドワードが数十枚に及ぶ写真画像を見て呟く。 リチャードに向かって微笑む少女の可憐な笑顔は煌めいていた。 5枚ほどふたりで映っている写真があった。 「この少年がリチャード君か…」 「あぁ。」 ―金髪碧眼の凛々しい少年… 「間違いないな… どうも。」 「え?」 「娘と一緒にいた少年は金髪碧眼で長身だと報告が。」 「一体何処から…??」 「…MI5から。」 「はは…王室情報部がMI5に負けたか…」 思わず苦笑するエドワード。 アーサーの携帯電話が懐で鳴った。 電話をしてきたのはMI5のカーナボン少佐。 「新たなご報告がありますが…?」 「あぁ、すまん。ロンドンのランスロット公爵邸に来てくれ。」 「かしこまりました。」 15分ほどでカーナボン少佐がやってきた。 「お嬢様は… こちらのお宅のリチャード=ランスロット君と ユーロスターに乗り込んだことが目撃されています。 駅員によるとふたりはパリに向かったものと思われます。」 「パリ…?」 「はい。」 「確かにウチの娘は子供の頃からパリには何度も行っている。 だから…なんだろうな…」 「おそらくは…」 「ふむ…まだそう遠くないと言うことだな。 こうなると娘達の保護の前に父上たちのコトをなんとかせんとな…」 「え?」 エドワードは片眉を上げて、アーサーを見つめる。 「君の父上と私の父の確執。聞いてないかね?」 「いや…一応、知ってはいるが…」 「…エドワード。君はどう思っている? 父上たちの確執のことを…??」 ふうと溜息をついて答える。 「…いまだに反目してくれているおかげで 私と君の仲まで口出ししてきたしな… それも私達の若い頃から… 公式上は、あまりつかず離れずとしてきたつもりだが それでも父上には不満なようだ。 私としては正直、困っているよ。父上の頑固さに。」 「おかげで私と君も… 娘達のように、大学時代は寮でこそこそとしか会ってなかったからな…」 アーサーは懐かしげに思い出す。 大学のゼミで先輩と議論した。 相手の名を知った時にはもう尊敬の眼差しで見ていた。 それがエドワード=ランスロットだった… エドワードも同様に懐かしい思いに駆られてきた。 自分と対等に議論してきた強気な後輩― アーサー=パーシヴァル… 「そうだったな…アーサー…」 「あぁ。エド。」 「あなた…それじゃ…」 セーラは笑顔を二人に向ける。 「恋人を取った取られたということで父上たちの仲が不仲なのは もう仕方がないにしても、私達や娘達にまで口出ししなくても…な?」 アーサーはエドワードに向かってウィンクする。 「あぁそうだ。 父上たちに今のこの状況を見せ付けてガツンと一発かましてやるかな?」 「そのほうが…いいだろう。 リチャード君と娘は2,3日はパリにいるだろうし… とりあえず居場所を見つけて、見張りをつけておけばいいさ。」 「そうだな。」 「今どき…ロミオとジュリエットなんて、ありえませんものね…」 セーラの言葉にエドワードが強く応える。 「確かに…コレじゃ、現代版のロミオとジュリエットだな。これじゃ。 悲劇にさせてはいけない。」 3人の親達は顔をあわせてうなずく。 「あぁ、そうだ。 ところで君の父上は何処に?」 「ランスロット城に。」 「ふむ…うちの父上もローレン城にいるから…知らせてやろう。 それから君の父上と私の母上を対面させてやってくれんか?」 「え?」 「どうも君の父上と おかしな別れ方をしたらしくて… こんなことになっているらしいよ。」 「…そうか。」 *** すぐにランスロット公爵は自分の父・モーティマー卿にリチャードが駆け落ちしたと知らせる。 パーシヴァル公爵もまた父・ローレン卿に知らせた。 モーティマー卿もローレン卿夫妻もロンドンへと駆けつける。 息子夫妻がランスロット邸にいると聞く。 「一体どういうことだ!!」 憤慨して叫びながら来たのは他ならぬモーティマー卿。 「リチャードが… パーシヴァル公爵家の令嬢と駆け落ちを…」 「なんだと?」 「コレを見てください、父上。」 エドワードが見せたのはPCの中にあったリチャードの日記。 ファリアと同じように彼女への恋情と ランスロット家の名を捨てたいとの苦悩まで綴られていた。 「なんてこった!! ここの娘はリチャードを惑わせたのか? どうりでアレクの孫娘なワケだ。」 頭から湯気が出そうなほど憤慨し、叫ぶ。 「父上… この写真を見ても言えますか?」 PC画面の中で微笑む少女の笑顔は無垢で汚れを知らないように眼に映る。 今時の高校生にしては清楚で可憐な姿。 「う… む…コレが…アレクとアニーの孫娘…??」 「えぇ… ふたりは今、行方不明です。 探させてはいますがね… ここまで若いふたりにさせたのは父上のせいですよ?!」 「なんじゃと?!」 自分の息子の言葉にむっとした。 「自分の失恋の痛手を息子の私や孫のリチャードにまで押し付けて… ローレン卿も今更だと…意地になっておられるのでしょう…。」 「…そうだよ。ランスロット公爵エドワード…。」 突然、声がした。 入ってきたのはかつての恋敵―アレクサンダー=パーシヴァルことローレン卿。 「な!! お前!? この邸に入ることは許さん!!」 「父上!! 今の家長は私です。 私がお呼びしたんです。」 「何!?」 ローレン卿の傍らにはかつて恋焦がれた女性・アニー。 すでに70歳を越え、すっかりふっくらと肥えた老婦人となっている。 「ご無沙汰していますわ… ハロルド。 …ごめんなさい。 私…私は…」 「アニー…」 ぼろぼろと泣き出すアニーを目の前に困惑する。 「私、確かにあなたが好きでした。人間として尊敬してましたわ。 けど…アレクは…男性として好きになったの…ごめんなさい。」 「「アニー…」」 すっかり年老いたふたりの男を前に乙女のように泣き出すアニー。 そんな老婦人の肩を抱くのは夫であるアレク。 「ずっと君に謝りたいと…言っていた。 何故、あんな別れ方をしてしまったのだろうと…ずっと後悔してきたんだ。」 「私達の決別が子供達や孫達にまで及ぶなんて思いもしなかったわ。 まさか… ファリアがあなたの孫を愛してしまうなんて… 私のことは許してくれなくていい。 けれど…孫のことは、ファリアのことは許してやって… ハロルド…」 目の前のアニーの涙はとめどなく流れている。 「…。」 「私達の孫娘は… パーシヴァル公爵家の娘というだけではない。 王女セーラが嫁いで来てくれたから…王室の血も引いている。 血統は申し分ないはずだ。 若い二人に未来を与えてやってくれんか…?」 ずっと眉をしかめたままのモーティマー卿ハロルド。 すっかり自分も老けたが、かつて憎んだ二人もすっかり年老いている事実に気づく。 はぁと溜息が出た。 「もう…ワシらは老い先短い。 跡継ぎのリチャードを失うのは辛い… たったひとりの私の直系の孫だ… あの子がそれほど望む娘なら…さぞかし素晴らしい令嬢なのだろうな… アニーの孫娘で、セーラ様の娘…なのだから…」 「「ハロルド…」」 ローレン卿夫妻は目の前の老いたかつての友人を見つめる。 「解った。もういい。 私も意地を張るのも疲れた。 この年になるともう友人も半分いない… 淋しかったさ…」 「!? あ…」 「子供っぽい意地を張って悪かったな…アニー。」 「ハロルド…」 55年目にしてやっと謝ることが出来た。 「これからは茶飲み友達にしてくれるか?」 「えぇ。勿論、喜んで。 3人でお話しましょうね…アレク。」 「あぁ。勿論だよ。 孫達が結婚すれば私達は親戚だ。 ひ孫を抱くまでは死ねんよ。」 「はは…そうだな…」 昔の三角関係は年老いてやっと邂逅できた。 開いたドアのそばで見守っていたランスロット公爵とパーシヴァル公爵夫妻。 「父上とローレン卿夫妻の和解が成立したところで あの子達を本格的に探させましょうか?」 ランスロット公爵は笑顔で父に言う。 「何処にいるのか見当もつかんのか?」 「パリにいるのは…解ったんですがね。」 「パリ? …とすると、ワシが昔に教えたホテルにいるやもしれんな…」 「は?」 「潜伏するためにはIDの提示の必要のないホテル。 つまり台帳記入しかせんでいい老舗のホテルだよ。」 「何処です?」 「パリの…スクリーナホテルだ。 リチャードのことだ、偽名を使っているだろうし、年齢も誤魔化しているはず。 ワシが情報部員としての基礎を教えたからな。」 「すぐにMI5のエージェントに伝えますよ。」 アーサーが言ったので目を丸くする。 「MI5?」 「はい。 パーシヴァル家の娘を探すのに警察は表沙汰になりますからね。」 「考えることは同じ…か。 とにかくワシらがパリに迎えに行ってやるかの?」 「「…え?」」 アーサーもエドワードも顔を合わせる。 「私達3人が和解したと教えなければ、信じて戻ってこないだろう?」 「父上…」 エドワードが笑顔で父親を見つめる。 「あぁ…エドワード。すまなかったな。 この年寄り3人で説得に行って来るよ。」 「…すみませんね。父上。」 「構わん。 元はといえば一番の原因はワシなんだ。 リチャードのためにも…あの子の未来の花嫁のためにも…行って来る。」 「はい。」 ハロルドはアレクに呟く。 「朝一のユーロスターで行くか…」 「そうだな。」 すでに夜中で日付が変わる直前― 「それでは朝一の… って集合するのも面倒だ。 泊まっていってくれ。」 ハロルドの言葉にロ-レン卿は驚く。 「隣の邸…なんだが?」 「いいじゃない。アレク。 積もる話もあるでしょう?」 「う…そうだが…」 「はは… こりゃ、アニーの尻に敷かれていたのか、アレク?」 「まぁな。」 「まッ!!」 笑い声が深夜のランスロット邸に響いていた。 ![]() ―早朝 リチャードの祖父・モーティマー卿とファリアの祖父母・ローレン卿夫妻がユーロスターに乗り込んだ。 調査結果は日付が変わった直後に上がってきた。 "スクリーナホテル:703号室:偽名・R=ウェントワースで宿泊中 勿論、ファリア嬢も一緒に…" 10時過ぎには3人はホテルのラウンジにいた。 「出てくるかしら…あのふたり…?」 アニーは心配げに呟く。 「しばらく籠もるかもしれんな…」 「食事には出てくるだろうが…出かけてはいないようだし…」 ホテル側に確認を取るとふたりは外出していないとのコト。 3人は3基あるエレベーターが見えるテーブルでお茶を飲んでいた。 「ところで…君達には孫娘のファリアがいるが…男の孫は?」 「あぁ…いる。 アリステアと言う名でファリアの5つ下、11歳になる。」 「そうか…ならウチに嫁に来ても問題ないということだな。」 笑顔でモーティマー卿は呟く。 「おいおい…気が早いんじゃないか? ウチのファリアはまだ16歳だぞ?」 「リチャードだってまだ17歳だ。 大学を卒業したら、結婚させればいいさ。」 「じゃ…5年後くらいね…」 アニーは孫のファリアの花嫁姿を楽しみにしている。 「そうだな… それぐらいならいいだろう…」 3人が笑顔で笑い会っていると、エレベーターから若いカップルの姿。 リチャードたちだった。 「「「あ!」」」 「…私が行って来るわ。待ってらして。」 アニーは立ち上がり、追いかけていく。 「待って! ファリア!!」 「え!?」 不意に呼ばれ振り返った先には祖母・アニーの姿。 「え?! 何で?? おばあ様…?!」 「迎えに来たのよ。」 「!! 行きましょ、リチャード…」 彼の腕を引いてこの場を去ろうとするが彼は悲しい顔をして行こうとしない。 彼女の祖母の顔は悲痛な面持ちをしていたから。 「待って…あなた達を引き裂くつもりはないの… むしろ今は、逆なのよ。」 「「え?!」」 リチャードもファリアも驚いた顔を祖母に向ける。 「あなた達に結婚してもらいたいのよ。」 「でも…おばあ様。ハービソン侯爵子息との縁談は?」 「破談になったの。 とにかく来てちょうだい。そうすれば解るから。」 祖母に連れられ行った先には祖父たちが揃って笑顔でソファに腰掛ける姿。 「「えッッ!?」」 「あぁ…やっぱりここだったようだな。 ワシの教えを守ってくれてたのは嬉しいな。」 「お爺様…なんでまた…??」 困惑の色の顔を祖父に向けるリチャード。 「ファリア…良かった…。 お前が家出したと聞いて寿命が5年…いや10年縮まったぞ。 ま、おかげでこういう事になったんだがな。」 「どういうことなの?お爺様…???」 ソファに腰を下ろした二人にもお茶が運ばれる。 「あぁ…お前が家出した、駆け落ちしたとアーサーから連絡を貰ってな、 お前の日記と…リチャード君のPCの日記と写真を見て… ワシらは間違いに気づいた。 お前達をここまで追い詰め、苦しめたのは私達だ。 すまなかったな…」 祖父・ローレン卿が孫娘に頭を下げる。 「お爺様…!!」 「リチャード…すまなかった。 ワシの… 勝手な言葉でお前にもエドにも…迷惑をかけた。」 「…お爺様。」 モーティマー卿もリチャードに頭を下げる。 顔を上げた祖父ははにかんだ笑顔を見せた。 「こうしてファリア嬢に会って解ったぞ。リチャード…」 「え?!」 「アニーの若い頃より美人だな。 お前の目は正しいぞ!」 「もう…ハロルドッたら!!」 笑いながら憤慨するアニーを見て、老紳士たちは笑いあう。 「あ…」 そんな自分達の祖父母の笑顔を見てやっと安心した顔を見せるふたり。 少年の手は少女を抱き寄せる。 「リチャード…」 「僕達… もう…一緒にいても怒られないんですね?ホントに…」 少年が祖父に問いかけると満面の笑顔を向けられる。 「あぁ。むしろ仲良くしてくれ。 早くひ孫が見たいぞ。」 「お爺様ッ!!」 笑う祖父母達と違い照れる若いふたり。 「ファリア…すまなかったね。 リチャードをよろしく頼む。 少々、ワガママに育ってしまったからな…」 モーティマー卿は少女の手を取り、笑顔で告げた。 「え…そんな… ワガママじゃないです、彼。 私には…すごく優しいですもの…」 「おやおや… 随分、惚れられているようだな、リチャード?」 にっと笑った祖父に言われ頬を染める少年。 「お爺様… どうでもいいですけど…手、離してください。 彼女に触れていいのは僕だけなんですから。」 「あらまぁ…ファリアも随分、大切にされてるのねぇ…」 祖母が少し羨ましげに呟く。 「おばあ様…」 ![]() ―その日の夕方 夕方のユーロスターで5人はロンドンへと帰っていく… 逃避行は…たった1日。 けれどランスロット家にとってもパーシヴァル家にとっても大きい意味を持った一日。 それはふたりにとっても… パーシヴァル邸にふたりともの両親が待っていた。 「ファリア!!」 「お母様ッ!! ごめんなさい…心配かけて…」 抱きとめる母の目にも娘の目にも涙。 「もういいの…。あなたがこの恋を想いを貫いてくれたから… やっと…お爺様たちの確執がなくなったのよ。」 「そう…らしいですね。」 抱き合う母娘に近づき笑顔を見せる・父アーサー。 「ファリア…おかえり。」 「お父様…ごめんなさい。」 「もういいよ。 お前が家出をしたと思ったとき、それは結婚がいやなのだと思ったんだが リチャード君という恋人がいたからだったとは気づかずに…」 「もういいの。 お父様の望んだ結婚が出来なくてごめんなさい。 でも…私、リチャードのこと、愛してるの…」 「あぁ… 解ってるよ。 誰もふたりを引き裂こうとなんてしない。 安心しなさい。」 アーサーもセーラも娘の笑顔を見て、安心して微笑んでいた。 それは…あのリチャードのPCの画面で見た笑顔と同じだったから… * 「父上… ホントにいいんですね? 彼女を、ファリアを愛しても…」 「あぁ。」 父親の顔を覗き込んで彼が問いかけると笑顔で返事してくれる。 そんな夫と息子を見てメアリも微笑んでいた。 「リチャード… あなたの選んだ女の子は… ホント…奇麗な娘ね… しかも由緒正しい家柄の令嬢なのですもの…」 母の優しい笑顔を見て少年は答える。 「母上… えぇ。 ファリアはとても可愛くて…僕だけを見てくれて…」 はにかんだ笑顔で応える息子を見て思わず呟く。 「まぁ…。 あなたが女の子を褒めるの、初めて聞いたわ。」 母の言葉にちょっと照れてしまう。 「…母上…」 はははっと周囲の祖父母と父親達が笑う。 「キャシーが戻ってきたら、驚くだろうな…」 モーティマー卿が呟くとエドワードが答える。 「そうですね…帰ってきたら跡取りのリチャードの結婚が決まってるんですから…」 彼の祖母は今、友人と旅行中でスペインに行っていた。 「リチャード。」 「はい。父上。」 「その…ファリアがしている指輪がお前が?」 「えぇ…去年のクリスマスに。」 少女の指には小さなサファイアのリングが輝いていた。 「そうか… 今度は正式な婚約指輪を贈ってあげないとな…」 「え、あ…はい。」 両親と祖父母に囲まれていたふたり。 「こうなると…ファリアの社交界デビューをこの秋にしてしまわないと… 婚約発表が…」 「あぁ…そうだな。」 アーサーの言葉に応えるのはエドワード。 父親達は20年ぶりに大きな声で笑い合っていた― ソファに並んで腰掛ける二人は顔を見合わせる。 「ファリア…」 「リチャード…」 「僕達、5年後には結婚できるんだよ…」 「そうみたいね…」 「お爺様たちに、ひ孫を見せなきゃな…」 「え、えぇ…」 両親と祖父母の見守る中、 ふたりはそっと笑顔で抱き合っていた。 秘密の恋人同士は公な恋人同士へと――― Fin _______________________________________________________________________ (2005/10/13) *あとがき* 2004年秋にふと書きたいなぁと思っていた「ロミジュリ版」。 悲劇にしないハッピーエンドのと思ってました。 昨年はネタだけ浮かんで文章が来なかったのですが 唐突にきました☆ こうなると早い早い!! あれよあれよとルーズリーフが埋まっていきます♪ 書きあがったら…めっちゃハッピーエンドです☆ 設定は「becouse of you」とほぼ同じ。 ただランスロット家とパーシヴァル家は55年間、断絶してました。 リチャードの父とファリアの父は同じ大学の先輩後輩で、 同じゼミ。それでふたりは親しかったけれど… 父親達が反目しあっていたので、堂々と友達付き合いできなかったということ。 祖父母の三角関係をなんとなく書いてみたけど、 コレまでアップするのは蛇足と思い、しません。 to -4- to Bismark Novel to Home |