Labyrinth -5-



朝になり、自分も馬も食事を済ませ、ドメスの邸を目指す。





夜になる頃、邸に帰りついた。


「戻りました!!我が師ドメス!!」

エントランスからリチャードは声を張り上げていた。

声を聞いて、2階の廊下に姿を見せるドメス。


「おぉ… 2日ほど早いが、帰ってきたか。リチャード。」

「進児とビルは?」

「まだじゃ。お前が最初だ。
いつも通りかの?」

「そのようですね。」


3人が邸で修行中、いつも自然と順番が出来ていた。

最初がリチャード、次に進児。最後がビル。。


階段を降りながら、彼に問いかける。

「で・・・成果は?」


目の前にやってきた師に報告する。

「…僕は恋しました。
彼女を愛したいと願いました。けれど・・・恋は実りませんでした。
でも、僕の心の中には彼女への想いが・・・・・・」

声に詰まり涙するリチャードを初めて見たドメス。
それは今まで彼が見せたことのない表情――



「彼女を・・・ファリアを愛しています。
でも失恋は誰にでもあること。そして僕は自分の想いが通じないことも、
ままならないことがあると思い知りました。
これが僕の答えです。」

「そうか、辛かったじゃろう・・・」

ドメスは彼の心情を察していた。

「はい。でも 僕はある意味、幸せです。」

「ん?」

「こんなにも一人の女性を愛することが出来るのだと知ったのですから。」

「そうか。」

「師が言っていたじゃないですか。
結果ではなく道のりが重要だと。」

「そうじゃ。」

「正直、これから先、彼女以上に愛せる女性と出会えるのか、解りません・・・」

「そうか・・」


切なげな でも少々嬉しさを含んだリチャードの顔は愛を知った男の顔になっていた――――






*****

2日後

進児とビルが馬車で戻ってきた。

4人に増えていたせいでもあったから。

幸せに満ちた4人の表情――――





進児がドアを開け、ビルが大声を上げる。

「ドメス師〜!!!只今戻りました!!」


明るいビルの声が屋敷中に響く。
ドメスとリチャードが出迎えに出てきた。

彼の姿を見てビルがつぶやく。


「あ。やっぱ、リチャードの奴、もう戻ってきてるぜ。」

「よっ!!リチャード、元気だったか?」

進児が明るい笑顔で手を振る。

「…まぁな。それより、お前たちは彼女連れで戻ってきたのか?」

「もちろん♪ 師匠に紹介しないとな★」

満面の笑顔のビル。

「って、リチャードは?」

彼の顔を見て、問いかけると少し切なそうな表情。

「僕かい?僕のことは・・・後で話すよ。
それより、お前たちの彼女を紹介してくれないか?」

リチャードの言葉で二人は乙女たちを振りかえる。

ドメスは笑顔で二人の乙女が来るのを待つ。

進児がドメスの前に連れてくる。

「あの・・・師匠。彼女はマリアン嬢。
シャルル=ルヴェール殿のご令嬢です。」

ドメスは思いがけない名を聞いて驚いた顔を見せる。

「お?なんと、あの小さかったマリアンか?」

「え?」

「あぁ。あなたが生後1週間ぐらいのときに、祝いに行ったことがありましてな。」

「そうでしたの?父からドメス師は修行時代の仲間だとは聞いておりましたけど。」

「そうですよ。そうか、そうか・・・・あの娘が。。」



笑顔のドメスの前にビルが連れてくるのは自分の彼女。

「ドメス師。俺の彼女は、ジョーン嬢。
マリアン殿の従姉なんですよ。」

「ほぉ。それで美人揃いなのじゃな〜★」


金髪碧眼の二人の乙女を見るドメスは顔が蕩けていた。
リチャードは少々切ない笑顔。
自分はそういう顔をさせてあげられなかったから・・・・・


「で、実は二組とも婚約してきましたよ。」

「よく、ルヴェール殿が許可したの?」

「と、いうか何%かは師匠のおかげで何ですが・・・」

進児の言葉にドメスはさらにご満悦。

「そうか・・・わはは・・・」



ドメス師を囲んで5人は夕食の時間を楽しく過ごしていた。



*****

――深夜

リチャードの部屋に進児とビルがやってきていた。
おそらく二人に自分の旅のことを聞かれると覚悟はしている。

「で、リチャード。何で一人なんだよ?」
「そーそー。」

進児は少し暗い顔をするリチャードに尋ねる。

「リチャードなら絶対、美人の乙女を連れて帰ってるだろうってビルと言ってたんだぜ。」


すぐに反応しない、リチャードに二人は戸惑う。


はぁ・・・とため息をついて、彼は口を開き出す。


「ままならない恋。どうしようもない事情があるって事さ。」

「何だよ、それ?」

ビルが少々強い口調で突っ込む。

「・・・僕が恋したのは修行中の神官の乙女。
そして次代の月神殿の司祭なんだ。
僕の気持だけで行動していい相手じゃない。」

「リチャード・・・お前・・・」

二人は今まで見たことない、今にも泣き出しそうなリチャードを見つめる。

「僕は…本当に二人が羨ましいよ。
彼女がどこかのご令嬢とかなら何とかなったかもしれないけど・・・」


ふさぎこむ彼にビルが切り出す。

「リチャード。お前、馬鹿だな。」

「何っ?!」

馬鹿と言われ反応する。
今まで言われたことのない単語。

「せめて、相手に気持ちを告げたら良かったのによ。」

「出来る訳ないさ。」

ふいと顔をそむけるリチャードにさらにビルは続ける。

「それが馬鹿だって言うんだ。」

「何だと?!ビル、貴様・・・!!」

「相手の気持ち、確かめてみろってんだよ! 
当たって砕けたのならまだしも・・状況だけで判断して、勝手に失恋してるお前が馬鹿だって言ってんだ!!」

「ビル・・・」


彼の言いたいことが解ってリチャードはその名を呟いていた。

「俺たち、旅の最初のほうは振られてばっか。
少なくとも言葉に出して振られる方がキツいけど、後で楽っつーか・・・」

ビルの言葉に妙に説得力を感じた。

「でも・・・もう、今更。。」

「馬鹿野郎!! 今からでも言ってみろってんだよ。」

「・・・・」


黙ってしまうリチャードを進児とビルは放置して部屋から出ていく。



ドアを見つめ、リチャードは問いかける。


「僕にどうしろって言うんだよ。ビル・・・・」




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(2010/02/01)



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