Labyrinth -2-






「じゃな、リチャード!」

「あぁ、進児もビルも頑張れよ。」


ドメス師の屋敷を出て、街道の別れ道で3人は手を振りあう。

「もちろんさ。いい女、みつけてやるぜ!!」

リチャードにウィンクして見せるビルがいた。



進児とビル、そしてリチャード一人という風に別れてそれぞれの道を行く――――




リチャードは約1年ぶりに実家・ランスロット邸に戻る。
このビスマルク王国では将軍を輩出したりしている軍人系の貴族の家。


久々に変えると両親が喜びの顔で受け入れてくれる。。。
1年前より凛々しく頼もしく成長した息子の顔を見て・・・・



「あの。父上。」

「ん?」

居間で父と息子はお茶を飲みながらくつろいでいた。

リチャードは父に気になっていることを聞こうとする。

「その・・僕の許婚ってどこのご令嬢なんでしょうか?」

思わぬ質問に少し驚きの表情を見せつつもすぐに返す。

「あぁ・・そうか。もう結婚のことを気にする年になったんだな。」

「え、あ。はい。」

ドメス師の課題が絡んでるとはまだ父に言えずにいた。

「レイン子爵家のシンシア嬢だ。」

「シンシア殿・・・・」

相手の名を聞いても、ピンとこない。

「しばらくここにいられるのなら、会ってみるか?」

「はい。もちろんです。」

リチャードははにかんだ笑顔で父に返していた。





2日後―――


例のシンシア嬢の住むレイン子爵邸を訪ねる父子がいた。
リチャードが5歳の時でシンシア嬢が4歳のときに会ったきり。。。。




シンシア嬢は少々大人しそうなブルネットの17歳。

「あの・・・僕がリチャードです。よろしくお願いいたします。」

彼があいさつすると彼女も挨拶を返す。

「こちらこそ。。私がシンシアです。」

少々はにかみながらお互いの顔を見る。。。。


ふたりとも微妙な笑顔をしていた。




父親たちは気を利かせてふたりだけにして部屋を出る。

お互いに何から話せばいいのか解らず、ただ静かな空気が流れていた。



****


次の日もリチャードはシンシア嬢を訪ねた。

昨日の雰囲気では何も話せずにいたが、今日こそはきちんと会話をしなければと思っていたから。



シンシア嬢のほうもまんざらではない様子。

少しずつ打ち解けていろいろと話すようになっていく。



*******


リチャードがシンシアの元に通い始めて1週間後・・・・・


帰り道でリチャードの前に一人の男が立ちはだかる。

年のころ、20そこそこといった感じの青年で少々がっしりとした体格。

「お前・・・・俺のシンシアを奪おうとするなんて、いい度胸だな。。」

「は? 何を言ってる?君は・・・? 僕は許婚だ。」

脅すような声で声を掛けてきた青年に切り返す。

「ふ〜ん・・・ガキの頃、親が勝手に決めた相手ってやつだろう? 
でもシンシアは俺に惚れてるし、俺もそうだ。
今更、別れる気はない。」

男の真剣な表情を見てとったリチャードは妙に納得した。
それというのも、シンシアが自分に対してイマイチ乗り気でない空気を察していたからだ。


「そうか。そういうことか。」

「は?」

ひとりごちるリチャードに男は戸惑う。

「いや、君の話を聞いて理解できた。 彼女の態度に。」

「だったら、どうするんだ?」


男はリチャードの反応を待つ。

「・・・・・僕はもう、彼女の前に現れない。
君という男性がいるなら、僕は用無しだろう?」

「いいのかよ、それで。
一応、家同士で決まってる話なんだろ?
シンシアは・・・・迷ってるみたいだったし。お前って、想像よりハンサムだしな。」

男の言葉に少々、面食らう。
同性にハンサムなんて言われるとは思いもしなかったから。

「・・・いや。僕より君のほうが彼女にふさわしいさ。」

「マジで言ってるのか?」

「もちろん。僕も、迷ってた。でも、もういい。」

「・・・そうか。」

男はリチャードの表情を見てもう何も言えなかった。

「では、シンシア嬢のこと頼むよ。」


「あぁ。」


リチャードは吹っ切れた顔で家路につく――――





***


家につくと、父に彼はさっきのことを話す。


シンシア嬢に交際相手がいたこと、自分と彼女では結婚は無理だということを。


「本気で言ってるのか?」

静かに聞いていた父親が切り出す。

「はい。その・・・・僕は修行の旅に出る。
いつ戻るか解らない。だから婚約破棄したいと。」

「・・・・・。」


リチャードの言葉に父は黙って聞いていた。

「実はドメス師に課題を与えられて、旅に出るように言われています。」

「何?」

「その・・・自分にふさわしい伴侶を探せと。」

「本当なんだね。」

「はい。ですから、そういう意味で今回のシンシア嬢の件はこれでよかったんだと思っています。
僕の修行仲間の進児とビルはすでに旅立ちしていますから。」

「・・・・。」

「明日にでも旅に出ます。父上。シンシア嬢の件、よろしくお願いします。」


リチャードの内心を察して、父は答える。
「解った。レイン子爵にはきちんと事情を説明して、婚約破棄ということに。」

「勝手、言ってすみません。では。」


リチャードは父の書斎を後にする。。。



***

リチャードはとりあえず、自国で探すのはしたくなかった。

と、いうのも名門の家名を知れば、すり寄ってくる人たちがいることをよく知っていたから・・・

隣国を目指すことにした。


実家を出て4日後・・・山脈を越えて西の隣国・キーリス国へをやってきた。
田舎の村では自分は目立つと感じ、都を目指して馬を走らせる。。。







********


少し前――

進児とビルは旅立って1週間を過ぎ、最初の街でナンパしまくっていたが
ことごとく失敗していた。


もともと生真面目な進児は不器用で、なかなか上手く女の子を引っ掛けることが出来ずにいた。
ビルは逆に言葉巧みに女の子を引っ掛けることは出来ても、軽くあしらわれて振られることが多かった。



「はぁ〜・・・なかなか,難しいな。」

「確かに・・・」

夜の宿屋で二人は落ち込んでいた。

「こんなんで伴侶って見つかるのかよ?」

「無理だろうな・・・」

進児の言葉にビルはため息をつく。



「じゃ、どうするよ。明日から。」

「しばらく真面目に旅しようぜ。とりあえず次の街へ行かないか?」

進児の提案にほっと安堵の顔を浮かべる。

「そうだな。この街じゃ、俺たちの評判が最悪だもんな。」

「じゃ、そーゆーことで。」


進児とビルは疲れた体を横たえた――――





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(2010/01/28)


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