Kismet -11-
王女の天幕へ行く前に宝物を集めてある箱が置かれている天幕へと足を運ぶ。
「ふむ…コレが似合うか…?
それともこちらか…?
ドレスに合わせるということも考慮せねばならないな…」
彼は立ち上がると、王女のところへ…
天幕に姿を見せると、彼女は微笑んで迎える。
「リチャード様?」
「すまないが…一緒に来てくれ。」
「何ですの?」
「突然だが…エリエス国の王城の宴に出ることになった。」
「…え!?」
「それで…そなたのドレスに似合う首飾りや髪飾りを選ぼうと思ったのだが
多くて困っている。
それに好みもあるだろう?
だから一緒に選んでくれまいか?」
王女が連れて行かれた先には
金貨の入った木箱が積まれ、
その隣に金銀できらびやかな宝飾品が入った木箱。
「まぁ!?」
「やはり、ファリアも乙女だな。
この輝きに参るか?」
「私…こんなにたくさんの宝石類を見たことはありませんわ。
しかも皆、名品のよう…」
「ほう? 解るか?」
「えぇ…」
いくつかを手に取ってみる。
「これ…小さな冠ですけど… カトラス国とアイリス国のモノに通じてるデザインだわ。」
「それではコレをそなたに…」
「え?」
「そなたは王女だ。
当然のことだろう?」
「私、国ではこんな立派な冠ではありませんでしたわ。」
「でも、いいじゃないか。
ドレスは何色を着たいと思うか?」
「…そうですわね…
以前チルカとキリーが選んでくれた黒の…胸元に金の刺繍があるものを。
ですから首飾りは要りませんわ。
あとは耳飾ね…」
ふたりでコレでもないあれでもないと選んでいると
昼食の用意が出来たと兵が呼びに来た。
「じゃ、コレでどうだい?」
「はい。
ところで殿下は何をお召しに?」
「私か? いつもの黒の服に赤のスカーフをしていくが?」
「それでは後で私が…」
「何だ?」
「いいから… とりあえず食事に行きましょう。
兵が可哀相だわ。」
ずっと傍らで待っていた兵站の兵…
前日とは違う甘い雰囲気のふたりに気づく。
食事は王女の天幕に用意されている。
時々こうして、ふたりきりで向かい合って食べていた。
それは以前と変わらぬ光景だが何かが違っている。
「ファリア…」
「はい?」
「こちらに来ないか?」
「え?」
「私の隣に…」
彼が懇願してしたので、立ち上がり、
その横に腰を下ろす。
「ふむ…こうしてとる食事もそなたが一緒なら格別だな。」
「あら…。」
照れ臭げに微笑む王女が可愛らしくて愛しい。
(こんなにひとりの乙女に…囚われるとは思いもしなかったな… この私が。
でも こういうのも悪くないな… )
彼女の肩に回した手。
以前と違い、王女は身をもたせかけてくる。
お互いの心が通じた今、甘い空気が漂う。。。。
食事が終わると兵士たちは天幕を片付け始める。
「あの…リチャード様。」
「ん?」
働く兵を見つめていた彼に問いかける王女。
「何だい? 」
「いつ宴用の衣装に着替えますの?」
「あぁ、城に着いてからだ。
挨拶を済ませてから、部屋を借りて着替えればいい。」
「そう。
じゃやはり先にお渡ししておきますね。」
「何だ?」
「以前、キリーとチルカと3人でお買い物した時につい綺麗で買ったブローチ…
あなたのスカーフに似合うかもと思って…」
少しはにかみながら彼女は小さな布に包んでおいたブローチを差し出す。
「開けてみていいか?」
「えぇ。」
それは黄金製の孔雀のブローチ。
羽を広げた様子をかたどってある。
「ほう…これは…」
美しい造形と輝きに感心する。
「これは…なかなかいい品だ。」
「褒めていただけて嬉しいわ。」
ふたりは笑顔で見詰め合う…
***
リチャード皇太子率いる一団…約270名がエリエス王城へ到着すると
熱烈な歓迎を受ける。
皇太子と将軍、両大佐、そして王女は王座のある大広間へ通される。
先頭を皇太子、その傍らに王女。
次に将軍、両大佐と続く。
王座の前で彼は1歩前に出る。
「この度は宴にご招待いただき、ありがとうございます。
エリエス国国王…クリストファー陛下。」
「いや…この度は招待に応じていただき、恐縮です。リチャード殿下。」
昨日と違い、威厳に満ちた国王らしい雰囲気を漂わせている。
「それでは改めて…私の部下を紹介しましょう。
こちらが参謀のドメス将軍。
そして輝大佐とウィルコックス大佐。
それから… 私の未来の妃のファリア王女。」
「!? 婚約者であらせられる?!」
「あぁ。私が妃にと決めた王女だ。」
彼はやや後ろに控えていた彼女を脇に立たせる。
「初めまして…エリエス国王陛下。
私は…アイリス国国王アーサーが娘、ファリアと申します。
どうぞお見知りおきを…」
彼の腕から離れ、丁寧にお辞儀する様は
自分の娘と違い楚々とした印象を与えていた。
国王の横にいた王妃も同様の眼で見ている。
「そうか…あなたが近年、美姫と謳われているファリア姫か…
よく参られた。
お目にかかれるとは思いもしなかったので
少々驚いてしまったな…」
「こちらこそ、突然の訪問、失礼いたします。」
「こうしてお目にかかって解った。
リチャード殿下の心を射止めたのもうなずけるな。。」
「お褒めの言葉、恐縮でございます。」
「今宵はリチャード殿下と共に楽しんで…ゆっくりしてくだされ。」
「ありがとうございます。」
「それでは部屋に案内させましょう。
しばしご休憩下さい。
7時過ぎには宴が始まります。」
「あぁ。早速、仕度しますよ。」
「それでは、後ほど。」
***
皇太子と王女は別々の部屋に案内されるが、彼が彼女を引きとめる。
同じ部屋がいいと彼が案内したものに告げるとあっさりと引き下がっていった。
「さ、着替えようか?」
「はい。」
衝立を挟み、お互い着替えをしていく。
王女は鏡の前で髪を梳く。
その横に来て鏡を覗き込んで、包みを手に彼は微笑む。
「…さて、あとは例のブローチだな。」
「貸してくださいな。」
「ん?」
「私につけさせてください。」
「あぁ。」
彼から受け取るとスカーフの中央にブローチを止める。
「ん…やはり、いいな。」
「あの時、何とはなしに買ったのだけれど…
やっぱり私よりリチャード様のほうが似合いますわね。」
「そうか?」
「えぇ…」
しばらくふたりはソファの上で寄り添いあっていた。
使用人が呼びに来るまで……
to -12-
______________________________________________________________
(2006/1/25+26)
to -10-
to Bismark Novel
to Novel top
to Home